ハリポタ(親世代)>> Eternal Friends>> Eternal Friends 22#-23#(終)

書名:ハリポタ(親世代)
章名:Eternal Friends

話名:Eternal Friends 22#-23#(終)


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.8.15 (2003.8.24)
状態:公開
ページ数:4 頁
文字数:8986 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 6 枚
デフォルト名:///カミキ/ミオ
1)
22)ただいま
23)Eternal Friends

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p.1

22)ただいま







「いわないでって言ったのになぁ」
 禁断の森近くで、赤い瞳の少年は葉っぱをむしりながら愉しそうに笑っている。

「君が言わなければ、何もしないつもりだったんだよ。本当に」
 ミオを少し気にいっていたのに。残念だ。

 クスクス笑っているリドルの側に風が舞う。

「ミオは何も話してないわよ」
 風がやんだ後には白い着物に赤袴という、日本独特の巫女装束の女性がひとり。風にさらりと真っ直ぐな髪が流れて跳ねる。面影はミオとあまり似ていないけれど、確かに彼女の姉だ。

「ふぅん?」
 全く興味がないといわんばかりに、リドルは振り向きもしない。姉はその隣に並んで立つ。

「あの子は気がついてもいなかった。引き出したのは私の責任でもあるけど、貴方のせいでもあるわね?」
「なんのことさ」
「ミオの、力のことよ」
 森が騒ぎ出す。そこら中から視線を感じる。2人ともが見張られている。

「徒にミオの夢を操って、恐怖を与えて、愉しい?」
「楽しいよ」
 2人ともが警戒されている。ここで警戒していないものなどいない。僕の返事がお気に召さなかったのか、ミオの姉という人物は神経を更に鋭くしてくる。そんなに尖らせても僕には心地良いだけなのに。

「ああ、そう!」
 変な女。ただ静かにそう思った。

「今日はこの辺で退いておくけどね、絶対負けないわよ!?」
 ミオと同じでやはり勝ち気。

「ミオを守るためにも、私は負けないわっ」
 亡霊なんかに。

 そう言い残して、また風と共に気配が消える。残される花の香りはミオと同じ匂いだ。

「…く…くくくっ」
 亡霊なんかに、ね。それじゃあ、亡霊じゃなかったら?

「貴方は絶対に負けるんだよ。どう足掻いてもね」
 未来を決めたのは僕じゃない。ミオ、だって君なんだから。決められた未来を変えるほど、君は強いのかな。それが少し楽しみだよ。変えられるものなら、変えてごらん。



p.2

(セブルス視点)



 喧騒を離れ、セブルスはホグワーツ上の入口の柱に寄りかかっていた。シリウスほどではないが、大広間の甘い香りで気分が悪い。しかし、妙な気配があるとは思ったが、まさかミオの姉が来ていたとは。今思い出しても、逃げ出したくなるほどの力。視線。あの距離で一瞬絡まった視線は、強く優しい意思を秘めていた。

『ミオを、お願いするわね』

 距離は遠く離れているというのに、そんな言葉が聞えてきた。とても優しい、とても温かい声だ。

(言われなくても)
 出会った時から、それはずっと思っていたこと。制御しきれない力を溜めて、何かに足掻いて、揺らぎつづける小さな背中を守りたいと思っている。大人しく守られてくれる少女ではないが、私にも手伝えることはある。

 何を悩みつづけているのか、聞いたことはなかった。が、今日は少しだけ納得した。あのような姉をもっては劣等感やら焦燥感やら、くだらないことに苛まれているのも同意。

「だが、おまえはおまえだ、ミオ」
 足音に振り向かずにいう。

「姉は姉で、おまえはおまえ。血が近くても決して同じではないのだ」
「わかってるよ。そんなの」
 返ってきた答えはふてくされている。振りかえると、ローブを両手でキュッと握り締め、唇を真一文字に結んでいる。

「それが本当ならば良いのだがな」
「わかってるってばっ」
 止まったまま動かない少女に足を向ける。近づく一歩毎に肩が震えている。

「わかってる、けど。お姉ちゃんみたいな、力が欲しいよ…」
「力を望んでも、扱えるとは限らん」
「…うん」
 正面に立つと、ミオの背は少しばかり伸びていた。遠ざけたせいで気がつかなかったのか、それとも。

