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書名:GS
章名:GS3@桜井兄弟 - I Still..

話名:07. Lunch box


作:ひまうさ
公開日(更新日):2013.2.24
状態:公開
ページ数:3 頁
文字数:6293 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 4 枚
デフォルト名:荒川/美咲
1)
昼食デート?

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p.1

 文化祭で琉夏君にお弁当を作る約束してしまったことを思い出した日曜日の夜、私はあることに気がついて、一人頭を抱えていた。

 琉夏君と私が約束したのは、文化祭で案内係、つまり会長に頼まれたことを頑張ったら、ご褒美にお弁当を作ってあげるコトだ。同じように琥一君も会長から用心棒を頼まれていたわけで、琉夏君だけにご褒美があるのは不公平ということになるのではないかということだ。

 つまり、琉夏君との約束を果たすためには、私は二人分のお弁当を用意する必要があるということになる。

 ここでどのぐらいの量を用意するかということになると、普段の私のお弁当ではおそらく足りないだろうな、と思う。同じクラスの不二山君なんかは、私よりも大きな弁当箱を二つ、昼食前に平らげた上、昼食と部活前に更に食べるらしい。流石にあの量はイレギュラーだとしても、その1つ分の弁当箱ぐらいの分量を用意する必要はあるだろう。

「……多い」
 自分の分ともう一人分だけならまだしも、これがさらに一人分増えるとなると、相当な量の弁当になる。いくらなんでも、学校にこれを持っていくのは、恥ずかしいし重い。

 それにこの間下校帰りに喫茶店で聞いた話によると、二人とも家を出て暮らしていて、好きな時に好きなものしか食べていないから、お弁当は野菜多めの美味しくて栄養のあるものを食べさせたい。

「うー……まさかこんな落とし穴があるとは……っ」
 どうしたものかと頭を抱えていると、絶妙のタイミングで電話が着信を告げてきた。こういうのは大抵決まった人からかかってくるので、私はディスプレイに表示された名前を確認せずに、通話にした。

「みよさん、どうしよう~!」
 電話口が黙ったままであるのをいいことに、私は事情を洗いざらい話していた。

「……てことなんだけど、みよさんはどうしたらいいと思う?」
 しばらくして電話口の向こうから聞こえてきた、ため息と小さな呟きに私は凍りついた。

「ルカの野郎……」
 それはこの問題の当事者の一人である、幼馴染みの声だった。

「……やば……」
 小さな私のつぶやきも拾い上げた琥一君は、再び深く息を吐いた。

「なにやってやがんだ、オマエは」
「だ、だって、琉夏君もやる気出して欲しかったから……」
「……ルカだけか?」
「もちろん琥一君もだよ! だから、こうして悩んでるんじゃないっ」
 聞かれてしまったものは仕方ないと開き直ると、電話口は苦笑を伝えてくる。その顔が思い浮かんだ私は見ていないのをいいことに口を尖らせた。

「そっか、琥一君はいらないんだね?」
「オイ、んなこたいってねぇだろ」
「別に琥一君とは約束したわけじゃないし、いーけど! 作り過ぎたら責任とってよねっ!」
 じゃあねと電話の向こうの声を無視して、私は通話を終了し、ケータイ電話をベッドに放り投げた。それから、あ、と気づいた。

「……結局作るんじゃん。どうしようー……」
 とりあえず、最初から私の中に一人分という選択肢はなかった。

 ベッドに倒れ込んだ私が一息ついた所で、ケータイ電話が再び着信を告げてくる。今度はちゃんと相手を確認した私は、通話状態にしても口を開かず相手の出方を探る。

「悪ぃ、調子に乗りすぎた。な?」
 申し訳無さそうな声音に溜飲を下げたものの、私はわざと怒っているフリで返す。

「本当に悪いと思ってる?」
「おぅ」
「私のお弁当、食べたい?」
「あぁ」
「フッ、じゃあ許してあげる」
 ほんの少し苦笑の滲む声で告げると、電話口で安堵の息が聞こえた。どうやら、本当に悪いと思ってくれていたようだ。

「つーかよ、オマエ料理なんてできんのか?」
 言った傍から失礼なことをいう相手に、私は言い返す。

「両親にはいつでもお嫁にいけるって言われるよ!」
「ヨメ……!? ……そりゃ身内だからだろうが」
「そうだけど……あ、じゃあさ、琥一君と琉夏君が実験台になってくれればいいんだよ。うん」
「あ? 実験台?」
「うん、二人のお墨付きが貰えれば、文句ないでしょ?」
 名案だと私が言うと、琥一君は黙ってしまった。

