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書名:GS
章名:GS3@桜井兄弟 - I Still..

話名:05. School festival (first year)


作:ひまうさ
公開日(更新日):2013.2.22
状態:公開
ページ数:3 頁
文字数:8133 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 6 枚
デフォルト名:荒川/美咲
1)
一年目文化祭。メイド喫茶。

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p.1

 高校生活最初の文化祭、うちのクラスは何を血迷ったか「メイド喫茶」に決まってしまった。しかも、裏方に回りたかったのに、メイド喫茶だからと女子は全員ウェイトレス。いいじゃん、可愛いみよさんとかかっこいいカレンさんとか、可愛い子たちだけのが集客いいよ!?

 とりあえず、私の訴えはクラス全員から却下されたので、当日は出欠取ったら逃げようと思っていたのに、クラスの子にとっつかまって、いつの間にか用意された私専用のメイド服に着せ替えられました。

「私のだけスカート短くない!?」
 自分のスカートの前を引っ張って、隠しながら言っているのに、他の女子たちはカレンさんを中心になにやら歓声を上げている。

「わ、花椿さんの言ったとおり、荒川さんて足キレイ」
「でしょ?」
 ちなみに、今の私のメイド服は紺無地の半袖で、スカートの端をレースで処理されている、世間一般でイメージされるというか、マンガやアニメで見られるようなファッション重視のメイド服だ。もちろん、スカートの長さは太腿が半分見えるぐらいで、足にはこれもまた白のレースが処理された黒のニーソックスを履いている。中にズロースを履いているとはいえ、これでは下手に屈んだりもできやしない。

「そもそもメイドさんてのはいわゆる裏方なわけで、こんな際どい服で給仕とか掃除とか、できるかーっ」
「バンビ、暴れると見える」
 すかさずみよさんから指摘され、私はがっくりとうなだれ、椅子に座り込んだ。その間に今度は髪を勝手に弄られ、耳の後ろ辺りで軽く二つに結わえて。

「……カレンさん、コレ違う。絶ッ対、違うっ」
「えー、似合うって。じゃあ、男子に見てもらおうよ!」
「やだ! こんな格好で人前になんて出られないっ」
「平くんー、ちょっと来てー」
 クラス内でも地味代表の男子が呼ばれ、女子だらけの空間に一人の生贄が差し出される。ていうか、ほら、平君も怯えてるよ。顔ひきつってるし!

「ほら、やっぱりだめじゃん! せめて、私のも同じ長さにしてっ!!」
「余分に衣装があるわけ無いじゃん。そもそも、アタシに衣装をお願いしたのはバンビでしょ?」
「うぅっ、カレンさんのいけずぅぅぅっ」
 ほらほら、宣伝しておいで、と否応なく廊下に放り出された私はすぐさまドアにへばりついた。

「無理無理!ね、せめて、何か……」
「オマエ、その格好」
 最悪のタイミングで扉近くを歩いていた琥一君に、私はこの恥ずかしい格好を見られてしまった。琥一君にだけは絶対に見られたくなかったのに。絶対、馬鹿にされるんだから、こうなったら開き直ってやる。

「メイドさんだよ。似合う?」
 照れ顔を隠さずに私が笑顔を作って言うと、琥一君は片手で顔を抑えて、首をふる。

「馬鹿オマエ――馬鹿」
「……なに?」
 似合わないのなんてわかってるよと私が自虐に走る前に、琥一君のブレザーで私は包まれていた。

「え……」
「脚見せすぎだ、馬鹿。そういうのは好きな男と二人だけの時にしとけ」
 確かに琥一君のブレザーなら、私の膝少し上ぐらいまであるけど、その長さはスカートより少し長いだけで、あまり違いはないようだ。

「ほら、ちゃんと着ろ」
「う、うん」
 袖を通しても琥一君のブレザーは大きすぎて、どう頑張っても袖先がてろんと垂れてしまう。

「貸せ」
 見かねた琥一君が袖を折ってくれて、漸く指先が出てきたけど。

「……よし」
「いや、よくないよね? これ、全然良くないよね?」
「あぁ? マシにはーー」
「なってないよね」
 そもそも男ってのは、こういうダボッとした男物をきた女の子にそそられるとか聞いたことがある。つまり、だ。

「メイド服の上に、この格好はないよね?」
「……いーんだよ、着てろ」
「でも」
「クッ、お守りみてぇなもんだと思っとけ」
「え?」
 そう言って、琥一君は去っていってしまった。残された私は、どうしたものかと教室の壁に寄りかかる。心なしか、琥一君の匂いがする気がして、私は袖口を鼻に近づけて息を吸い込んでみた。