「過ぎた力は自らを滅ぼすだけだ」
「…うん」
 妙に確信したような頷きだと思いつつ、細い肩に手を伸ばす。引き寄せて、抱き寄せる。

「考えこむな。考えるぐらいなら、動くほうがお前らしい」
「なにそれ」
 震え続けているミオの身体は、まだとても小さく弱々しい。力をいれたら簡単に折れてしまうだろう。

「馬鹿にしてるの?」
「そうだ」
 グリフィンドールのやつらは、あまりものを考えないほうが上手くいくことが多い。愚かだとは思うが、反面羨ましくもある。

「なにそれ。ひっどーい」
 腕の中で嗚咽が聞こえてくる。

「ひどいのはどっちだ」
 勝手にいなくなって、勝手に帰ってきて。ひどいのはどっちだ。

「勝手にいなくなるな」
「セブも、心配してくれてた、の?」
 探る声。頷くかどうするか考えこんでいる間に、ローブの下から回された細い腕が、背中に回される。

「ごめん。ごめんなさい」
 あやまるな、と言おうと思ったが。やめた。

 かわりに少しだけ腕に力を込める。

「おかえり」
 それだけで、充分だと思った。

「おかえり、ミオ」
 泣き声が胸に響いてくる。

「た、だいま…っ。私、私…ごめんなさいーっ」
 安心させるように、何度もその背を撫ぜた。ミオを包み込むほどの優しさが伝われば良いと、切に願った。



p.3

(リーマス視点)



 普段とは逆の状態からベッドを見下ろす。そこに寝ているのはシリウスだ。大広間の甘味臭で倒れてしまった。あれぐらいで倒れるなんて、鍛え方が足りないんじゃないのといいたいところだが。そこまで残酷にもなれない。第一ミオに抱きついたまま倒れるというのは、どういう了見だろうね。オネーサマ専門じゃなかったかい?

「…」
「…!」
「…?」
「!!」
 廊下からミオとセブルスの話し声が聞える。何を話しているんだろうと思っている間にドアが勢いよく開いて、ミオが駆け込んで来た。一瞬その背に翼を見た気がして目をこする。ドアの影から黒いローブが僅かに流れて、消えた。

「シリウスは大丈夫?」
「寝てるだけだよ」
「倒れるほど、甘い物嫌いとは思わなかったよ」
「僕も」
 窓から吹く風に、さらりと黒髪が流れる。一瞬見えた横顔に、涙の跡。

「さっきまでセブルスとなにしてたの?」
 自分でも驚くほどの静かな声が出た。ミオもそれに驚いてこちらを見る。そうすると余計によくわかる。僅かに赤くなっている瞳。

「え」
「なにか、された?」
 人差し指の背でその跡を撫でる。もう乾いているのか、水はついてこなかった。

「なにかって、セブがなにするの?」
「僕が聞いているんだけど?」
 何度も触れる僕の手をどけようとじゃれついてくる姿は、猫みたいでかわいいと思う。

「何もされてないよ」
「本当に?」
「うん」
 まっすぐに僕を見返してくる双眸に、偽りの影は見えない。誤魔化している様子もない。

「おっきろーっ」
 ミオがシリウスをつつくと、身じろぎしている。まだ、起きないで欲しいな。あ、うなされてる。

 突つきつづけるミオの手を取った。

「寝かせて置いてあげたほうがいいよ」
「なんで?」
「寝てないから」
「また遊んでただけでしょ」
「ちなみに僕も寝てない」
「……」
「リリーもジェームズもピーターも寝てない」
「……」
「どういうことか、わかる?」
 心配していたのは本当だよ。おかげで、どれだけ君が大切なのか、痛いぐらいわかってしまった。さっきだって、セブルスといたってだけで、気持ちが焦ってる。君を誰かのモノにしたくないんだ。でも、僕のものにはできない。ミオはミオだから。誰のものにもならないでいて。

「、ごめんなさい」
 うつむいて小さくつぶやく。本当に後悔している声だけれど、どこかでなにかを決意している声だ。日本に戻って、何を決して来たの、ミオ。

「、心配、かけて、ごめん、」
 腕を引いて、胸に抱きとめる。小さくて柔らかいから、力を込めたら簡単に壊れてしまいそうだ。ミオは戸惑いながら、しがみついてくる。

「ごめん…」
 もういいよと、いってあげたいけど。愛しさが溢れて声にならない。

 ホグワーツに最初に来た晩に、飛びこんで来たのはミオのほうだった。いつの晩もこの小さな少女に救われて来た。おかげで、闇は闇だけではなくなった。闇を照らす月よりも目映い光、それがミオだ。

