ハリポタ(親世代)>> 読み切り>> 親世代@ジェームズ - 花明かり

書名:ハリポタ(親世代)
章名:読み切り

話名:親世代@ジェームズ - 花明かり


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.4.20
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:6179 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 4 枚
デフォルト名:///ミヤマ/リサ
1)
C.B.P.企画投稿

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p.1

 彼女は風だった。彼女は花だった。彼女は鳥…だった。

 騒がしい夜の談話室を避けて、少女は城の外へ出ている。

 見つけたのは偶然。向かったのは必然。

 辺りには森からくる深緑の風の匂いしかしなかった。

 狂ったように吹き荒れる風には異質なモノの気配しかなくて、ふと不安になる。

 アレは本当に見たモノだったのか。幻覚ではなかったか。第一前提として、彼女がこの時間に外へ出ているなどありえない。有名な臆病少女なのだ、リサは。

 きっと幻覚だった。

 そう思いつつも、諦めきれずにその場所へとむかう。一本道ではない。複雑な道を抜けて、初めてたどり着くことができる。

 わかっていても、理由のない胸騒ぎゆえに走った。



「…こんなところで何をしているんだい?」
 いないでくれと思いながら辿りついたそこには、リサが立っていた。薄い月の光にも、風にうねる黒髪は硬質の光を返してくる。

「ジェームズ…」
「こんな時間に一人歩きは関心しないな」
 肌が透けてしまいそうだった。日に焼けていないつきぬける白さが目立つ。黒いローブと黒い髪の中で、そこだけが光を放っているようだ。

 足の下で踏まれる草が、ざわざわと音を立てる。

「そういうジェームズは?」
「僕は男だからいいのさ」
 なにそれ、と瞳をほとんど閉じて笑う姿は、いつもよりも元気がない。

「そろそろ消灯時間だし、見つかったら減点だよ?」
「ここがそう簡単に見つかる?」
 すべてわかっている彼女に、何を言っても無駄らしい。

 近寄ってゆくと、彼女は常にない甘い匂いをさせていた。それもすべて風が運んでくるだけで、しかも森の匂いにかき消されている。

「みつからないだろうね」
「でしょ?」
 微笑むその様子はまさに、どこにもない可憐な花を思わせる。

 そうか。この香りは、その花の放つ芳香だ。消えそうな甘い香り。

「それで?」
 彼女は笑顔しか返して来ない。張りついた仮面ではなく、本物の笑顔だ。けれど。それは僕の目にひどく不自然に映った。だって、他でもないリサがこんな時間に外にいるなんて。

 ただの思い過ごしかもしれないとはとても思えなかった。いつもの怖がる様子が演技には到底見えない。でも、今の彼女は本当に楽しそうなのだ。

「いつも怖がりな君はこんな場所で何をしてるのかな?」
 また吹きつけてくる風に目を細める。視線の先で彼女を見つめようとしても、それは難しい。

「リサ!!」
 後ろから吹きつける風に、かすかに彼女の姿が揺らいだような気がした。倒れかける姿を抱きとめて、強風を堪える。息が出来なく、なりそうだ。

「…ジェームズ…」
「リサ、ちゃんと食べてないだろう?」
「は?」
「だから簡単にこんな風に飛ばされるんだよ」
 風に飛ばされないように、吹き消されないように、その存在を強く抱きしめる。

「この風…」
 顔だけを夜空へ向けて、呟く。

「普通の風じゃないの」
 リサの言葉に驚くのは僕の方だった。

「私が、頼んだの」
「リサが?」
「そう。届けてって」
 何をと、聞く必要があるだろうか。ただ僕はリサの姿がそのまま溶けて消えてしまいそうな気がして、抱く手に強く力をこめる。

「消えないで…」
「消えないよ? どうしたの、ジェームズ?」
 強くその手にあるのに、彼女の心は遠い場所にあるようだ。不安が襲う。このまま自分の前から消えてしまうという、不安が。

 不意に包みこむように暖かさが生まれた。リサが魔法を使ったのかと思った。風の冷たさを包み込むほどの暖かさ。

「来た来たっ」
 スッと腕から抜け出て、リサは木の幹に手をつく。ホグワーツ中に点在する、なんの変哲もない木だ。

 幹に手をついて、両目を閉じている。

「何してるんだい?」
 答えは返って来ず、何か呟いている。小さく小さく。風の音が邪魔をして、聞き取れない。

「リサ?」
 呼びかけに答えて、彼女が目を見開く。そのまま上を見上げて、下がってきた。

「ジェームズ、下がって」
「君、何する気なんだい?」
 ローブから杖を取り出す様子に、驚愕と可笑しさがこみあげて来た。だって、彼女が杖を向けているのはさっきまで手をついていた木だ。変身術が得意というわけでもない彼女は、これを変えることはできない。



p.2

 いつだったか、誰かが言ったのを思い出した。

 音楽のようだと。

 リサの呪文を唱える様子が、ひとつの舞を見るようだと。



 昼間は別に笑って見ていたが。今こうしてみると、闇の中でこそ、月の下でこそ、風の中にこそ、その姿は似合っている。人ではないモノに魅入られてしまいそうに。姿が消えないように、しっかりと彼女の姿を見守る。触れてはいけない、神聖さが彼女を取り巻いていた。