「ふっ、排気ガスの匂いだ」
 またバイクに乗ってきたんだな、と思わず私は苦笑していた。

 一頻り笑ってから、私は自分の格好を見直す。……確かに、琥一君のブレザーは有効かもしれないと気がついたのは、彼の評判を思い出したからだ。それなりに私も彼らの幼馴染みとして知られている上に、この格好ーー。

「虫よけ、なんて……いやいや、ないわー」
 自分で言っておいて、あまりのありえなさに笑えた。つか、虫っていうか、こんな格好でいる女子に話しかけようだなんて物好きがいるだろうか。似合わないメイド服の上から男物のブレザーを来ているなんて。

 これがもし可愛い女の子……みよさんのミニマムさとカレンさんの華やかさを併せ持つような女子なら、大変魅力的だ。むしろ私が見たい。

 でも、私みたいな平凡女子がメイド服なんて大して似合うわけもないし、その上こんなダボダボの男子ブレザーを着てるなんて、ますますもって不恰好だ。

「……でも、まあマシかなぁ?」
 丁度視界に入る範囲に誰も居ないのを確認して、私はその場でくるっと回って、自分の格好を再確認してみる。

「ちゃっちゃと宣伝に行きますかっ」
 よしっと意を決して、私は漸く教室を離れたのだった。



p.2

 宣伝といっても、これといって何をすればいいのか。とりあえず、メイド喫茶なんて酔狂をしているのはうちのクラスぐらいだろうけど、だからといって、どうしたものか。いっその事首から下げておいたりしたら良かっただろうか。

 まだ午前中であるせいか、学内にはほとんど一般の来客は見られない。つまりは宣伝というのは他のクラスの前を歩けばいいのだろうか。だが、歩いているだけでは宣伝にならないだろう。

「うーん、どうしよう」
 階段の前で立ち止まって考えていると、上の階から降りてきた上級生が何故かこちらに向かってくる。

(え、何? 何?)
「君、可愛いねぇ。どこのクラス?」
 一見真面目そうに見えるが、中身はナンパなのだろうか。とりあえず、私をナンパするなんて、なんて見る目のない。思わず可哀相な目を向けてしまった私は正直者だ。

「1年F組です。メイド喫茶やってるんで、よかったらご案内しますけど」
「メイド喫茶? てことは、そのブレザーの下はメイド服なわけ?」
「えっと……ま、まぁ、そう、なります」
 事実なのだし、宣伝なのだけど、自分でも恥ずかしさが表に出てしまって、思わず俯いてしまう。

(やっぱり私に宣伝なんて、無理だーっ)
 心のなかでカレンさんに訴えるも、届くはずもない。

「じゃあ、それ脱いだほうが宣伝になるんじゃない?」
「う……そう、です」
「なんで着てるの?」
 恥ずかしいからに決まってるじゃないですか、と思わず叫びたくなるのを堪えて、私は先輩から一歩離れた。

「えっと、それで、ご案内、しますか?」
「君がそのブレザーの下見せてくれたら、行ってあげてもいーよ」
 宣伝、宣伝なんだけど、このブレザーを今脱げと。なんて、ハードルの高いことを所望するんでしょうか、この先輩。

「見ても、後悔しますよ?」
「え、それはどういう意味で?」
「……に、似合わない、から……っ」
 恥ずかしい。自分で言うのも恥ずかしいのに、なんなんだ、この先輩。

「そう言われるとますますみたいなぁ。……俺が脱がせてあげようか」
 一歩近づいてきた先輩が、私の顔近くで囁いてくる。なにを言っているんだ、この先輩。

「い、いえ、いいです」
「いいの、それじゃぁ……」
 わたしの断りを都合よく解釈した先輩の手が伸びてくる。軽くパニックになって理由の分からない恐怖に目を閉じていた私は、次に聞こえた声で顔を上げて、目を丸くしていた。

「トウッ!」
 何か威勢のいい掛け声とともに、先輩の呻き声が聞こえた気がして。そして、目の前には誰かの白いシャツの背中がある。その人は脱色した綺麗な金髪で、左耳に棒みたいなピアスをつけていて。

「ヒーロー参上!」
「イテテ……なんだテメェ……桜井琉夏!?」
 先輩の驚いた声に、私も我に返る。

「コイツに手ぇ出さないでくださいよ、先輩。無事に卒業したいなら、ね」
「琉夏君、ダメだよ! 喧嘩しちゃ!」
 私が琉夏君のシャツの後ろを引っ張ると、琉夏君は相手から目を離さないままに応えてくる。