「聞いてる、琥一君?」
「ああ」
「じゃあ、とりあえず、琉夏君には今の話は言わないでおいてね」
「なんでだ?」
「自分で言うから。約束したのは私だし、事情話して、いい方法を考えてみる」
「……そうか」
 じゃあね、と切ろうとして、私ははっと気がついた。そういえば、先に琥一君から電話がかかってきているんだから、私に何か用事があったに違いないのだ。

「そういえば、琥一君は何か私に用事?」
「あー……まあ、それはいい。とりあえず、オマエは弁当頑張れ」
「いいの? じゃあ、おやすみ」
 別れの挨拶で切ろうとしたところ、電話の向こうが再び黙ってしまった。あれ、ここは同じく返すところのはずだ。聞こえなかったのだろうか。

「おやすみ!」
「ああ」
 聞こえてはいるらしい。が、ああ、ってなんだ、ああ、って。

「琥一君も言ってよ」
「あ? なんだよ」
「オヤスミって言って」
「……言わねぇよ」
「言ってくれないと、作ってあげない」
 電話口の向こうはしばらく黙ったままで、これはやりすぎたか、と思った頃。

「……おやすみ……これでいいだろ」
「ふふっ、うん、おやすみなさい」
 照れて小さな声だったけれど、通話を終えた後も琥一君のその声は私の中に残って、温かい気持ちをくれたのだった。



p.2

 月曜日の朝、手始めに私は不二山君を捕まえることにした。

「おはよう、不二山君」
「おはよう、荒川」
 別にクラスメイトと関係が悪いわけでもない私は自分の席に行く不二山君についていく。私の席は列一つ分離れているから、席に付いていると話ができないのだ。

「今日も朝練? 柔道部、人集まった?」
 柔道の話を振ると食いつきのいい不二山君は、予想通りに嬉しそうに振り返ってくれた。

「ああ、そうなんだよ。文化祭で百人掛けしたら、入部したいって奴が増えたんだ」
 不二山君は柔道部のないはば学で、柔道部を作ろうとするほど柔道好きな男子だ。今の家に引っ越す前は柔道場に通っていたというので、単なるミーハーというわけでもない。それなりに強いらしいという話も聞いているが、だったらなんで柔道部のないはば学に入ったのだろうと疑問が出てくるが、おそらく何かしらの事情があるのだろう。それを聞くまでの間柄でもないので、私は詳しいことは知らない。

 私が知っているのは、彼は柔道好きで大食いだということである。

「良かったねぇ。じゃあ、今日も早弁するんだ」
 さあここからが本題だ。

「んー、するな」
「そのお弁当、ちょっと見せてもらってもいい?」
 尋ねると不思議そうに見られた。流石に唐突だったか。

「えっと、ほら、いっつも美味しそうに食べてるから気になって」
「……やらねぇぞ?」
「食べないよ!」
 じゃあいい、と不二山君はすんなりとお弁当箱を一つ開けてくれた。ご飯にウインナーに卵焼き、それとサラダにミニトマト。メインは白いご飯の上に生姜焼き、か。

「……美味しそう……」
 匂いだけでも美味しそうで、涎が出そうな口を慌てて抑えた。

「お母さん、料理上手だねぇ」
「そうなのか?」
「一口……」
 手を伸ばそうとした瞬間、慌てて弁当の蓋を締められた。小さく舌打ちすると意外そうに見られる。

「なんだ、荒川、腹へってんのか」
「ううん」
「……やらねーぞ」
「取ったりしないってば。不二山君、クッキーとか食べる?」
「ああ」
「じゃ、これお礼にどうぞ」
 後ろ手にしていた包みを渡すと、不二山君からはサンキュと短い返事が返ってきた。席に戻って、私は先ほど見たお弁当箱の大きさを机の上で再現してみる。

「うーん、大きい……」
 お父さんが持って行っているものよりも大きい気がする。それに量も結構あった。私のお弁当の三倍はあるかも。

「……あれが二倍……いや、私の六倍……やっぱ無理だなぁ」
 考え込んでいる間に大迫先生が入ってきて、ホームルームが始まった。



p.3

 昼休みを告げるチャイムの後で、私はどうしようかとまだ悩んでいた。

「バンビー、お昼行くよー」
「あー、ごめん、私パス」
「どうしたの?」
「ちょっと野暮用ー」
 ごめんねと廊下から声をかけてきたカレンさんに断っていると、別の入口にいた男子から呼ばれた。

