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書名:GS
章名:GS3@桜井兄弟 - I Still..

話名:2-01. Nickname


作:ひまうさ
公開日(更新日):2014.8.9
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:2823 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:荒川/美咲
1)

名前呼びイベント

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p.1

 春休みは何事も無く過ぎ、私はいつも通りにカレンさんやミヨさんと遊び、バイトに明け暮れている間に終わってしまった。

 無事に琉夏君や琥一君も進級し、私たちは揃って二年生となった。担任は昨年と同じく大迫先生だ。実はちょっとだけ苦手なのは秘密だ。あの大きな声が一年たっても慣れない。イイ先生だとは思うんだけど。

「ほら、コウ」
 琥一君を促す琉夏君の声に惹かれるように、ぼんやりと眺めていた参考書から私は顔を上げた。二人はまだ食事中だ。

 今は昼休み中で、引き続き、私は二人に昼食を提供している。ちなみに、クラスの不二山君には頼まれて、他の曜日におにぎりを作ってあげている。弱みなんて、まあ、ないことはないけど、断ることはできるとしても、米まで提供されては断り辛い。

 本日のメニューは、ビーフシチューとサラダだ。手抜きにも程があるが、肉が食えるのと琥一君の好物なので、文句を言われてはいない。

 私がじっと見つめていると、琥一君は狼狽えた様子で視線を逸らした。今日は会って以来この調子だ。ちなみに、琉夏君はというと、なにやら楽しげな笑顔を始終浮かべている。

「どうしたの、二人とも? 今日のごはん、美味しくなかった?」
 何か間違えたかと首をひねっていると、琥一君は難しい顔で眉間に皺を寄せた。琉夏君は、どうしてそんなに楽しそうなのか。

「……なんでもねぇ。ほら、さっさと片付けるぞ」
 空の食器を持ち上げ、席を立つ琥一君に琉夏君は呆れた視線を向けている。

「コウのへたれー」
「あぁ!?」
 今にも穏やかじゃない喧嘩を始めそうな二人の間に立ち、私は二人を止めた。こんなところで問題を起こされたら、困るのは幼馴染だけではないのだ。

「こらこら、喧嘩するなら、外でやって! 二人とも今日はなんか変だよ?」
「そんなことないよ」「んなことねぇよ」
 そろって返される否定の言葉に、私は溜息を付いた。

「ストレスたまってるなら、いい場所紹介してあげようか」
 どうせなら、不二山君に投げられてしまえ、とばかりに笑顔を見せると、二人は内容を聞く前から、断りを入れてきた。

 丁度そこへ、不二山君が顔を出したのだ。

「荒川、まだメシ残ってるか?」
「あるよー」
「俺も食べ」
「ねえよ」
 不二山君が言う前に、琥一君が不機嫌そうに返す。て、今日は二人共食が進まないらしく、まだ寸胴鍋に半分残っているんだけど。どうせ、放課後には不二山君に処理し(食べ)てもらうつもりだったんだけど。

「琥一君?」
「悪いね、不二山クン。俺らのだからさ、アレ」
 極めて友好的に琉夏君が笑いかけているが、どことなく威圧がかかっているようにも見える。二人共、なにしているんだろう。

「そうなのか? 残念。じゃあ、荒川、明日は頼むな」
「んー、了解。練習頑張ってね、不二山君」
 じゃあ、と不二山君が去った後で。結局食べきれなかったビーフシチューは二人の夕食になることが確定したようだ。

「食べてくれるなら、別にいいけど、二人共あの態度はないんじゃない?」
「美咲ちゃん、不二山君にも飯作ってたの?」
「うん、お米提供してくれるっていうんだもん。断る理由ないよね」
「それは、何曜日?」
「ほぼ毎日」
「な!?」
「マジで!?」
「ちなみに、柔道部顧問の大迫先生からも是非にと頼まれちゃってるんだよね。断れないよねぇ」
 無言になる二人に、私は苦笑する。

「心配しなくても、私が好きでやってるだけだから」
「あぁ?」
 なんで私は琥一君に凄まれちゃってるんだろうか。琉夏君もどことなく笑顔が黒い。

「無理はしてないから、ね?」
「そうじゃねぇだろ」
「うん、そうじゃないよ、美咲ちゃん」
「え?」
 思わず後退る私は無理もないだろう。だってさ、同学年の男子なんて、大抵自分より身長も高いし、身体も大きいのだ。怖くないと言ったら、嘘だ。いや、私は小さくないよ。普通だよ。ミヨさんのほうが小さくて可愛いんだから。

