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書名:シリウス・ブラック
章名:読み切り

話名:緋色


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.8.3
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:4168 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:///ミヤマ/リサ
1)

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p.1

 いっちゃぁなんだが俺はそこそこ頭もいいし、世渡りも上手い方だと思う。本気でぶつかって、心から笑いあえる親友だって3人もいるし。極めつけはいいなと思う女は向こうから寄ってきてくれるし、人生なんてちょろいと思ってた。

 ああ、過去形なのは間違いじゃない。だって、俺ははっきりと今目の前で思い知ったのだから。

「なんだって…?」
 俺の腕の中で、柔らかな茶色が混じってもまだ黒い大きな瞳を明後日の方向へ向けているのは、正真正銘、俺の彼女である。付き合って、もう1ヶ月も立つだろうか。だが、今だに手を出していない。いや、出せないのだ。

 今までの付き合う相手に年上の女が多かったせいか、それとも彼女の顔立ちのせいか、リサは初めて会った時から、とても同い年とは思えないくらい子供っぽい。見ていて誰もが頬を緩めてしまうぐらい、無邪気だ。からかっても面白い反応を返してくるし、くるくると良く変わる豊かな感情は、それだけで魅了された。だからずっと、どちらかというと兄的な気持ちの方が強かったし、可愛い妹みたいだった。

「聞いてなかった?」
 怒るというよりも赤みのさす頬を僅かに膨らませ、抱きしめる腕を掴んで勝手に抜け出す。その姿が離れる前に出来たのは、辛うじて腕を掴むことだった。一握りで簡単に自分の五指が触れてしまう細さに、思わず緩め掛けたが、そのまま逃げられてしまいそうでもう片方の腕も慌てて捕まえた。

 告白してきたのは彼女の方からだったが、溺れたのは俺の方が絶対早い。

「口にはしないでって言ったの」
 緩められ、口の端が綺麗を形作る。描くよりも滑らかで鮮やかで、艶のあるその唇が言う言葉が俺には信じられなかった。

「なんでだよ」
 彼女は、自分の口にキスをするなと言ったのだ。俺に。

「笑うから言わない」
「笑わねぇよ」
「うそ、絶対笑う」
 笑っているのはリサの方じゃねぇかっ

 そんな姿さえも可愛いと思ってしまう。両腕を掴まれているから、隠しようもない笑顔は間違いなく華なのだけれど、そんなことを言われてはそれ以上にその唇に視線がいってしまう。化粧をしているわけでないが、彼女自身の唾液で艶めかしく、健康的に白い肌に映える紅色。その間から覗く白い歯。奥で動いているのは、もっと赤いであろう舌。性別が違っても人間である限り自分と変わらないはずなのに、俺はそれに口付ける自分を想像しただけで喉が鳴る。

「笑わねぇ。約束する」
「だめー。卒業するまでは教えないっ」
 しっかりと掴んでいたハズの手からは、いつのまにか抜け出されていた。

「卒業? あと1年以上もあるじゃねぇか」
「うん」
 楽しそうに変化する双眸を彩る、赤い口唇は笑みを形作ったままだ。それは今まで見てきたどんな女の唇よりも淡い色で、なのに鮮やかで。触れたいと、また喉が唸る。

 だめだといわれると、余計にしたくなるって、わかってんのか。

「…ダメ?」
 折れそうな細首を傾げる姿が愛しくなって、触れたいと、抱きしめたいと踏み出した一歩は彼女の二歩で1.5倍も離れた。

「オイ」
「ね、ダメ?」
 また一歩進むと、二歩下がる。

「リサ」
「ダメなの?」
 いっぽ進むと、二歩下がる。あと一歩で彼女は壁に背中をつく。そして、俺との距離はもう離れない。

 こんなことをしている間にも彼女の口元は柔らかく笑んだままで、俺はそれしか見えてない。そうさせたのは他ならぬリサだ。

「なんで逃げてんだ、おまえ」
「逃げてなん…っか」
 踏み出す一歩より先に下がる彼女は、ようやく壁に気がつく。でももう逃がさない。

 優美な口元が俺を誘うんだ。

「えと、シリウス…?」
 困ったように微笑まれても、もう止まれない。絶対に今キスしないと、本当に止まれなくなる。

 くるくるくるりと変貌するリサの表情を、俺だけのために変化させたくなったと言ったらどうする?