「いいんだよ、コイツ悪いやつだ」
「ダメっ」
 私たちが言い争っている間に、先輩は逃げていって、残された私は琉夏君の背中に頭を寄せて、深く息を吐いた。

「もう……どうしてすぐ乱暴なことするの?」
 安心したら、ちょっと今泣きそうだ。

「あれ、ピンチだったろ?」
「それはそうだけど」
 だからっていきなり飛び蹴りとか、目の前で見ることになるとは思わなかった。あんなマンガやアニメみたいなーー。

「ふふっ」
「美咲ちゃん?」
「ううん、あの人、すっごい吃驚してたね」
「……あー、そう、かな?」
「そうだよ。ちょっとイイ気味だけどね」
 こっちはちょっと怖かったわけで。そういう意味ではお相子と言えるだろう。もしも琉夏君が来なかったらと考えたら、今頃震えがきた。それを悟られないように、そっと離れると、琉夏君が振り返る。私は、ちゃんと笑えているだろうか。

「ありがとう、琉夏君」
「……美咲ちゃん」
「さ、宣伝続けないとーー」
 じゃあねとさり気なく琉夏君に背を向けた私は、次の瞬間強く彼の腕の中に抱きとめられていた。

「無理しないでいいから」
「無理なんて」
「俺、間に合ったんだよね?」
「……うん」
 この身体が震えているのは、きっと琉夏君には伝わってしまっているだろう。だけど、何も言わずに彼は私を隠すように抱きしめていてくれた。

 しばらくして、チャイムの音が廊下に鳴り響いた。

「琉夏君、もう、大丈夫だから」
「そう?」
「離して?」
 開放してくれた琉夏君に、振り返った私は少しだけ照れて笑った。怖さはお陰で何処かに行ってしまったが、今度は羞恥心がぶりかえしてきた。

「琉夏君もよかったらうちのクラスに来て? お礼にサンドイッチおごっちゃう」
「マジで?」
「うん、じゃあーー」
 今度こそ立ち去ろうとした私は、琉夏君に手を捕まれ、立ち止まる。

「待って。一緒に行こう」
「え?」
「さっきのやつ、また来たら困るだろ?」
「そうだけど、琉夏君はクラスの準備とか」
「うち? うちはもう終わってるから大丈夫」
「そっか。じゃあ、お願いします」
 琉夏君と並んで歩きながら、私は自分のクラスを目指す。

「そういえばさ、それ誰の?」
 それ、と琉夏君が指したのは、私が着ているブレザーのことだろう。

「琉夏君もよーく知ってる人。お守りって言ってたけど、あんまり役には立たなかったなぁ」
「俺が知ってる……もしかして、コウ?」
「うん」
「ーーもうコウに会ったんだ」
「うん、教室を出た所でばったり。私の格好見て、同情して貸してくれたの。私もメイド服で出歩く勇気はなかったから、丁度よかったけど」
「ふーん」
 急に笑みを消した琉夏君に首を傾げている間に、私は自分のクラスに着いた。もうメイド喫茶は開店しているようで、何人かの生徒が教室へ入っていくのが見える。

「あ、もうやってる。琉夏君、せっかくだからさっきのーー琉夏君?」
 さっきのお礼に食べていって、と琉夏君を見た私は、じっとこちらを見る琉夏君の目とばっちり合ってしまった。なにか言いたげな、真剣な眼差しだけど、残念ながら超能力者でもない私には琉夏君の考えがわかるわけもない。

「どうしたの?」
「うん? なんでもないよ。美咲ちゃんの担当って、何時?」
「十一時から十二時。早番じゃないと逃げられるって言われちゃった」
 本当はサボろうと思ってたんだけどね、と笑うと琉夏君が笑う。

「珍しいね」
「だってさー、メイド服なんて着たくなかったもん。絶対似合わないし!」
「そんなことないって。じゃあ、後で来るね」
「うん!」
 じゃあと琉夏君がいなくなってから、私は自分の教室へと戻った。

