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書名:テニプリ
章名:B-girl

話名:B-girl - 08)桃城の勧誘


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.9.26
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:6527 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 5 枚
デフォルト名:麻生/晴樹
1)

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p.1

 寄りかかった壁は冷たく、ごつごつした感触を返してくる。西の空にはオレンジ色の光が雲間を降りて来て、幾筋もの幻想を映し出している。もうしばらくしたら、いつものように赤い太陽が現れるのだろうか。

「てか聞けよ、麻生」
「やだ」
 目の前にいる桃城は、焦るような困るよう瞳で見つめてくる。その真っ直ぐな視線と向かい合うのが怖いわけではない。決して。

「俺はただなんでいたのかって聞いただけじゃねーか」
「別になんだっていいじゃん」
 なんで竜崎先生の申し出をうけちゃったんだろーなと、自己嫌悪に陥りつつ、リョーマの消えたドアを見る。まだ出てくる気配はない。

「桃に関係ある?」
「俺は、テニス部だ」
 そんなのわかってる。

「麻生がここにいる時点で関係あるとおもわねーか?思うよな?」
「思わない」
 赤い雲が流れて、現れ始める光に目を細める。眩しい。

「あのなーっ」
「そこ、どけてよ」
 伸ばした手で軽く押しのけようとして、その手を掴まれる。意思とは逆に身体が跳ねる。これでは怯えているみたいだ。まったくもって、そんなことはありえないのに。

「逃げんなよ」
「逃げてない。どけて」
 ひたりと見据えた桃城の顔は真剣そのもので、教室でもめったにみないものを正面に見据えていることを、今更ながらに後悔してしまった。真剣な顔をしているのに、瞳の奥に慈しむ光を見つけてしまったから。

「どけないと、殴る」
 言いざまに放った拳は簡単に捕まえられ、大きな手のひらにすっぽりと収まってしまって、動かせない。

「あぶねーな。あぶねーよ、麻生」
「どけろって言ってんだ」
「そんなにむきになんなよ」
 声音は変らず、優しい。

「マネージャー、やんの?」
「やだ」
「やってよ」
ーーはぁ!?

「ちょっと、桃、私の性格知ってて言ってる?」
「おう」
 一年の時から同じクラスで、入学した時には息投合していたから、知らないはずは無い。しかし、知ってて言うとなると、バックに誰かが絡んでいることはありうる。こいつもそれなりに部活のタテ社会を過ごしているわけだし。

「…乾さん辺りに頼まれた…?」
「なんでそこで乾先輩が出てくんだよ」
「じゃ、菊丸先輩」
「………」
 当たりかよ。あの先輩、マネージャーはやんなくてもいいって言ったのに。

「誰に頼まれなくても、俺、言ってるよ。マネ、やってよ」
「やだ」
「なあ、麻生」
「ヤなものは、ヤ」
「頼む」
 上から降ってくる声はやっぱり真剣で、からかいの響きなんかも息を潜めている。

「らしくないよ、桃」
「頼むよ」
ーー頼まれても、いやだよ。

 そう返せば言いだけなのに、その一言が喉の奥につかえた。傷つくだろうとか、そんな殊勝はことは考えちゃいない。ただ、なれた関係の中で、こいつがこんなに真剣な時な、本当の本当に真剣な時だけで、先輩に言われたからとかって理由でこんなことをする男じゃないと、私自身が一番わかっている。

「ーーPonta6ヶ月分」
 顔を背けて、彼の目に見えるように手を上げる。人差し指を一本だけ立てて。

「1週間」
「6ヶ月分。これだけは、まけられないね」
 手を離され、桃城は頭を抱えてしゃがみこんだ。上から見ると、この頭、手触り良さそうかも。ぽんぽんと叩いて撫でる。不満そうに見上げてくる桃城に、にかりと笑って返す。