「やったぁ!成功!!」
 彼女が手を打ち鳴らし、僕の元へと走りよってくる。

「見て見て、ジェームズ!!」
 飛びついてきた細い体を抱きとめる。

「見てって、何を…」
 言葉は、必要、なかった。

 妙な発光にまず気がつく。赤と白の中間色。光現は、さっきまでの木だ。普通の木だった、のに。

「なんの魔法を、使ったの?」
「キレイでしょ?」
 発光していたのは木についた花。薄紅色の5枚の花弁を持つ、花だ。闇に映える姿は美しく、風に吹かれてその花を散らす様は、形容し難い美しさに満ちていた。

「桜を呼んだの」
「さくら? これが?」
 イギリスにも桜はある。だが、こんなに風に花が飛ぶほど散らない。

「桜よ。日本の」
 そうかと、不思議に思わなかった。

 似ているせいかもしれない。普段のリサの形容し難い笑顔に似ている。いや、リサそのものだ。力強く咲いているのに、風に簡単に吹き飛ばされてしまうほどに儚い姿に。

 いつまでも見ていたいとおもったけど、みていていたたまれなくなってくる。

「ずいぶん簡単に散るんだね。風のせいかな?」
 寄り添うように立っていたリサが、ローブを握りしめて、しがみついてくる。

「ちがうわ」
 声が、硬く、切ない響きを伝えてくる。

「もともとこうなの。一気に花を散らすの、この桜は」
 この、という部分に力が篭められていた気がした。

 夜空に花はよく映えた。

「明るいね」
「え?」
「花が発光してるみたいだ」
 あぁと、彼女が笑い出す。

「花明かりというのよ」
 桜と同じ笑みを浮かべる少女。

 僕にはそれのほうが明かりかもしれない。僕を導く花明かり。

「もったいないぐらいに散るんだね」
「潔いって言ってよ」
「だって、こんなにキレイなのに…」



「キレイだからこそ、潔く散るの」



 彼女の言うことを理解するのは難しい。でも、リサの言うことだからこそ理解したいと思う僕は愚かだろうか。

 リサのような桜。桜のようなリサ。そこにあるのがとても自然で、一体化してしまいそうな姿に僕は触れることを躊躇う。

「リサ」
「…なあに?」
 くるりと風を受けて振りかえる。そのまま消えてしまってもおかしくないぐらい、ない存在感。でも、誰よりも強い存在感。ただひとり、僕を満たす、リサという存在。

「ここに…」
 一際大きな風が吹いて、リサの姿を淡いピンクの光の中に消そうとした。目を閉じて、踊る髪を抑え楽しそうな残像を残して消えてしまいそうに見える。

 ココに来てほしいと、いおうと思った。この腕の中で、笑って欲しい。桜なんかじゃなく、僕だけに微笑んで。花に攫われないで。

「ジェームズ!」
 ふわりとほの温かさが戻った。目の前のたしかにある愛しい少女の姿と共に。

「花に酔った?」
 顔に伸ばされる白く小さな手を掴む。それでも笑顔に安心して、強く腕に閉じこめる。君の手は冷たくて、心地よい。たしかに生きている人間なのだと教えてくれる。

「…リサが好きだよ」
 だから、消えないで、僕の花でいてください。

「やっぱり酔った…?」
 桜と同じ色に頬を染めて、笑う。

「世界中で一番、愛してる」
 そんな君だけを一生、愛してる。誰にも攫わせない。

 リサの髪の一筋までも、攫わせない。



あとがき

間に合えば、CBP投稿作品。桜の幻覚を呼ぶ主人公。て、ことでいかがでしょう?
何故か相手はジェームズ。リリーの存在なんか考えちゃいけません。
もっと楽しいのを考えたいなぁ。次はリーマス辺りで花見しますか!(笑
完成:2003/03/15


とかなんとか言っているうちに、終ってしまった。桜祭りが。
時期外れで良ければ、リーマスネタ完成しているんですが。そんな時間はありません。
改訂:2003/04/20