 あの時は友達になろうと思ったけど、ねぇ、望んではいけないかい。君とずっといたい。救われるためじゃなく、ミオを助けるために一緒にいさせて。

「ミオ?」
 腕の中で静かになる少女は、浅い息を繰り返す。

(眠ってる)
 たぶん疲れたのだろう。眠りが足りないのはミオも同じだ。抱いたまま、シリウスの隣のベッドに寝かせて、シーツを引き上げる。くぅくぅと静かな寝息を立てている。

「可愛い」
 涙の跡は、なめると同じだろうか。ふと、そう思ってなめてみる。

「…ん…」
 やばい、起きる。

 慌てて離れたとたん、制服を後ろに引っ張られた。首だけ振りかえるとシリウスが怖い顔をしている。

「なにやってんだよ、リーマス」
「なにって?」
「寝てるやつを襲うなっ」
 まったく、なんてタイミングで起きるんだろう。もう少しだったのに。

「なんだよ」
「ミオは子供だよ?」
「わかってるよ」
 笑っている僕を不機嫌に見ている。そのベッドに座って、二人で眠っているミオを見守る。

「いつから鞍替えしたのさ」
 寝顔はとても穏やかで、僅かに微笑んでいる。幸せな夢を見ているのだろう。その笑顔は水に咲く花のように瑞々しいが、そのまま解けて消えてしまいそうに儚い。

「鞍替えなんてしてねぇよ」
 風に、ミオの閉じたままの睫毛が震える。

「ミオはミオだ」
「そうだね」
 閉じた瞳から雫が流れる。笑っているのに、幸せな夢を、見ているはずなのに。

「守れるかな」
「守るんだよ」
 強く言い切るシリウスの横顔を見る。

『守るんだよ。この小さな少女を』

 無言の誓いが、窓から吹いて来た風で、ミオに流れて吸いこまれていった。

p.4

23)Eternal Friends

(ミオ視点)





 私には、未来を夢に見る力があります。始めは、話してしまえば消えてしまうものだった。そして変化して、逆転して、ついには。

「全部、本当になる」
 朝のまだ日も差さない部屋の中で、ミオは小さく呟いた。それは小さな告白で、誰の耳にも届かない。届かせるつもりも無い。

 帰ってきたのは昨夜。帰るというのは変かもしれない。戻って来たというべきかもしれない。でも、ホグワーツはもう第2のミオの家だ。帰る場所だった。いなくなったことを怒ってくれるりりーがいて、迎えてくれるシリウスやリーマス、ジェームズやピーター。それに、セブルスもいる。ここは世界で2番目に安心できる場所だ。

 ここにはとても秘密も多いけど、きっと私には敵わない。私以上に秘密の多い場所なんかない。それが、とても哀しい。

 全部、話そうと思った。全部吐き出してしまえば楽になれると思った。でもそれには、準備が必要だ。朝の光が部屋に入りこむ前に、やらなければいけないこともある。

 のろのろと起きあがり、洗面所に向かう。冷たい水で顔を洗って、歯を磨いて、制服に着替える。もう一度洗面台に立って、髪を解かし、荷物の中から、とっておきの真っ白なリボンを取り出す。それで伸びた髪を一本に結わえて、きゅっとリボンを作る。

「よしっ」
 両手で頬を叩いて気合を入れて、まずは校長室だ。たぶん、ダンブルドアには絶対話さなきゃいけないことだ。

 階段を一段ずつ降りて、談話室への扉を開いた。

「おはよう、ミオ」
「はやいなー」
「もう起きたの?」
「Zzz」
 朝っぱらからテーブルを囲んで何をしているんだ、この人達は。

「そうしてっと、男みてーぇ、いてっ!」
 シリウスが足を押さえてうずくまる。別にいいんだけど。だって、その為のリボンだ。

「その白いリボン、可愛いね」
 可愛いといわれても、困る。今日は女の子でいるのではなく、ただ一個のミオとしているから。本当は制服ではなく、姉と同じ白い着物に赤袴という巫女の格好をしたいのだけど、持ってきていない。昨日ついでに持ってこればよかった。

