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書名:GS
章名:GS3@桜井兄弟 - I Still..

話名:09. Lunch Time


作:ひまうさ
公開日(更新日):2013.2.27
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:3640 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:荒川/美咲
1)
昼食デート2

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p.1

 試験結果の貼りだされた廊下の近くまで来た私は、ごったがえす生徒たちを視界に収めつつ、ドキドキと高鳴る心臓を抑えて近づいた。とりあえず底辺から見ていったのは、前回の自分の散々な結果と実力を知っているからである。

 三〇〇番代、ない。二〇〇番代、ない。一〇〇番から順々に上へ上へと視線を映してゆく。九〇番代にも八〇番代にもない。七〇番代、六〇番代、五九、五八、五七、五六、五五、五四、五三、五二……。

「っ」
 視線を追ってゆけば自然と近づいてゆく数字に、ますます五月蠅くなる心臓の音。それに伴うように、周囲の音が消えてゆく。はば学受験の時は、合格発表を見に来ることも出来なかったため、こんな気分にはならなかった。

「バンビ」
「っ! みみみみよさんっ!?」
 ポンと肩を叩かれたが、私は順位表から目を離せなかった。

 一年二学期期末の私の総合順位は、四九位。

「さすが、いい位置。わたしにも刺激」
「そそそうかな!?」
「うん」
 ぎこちなく隣のみよさんを顧みた私は、じわじわと溢れてくる実感に、思わずカレンさんのようにみよさんに抱きついていた。

「私、大迫先生に報告!」
「いってらっしゃい」
 もつれる足で職員室へ私が駆け込むと、大迫先生は驚くことなく迎えてくれた。

「お、来たな、荒川」
「大迫先生、私!」
「ああ、これで条件クリアだ。これもって、行ってこい」
「ありがとうございますっっっ!」
 大迫先生が差し出した書類をひったくるように、私はそれを持って、学年主任の氷室先生の席へと向かう。他の先生達はどこか微笑ましげに見ているが、そんなことは今の私が構うものではない。

「氷室先生っ!」
「……廊下は走らないように」
「はいっ! それで、あの!!」
 私が震えながら先ほど大迫先生から出されたプリントを差し出すと、氷室先生は普段は厳しい口元をほんの僅かゆるめ、それを受け取った。

「君の覚悟はわかった。しかし、今後もし成績が落ちるようであれば」
「絶対落としません!」
「フッ、よろしい」
 氷室先生が綺麗な所作でプリントに学年主任印を押すのを見ながら、私は喜びに顔を綻ばせていた。

「……君の影響で、彼らにも良い学校生活が送れるように、願っている」
「もちろんですっ!」
 渡されたプリントを胸に、私は氷室先生に深く頭を下げた。

「無理を聞いていただいて有難うございますっ」
 それから、大迫先生にも頭を下げ、職員室の出口でもう一度頭を下げる。

「失礼しましたっ!」
 廊下を出た私はバタバタと廊下を走るのではなく、できるだけ早足で、生徒会室へと向かう。

「美咲ちゃん?」
 途中で琉夏君に呼び止められ、私は笑顔のままで振り返る。それを彼も嬉しそうに笑ってくれた。

「何かいいことあった?」
「うん!」
「そっか、良かったね?」
「うん、琉夏君、またねっ」
 急いで私が向かっている方向を見ていた琉夏君が、待って、と呼び止めてくる。

「なあに?」
「どこいくの?」
「生徒会室っ」
「……何、呼び出し?」
「え、違うよ。あのねー……って、あ、ごめん、急ぐからっ!」
 私は急ぐ足で琉夏君を置いて、生徒会室へと駆け込んだ。

「すいませんっ、あの、えーっと、学内活動の承認に生徒会長の印を頂きたいんですけどっ」
 駆け込んだ生徒会室では既に話が通っていたらしく、私はすんなりと書類に生徒会長印をもらうこと出来たのだった。

「失礼しました」
 落ち着いた所作で生徒会室を出た私は、待っていたらしい琉夏君に目を瞠った。

「え、琉夏君?」
「生徒会長に用事だったの?」
「あ、うん。琉夏君も?」
「それ、何?」
 琉夏君が指した書類には大迫先生、氷室学年主任、生徒会長の印が押されたものだ。後はこれを理事長室に持っていけばいい。本当は始めるまで隠しておこうと思っていたのだけど。

「ふふ、なんだと思う?」
 琉夏君の答えを待ちきれずに私は彼の前にその書類を掲げていた。

「……調理室、利用許可証……?」
「ふふんっ、これで自由に調理室を使えるようになるのっ」
 お昼ごはんに暖かいご飯食べ放題だよっ!と意気込んで言うと、何故か琉夏君の表情が消えた。だけど、私は浮かれていて、それに気が付かなかったんだ。

