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書名:いただきました
章名:読み切り

話名:藤阪ゆうさりさんからの頂き物 - 恋する紅茶


作:ゆうさり様
公開日(更新日):2003.4.24
状態:公開
ページ数:4 頁
文字数:6508 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 5 枚
デフォルト名:麻生/晴樹
1)
火村シリーズ
有栖川有栖夢

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p.1

「あれ?どこやったけなぁ~…」
 思い出しながら探すとどうして見つからないもんなんだろうか?

 探して、探して、どうでもいいやと諦めた時にひょこっと出てくる。



 必要な時には見つからないで、

 不必要で、忘れた時に出てくる。

 本当に厄介なモノだ。



 必要な物の記憶も…

 恋愛の記憶も…

 忘れた時に現れるのはどうしてなんだろう?



「うわちゃぁ~…あと30分…しかない」
 それでも何とかしないと!!と思い直し、俺はまた物置代わりにしている部屋の一室で宝探しをしていた。







---- 恋する二人の紅茶の分量 ----








 事の起こりは夕べ遅くの電話だった。

 仕事も一段落して丁度、珈琲を入れてテレビのスイッチを入れたところだった。何を見るわけでも無くただ惰性で見ていたテレビに先日解決した殺人事件のその後を放映していた。

 その事件に俺も関わり…もっとも、ワトソンにもならない助手として火村の後を着いて回っただけだったが…それでも興味深い事件ではあった。それに関わった人間にも興味を持った。



 麻生晴樹ーーーー。



 森下刑事の後輩としてこの春、捜査一課に入った新人の女刑事。抜群の!!?能力は未だ使われていないそうだ。

「とにかくドジなんです…」
 前を歩く彼女を見ながら呆れた様に言った森下の言葉には愛しいと言う感情が溢れていた。

 傍から見ても多分森下くんは彼女のことを好いてるんだろう。

「あっ…、麻生!」
 駆け寄るが早いか彼女の身体を支えて転倒するのを避けた。

 そのあとにはにかんだ笑顔に森下が顔を赤くして…ついでに俺も顔が赤くなるのを感じていた。

 隣にいた火村は視線を逸らすのを見てまさか…な…とも思った。

「すみません。森下先輩。大丈夫です!でもこれ見てください」
 足元に視線を向ける彼女に習ってみんなが下を向くとそこに一個のピアス…

 それが事件解決の糸口になったのは偶然なのか…それとも…彼女の能力なのか…

 火村は興味深けに彼女を見ていた。



p.2

 それからまぁ…何となく彼女と会う回数が増え…どうやら自分が彼らよりも数歩リードしていると知ったのはつい昨日の事。

 彼女からの電話は事件の解決のお礼を兼ねてのものだった。いつもなら森下がしてくるが、他にも用事があるので、私がしました。と麻生さんが言った。

「えっとですね、紅茶の美味しいのが入ったんですけど…有栖川さんは紅茶お好きでしたよね?」
 森下も火村も珈琲党。俺はどっちでもオッケーだと話の種に話して居た事が功を奏したらしい。

「私も好きと言うより飲めると言う程度なんですけど、頂いたんですよね、それで、良かったら有栖川さんにどうかと思って…それでですね、紅茶サーバーとかありますか?家には無いんで、良かったら飲んで頂こうと思って…」
「だったら家来て飲みませんか?火村とか呼んで…森下くんも良かったら…」と

 俺は余計なひと言を付け加えて電話を切った。

 それから深夜には隣近所に失礼だろうと翌朝に早く起きてサーバー探しをする事にした。

 一眠りのつもりが興奮したのか眠れず、起きたのが今さっきで、約束の時間まであと少し。思い出す記憶の糸を手繰り寄せながら捜すサーバー…。普段は珈琲だし、紅茶と言っても出掛けた先で飲むくらい。家で、と言えばティーバックにお世話になると言う頓着の無さだった。

 プレゼントに貰ったサーバーがあると思ったんだけどな…何処にやったけな…。

「それにしても…」
 と手当たり次第に引っ張り出した荷物に埋もれてため息を吐く、夕べすぐに電話した火村の言葉。

「馬に蹴られるつもりはねーからな、行かねーよ」
 と苦笑しながら切られた電話に身体の体温が上がるのが解った。

 それはつまり…彼女が俺に対する気持ちがそう言うものだと火村はそう思ってるって事だよな…。

「それは無いやろ…」
 自分に言い聞かせて、心を静める。

「見つからへん…」
 ため息一つ立ち上がるとチャイムが鳴った。



 心臓が跳ね上がった。



p.3

「それで見つからないんですか?」
 クスクス笑いながら言う麻生さんに謝った。

「スマン、見つかると思っとんやけど…ところで森下さんは?」
 俺の問いに彼女は顔を赤らめてそれでも笑顔で言った。

「用事があるから…と、有栖川さんに…これからもよろしくって言ってました」
「そ、そうか…俺の方も火村が忙しいゆうてな、きぃへんのや…」
「そ、そうですか…有栖川さんも忙しい時にすみませんでした…無理…してませんか?」
 押しかけちゃったかな…と言う麻生さんに笑顔と手を振って言った。