「バンビ、おかえり~」
「ただいま。もう開けてたんだ。遅れてゴメン~」
 級友たちに軽く謝罪して、私も忙しそうな裏方の仕事に取り掛かろうとしたんだけど。

「あれ、それ誰の?」
「え?」
「男子のブレザーだよね、それ」
「もしかしてカレシ!?」
 急に沸き立つクラスメイトたちを私は軽く交わす。

「あはは、いるわけないし。これは琥一君が貸してくれたの。汚すとすっごく怒るだろうから、皆気をつけてねー」
 脱いだブレザーを空いた机に畳んで置いてから振り返ると、やけに周囲が静かなことに気がついた。どうしたんだろう、と首を傾げていると、カレンさんが訊いてくる。

「琥一君て、あの桜井琥一君だよね?」
「そうだけど?」
「どうして借りることになったのか、聞いてもいい?」
 なんでそんなこと、と思いつつも私は思ったままのことを口にする。

「うーん、似合わないから、とか」
「それはない!」
「そうかなぁ」
 クラスメイトたちが頷く様子に、私はますます首を傾げた。

「他に何か言われなかった?」
 何を言われたっけと思い返しつつ出てきた言葉を口にすると、何故か皆一様に頷いたのだった。

「お守りみたいなもんだって、言ってたけど」
「やっぱり!」
「役には立たなかったかなぁ。ナンパされちゃったみたいだし」
 人生初だよ、と笑っているとカレンさんが近寄ってきて、がっしりと両肩を抑えられた。

「ちょっと待って、バンビ。何があったか、カレンさんに詳しく!」
「てか、皆仕事しないの?」
「詳しく!」
 カレンさんの追求から逃れようと視線を向けると、皆尽く「忙しい」と口にして、解散してしまった。

「バンビ!」
「あー、はいはい。実はね……」
 結局私は琉夏君に会ったことも、ここまで送ってもらったことも白状させられたのでした。ていうか、もともと話すつもりだったけど、なんで皆そんなに追求してくるんだろう。ただの幼馴染みとの日常なのになぁ。



p.3

 メイド喫茶は思いの外大繁盛だった。皆は私の宣伝効果だというけど、宣伝らしい宣伝をした覚えのない身としては心苦しい。とりあえず、自分の担当時間ぐらいはしっかりやろうと私は目まぐるしく給仕をしていた。

「紅茶とサンドイッチ、お待たせしました」
 テーブルに置いた所で、入り口に琉夏君と琥一君の二人が現れた。

「へぇ~」
「あっ、琉夏君、琥一君。いらっしゃいませ!」
「本当にメイドさんだ、カーワイイー」
 茶化して言う琉夏君に眉を下げながらも微笑みつつ、私は二人をテーブルへ案内する。

「もうっ! ……ホントに?」
「マジ。それじゃ、ご主人様に、コーヒーとホットケーキをもらおう」
「ふふっ、申し訳ございません。ホットケーキは扱っておりません」
「そっか、残念。じゃ、とりあえずコーヒーね」
「かしこまりました!」
 入店してから一度も私を見ない琥一君の前に回る。

「琥一君はどうする?」
「じゃあ、ピザとコーヒー」
 どうしてこの二人はメニューにないものを頼もうとするかな、と半分呆れながら私は給仕を続ける。

「ピザはないけど、イングリッシュマフィンはいかが?」
「イングーーメンドクセーな。じゃ、それ3つだ」
「1つで十分だよ?」
「腹減ってんだよ。いいんだ3つで。3つだ」
「もう……イングリッシュマフィン、スリーとホットコーヒー入りました!」
 紐とカーテンを吊っただけのスタッフルームに戻った私は、コーヒー二つとイングリッシュマフィン三つ、おまけでサンドイッチを二つ載せたトレイを手に、二人の元へ戻った。サンドイッチのことは既に級友に話をしてあるため問題ない。

 ちなみに、先輩との一件を話した所、クラスメイトからメイド服での外出を禁止されました。禁止にしなくても、もうあんな恥ずかしい格好で出歩きたくないってば。

「お待たせしました」
 それぞれの前にコーヒーを置き、テーブルにイングリッシュマフィンとサンドイッチを並べる。

「サンドイッチなんか頼んでねぇぞ」
「うん、そうだね。これは私の奢り」
「あんがと、美咲ちゃん」
「ううん、こっちも助かったから」
 琉夏君と話していると、琥一君が何のことだと少し苛ついた様子で聞いてくる。もう、そんな風にしたら他の客に迷惑でしょうが。

「詳しいことは琉夏君に聞いておいて」
「メイドさん、注文いい?」
「あ、はい! じゃあ、ゆっくりしていってね」
 他の客に呼ばれて言った私は、琉夏君がどういう説明をしたのかは知らない。ただ、琥一君がますます不機嫌になった、ということだけは言っておこう。