「朝から何をしてる?」
 掠れた声。息が、うまく吸いこめていないような、変な声。

「地図を作ってるんだ。ほら、例の」
 あぁ、秘密の地図のことかとわかったけど、でも今はそれに心を裂く時間が無い。

「そう」
 だから、ローブを翻して、彼等に背を向ける。空気は心地良いぐらいで、動きやすい。今日はきっと良いことがある。そう、言い聞かせる。

「ミオ?」
「まだ出てかないほうがいいよ」
 後ろからかかってくる声に耳を向けず、私は寮を出た。

 誰もいない廊下。長い長い廊下の先にも誰もいない。何もいない。この時間に出歩こうと思うことが間違いなのかもしれない。でも、私はこの朝の空気を知っている。起きていたことなんて今までなかったのに、知ってる。この肌に感じる空気を確かに覚えていた。

 長い長い廊下を歩く。誰かに出会うわけが無い。だって、出会わないって、知ってる。

 彫像の前で大好きなお菓子の名前をひとつずつあげてゆく。どれが答えか知ってるけど、歌うようにあげていって、自分を勇気付ける。だって、震えがずっと止まらないんだもの。起きてから、ずっと震えてる。寒いんじゃないのに、震えてる。怖くて怖くて、たまらない。 今にもアレが現実になったらどうしようって、怯えてる。そんな弱い自分が大嫌い。

 肩に重さが掛かる。温かな重さ。

「違う。ミオの言ってるのは全部マグルのじゃないか」
 ふりかえると、さっき会ったばかりの4人が後ろから私を支えてくれていた。両肩にあるのは、ジェームズとシリウスの大きな温かい手。

「うん、歌ってただけ」
 微笑んで返そうすると、リーマスが言った。

「無理に笑わないで良いよ」
 それで本当の笑顔が出てくる。そういうところはやっぱりすごいなって、思う。

「じゃ何しに来てんだよ」
 ちょっと不満そうなシリウスだけど、瞳の奥に心配ってでっかく書いてある。

「ダンブルドアになに言う気だ?」
 まさか退学するなんていわねえよな?と詰め寄られる。心配しすぎだ。

「シリウス、考えすぎるとハゲるよ」
「馬鹿、心配してやってるってのに、お前はーっ」
 一歩下がって、髪をぐしゃぐしゃにしようとする手から逃れる。その背を、ぽんと押し出される。

「いっておいで」
 ジェームズはなにも聞かない。でも、全部わかってるみたいに押してくれるんだね。

「うん」
「おいこら、ふたりで勝手に納得してんじゃっ、ふがっ!」
「僕たち、ここで待っててもいいかな?」
 なにか言いかけたシリウスの口をリーマスが片手で塞ぎ、ジェームズがヘッドロックをかけている。

「待つ?」
「うん」
「授業始まるよ?」
 いったいどのくらい掛かるのか、私にもわからないのに。

「それぐらい、僕の頭脳を持ってすればなんとでも!」
 いや、それはいくらなんでも無理だよ。ジェームズ。

「ミオ?」
 ジェームズがシリウスに一方的に技をかけてじゃれあっているのを尻目に、リーマスがやんわりと微笑んだ。

「今日は休みだよ」
「え?」
「明日からテストだから」
「……」
 テスト?

「明日から学期末テストだから」
 ここは、叫ぶべきか、どうするべきか。などと悩んでいる場合ではない。

「じゃあ、ダンブルドア校長、いるかなぁ?」
「さぁ?」
 などと話ながら、私は実は知っている。校長は今日はここにいて、私を待ってるってことを。

「行って見ればわかるし、いなかったら待てばいいか」
 そう言って笑うと、真っ先にシリウスが反対する。

「それよりおまえ勉強は?」
 したといえば嘘になる。夢に関すること以外の嘘は、極力つきたくない。

「してない」
「だったら帰ってきたら俺たちが教えるから、そうしろ」
 しろってなんだよ。命令形でくるんだ。でも、なんでか心地良さに包まれて、私はクスクスと笑いをこぼした。

「大丈夫」
「でも」
「ダンブルドアは今いるよ」
 まっすぐ彼等の目をみていう。それだけで、わかってくれるといい。

「今日ダンブルドア校長と話したことは、今夜皆に全部話す」
 だから、今は戻って。 真っ直ぐに。迷い無く。そうした瞳に逆らえる人間はいない。そして、彼等もなにも返してはこなかった。

