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書名:リーマス・ルーピン
章名:TeaParty

話名:ノスタルジィなお茶会


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.3.20
状態:公開
ページ数:4 頁
文字数:16281 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 11 枚
デフォルト名:////チカ
1)
お茶会シリーズ2
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p.1

 いつもの道を少しゆっくりと歩く。行き先は森の奥に住むリーマス・ルーピンという男の家だ。いつもだったら足早に進む道を、どうにかゆっくりと進む。それでも着いてしまう。今にも崩れそうな古い木の小屋。あまり人の近寄らない家。住人は世界一美味しい紅茶を入れる男で、穏和で無害。と思っていた。過去形である。先週遊びに来た時に、実は襲われかけ…ではなく、告白をされたような気がする。気がすると言うのは、からかわれただけのような気もするからだ。家に帰ってから考えれば考えるほどわからない。かといって、誰かに相談して笑われるのも気恥ずかしい。そんなわけで、とりあえず、からかわれたのだろうと納得して、今週もまた来たのだ。

「やぁ、今日は何のケーキ?」
「林檎のタルトと」
 戸口で待ち構えていてくれた鳶色の髪の男に、いつもより大きめの籠を渡す。あの時のことをどうしてか思い出してしまって、直視できず、慌ててくるりと背を向けた。

「サンドイッチ二人分とロゼです」
 不思議そうな顔をしているのだろう。籠を覆うようにかけておいた布を避けてみているかもしれない。

「今日は外でお茶にしましょう?」
 家の中が散らかっているから、というのもあるが、ここの住人はどうも血色が悪くていけない。それに、見上げる空は南の海の青さを閉じ込めてあるみたいな透明なブルースカイ。こんな日に家の中に閉じこもっているなんてもったいない。

 決して、先週のアレを警戒しているわけじゃないです。

「ケーキが残ってるから襲わない」というのは冗談でしょうし。

「チカ、もうお昼の時間は過ぎてるよ?」
「先生どーせまた食べてないんでしょー?」
 長年考えて来た結果から、私はリーマスはまともに食事をしていないから太らないのだと考えた。でなければ、あそこまでの甘い物好きというのが納得できない。したくない。

 振り向いて、上も見上げずにその脇をすり抜けて、扉をノックする。

「それから、そこにいる同居人の方も一緒にいかが?」
 家に近づいた時、かすかに家の中が揺れた。遠くから戸を背にして蹴りつけるリーマスも見た。

 絶対に一人はいるでしょ。

「だから僕は一人暮しだって」
「先生と住んでんじゃーろくなもん食べてないんでしょー。おいしーワイン付きでチキン付きよー!」
「いや、だから、チカ」
 肩を捕まれて、無理やり振り向かせられ、慌てて視線を逸らす。だめだ。直視したら負けそうなんだもん。この人。視界に入るのはさっき見上げた青空で、白くて大きな雲がゆったりと流れ、サワヤカに見えていた景色が今はひどく憎たらしい。

 それに、この状況はいやがおうにも先週を頭の中でリピートさせる。思い出すだけで、うぅ…やっぱり負けそうだ。このリーマスの首の角度だとか、近い息の距離だとか、香ってくるチョコレート臭だとか。ーーまた持ってんかい、この人は。

「チカ? どうして僕を見ないの?」
 つっこまれたー! 一生気がつかないで欲しかったなー。

「顔、赤いよ?」
「うそ!?」
 慌てて頬にやった手の上を影が通る。またも打ちつけられた可愛そうな扉さん。動けないものに助けは求められない。

「もしかして、チカ…」
 それ以上なにか言われる前に、一気にそこら中の空気をかき集めて、腹に力をこめた。



誰でも気にしないですから、同居人の方助けてくださいーーーーー!!!



 リーマスが目をむき、草を急に踏みわける音がその向こうに立った。

「何してんだ、リーマ…ス!?」
 小さく、ノドモトであげそうになる悲鳴を飲み込む。怖かったのは、出て来た長い黒髪の男よりも、目の前のリーマスの笑顔だった。 20数年生きてきて、あんだけ怖い笑顔は見たことがあっただろうか。反語使ってもないって、本当に。

 本気で、殺されそうな笑顔だった。

「シリウス、君、追われてる自覚はある?」
 たっぷりの余裕を持ってそれが発せられるまで、その人は可哀相に動けなくなっていた。その場で、飛び出してきた時のポーズそのままで。

