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書名:GS
章名:氷室零一

話名:mozart’s kiss


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.5.23
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:1831 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
1)
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p.1

 未来はいつだって決まってるものだから、もしもなんて話をしてもなんの意味もない。

「絶対的確率からして、私と君の生きる時間が重なることは少ない」
「は?」
 思わず、大口を開けて聞き返す私に果たして非があっただろうか。いや、ないと反語で自答してみる。

 いつもどおり、零一さんの幼馴染みの店で二人で待ち合わせて、しばらくしてからのことだった。

 大学生活も残り少なくなり、成長した私と零一さんの身長差は少し縮まったけど、もともとが規格外な先生の身長に並べるはずもなく、踵の高いヒールで底上げして、やっと肩の位置だ。それも座ってしまえばわずかに縮むのだけど。

「高校からずっと重なりっぱなしですよ。何いってんですか」
 揺らしたグラスがからりと透明な音を奏でる。中身は琥珀色で通してみると世界が淡い思い出となる。零一さんといられるだけで嬉しいから、それでもいいかなとも、思う。

「………」
 黙りこんでしまった零一さんは、拗ねたように視線を逸らす。そうするとなんだかとても年上とは思えなくて、思わず笑ってしまう。

「なんだ?」
「いーえ」
 顔を上げたその天青色と視線が合う。教卓ではずっと厳しいけど、こうして二人でいると嘘みたいに柔らかい不思議な瞳。

 その瞳に映るのが私だけならいいのにと思うことがある。

 怖いけど、生徒思いな先生を好きになったから、全部、受け止めようと思う。

 意識しなくても顔全体の筋肉が勝手に綻んで、笑みがこぼれる。

「就職は決まったか?」
 うわ。ちょっと、直球できますか。

「…マスターさん、今日は忙しそうですねー」
 店内を見まわすと、弱い橙灯で照らされる薄ぼんやりとした幻想的な中、私たちと少し離れた場所で一人でカウンターに座る女性と話す姿が見える。

 パンツスーツのオフィスレディというか、ちょっと見ただけでももてそうな感じで、横顔だけでもかなりの美人。

 あんな風になりたいなと、漠然と考える。

 彼女にはなれない。私は私だから、それ以外には絶対なれない。でも、近いところまでいけたらいいな。そうしたら、きっともっと零一さんとつりあうのに。

 二人で歩いてても、ちゃんと恋人に見えるのに。

 彼女と目が合う。

 鳶色の優しい光がそのまま微笑む。

「春霞」
 マスターさんに何か耳打ちして、楽しそうに頷く姿は、ちょっと子供っぽくて、でも可愛い感じがした。美人で可愛いなんて、すごいな。

「春霞、話を逸らすんじゃない」
「そらしてるのは零一さんのほうです」
 わざと視線をはずしたまま返す。それに対しての深い深いため息が聞こえる。

 重なり合う時間が少ないのなんて、とっくに知ってた。

 それでもいいから一緒に「今」を生きたいと思ってるのに、なんで、今更確認するみたいに言うの。

 学生時代の零一さんを知ってるマスターさんとか、たまに嫉妬してる私を知らないでしょ。

 どうしてもっと早く生まれて来なかったんだろうって、何度も後悔した。

 どうしてもっと早く出会わなかったんだろうって、何を恨みたくなった。

「君に…」
 予感がして振り返ると、間近に眼が。合って。

 時間が。とまっ………



 コトリ、と。



 音がした。



「あちらのお姉さんから、おごりだって」
 慌てて離れようとしたら、肩をしっかりと抱き寄せられて、逃げられなかった。

「ちょ、零一さん…っ」
「今日は邪魔しねーから、ごゆっくり~」
 マスターさんがグラスを置いて、行ってしまうのを目だけで追いかける。

 何かおかしいと、ようやく気がついた。遅いだろうか。

「れ、いちさん…? 酔ってるんですか??」
 ほのかに甘い空気が漂うのは気のせいだろう。零一さんにかぎって、そんなこと、あるはずない。

「あいつ…」
「はぃ?」
「気がついてるのか…?」
 いぶかしむ声を見上げると、怪訝そうに首を傾げている。でも、その腕は緩むこともなく、逆らわないでいるとそのまま寄りかかってしまいそうになる。

「零一…さん?」
 その視線を追う。そこにあるのは二つのグラスで、中は透き通った赤い液体で満たされている。

 通り抜ける赤い液体の下に、テーブルに映る淡い赤の影が見える。

「春霞に、回りくどいことを言っても仕方ないか」
 苦笑が聞こえるなんて、絶対酔ってるよ…っ

 強さに押され、体が傾く。ふっと香る零一さんの香りはさっぱりとしてるのに、どこか甘い気配。

ーーずっと、一緒にいなさい。

 共に歩む時間は少なくとも、命ある限り、ずっと一緒に。

あとがき

遅くなって申し訳ありませんでした。ちょっと思った以上に書くひまがなかった(言い訳)。
でも、久々に良い感じに書けたかなと(笑。
なんっか先生が別人になりかけてますが、そんときはもう、オリジナルってことで(オイ。
1万打ありがとうございました。
完成:2003/05/23