「荒川、琉夏が呼んでんぞ」
「え!?」
 これから探しに行こうと思っていた相手の名前が出てきて、驚いた私は思わず席を立っていた。

「わ、わかった!」
「美咲ちゃんー」
「わー、ちょっと待って!!」
 級友達の好奇の視線を感じつつも、私は急いで自分のロッカーに行き、少し大きめのバッグを取り出す。中身はもちろん自分の弁当と、幼馴染みたちへの細やかなお詫びの品である。

 それらを持って教室を出た私を見た琉夏君が行こうと促す。

「どこで食べる?」
 やっぱり弁当の催促に来たか、と予想通りだったので思わず私は笑ってしまう。まあ、半分は周囲の視線から感じる照れなのだけど。一部視線が痛い気がするのは、琉夏君のファンだろうか。後が怖いなぁ。

「屋上。ねぇ、琉夏君だけ?」
「え、俺と二人きりで食べたい?」
「もう! そうじゃなくて、ご褒美をもらう権利は琥一君にもあるでしょってこと」
「そう?」
「そう!」
 歩きながら屋上へ通じる階段の前まで来ると、件の相手は憮然とした表情で待っていた。

「あ、琥一君みっけ!」
 私が駆け寄ると、わずかに口の端を上げて琥一君はニヒルに笑う。そんな姿が似合う高校生ってどうなんだろうと思わないでもないけど、私はそれを言葉にせずに仕舞っておいた。

「琥一君も一緒に食べるよね?」
「ああ」
「よし! じゃあ、行こう!」
 私は先にたって屋上への階段を登ってゆく。後から二人はゆっくり歩いてくるだろうけど、どうせ追いつかれるのは目に見えているのだ。既に開放されている屋上の扉からはよく晴れた青空が見えて、暑い日差しの中に涼しい風を運んできている。十一月に入ってから少しずつ秋の気配も深まっているけど、まだまだ気持ちのよい天気も多く、今日も屋上は多くの生徒で賑わっていた。

「どこで食べよう?」
 入り口から数歩進んだ所で立ち止まって、ぐるりと周囲を見渡す。皆思い思いの場所で弁当を食べているようで、グループ毎の間隔もバラバラだ。

「美咲ちゃん、こっち」
 琉夏君の声が背中に当たったかと思うと、振り返るまもなく押されて、私は否応なく給水塔の影の多いあたりまで連れて行かれた。そこにも当然先客がいたわけなんだけど。

「のけ」
「お、琥一に琉夏……と、幼馴染みチャン?」
 知り合いらしい様子の彼らを強引に追い払い、二人は思い思いの場所に座ってしまった。それから、二人の間というか前、三角になるように促され、私は軽くため息をつきながら、腰を下ろす。

「強引すぎる」
「あぁ?」
「なんでもない。あと、先に琉夏君には謝っとくね。今日は大したもの用意できてないの」
「そうなの?」
「うん。だって、二人を満足させられるだけの量は、流石に持って来られないし」
 男子高校生の弁当は質より量だ、と両親にも言われてしまった。だから、これではダメだろうな、と申し訳ない思いで、私はバッグの中からまず紅色の風呂敷を一枚取り出し、広げた。

「そこまで考えてたんだ」
 驚いた様子の琉夏君に苦笑しつつ、網目状のプラスチックのランチボックスをひとつずつ、合計五つ取り出した。

 一つ目を開けると、中身は玉子焼きとサニーレタスで包んだポテトサラダが出てくる。二つ目を開けると、中身は全部鶏の唐揚げだ。それから、二人にひとつずつ渡したランチボックスはおむすびが三つずつ入れてある。中身は梅干し、昆布、高菜。残る一つは自分のおむすびだ。中身は二つで、梅干しと高菜。それから、バッグから紙コップと水筒を取り出し、少しぬるめのお茶を淹れて、二人に手渡す。