 そんで、結局。いつもどおりに散らかりまくった部屋で今日もお茶会をすることに。

 いつもと違う点といえば、窓がすでに開いていて、すごく風通しが良いという事。それから、目の前に座るこの男が、ひどくおなかを空かせながら、怒ったようにふてぶてしくソファーにふんぞり返っている事。

 光の下で見たその人は黒というイメージしかなかったけれど。明るい室内でマジマジと観察すると、黒い髪をやはり切るのがめんどうで伸ばしてあるようで、骸骨みたいだと思った顔もやや肉はついている(あたりまえだ)。きちんと栄養をとれば別人というか、けっこう俳優とかそういう類になるんでないだろうか。

 追われてるっていってたし無理だろーけど。

「あの、さっきはありがと、ございました」
 小さく礼を言うと、驚いた視線だけが向けられ、それも一瞬のうちに逸らされる。こっちは礼を言ってるというのに。多分にこの人の受けた損害のがでかいのだからしかたないとも思うが。それでも、どーいたしましてーぐらいは言ってもいいんでないかい。

 会話するに出来なくて、机に置いておいた籠からサンドイッチとワインとタルトを取り出す。今日もまた、この散らかった部屋でお茶か。別にイヤなわけじゃないんだけど、でも、やっぱりこの天気で室内でお茶って、むなしい気がする。ふと視線をあげると、不機嫌そうに座っていたシリウスが慌てて視線を逸らしている。平静を装ってはいるが。

「食べます?」
「いい」
 即答だが、無理をしているのは一目でわかる。追い討ちをかけるように、空腹の音が部屋に響き渡る。

「今の…」
 風で揺らされる髪をめんどくさそうにかきあげて、誤魔化しても無駄です。この私にわからないと思ってるんですか。昔っから、勘だけは鋭いって言われてるんですから。

「シリウス、でいいですか? 先生の古い友人さん?」
 今度こそ向けられる驚愕の瞳に、チカはにんまりと笑顔を向けた。

「おまえ…」
 声に強い怒気と警戒の色を見て、慌てて付け足す。そうは見えないだろうけど。

「さっき、そう呼んでましたよね。先生が」
 3人分のカップを用意してきたリーマスが、苦笑を漏らす。そのいつもの響きで内心で安堵した。あの怖いのはそうそう見たくはない代物だ。できればもう一生。

「チカを苛めてないだろうね?」
 やんわりとナイフで突付くようなマネは止めた方がイイですよ。さっきからこの人に対する扱いがひどくないですか。先週のあの時も思ったけど。

 受けとった紅茶は今日も最高で、目の前のことも何もかも忘れて、一瞬意識が飛んだ。いつもながら、絶品だ。いうなればリーマスブレンド。あーでもいつか飲めなくなるかもということを考えたら、淹れかた聞いておいた方がいいだろうか。

「ねー先生ー? …先生?」
 視線を戻すと、怯えるシリウスと無言でケーキに齧りつくリーマス。年は二人とも同じくらいだろうか。しかし、この微妙な力関係はいかがなもんだろう。

「今日も美味しいタルトだね」
「先生の紅茶も絶品ですよ」
 笑顔につられて、いつも通りに返しかけて、気がつく。

「じゃなくてですね、先生」
「君も食べるかい?」
 リーマスが一切れを差し出すと、目に見えてシリウスは口元を抑えて、首を高速で振っている。これは、どうやら甘い物が全然だめだということだろうか。それじゃーここでまともな食事は望めない。甘味大王と暮らしていたら。

「おいしーのに」
 作ってきておいてアレですが、私もあんまりその量を食べたくはないです。

「どうして先生はそんなに怒ってるんですか?」
 なんで二人で怪訝そうな目を向けるんですか。あ、わざとらしくため息なんかついて!

「チカ、君は記憶力がいい方だと思うんだけどね?」
「もちろんですよーおかげでいろいろ面倒に巻き込まれたこともありますしねー」
「そうじゃなくて」
 見かけに寄らず苦労人?とか思ってるんでしょね、シリウス。あなたは見るからに苦労しているみたいだけど。

「その記憶力を持ってしてもここの本の名前は覚えらんないんですけどねーなんででしょうね?」
 別にそれほどの本好きだとは自分で思ってはいない。むしろ美味しいケーキを作ったり、美味しい紅茶を飲んで、楽しく話しているだけで幸せなのだ。こう考えると、自分の幸せってずいぶんお手軽だなーとチカは苦笑した。