 消灯時間はとうに過ぎて、談話室でふたりでこうしていてももはや邪魔するものはいない。ジェームズとリリーほどじゃないが、俺とリサを遮る障害なんて、存在しない。つまり、俺を止める奴なんていない。止められるとしたら、きっとリサだけだだろうけど、それさえも今は無理だ。

 壁についた俺の腕の影に、リサは肩を揺らして脅える。

「そんで、理由は?」
「言、わない」
 俯いた顔を顎に手をかけて持ち上げる。わずかに見せる抵抗なんて、障害にもならない。笑んでいるのに、瞳の色が正直に複雑な様相をみせるのをどこか楽しく眺める自分が可笑しい。ほんの少しなら、罪悪感も感じてるんだがな。

「でも、キス、だめ」
「いわなきゃする」
「ダメ!」
 精一杯そむけようとするけど、逃がすつもりなんて毛頭ない。

 ふと浮かぶ悪戯ゴコロ。

「キスだけは…ダメ」
 泣きそうな声にほだされたとも言う。

「……わかった」
 零れ落ちそうな涙に口を寄せる。軽く舌で触れて吸いとる。触れた睫毛が微細な震えを伝えてくる。リサの髪と同じで黒く、しなやかな感触。

「口にはしない」
「…本当?」
「口には、な」
 返事する間も与えずに、すぐ近くの耳に噛み付く。こうなったら、もう視界に口元をいれてなんていられない、もっと暴走しそうだ。

「あ…や…」
 堪えようとする声が耳に甘い。

「…シリウス…やめ…」
 でも、その声が何よりもココロを暴走させてゆく。

 そのまま舌を首に這わせてゆくと、びくりと身体と声が反応する。それに俺も煽られる。

「…好きだ…リサ…」
「~~~~~っ」
 震えるカラダが崩れないように、肩を壁に押さえつける。

「…ぃ…っ」
 わずかな悲鳴も彼女自身の吐息に掻き消える。

「やめてほしかったら、キス、させろ」
 ふと目を上げると潤んで責めるような瞳よりも、唇が目に付く。赤い花がひとつ。

「じゃなきゃ、やめねぇ」
 やめられない。もう。

「…そん…な…で…」
「おまえのせいだ」
 こうさせてるのは、リサのせい。

 そのまま続けようとした俺は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受けて、横に吹っ飛ばされた。視界に僅かに入ったリサに誰かが触れるのが見える。

「リサ、無事かい?」
「ちょっと私のリサになにしてるの!?」
 俺の目の前で彼女にかけられる声と、後ろからの色気の欠片もない叫び声はよく知ったものだ。というか、どこから見てやがったんだ。いつもながら、肝心な所で沸いて出てくる。

「シリウス君、今リリーに対して失礼なことを考えなかったかな?」
 今度の背中にかかる衝撃もまた、いつものことと思ってしまう自分がちょっと哀しい。

「ちょ、ジェームズ! シリウスが死んじゃうよ!」
「あはは。シリウスが死ぬわけないじゃない」
「この男はリサの何千倍もジョーブだから、死なない。死なない」
「むしろ一回ぐらい死んだ方が、いいかもしれないけどね」
「リーマス! 怖いこと言わないでよ!! 大丈夫? 生きてるよね、シリウス! 死んじゃやだ~っっっ」
 勝手に殺さないでくれ。