「いや、全然、あ、あの…もう少し待っててな、俺、もう一回探してみるから…」
 と慌てて言いながら隣の部屋へと向かった。

 君と二人きりになるのにもう少し心の準備が必要だ。



「あ、お構いなく、あの…有栖川さん?」
 ドアの向こう麻生さんの声がしてそっと開くドアの音に振り向いた途端に足元にあった何かを踏んだ。

「うわっ、」
「え?あっ、有栖川さん?!!」



 ずるっとそれに足元をすくわれて無意識に寄りかかろうとする人間の習性で、

 思わず目の前の彼女に抱きついてそのまま倒れこんでしまった。

 咄嗟の事で彼女の方も身をかわす事も、受身を取る事も出来ずになすがままに重力に素直にしたがってしまった。



 痛みに耐えながら起き上がり自分の下に彼女を敷いているのを見て慌てて起き上がる。

 痛みに顔を歪めたままの麻生さんに慌てて顔を近づけながら聞いた。

「だ、大丈夫か?、す、スマン」
「い、いえ…、あの、大丈夫ですか?ーーーー痛ぅ」
 起き上がりながら頭の後ろをさする麻生さんに慌ててそのあたりを撫でる。

「スマン。何処が痛いんや?こ、ここか?あっ!瘤が出来てる」
「何処ですか?イッ…痛いです」
 俺の触れた手を押さえる様に彼女の手が重なる。

「あっ…」
「え?」
 見詰め合って慌てて視線を逸らしてお互いに謝りながら…どこか可笑しくなって二人で笑った。

「ホント、すまん。ドジやった…」
「いえ、私はいつもドジってます。殺人現場で現場検証中に遺体に躓いて転んだ時は物凄く怒られました」
「それは怒られると思うで?」
「そうですか?ーーーーそうですね」
 クスッと笑う麻生さんに思わず出てしまったひと言。

「そこが、可愛いんやけどね…」
「え?…」
 聞き返されて返答に困る。言った言葉を返せとも言えない。それに、忘れても欲しくない。

「お、お茶にしませんか?紅茶は今度と言う事で…あっ…あった…」と

 言った俺の視線の先、彼女の後ろにある棚の上にサーバーがあった。

「私が入れてあげますね」
 クスクス笑いながら麻生さんは俺の手を引いて立ち上がった。



p.4

ほのかに香る紅茶の薫りと、

琥珀色の液体と

それを見つめる君の笑顔と、



それを見ていたら思い出した記憶があるんだ。

いつかどこかで忘れて来た

人を愛しむと言う事。

愛したいと願う事。

小説の中で人の命を扱って来た俺にとって、

現実の人間と接するその生々しい命の怖さだけが増えて来ていた。

愛して欲しいと願い

その反面

愛して欲しくないとも願っていた。

怖かったんだ。

なくすものがある事に…

でも…

なくす事があるからこそ…

愛しいんだ。

君を見て思い出したんだ。

見つめていた俺の視線に気付いて君は顔をあげた。



「もう一杯飲みませんか?」



 今度は俺が入れようーーーー想いをひとさじ加えてーーーー。

「なぁ、麻生さん…」お湯の中で茶葉がダンスを踊っているのを見ながら俺は言った。

「はい?」ソファから身体をずらし、俺に向き直り麻生さんは返事を返す。

「今度からは名前で呼んでーーーーええやろか?」
 さり気なく、自然に出た言葉。

「はい」
 頬を染めて頷く麻生さんにカップに注いだ紅茶を差し出す。

「どうぞ…えっと…晴樹」
「ありがとう…アリスっ!」
 川を付けないで呼んでくれないか?そっと君の唇に指を押し当てる。

 意図を察して俺の手を握りながら晴樹が言った。



「ありがとう…アリス」
「ん」



 恋する二人の茶葉の分量はーーーー、



 君への想いをひとさじ。



 君からの想いをひとさじ。



 恋の天使への感謝をひとさじ。



それが恋する二人の紅茶の分量。

あとがき

10000ヒット記念としていただいた唯一の(笑)おはなしです。
てゆーか、有栖川氏と紅茶が飲みたい!と我侭言いました。
思う以上のものをもらって、激しく動揺した結果、飾ることにv
ありがとうございます、藤坂さん♪ 私もいそいでお返し書き上げますね~♪
送りつけますから、覚悟してください(笑。
いただき日:2003/04/24