「だから、最初に言わなかったっけ?」
「魔法使いーーでしたよね? 覚えてますよーうさんくさかったもん」
 最後の一語に苦笑が返ってきて、二人で笑いあう。それをシリウスが理解できないというように頭を抱えているようだった。



p.2

 ここでチカとリーマスの出会いでも話してみようか。あれはまだチカが殊勝にウェイトレスなんてものをやっていた頃。なんでなんて理由は簡単。お金がなかったというだけである。

 場所はロンドン郊外の小さな紅茶専門店。その店は小さいという理由からか、マスターが一人でやりくりしていた。そこに通い詰めてお金がなくなったともいう。その時は、そこの紅茶が最高だったのだ。マスターのオリジナルブレンドに惚れて、金がなくなっても飲みたくて、頼み込んでむりやり雇ってもらったのである。その辺は強引といわれようがなんといわれようが、紅茶大事なチカの性格である。お試しケーキを持っていって、即採用。運でも世の中を渡っていそうな。

「いらっしゃいませー」
 ウェイトレスのバイトだからというわけでなく、休憩直前ということもあって、その時チカの笑顔は通常の三割増しの輝きを放っていた。(マスター、談)
 入ってきたのはみるからにボロっちい少し薄汚れた服装の旅行者で、貼りついた笑顔は営業スマイルだった。

「あれ、マスター。バイト入れたんだ?」
 小さな呟きは私にしか届かなかったが、男はさっさとカウンター席に行ってしまった。通りすぎざま、かすかに香ってきたチョコレートの匂いにいぶかしむ。

「チカちゃん、休憩はいっていいよ」
「あ、はいー!」
 かけられる声に慌てて返事をしながら店内を見まわすが、昼時ということもあってそれほどは混んでいない。ここはメニューに食事がないのだ。いうなればお昼を食べ終ってから、日が傾いてきてから増える。だったら、今休憩しておくほうが良い。そんなわけで、中途半端な時間に休憩なのである。

 マスターが二人分の紅茶を準備しているが、いつもの席にはさきほど入ってきた男が座っている。マスターと何か話しているあたり、やはり知り合いらしい。旅行者風というところからすると、久しぶりの再会というところだろう。邪魔をするのは野暮というものだ。かといって、店の数少ないテーブルをひとりで占領するのも気が引ける。

「はい、おまたせ」
 考えた末、ひとつ分の間を置いて、チカもカウンターについた。エプロンはつけたままである。置かれる前から香ってくるブレンドの薫りに、自然と笑顔が零れる。その様子を旅行者が楽しそうに眺めていることに気がついたが、今はマスターの入れてくれる紅茶と昼食の方が重要なので気にしないことにする。

「今回はずいぶん早く戻ってきたね」
「ええ。しかたないですけどね」
 少し寂しそうに笑う男にやはり疑問もたったが、そこはそれ、マスターの紅茶ですべて吹き飛んでしまっていた。もとより邪魔をする気はない。会話は聞こえてしまうのだから、不可抗力というものだ。

「何か仕事紹介しようか?」
「それは又今度でいいですよ」
 そうかい?と穏やかに笑う。ここの紅茶はこのマスターの人柄がよく出ているのだと思う。でなければ、こんなに美味しいなんて理由がわからない。

「何年経っても、あそこは変りませんね。ダンブルドアの下で、みんな、元気で…」
 思い出しながら語る人の常だ。視線はマスターを向いているのに、その向こうに見ているものはきっと、違う。

「先生は、楽しかったかい?」
「ええ。とても」
 深く、声を立てずに旅行者は微笑んだ。とても満足そうな顔に少し見惚れた。なんというか、儚い強さを秘めている人のような気がしたのは、いつもの直感で。

「マスター、ケーキ残ってる?」
「え、ああ。今朝持ってきたやつ?」
「うん、それー」
 カウンター下の冷蔵庫から出されたそれを受け取って、チカはそれを旅行者の近くへ置いた。よく磨いてあるテーブルを滑らせると、たまに落ちて大変なことになるから。

「オニーサン、甘い物いけるでしょ? 優しいウェイトレスさんからプレゼントです」
 これはいわゆる逆ナンかなぁとか思ったけど、少しだけ応援したくなったのだ。これからの彼に。頑張って生きている人というのは、見ていても気持ち良いものだから。自分が頑張って生きているとは思わないからかもしれないけれど。なんとなく生きて死んでいくくらいなら、ひとりぐらい誰かに幸せになって欲しいから。