 銅像に向かって、正しい答えをいう。そうして開かれた道をひとり、私は登っていく。 長いようで短いようで変な道だ。知ってたけど、変な道だ。そして、やっぱりそこにダンブルドアがいて、彼もまた私の来訪を知っていたようだった。

「早起きじゃの」
「ええ、元々早起きなんです」
 テーブルに用意されているカップは温かで、今淹れたばかり。

「長い話と思って下さっているんですね」
「あまり長過ぎると年寄は眠ってしまうぞ」
「では短めに」
 彼が気にしているのはきっとジェームズ達4人のことだ。私も、彼等はあそこで座って待っている気がする。

「頼む」
 短く、完結に。これは簡単だった。たったみっつしかない。もっと簡単にすればひとつにしかならない。

「私の見る夢は、全部本当になります。そうなると知っていて、校長はあの夜、夢枕に立たれたのですか?」
 すべての始まりがあれであったと、もう私は確信していた。だからこそ、私はここに来たのだと。この、ホグワーツ魔術魔法学校に。

「人をむやみに疑ってはいかんよ」
「答えはイエスかノーの二択しかありません」
 言外に誤魔化さないでください、と言い添える。そうすると、校長は笑顔のまま固まって、悲しそうにカップを啜った。

「哀しきかな。あんなに素直な子じゃったのに…」
「私は今でもとっても素直です」
 一瞬でも気を抜けば誤魔化される。なんて厄介なじいさんだろう。

「お姉さんがここに来るのを断ったのは聞いたかの?」
「校長がフられたという話ですか?」
「そうじゃ。ミオ、おぬしを守るためと彼女はゆうておったよ」
 私を?

「ミオを守るために、離れるわけには行かない。だから、行かないと」
 うそ、だろうか。ほんとう、だろうか。どうにも計りかねる。でも、ダンブルドアのいうことに嘘は無い。それは真だと思える。

「つまりな、ミオの力を知っておったのは、おぬしの姉じゃ。彼女は幼いながらにおぬしのいずれ顕現するであろう力を危惧しておったのじゃ」
 だから、行かなかったと。ホグワーツで成長すればきっとかなりの使い手となったであろうに、それを捨ててまで、ただミオひとりを守るために。

「深い愛がなければ、できんことじゃよ」
 同じ年で、姉がそこまで考えていたなんて、思わなかった。私はただ魔法学校にいけるのが嬉しくて、ただ自分にも姉の役に立てる力が存在することが嬉しくて、それがただすべて彼女の犠牲の上に成り立っていたなんて、思わなかった。

 震える体を両腕で抱きしめる。寒いわけじゃない。嬉しくて、泣きたいぐらい嬉しくて、そして、それを裏切る夢を見てしまった自分が怖いから。

「夢は夢」
「のままではいかんというのは、なんとも難儀なことじゃの」
「知っていて、杖を、渡されたのですか」
「そうじゃ」
 ご神木の桜には特別な力があって。

「知っていて、お姉ちゃんは私を送り出した…?」
「そうじゃ」
 不思議な夢を見せてくれた。

「この杖は、やっぱり桜?」
「おぬしの友人じゃろ?」
 夢は力をもって、一人歩き、し始める。

「桜は動けない」
「でも、杖になれば動ける」
「ひとりじゃない」
「私がいる」
「私が、呼びこんでいる」
 ぜんぶ、私だった。

「たしかに何人かが手助けをしたであろう。だが、それはいずれ引き出される力じゃ。それが今であっただけのこと。おぬしには、荷が勝ちすぎているやもしれんがな」
 優しく背中をたたかれる度に、涙がこぼれてくる。杖が乾いた音を立てて、床に落ちる。 拾い上げたのはダンブルドアで、机に置く音が静かに響く。部屋の中でただその音と嗚咽が混ざり合って、哀しみの器を満たしてゆく。それが溢れてしまって、私には救い上げる術がない。なにもわからない。わからないのに、力だけがあって、その焦燥感で、情けなくて、余計に泣けてくる。

「赤…」
 言ってしまおうと、思った。こうなるともう勢いだ。

「赤い目を知ってますか?」
 聞いてから、それでも後悔する。もう決まってしまっているし、変えようもないのだけれど、足掻くのは愚かだろうか。言ってどうにかなるとも思えない。だって、彼の力は強い。強すぎて、押さえつけられてしまいそうになる。