「じゃあ、私急いで理事長捕まえるからっ!」
 バイバイと立ち去った私は、痛ましそうな琉夏君の顔を見なかった。



p.2

 特別料理が好きというわけではないし、学業優先ということなので、私はその日を水曜日と定めた。作ったのはオーソドックスにご飯と味噌汁、それから野菜炒めに生姜焼き。

「……オマエ、馬鹿だろ」
「つか、お人好し」
「へへへ、なんとでも言ってっ。さ、時間なくなっちゃうから、早く召し上がれ?」
 言いながら私も自分で作った舞茸と玉葱の味噌汁に箸をつける。うん、美味しい。ご飯は炊飯器があったので、有難く使わせていただいた。家庭用ではないため、一升炊きの大きなもので、これだけのサイズを使うのは初めてだったが、程よい硬さに炊き上がってくれたと思う。米は理事長がお祝いにと差し入れてくれたもので、有名銘柄米のミルキークィーンだ。野菜炒めの塩加減もまあいいだろう。生姜焼きは……ちょっと生姜が効き過ぎたけど、悪くはない。

「悪くねぇ」
「うん、美味しいよ」
「んふー、出来立てご飯はいいねぇ」
 賛辞を素直に受け止めつつ、実は一番喜んでいるのが自分であるという事実を幼なじみたちは知らない。私は冷たいお弁当より、出来立てご飯が大好きだ。もちろん、食べてもらうのも嫌いではないが。

「大迫先生たちは同好会にしないのかって言ってたけど、そうなると色々と雑事が多いし、手続きも多いからねぇ。だから、個人使用ってことで話をつけたの」
「……俺達の、ため?」
「それもあるけど、それだけじゃないよ。一応、花嫁修行ってことになるかなぁ」
 私が言った瞬間、琥一君が急に不機嫌になった。こちらに目を合わせないようにひたすら食べている。

「うちではいつでも嫁にいけるって言われてるけど、あくまで身内びいきなわけじゃない? だったら、いっその事調理師免許目指そうと思って」
「…………」
「昔はケーキ屋さんになるのもいいかなぁって思ってたんだけど、最近和食に目覚めてねっ。素の素材を生かした和食ってのはすごいよ! 一流の職人はゴミも出さないって言うんだけど、その域は流石に無理かなぁ」
 話し続けていた私を、神妙な二つの声が遮る。

「ん、おかわりする? いっぱいあるよ。あ、デザートにプリン作ったんーー」
「あのさ、もしかして、無理してない?」
 琉夏君の言葉に私はホンキで首を傾げた。

「無理って、なんで? あ、もしかして、琉夏君達、こういうのは迷惑だったりする? それなら、別にみよさんたちに作るからーー」
「そうじゃなくて、もしかして、俺らのために無理してっていうなら」
 繰り返す琉夏君を前に、私は綺麗に見えるように笑顔を作った。

「美味しくないならそう言って?」
「そういうことじゃなくて!」
 声を荒げる琉夏君と、真剣な眼差しを琥一君を見て、私は笑顔を消した。

「これでもさ、ちょっとは再会した幼なじみと距離を縮めたいわけですよ。全部ってわけじゃないけど、二人のことは少し思い出してるし、失った時間を出来るだけ取り戻したいって思うのはーー……やっぱり無理なのかな」
「美咲ちゃん」
「迷惑なら迷惑でもいいよ。でも、水曜日のこの時間だけは必ずここに来て。待ってるから」
 片付けるね、と私は自分の食器を持って、少し離れた流しに向かう。水を出し、軽くすすいでからスポンジに泡を付け、洗い始めた。

 彼らにとっては迷惑でお節介かもしれない、と自分でも考えないではなかった。あのお弁当で終わらせてもきっと琉夏君は怒らないだろうって、思ってた。だけど、それで終わりにしてしまったら、私達の間にかかりはじめた細い細い繋がりは簡単に切れてしまう気がして、私は怖かったんだ。

 やり直したいって、思ってはいけなかっただろうか。少しでも近づけば、幼い頃と変わらぬ関係に戻れると、期待してはいけなかっただろうか。

「貸せ」
 俯きながら水で食器をすすごうとした私の手からスポンジが取られる。見上げると、琥一君がいて、慣れた手付きで食器を洗い始めていた。

「俺達、片付けぐらいはやるよ。な、コウ?」
「美味いメシの礼だ」
「……琥一君、琉夏君……」
 あふれ始めていた私の目元が、決壊する。

「リクエストしてもいい?」
「う、うん」
「じゃあ、次はビーフシチューがいい」
「うん、じゃあ、ビーフシチューとチーズトーストにしよっか」
「楽しみだな、コウ?」
 黙々と食器を洗う琥一君からの返答はない。

「……無理だったら来なくても……」
「オイ」
 低い声で遮られ、私は不安のままに強面の幼なじみを見上げた。琥一君は憮然とした顔から、一転、表情を緩めて笑う。

「無理なら必ず連絡しろ。わかったな?」
「っ、うん!」
 私が頷くと、いつもみたいにぐしゃぐしゃと私の頭を撫でて、二人は笑ってくれて。それで、私も漸くほっとして笑えたんだ。

あとがき

お弁当の一件はこれにて〆。
教師……むしろヒムロッチを泣き落としには出来ない上に、このヒロインは一学期期末で追試を受けるようなせいとなわけですので、交換条件を出されました。


1.桜井兄弟を授業に出席させる手助けをする
2.常に五〇位以内キープする


五〇位以内にしたのは、赤点三つも取るような生徒であるため、考慮されたのでしょう。
他にはおそらくですけど、大迫先生ってイイ先生だから、ヒロインの思惑を考慮してくれているかも。
次は、クリスマスパーチーかなぁ。
(2013/02/27)


細かい修正。
(2013/07/02)