「………」
「毒なんて入れてませんよー。マスターだって食べましたもんね?」
「………」
「理由が欲しいなら、先生のこれからにってことで!」
 困ったように旅行者はマスターを見上げる。マスターはスマイルを崩さないまま答える。

「…彼女は普通のマグルだよ。警戒しなくていい…」
 普通ってなんですか。マグルって? たまーにこのマスターってば言動が怪しいんだよね。でも、紅茶美味しいから気にしないけど。

 マスターとチカがワクワクと見守る中、旅行者は柔らかなクリームとスポンジに、そっとフォークを刺しいれた。



p.3

「そりゃーいくつか手品見せてもらいましたけど、私、昔っからその手の仕掛け見破るの苦手なんですよね」
「だから、なんの仕掛けもしてないっていってるでしょ?」
「せーんせ、その手で私を騙そうったってそうはいきませんよ?」
 それからちょっといろいろあって、リーマスの紅茶に惚れこんだチカは週一回ここに来ているのである。言い出したのはリーマスの方だったか、チカの方だったか。今となってはお互いにどうでもよいことである。

「リーマス、おまえ、どんなの見せたんだ?」
「あれ綺麗でしたねー。桜の花。日本離れて長いからなー。懐かしかったー」
「お望みなら出してあげるってば」
 いつのまにか取り出した木の棒を、リーマスが優雅に振る。長さは結構長め。いつも磨いてあるみたいにピカピカで、たまに見に行くオーケストラの指揮棒みたいに真っ直ぐで、不思議の匂いを放つ。

Orchideous(オーキデウス 花よ)!」
 何度も聞いた不思議な言葉。ラテン語が入ってるみたいだけど、英語が混じって、あとはなんだろう。古い言葉が混じっている気がする。それを放つ声も聞き惚れそうに神秘の響きを帯びる。

 一度瞬きをする。次に意識して閉じる。懐かしい甘い香りに胸を膨らませ、次に目を開けると、もうそこに。

「ぅわー! ホントに出た!!」
 頼んどいてなんだが、雪みたいにふわふわと飛ぶ薄紅色の花弁は、数枚がそよ風に攫われ、窓の外へと旅立つ。それでも、手元にはまだ降ってくる花弁が踊る。

「いや、だからね…?」
 苦笑するリーマスと、サンドイッチを引っつかんで立ちあがっているシリウス。けっこうちゃっかりさんだなー。シリウス。

「ありがとうございますー! うれしー!!」
 いくつも落ちてきた花弁は紅茶に数枚浮かんで、見た目も彩る。日本に咲いている桜でも今はもっさり咲いて、なかなか散らない種類が多いので、ここまで花弁に埋もれるということは少ない。外国の桜よりは早く散ってしまうとは言うけれど、私は小さい頃から一気に咲いて一気に散ってしまう近所の公園の桜を思い出す。昨日までは蕾だったのに、朝、外に出るともう咲いている。魔法でもかけられたみたいな気分だった。数日も立たないうちに散ってしまうけれど、それまで必死に咲いている姿が好きなのだ。散らないうちにと、よく花見をした。その時は水筒を持ってきて、オレンジジュースを飲んでいたんだっけ。そこに、花弁が落ちて。

 あのときは、迷いなく捨ててしまったけれど。今の嬉しくて懐かしい気持ちも一緒に飲み干したくて、チカはそのままカップを傾けた。花弁も一緒に飲みこむつもりで。いたのに。

 喉に貼りついて咳き込んだ。

「…ぅげっ…がはっ…けほっ…」
「チカ!?」
「な、なんでもないです…っ」
 少ししゃべるのが辛い。そうだ。薄紅の花弁は貼りつきやすい。

「…は、花弁、一緒に、飲んじゃ…」
「水! シリウス、水持ってきて!!」
 誰かが走る音と、背中を摩る大きな手。

 記憶が交錯する。

 あの頃、誰かに会った気がする。その時に、聞いた。白い桜のおは、な、し…。

「チカ、水!」
 むりやり顔を上に向けられ、口に冷たいグラスが押し当てられる。そこから冷たい水が洪水みたいに流れこんでくる。零れた水が顎から首へと伝い落ち、下着の下へ入りこむ冷たい滴に体が震える。支えてくれているリーマスの手に伝わっていないだろうかと、余計なことまで考えた。コップの水で溺れやしないだろうが。意識まで一緒に押し流されやしないだろうか。