「…知っておるよ」
 ため息のような声は、普段の元気さよりも幾分年をとっている様に聞こえた。疲れたような声というのか。この人にそんなことがあるのか。なんだか、もうそれでどうでも良くなったと言ったら嘘だろう。でも、どこか追求してはいけない空気を持っていた。

「ダンブルドア校長…」
 杖が、渡される。その意味を理解して、ミオは部屋を後にすることにした。飛んで来た不死鳥フォークスに腕を貸し、その柔らかな羽毛にひととき顔を預けて、礼を言う。それに鳴き声を返して、彼は窓際へと戻った。

 部屋を出る前に、一度だけ、ミオは振りかえった。そこには穏やかな眼差しを湛えたダンブルドア校長とフォークスがいる。

「私は、やれると思いますか?」
 何をとか、そんなことを聞く必要は無い。重要なのはできるかできないか。それだけ。

 対して、校長は深く頷き返して来た。

「ありがとう、ございます」
 日本式だけれど、それ以外にどうしたらいいのかわからなかったので、深く頭を下げた。かすかに香る桜の香りに、顔が綻ぶ。

 うん、頑張るよ。持ってしまった以上、できることはやらなきゃ気が済まない。そんな性格は自分でもよく理解している。

 階段を降りながらも消えない桜の香りはどんどん濃くなってゆく。

「ねぇ、ずっといた?」
 降りゆく先には、夢と同じに桜の幻影が浮かびあがる。はらりはらりと舞い落ちる。薄紅の幻想が濃いローブに舞い落ちては消えてゆく。透き通ってゆく、甘い幻影を見上げる。 そこには、あの時と同じ、ダンブルドア校長と出会った夢と同じ。心配する気配をより濃く感じられる。

『 気をつけて 』

 そういったのが誰なのか、やっとわかった。

「ずっと、いてくれたんだよね」
 生れた時にはもう在って、ずっと一緒だったね。日本に帰ったら、また、昼寝をしようと思う。桜の樹の上で。

 穏やかで、平穏な日々が守られますように。守れますように。そんな願いを祈りながら、廊下への扉を開いた。ここにもまた私の望む平和な日々が在る。



「ただいま!」



 願うのは、守れる力。使うことの出来る力。

 大切な人達と生きる未来。



あとがき

- 22)ただいま


んんん? あっれー? 終らない…。
珍しく終らせるつもりで纏めて行ってるんですが。何故…?
あと1回ぐらいで終らせられるかな(超不安。
(2003/08/15)


- 23)Eternal Friends


あー終った。終った?…あ、解決して無いやん。
シリウスたちに秘密明かしてないやん!でもま、いいか(良くない)
えーでもあとの展開って、読めますよね。じゃ書かなくてもいいかv(だから良くないって)
そういえば、最初に立てた計画じゃ…うーむ。こんなんじゃなかった気が………。
えと、じゃ、こうしましょう。一部完!てことで(待て。


最後の願いは自分の願いです。
ジェームズが生きていてくれれば、リリーが生きていてくれれば、ピーターが裏切らなければ
ハリーにはとびきり素敵な家族がいて親バカっぷりを発揮するシリウスVSジェームスみたいなのもあって、
笑いながらハリーに勉強を教えるリーマスがいて
そんなごく普通の幸せだったら、話にならなかもしれませんけど、
全員がホグワーツで魔法悪戯仕掛人やっていたままに大人になっていて欲しかった


でもリドルを見ると、ヴォルディモート卿も完全には嫌いじゃないんです、困ったことに(苦笑


この話は完全に私の妄想なので、原作とは全く関わりがありません。
むしろオリキャラの主人公・姉が自分で好き。いーい性格なんです。この姉も。
読者が楽しい…かどうかは謎です。
書いてるほうは楽しいですけど、書く気分がまんま出てるんで危険ですね(笑


たぶん、番外編て感じで続きを書きます。ほら、五巻読んでる最中だし。(まだ終ってないんかい
一部完なら、二部は書かないのか? ーー気が向いたら書きます(笑。


御意見御感想はBBSかメールでどうぞ。苦情とか催促とかもOKです(何のだ。
なっがい話にお付き合いくださり、ありがとうございました。
(2003/08/24)