「コーヒー美味かった」
「ホント? よかった」
 もう出るという琉夏君から私は給仕の合間に声をかけられた。何も言わない琥一君にはこっちから聞いてみる。

「琥一君、お味はいかがでしたか?」
「味? おぉ、悪かねぇ。ウマかった」
「全部食べられた?」
「まあな」
 少し得意そうだけど、本当にすごいと私は目を丸くする。二人の会計は私の奢りも入るので、会計担当の子と話しながら、手早く済ませてしまう。それから、送り出すために三人で廊下に出た。

「美咲ちゃんは十二時までだったよね?」
「うん、その後は友達と回る約束してる」
「そっか」
 少しホッとした様子の琉夏君は、きっと私があの先輩に遭遇することを心配してくれているんだろう。

「琉夏君と琥一君は二人で回るの?」
「……んなわけねぇだろ」
 不機嫌な琥一君の代わりに琉夏君が応えてくれる。

「コウはね、会長から荒らしが来ないか見張れって言われてる。俺は案内係」
「へ~、琥一君、ちゃんと見張ってる?」
「知るか。形だけブラついてりゃいいんじゃねぇか?」
「いい加減だなぁ」
 心底面倒臭がっている琥一君を見て、私は少し考える。生徒会長に会ったことはないけど、琥一君に頼むってことはおそらく荒事、で合ってるだろう。こういうイベント事では外部から入ってくるものも多いし、つまりはそれに対応してもらうというわけだ。

「ちゃんと用心棒になってくれなきゃ、困るよ」
「用心棒だ?」
 私が言葉を代えると、思った通り琥一君が反応した。これなら、やる気になりそうかも。だったら、あとは畳み掛ければいい。

「だって、つまりそういうことでしょ?」
「おぉ、そうとも言うな」
「琥一君が用心棒なら、安心だもんね?」
「まあ、妙な連中に好き勝手させやしねぇけどよ?」
「そうだよ。がんばって!」
「じゃ、ちっと行って来るわ」
 やる気になった琥一君が去っていく背中を見送っていると、小さく「用心棒かよ。ククッ、悪かねぇ」と呟いている機嫌の良い声が聞こえた。これで一先ず外部の来客が怯えることはないだろう。

 ホッと胸を撫で下ろしていると、琉夏君が隣で笑い出す。

「すげぇな、美咲ちゃん。あのコウを操っちゃった」
「あや……! 人聞きの悪いこと言わないでよ。琉夏君は案内係だっけ?」
「あ、ああ、うん。俺も会長に頼まれて、断れなくて……いろいろ」
 視線をあらぬ方に逸らしている琉夏君も、やはりイマイチやる気が出ていないらしい。でも、何かを期待するように私に視線を向けてくる。

「案内係って何するの?」
「うん、困った人の手伝いとか」
「へぇ、偉いね?」
 褒めると嬉しそうに琉夏君が笑った。

「美咲ちゃんは何か困ったこと無い?」
「えぇと、特に無いけど、そういうのは外部のお客さんにしたらいいと思う」
「そう?」
「そう!」
 頷いたけど、琉夏君は私をじっと見たまま何かを待っている。何かーーあ。

「案内係、がんばってね!」
「おしい。ハートマークつけて?」
 難しい注文が付いてきた。私に何を求めているんだろう。

「えぇと、がんばってね。はーと」
「……それは違うよね」
「ハハハ、だよねー。じゃあ、頑張ったら、ご褒美ってのは?」
「ご褒美? 何?」
「うーん、お弁当、とか」
「いいね。じゃあ、行ってくる」
 私から離れた琉夏君はすぐに見つけた外部の男性客に話しかけている。

「お、いた。ねぇねぇ、アンタ、なんか困ってない?」
「は?え、俺ですか?いや、べつに……」
「冷たいこと言うなって。よく考えてみ?なんか困ってんだろ?」
「そ、そんなこと言われても……」
 かえって困らせてるような気がしないでもないけど、とりあえず二人とも仕事をしているということで。私も時間まで頑張るか、と教室へ戻ったのだった。

あとがき

メイド喫茶ねぇ……。見る分にはいいけど、やりたくはないな。
このヒロイン魅力を先に上げてるし、それなりに可愛いかと。
なので似合うかと思うんですが、脳内で全力で拒否られました。
真面目ちゃんでもないので、フケるつもりだったんですが。
ミヨから逃げるのは難しいかなぁと。


文化祭だけ、急に長くなって、何かすいません。
(2013/02/22)