「え、と」
 じりじりとした時間が終わりを告げたのは、校内放送のおかげだった。授業開始まで後五分のチャイムが鳴ったのだ。

「ほ、ほら、二人共早く教室に戻って? 二人が授業に出ないと、私が怒られちゃうんだからっ」
 無理矢理に二人を調理室から追い出し、私は一人静かに息を吐いた。

「もう、ほんっと、今日は二人共変っ!」
 疑問が解消されたのは、放課後のことだ。

 いつも通りに三人で下校していた時、さらりと聞き流してしまいそうに琉夏君がそれをクチにした。

「ねえ、美咲、今度さ、どっか遊びに行かない?」
「どっかって?」
「美咲の好きなところでいいよ」
「……急に言われても思いつかないよ……」
「じゃあさ、考えといて」
「うん」
 あまりにも当たり前みたいにいうから、私も思わず流してしまいそうになったのだけど。不自然に続いた沈黙を破ったのは琉夏君だった。

「ダメ? ちゃん、ってつけなきゃ」
「ううん、いいよ」
 ダメという理由はないから、簡単に了承していた。それに、琉夏君が緊張が溶けた様子で息を吐く。

「よかった」
「でも、急にどうしたの?」
「急じゃない、ずっと考えてた。結構、勇気出したんだ。だからもう一回呼ぶ」
 真っ直ぐに目を見て名前を呼ばれ、頬が熱くなる。有り体に言えば、照れたのだ。もちろん、子供の頃はそんな風に呼ばれていたのかもしれないけど、二人は再会してから、どこか違っていたし、私も夢の中のようには呼べなかったから。

「琉夏……君」
 しかし、やっぱり無理だ。恥ずかしくて、逃げ出したくなる。

「おい、美咲」
 琥一君の声に反応して思わず振り向いた私は、その言葉を脳内で反芻して、目を丸くした。琥一君は耳を赤くしながらも、こちらを見ない。

「うん。……ん?」
「いや――ガキの頃はそう呼んでたっけなって、よ……」
 確かに、そうだった、はずだ。でも、今同じように呼ばれて、どうしてこんなにも恥ずかしいのだろう。覚えていないからだろうか。でも、二人が、私との間にある壁を超えてくれようとしている気がして、私は素直に嬉しかった。

「いいよ、その方が」
「おう、そうかよ……」
「うん」
「美咲。あ、いや――練習だ、気にすんな」
「うん」
 私も同じように、あの夢の中のように、名前を呼びたい。

「……コウ、君」
 ほろりと零れた言葉に、それまで逸らされていた琥一君の目線が私を捉え、私を映す。恥ずかしそうに笑っているこれは、私らしくもなく、珍しく女の子に見えた。

「私も、いい、かな」
「あ、あぁ」
「へへ、なんか、恥ずかしいね。でも、ーー嬉しい」
 思わず駆け足で、彼らの前へと飛び出してから、私は二人を振り返った。

「コウくん、ルカくん、これからもよろしくねっ」
 二人は眩しそうに私を見て、ほぼ同時に互いの手を上げて、打ち鳴らしていた。

「おう」
「もちろん」
 そんな二人の幼なじみが私にとって誰よりも心許せる存在であることは、当然だったから。この関係が変わることが、私にとっては何よりも恐れることになったのは言うまでもない。

あとがき

数日前の兄弟の会話。
コウ「……美咲」
ルカ「コウ、本人のいない所で呼ばないでさ、本人に直接言ってあげなよ。美咲ちゃん、喜ぶよ?」
コウ「っ、ルカ、帰ってたのか」
ルカ「たぶんね、美咲ちゃんも待ってるはずだよ。てか、絶対待ってる。時々さ、コウの名前だけ昔みたいに呼び間違えてるの気づいてる?」
  「呼んであげなよ。…そうだな、コウが美咲ちゃんを昔みたいに呼ぶなら、俺もそうしようかなぁ」
コウ「てめぇは変わんねぇだろーが」
ルカ「えー違うよ。美咲ちゃんと美咲って呼ぶのだと、ほら、なんか違うでしょ」
コウ「……」


ーー名前変更の後の兄弟の会話。
ルカ「まったく、二人共世話が焼けるよ」
コウ「てめぇがいうな」
ルカ「俺が言い出さなきゃ、いつまで名前で呼ばないつもりだったんだろ、コウ?」
コウ「……」
ルカ「しかし、やっぱり美咲は可愛いね。俺も頑張っちゃおうかな」
コウ「……」
ルカ「ね、いい、コウ?」
コウ「美咲を泣かせたら承知しねぇからな」
ルカ「怖いなぁ、オニイチャンは」


こんなに早く名前呼びになるわけがないですよね。
あと捏造が多いですけど、一応名前呼びのネタバレですね、これ。
(2014/08/09)