 グルグルとした思考の奥で、優しく抱きとめる腕を感じる。

 何を考えていたんだっけ。桜を、思い出して。いた。

 思い出して、いた? なに、を?



p.4

 数分後、疲れきったチカはソファーの上で大きく息を吐き出した。ソファーの上というか、ソファーに座ったリーマスの膝枕状態というのは、危険じゃないだろうか。

「大丈夫かい?」
「見かけに寄らず、馬鹿だな」
 あんまりはっきり言わないでください。わかってるから。穴があったら入りたいという事態が実際に起こったのは初めてです。

「今度からチカが紅茶を飲んでるときは出さないよ」
「ええ!? そんなぁぁぁっ」
「そんなぁじゃないよ。ホントに驚いたんだから」
 笑顔ではない怒り方なので、こちらも少し驚いた。笑い顔しかできないもんだとばかり思っていたから。それは同時に本気で心配をさせた気がして、本心から申し訳なくなってくる。

「ごめんなさい」
「もう大丈夫なんだね?」
「はい。おかげさまで」
 起き上がろうとすると、肩を抑えられてしまう。危険信号はすでにレッドゲージなんですが。

「あの、先生?」
「もう少し横になって方がいい。チカはまた無理してるね?」
「は?」
「もう少し自分を大切にしなさい」
 無理を、しているつもりはないのですが。そう、見えるんですか。ただ紅茶を飲む為に生きているだけだから、それほどの無理はしてないんだけど、いつも会う人に言われる。生きたいように生きているだけなのに。心配かけてしまうばかりの自分をたまに申し訳なく思う。それほどに価値のある人間じゃないと、思うのに。

「チカひとりの体じゃないんだから」
 えーっと。今のはどういう意味でしょう。

「記憶力の良いチカは、先週僕が言ったことを覚えてるよね?」
 先週、というと。襲われたアレですか!?

 慌てて視線を動かすが、シリウスの姿はない。逃げやがったな、あの男!

「チカが僕をどう思っていてくれてもかまわない。ただ、僕と一緒にいてくれればそれだけでいい。だから、 もっと自分を大切にしてください



 いつも笑っている人だ。笑っていなければいけない人だ。なのに、今は辛そうな顔をしていて、自然に手が伸びていた。



「答え、いらないんだ?」
 考える前に、言葉が勝手にこぼれていた。いや、考えると同時に勝手に零れだしていたというべきか。咀嚼できない真っ白な生クリームみたいに。

「チカが元気で生きていてくれればいいんです。それだけで」
 カナシイ人だ。やっぱり笑顔の後ろに全部閉じ込めて生きてきたんだ。表面的に笑っていても、見えないところで必死に頑張って来たんだ、この人は。

「リーマス」



 答えがいらないなら、今は言わない。でも。



「わかったわ」



 それが望みなら、いつまでも元気で生き続けるよ。



 あなたのために。



 でもね。

 触れているだけの指で白すぎる頬をつまんだ。よく伸びる。というか、ふわふわ。

「マシュマロみたーい、先生のほっぺた!」
 シリアス顔なんて、似合わないよ。リーマスはいつも笑っていてくれなきゃ。

「来週は外でお茶しましょうね?」
「あははっ、本気?」
「本気も本気! シリウスさんも一緒に3人で」
「チカと僕の2人でいいじゃない」
「えーそれじゃ作りがいないですよー。先生、甘い物しか食べないんだもの」
 望んでくれるなら、毎週お茶会をしましょう。私は甘くて美味しいケーキを持って。リーマスは美味しい紅茶を用意して。

「それに、2人より3人のが楽しいですよ!」
 次は甘い物が苦手なシリウスの為にも、普通の料理を持ってきてあげよう。

 少し残念そうだけど笑っているリーマスを見上げて、チカはにんまりと微笑んだ。

あとがき

お茶会第2回。ピクニックをしたかっただけなのに。
紅茶大好き主人公なもんで、出会いも紅茶専門店です。
なかなかないんですよねー紅茶専門店。
超現実主義な非魔法族の主人公。まだまだ魔法使いの存在を信じていません。
リーマスが大掛かりなのをやらないからでしょうけど。
ところで、これはシリウスと仲良くなろうの回ではなかったか(どこが)。
なのにどうして、シリウスの扱いがひどくなっていくんだろう?
完成:2003/03/20


ファイル統合
(2012/10/12)