 早とちりするリサもまた可愛いな、と思ってしまう俺はやっぱり重症だ。さっきまでの艶っぽさがわずかばかり残っているが、流石に衝撃で俺も目が醒めてきた。

 駆け寄ってきたリサの肌は、余韻で淡く赤く色づいている。

「リサ」
「何、シリウス? どこが痛い?」
「俺はもうダメだ。せめて最後にキス…」
 星が飛ぶ勢いで、俺は床に叩き落された。リサが自主的にやったわけじゃないことはわかってる。リサの片腕づつをリーマスとジェームズが引っ張り上げたからだ。

「シリウス!」
「まだ目が醒めてない馬鹿は放っておきなさい。それより、部屋に梟が来てるわよ」
「で、でも…梟来てるの? もう?」
「ええ。ずっと待ってたでしょ?」
「わ」
 リサの顔が先ほどとは別な意味で輝いた笑顔を浮かべる。そして、リリーが勝ち誇った視線を向けてくる。

「さ、部屋に行きましょ」
「うん。シリウス、ジェームズ、リーマス。おやすみなさぁい」
 て、おい、待て。

 嬉しそうに女子寮へ戻る後ろ姿を、俺は複雑な面持ちで見ていた。まだ床に倒れたままで。さっきの今で何だけど、この状況で俺を残して寝るのか!?

「ふられたね」
「しかも梟にか」
「いや、もしかすると梟の持ってきた手紙の相手にかもよ」
「なに? ということは、とうとう馬鹿犬は愛想をつかされたってわけか」
 傷心の親友を慰める気はねぇのか、こいつらは。

「当然だよ。いままでのこと考えたら、ね」
「それで、なんでまた襲ってたんだい?」
 僕たちが見張ってることぐらいわかってただろう、だと?

「しらねぇよ」
 見てたとしても、もう俺自身は止められなかったから。

 半分は止めてくれてよかった。半分はーーもうちょっとやらせてくれてもよかったじゃねぇか。コンチクショウ。

「さて、僕たちも今日は寝るとしようか。明日は朝早いしね」
「そうだねぇ。もうピーター寝ちゃったのかなぁ」
「寝ただろう。朝早いってわかってるし」
「オイ」
 さくっと無視するな。さくっと。

 そのまま俺を置いていこうとする2人の親友は、低い声を出しても気づく素振りを見せず、男子寮へと戻ってしまう。

「シリウスも早く寝ろよ~。容赦なく叩きおこすから!」
 首を傾けて極力目線だけを送ってくるジェームズの色をみて、ぞわりと背中をかけ抜ける気配に気がつく。それはおそらく本能と呼ばれるやつだ。

 リサの濡れた赤い口元が目の前をちらつくのをふりきり、俺も自室へと戻る。喘ぎ声がまだ耳に残る。潤む涙の甘さが口に広がる。首にかかる息にいちいち反応してくれる、俺を煽らせる姿が。

 今夜は余韻で絶対寝つけないってわかってるだろうに。イヤガラセだ!





 どうして口にキスさせない?

 他の女だったら、今までだったら、それでもよかったけど。

 本気のキスはおまえだけのためにあるのに。





 シリウスがその理由を知るまで、あと少し。

 リサが首筋の赤い華に気がつくまでの方が、もう少し早いけど。



*



 運命の人とはね、キスしただけで、子供が生まれるのよ。

 うんめいのひと?

 リサがもっと大きくなって、パパとママより大好きな人が出来て、相手もリサを好きになってくれたらわかるわよ。

 ふ~ん?パパもママのうんめいなの?

 そ~よぉ?その証拠がリサなの。

 キスしたら、あたしが生まれたの!?

 ふふふ、そうよ。



あとがき

原因は母だったりして(笑)
題名は[ヒイロ]じゃありません[ヒソク]です。
エロシリウス書いてたら、配布どころか公開もまずくなったので、こっそり。
見つけた方は…ありがとうございます。ケイジバンが消えない限りは読めるでしょう。
(2003/05/08)


更新物がナイのと、更新したい病が発令中のため(笑。
以前こっそりアップしといたのをふっつーに載せてみたり。
(2003/08/03)