「足りないかもしれないけど、今日はこれで勘弁してね?」
 申し訳なく思いながら言ったのだけど、二人は何の反応もせずに、手元のおむすびと唐揚げを見つめている。

「おいおい」
 呆れた様子の琥一君の顔を見ると、思ったよりも喜んでくれていることに安堵した。

(琥一君には話しちゃったからなぁ)
 お詫びの品としてはやり過ぎではないかと言うかもしれない。これでもう十分だろ、と聞こえる気もする。だが、それでは私のなけなしのプライドが許さないのだ。

「え、これ、また作ってくれるの?」
「コレじゃないけど、次はもっと量を作るつもり。……あ、そうか、琉夏君の親衛隊さんとか巻き込めばいいのか……」
「え?」
「なんでもないよ。さ、味は保証しないけど、食べて」
 昼休み終わっちゃうよーといいつつ、私も自分のおむすびを取り出し、口に運んだ。

 うん、いい握り具合だ。これだけは小学生の頃から私の担当だから当然なんだけど、おむすびって案外むずかしいんだよね。ぐちゃっと潰れてもダメだけど、握りが足りないとすぐに崩壊する。ちょうどいい、が一番むずかしいけど、そこはそれ、毎日お父さんのお弁当にとせっせと修練した甲斐もあって自信作だ。

 物言いたげに私を見ていた二人も、結局は何も言わずにおむすびを食べてくれた。合間に唐揚げと卵焼き、ポテトサラダも食べさせる。そんな風な具合に私がおむすび一つ食べている間に、二人とも食べ終わってしまったので、やっぱり足りなかったなぁと苦笑してしまう。

「満足満足」
「そう?」
「うん、久々にちゃんとしたご飯食べた。な、コウ?」
「フフッ、これでちゃんとしたって言われてもなぁ」
 お茶で一息ついて、二つ目のおむすびに取り掛かりつつ、二人の様子を観察する。というか、なんで二人とも私の方を見ているんだろう。あ、私じゃなくておむすびかも。

「はい」
「え?」
「食べかけでもいいならあげるよ? 足りなかったんでしょ?」
「え、いや、さすがにそれは悪いよ。な?」
 琥一君を伺う琉夏君を見て、それから私も琥一君に問いかける。

「いいよね?」
「……ノーコメントだ」
「え、それは琥一君も食べたいってこと? 困ったなぁ、流石にもう残ってないよ」
「そうじゃねぇだろ。いいから、自分で食っとけ」
 じゃあと食べようとしたんだけど、琉夏君の視線が何かを訴えている気がする。ここで食べてしまえるほど、私の神経は太くない。

「なんかもうお腹いっぱいになっちゃったかも。琉夏君、食べてくれる?」
「荒川」
「二人と一緒だから、いつもより食べ過ぎちゃったし、後はカレンさんたちと遊んでくるよ」
 はい、と食べかけのおむすびを琉夏君に押し付けて、私は手早くランチボックスを畳み、バッグへと放り込む。といっても、なくなる傍から畳んでおいたので、すぐに済む作業だ。

「その紙コップは自分で捨てておいて」
 またね、と私は二人の返事も聞かずに屋上を後にした。階段を少し降りてから、自分のお腹に手を当てる。

 いつもより食べ過ぎたのは確かだし、文化祭準備の間運動が疎かにもなっていたし、少しお腹まわりも気になるし。

「カレンさん、今日もバレーやってるのかなぁ」
 いつもみたいに混ぜてもらおうと気楽に考えていると、昼休み終了を告げるチャイムの音が廊下に響いた。遊んでいる時間は無いらしい。

(お腹いっぱいで、午後の授業寝ちゃいそう)
 口元を片手で覆って欠伸を噛み殺しつつ、私は自分の教室へと足を向けた。

(次はもっとちゃんとしたご飯を作ろう。あ、大迫先生に相談したら、調理室を借りれないかな?)
 その思いつきはとてもいい考えだと思えて、歩きながら思わず私は頬を緩めてしまったのだった。とりあえず、午後の授業はどういう口実で借りるか考えながら、眠気を回避しようっと。

あとがき

コウが電話してきたのは、デートの場所と待ち合わせを決めるためだったり。
でも、ヒロインに流されて結局言えず。
優しいんだかヘタレなんだか。
……なんか、読み返すとかなりコウが贔屓ですね。
ルカはノーマルで軽いからなぁ。
パラ萌え目指しつつ、二人同時攻略なヒロイン。
三角関係は二年目九月以降でしたっけ。
それにコウは友好が長いし、まだしばらくは苗字です。
修学旅行までに両方ときめきは難しいですよね?
(2013/02/24)