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書名:GS
章名:GS3@桜井兄弟 - I Still..

話名:08. Sister-like


作:ひまうさ
公開日(更新日):2013.2.26
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:2303 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:荒川/美咲
1)
コウとボーリングデート

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p.1

 お弁当の件は置いておいて、とりあえず今私はボーリング場にいる。一緒にいるのは、琥一君で丁度荒々しい所作で球を投げ終えたところだ。ボーリングの球は吸い込まれるようにレールを転がり、全てのピンを倒したのを見るやいなや、琥一君が小さくガッツポーズをする。子供みたいな表情につられて私もつい笑って、戻ってきた琥一君と手を打ち鳴らす。

「すっごい上手いね!」
 私が手放しの称賛を向けると、少し照れた様子で琥一君も笑う。こんな顔を見たのは再会してから初めてだ。

「次、オマエだろ」
「うん、行ってくる」
 私も自分の選んだボーリングの球を持ち上げ、とてとてとレールの前に行く。構えて前を見据えると、ボールの行くべきコースが見える。が、その通りに投げられるかというと、そんなことはない。

「っ!」
 投げようと振りかぶったボールは思っていた位置では指を抜くことが出来ず、ゴトンと重い音を立てて、レールを転がってゆく。

「ぁああああぁぁぁっ!」
 そこから先は思った通り、レールの端を転がり、一本もピンを倒すことなく終えてしまった。ふらふらと落ち込んでシートに戻ってきた私を、琥一君が苦笑で迎える。

「どんまい」
 ゲームを終えて、ボーリング場を出た後は結局私のスコアはボロボロだった。ボーリングをやったのなんて、久しぶりだけど、それにしたって。

「最初は調子良かったのにな?」
 慰めるように言ってくる琥一君を恨めしげに見上げたが、すぐに私は視線を地面の落とし、ため息を付いた。

「……体力不足、だよねぇ。もっと鍛えないとダメかなぁ」
 腕力が足りないのは自覚していたが、ここまでダメだと流石に凹む。

「おーがんばれ」
 気のない返事に思わず近くにあった琥一君の足を踏みつけようとしたが、寸前で逃げられた。

「チッ」
「オイコラ」
 完全なる八つ当たりだから、私は視線を合わせないままに小さく謝った。

「ゴメン。せっかく誘ってくれたのに……」
「あ?」
「次は、もっと体力つけとくから、リベンジさせて!」
 両手を併せて拝むと、琥一君は少し驚いた顔をした後で可笑しそうに笑った。

「オゥ」
 そしてまた、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でてくる。もうこれは犬猫にやるのとおんなじようなもんだろうと半ば諦めた私は、ひとしきり琥一君の気が済むのを待ってから、軽く手櫛で髪を整え、ヒョウ柄のキャップをかぶった。

「じゃあ、またね」
 遊び終わったし帰ろうとした私はくるりと背を向けると、とたんに琥一君が止めてきた。

「何?」
「送る」
「別に、まだ明るいしいいよ」
「……荒川、オマエな……」
 呆れた様子の琥一君に向き直り、軽く首を傾げると、琥一君は何故か困った様子で。でも、何か言いたげな様子なのに何も言わない。時間もまだ遅くはないし、私は琥一君がその何かを言うのをじっと待っていた。

 互いの視線がぶつかり、琥一君の瞳の中に不思議な色を見た気がした私は、困惑で更に首をひねる。

「……誘ったのはこっちだ。大人しく、送らせろ」
「でも、明るいし」
「俺がそうしたいんだ。……大事な妹分に何かあっちゃ、困んだよ」
 琥一君の言葉を脳内で反芻してから、私はぽんと手を打った。そういえば、琥一君は無駄に優しい人であった。私みたいなただの幼なじみにも気を配るほどに。

「ああ、もしかして、こないだのナンパの心配? あんなのそうそうないし、琥一君の手を煩わせる程でもないよ」
「あぁ?」
「うん、違うの?」
 不機嫌に聞き返され、私も聞き返す。てっきりそういうことだと思ったんだけど、それなら何を心配してーーあ。

「……喧嘩?」
「あ?」
「もしかして、また喧嘩して、逆恨みで私が狙われるんじゃないかとか心配してるの?」
「…………」
「心配しなくても逃げるのは得意だからーー」
「そうじゃねぇ」
 低い声で否定され、私は口を噤んだ。

「そうじゃねぇんだ。……くそっ、めんどくせーな」
 何かを言おうとした琥一君はまた言葉を濁す。こんなことをしていたら、本当に暗くなってしまう。

「じゃあ、駅まで一緒に行こう」
 私が差し出した手を、琥一君は不機嫌そうに見て、叩きつけるように手を重ねて歩き出した。

「意地っ張り」
「ふふ、それはお互い様だよ」
 大きな琥一君の手に、私の手はすっぽりと包まれて、そこだけ温かくて心地良い。幼なじみとはいえ、ずいぶん長いこと会っていなかったのだし、もっとドキドキするかと思ったけど。

「……ホッとするなんてねぇ……」
 頼れるからこそそう思えるんだろうけど、と小さく呟いて笑っていた私は、琥一君がどんな目で私を見ていたかを気にしていなかった。

 駅について、改札前で手を離す。

「じゃあ、また学校で」
「あぁ」
「バイバイ」
 手を振って改札を抜けた後で、私は一度だけ振り返った。後ろ姿を捉えるかと思った私の目は、思いがけず私を見送る琥一君の眼差しを遭って、少しだけ心が跳ねた。

(琥一君……?)
 今日一日見ていた、何かを言いたげな視線は、結局何も言わずに終わってしまったのだけど。

(また昔みたいに、三人で遊びたいな)
 私が笑顔で手を振ると、琥一君は片手を上げて返してくれた。

 それからまた私と琥一君が遊ぶようになるのは、もう少し先になる。というのも、やはり互いにタイミングとか合わないのと、何よりも私はすっかり底辺となった学業改善のため、ひと月弱に迫った二学期期末のために早くもみよさんからしごかれていたからである。

 忙しい理由はもうひとつある。それについてはとりあえず目の前の試験ーー上位五〇名に入るという目的を達する必要があったため、全ては後回しとなってしまったのだが、このことを私は優しい幼なじみたちに告げることはなかった。

あとがき

デートっていうか、お供のつもりなヒロイン。
今はそれでいいと思います。
コウとしても扱いに困っている感じ。
どちらも恋愛感情はなし。


運動出来ないわけではないけど、持久力に欠けるヒロイン。
1ゲームだけならコウと張るけど、2ゲーム以上は無理。
ちなみに今回は3ゲームで終了。という裏ストーリーがあったりなかったり。
コウ視点を書いてもいいけど、いろいろ難しいので却下。
そもそも自己満足度高すぎるしね、コレ。
(2013/02/26)