ハリポタ(親世代)>> 読み切り>> 親世代@セブルス - パナケア

書名:ハリポタ(親世代)
章名:読み切り

話名:親世代@セブルス - パナケア


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.5.31
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:2058 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:///カミキ/ミオ
1)

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p.1

 嘘なら、言わないで。死んでも…死んだら、言えないか。

 風の便りはイイ便りと、人は言う。でも、それが本当かなんて、私は信じない。

「ね、セブルス」
 答えが返って来ないとわかっていて、私は問いかけた。思った通り、なんだという一言さえもない。

「もし私がいなくなったら、探してくれる?」
 探してくれる人がいたら、消えないで済むだろうか。

 答えはまったく返って来ない。だって、彼は眠っているのだから。

 フワフワと流れるのは、私の濃い茶の髪。日に透けて、元は黒いのに少し赤茶けている。芯がないのだろうか。芯がないからこんなに簡単に飛ぶんだろうか。

 見下ろす彼の髪は芽吹いたばかりの緑の雑草に混じって、はっきりと映る。日に透けてもそれは黒く、濡れて輝く。芯があるから、彼の髪はいつでも真っ黒なのだろうか。だから、飛ばないんだろうか。

 忘却術をかけて欲しくて、いろんなことに首をつっこんだりした時期があった。それでも、日常は変わらない。忘却術ぐらいじゃ、真っ白にならないんだと気がついた。

「もしも私がいなくなったら、心配してくれる?」
 心配してくれる人がいたら、いなくならないだろうか。

 やっぱり答えは返って来ない。だって、彼は夢の中だ。

 寝転がって、横顔を見る。日本人の私よりも高い鼻。とても綺麗と形容される顔立ち。起きている時は歪められることの多い表情は、今は何も映さず、ただ穏やかさのみを伝えてくる。彼の寝顔はどこか安心するモノがあった。そこにいるだけで、何故か安心できる気がする。

「もしも…」
 何を問えばいいのかわからなくなった。もう、言葉は不用な物となったから。

「夢を、みた。ミオか?」
 掠れた柳の囁きみたいな声が、聞こえてくる。髪に触れていた手は空中で捉えられ、その顔に引き寄せられる。真剣で真っ直ぐで、深海色のその瞳の表面に、薄っぺらな私がいる。

「どうして?」
 夢の奥にあなたが見たのは誰だった。無意識下の夢と現の狭間で見るものは、真実か虚構か。どうなのか知る術はないのだけれど、遠い遠い昔から人は言う。

 人の想いが夢を見せる、と。

 手を離されても動けないまま、私はセブルスの腕に引き寄せられて、強く捉えられる。緑の匂いよりも、薬品の匂いが香ってきて、セブルスの腕の中なのだと改めて認識してしまう。

 だから、あなたの夢に私が現れたのなら、それは私ではなく、過去の私。

「なにをわけのわからんことを言っている」
 不機嫌そうな声がダイレクトに響いてくるのに、心まで届かずに厚い壁があるみたい。

 壁を作ってるのは誰。それは、私。

「ミオ、おまえ今、私を呼んだろう?」
「呼んでないわよ」
 最上級の笑顔を浮かべて私は嘘をつく。だって、言われても困るわ。私だったら、困るわ。

 困らせたいけど、困らせたくないの。矛盾してるけど、それが私。あなたのようにはっきりできないのは、ねぇ、この髪が黒くないからって思ってて。

「…またろくでもないことを考えてたのか?」
「そうよ。どうでもいいこと考えてたわ」
 顔は見えないけど、セブルスが今どんな顔してるかなんてわかってる。とても困った顔してるわね?

 困らせたくないけど、困ってるセブルスは可愛いの。こんなこといったら困るでしょ。私でも困るわ。

 息遣いはとても穏やかで、少しだけ心臓の音が近く聞こえる。セブルスの心臓はゆるやかに脈動し、体内を巡る血液が力を与えて、強く私を捕える。

 精神を除いて。

「ミオ?」
「…なぁに?」
 揺らされて、見上げたセブルスの顔が不安を示す。蝶々を捕まえるときみたいだわね。

 ひらひらひらり。揺れて飛ぶ蝶々。羽を休める場所もなく。

「私の、止まり木ね」
 擦り寄ると、わずかに戸惑った腕が固まる。それから、壊れないように優しく抱きとめてくれるのが、セブルスね。

「止まり木?」
 どこにも行く場所なんてない。あなたのこの腕の中以外は。

「そう」
 どうしてか、声が掠れていた。喉が乾いているということかもしれない。そんな気はしていなかったのに、急に水が飲みたくなった。

 地面の下に流れる水の音よりも、今はセブルスの身体に流れる血流の方が良く聞こえる。それと、私の腕に流れる水の音。

「そうか」
「そうなのよ」
 理由がなくても、貴方といるだけで幸せよ。だから、こんなに心楽しい穏やかな時間が、私には大切なの。

「だったら、どこへも行くなよ」
 心が降ってきた。ふわりと羽根を広げて、二人の上に舞い降りる。

「行かないわ」
「約束するか?」
「ええ」
 今、貴方に顔が見えなくて良かった。

 目尻に浮かぶ水滴は落ちることなく吸い込まれる。心も一緒にあなたのもとに。

 寝ているのにどうしてわかったのかなんて、聞かない。ただ勘が鋭いだけ。黒の瞳の深淵からのぞく世界に、私はどれだけいられるかなんて知らない。知っているのは、今は私だけが映ってるってこと。

 風が揺れて、草が薙ぐ。雲が流れて、青が澄む。

 ただ緩やかな休息を、私は宿り木に止まって休む。

ーーねぇ、もしも私がいなくなったら、探してくれる?

あとがき

パナケアって…たしか『宿り木』でしたよね?
なんだかうろ覚えな知識でタイトルつけてるような。
てゆーか、初セブルスがこんなんでいいんか、自分。
完成:2003/05/31