「諦めろ」
「1ヶ月でどーだ」
「やだ」
 ちくちくする頭から手を離し、リズムをつけて、彼と壁の間を抜け出す。

 丁度、リョーマが出てきて、きょろきょろしている。

「じゃ、明日学校でな」
「待てよ、麻生!」
「ばいば~い」
 後ろ手に振った手をそのまま、ポケットにつっこみ、少し前に拾ったテニスボールを構える。そこの木にぶつければ、上手く当たるだろうか。

「リョーマ!」
 振りかえった顔が、一瞬ものすごく嬉しそうに笑い、取り繕うように憮然とした。理由は後から出て来た他の1年生、かな。すかさずボールはポケットに仕舞う。

「先帰るぞ」
「俺待ってたんでしょ」
「いいや。帰ろうとしたら偶然、お前が出てきたんだよ」
「うそばっかり」
 背中に聞こえる桃城の声を黙殺し、リョーマも置いて、私は逃げた。逃げるしか、なかった。マネージャーをやりたくないんじゃない。やったら、まだ出来ると希望を持ってしまうのが怖い。そんな望みを持っても、またバスケが出来るわけじゃないってわかっているのに。両親の期待に応えられるわけじゃないのに、どうしてバスケを続けられる。私のバスケは楽しいだけじゃダメなんだ。結果が出ない限り、それまで。才能があるとかいわれてもそれまでなんだよ。

 だから、お願いだから。放っておいて。



p.2

(桃城視点)



 Ponta6ヶ月とは…。

「これはまたずいぶん大きく出て来たね」
 麻生がいなくなったのを見計らい、3年レギュラーが部室から顔を出す。

「そーっすね」
 ずっと覗いていやがったらしい。とんでもない先輩連中だよな。

「手塚、なんとかならないかな」
 不二が部室の中に声をかける。部長までいたんスか。

「………」
「英二、おやつどのくらい食べないでいられる?」
 代りに大石が話をまわす。

「え、なにそれ」
「なるほど」
 乾と不二は大石に向かって何かわかったように頷き、菊丸はまだわからないと考え込んでいる。

「そんなに英二先輩、お菓子食ってるんスか?」
「そんなことないよ。ね、不二!?」
「どうかな?」
 聞かれた不二は楽しそうに乾に目を向ける。河村が乾いた笑いを立てる。

 その中で俺は、俺はどうすりゃいい。あいつのPontaは逃げるときの常套句だって、知っている俺はどうすれば。

ーーねぇ、桃城クン

 あれは入学して間もない頃。あいつはまだとんでもなく明るくて、とんでもなく世話好きで、それでとんでもなくお祭り好きだった。つられていろいろやったなぁ。

ーーあ、うん。ごめん。桃ちゃん。…んーなんか呼びにくい。桃でもおっけ?

 何を言ったんだっけかな。あのときの困ったような笑顔だけが印象的で、内容なんて覚えちゃいない。そんときも今日みたいに、人差し指を出して。

ーーPonta1年分。

 て、そればっかりだな。マジで。Pontaが好きなのはわかってるけど、たしかにいつでも飲んでるけど、

「もちろん、ラケットも買ってるし、ボールも買ってるよ。ラケットは他よりけっこう買ってるけど、うちの場合は雑費が78%を占めてるね」
「でも全部オレってことはないっしょ!? 桃だって、いろいろ食べてんじゃん!!」
「俺、そんなに食ってないっスよ」
 視界に入る乾の眼鏡が怪しい光を放つ。口の端まで上がってるし、誰が見ても嫌な予感がせり上がってくる。

「えっと、俺、先にあがります。おつかれーっス!」
「あー桃、逃げた!!」
 たしかに結構食べてるかも知れない。だって、俺育ち盛りだし。運動したら、腹減るの当然じゃん。

 自転車置き場に自転車を取りに行き、足をかけて走り出す。風が耳の横で唸り声をあげる。

「しかし、久々にカッコイイ麻生見たな~っ」
 流れてゆく景色は全然頭に入らなくて、コートに立つ麻生の姿が目の前を楽しそうに動いている。戻って来たのかと錯覚させるほどの笑顔で、瞳で、跳ねまわっていて。

 猫、みたいだった。半年振りに見た。

ーーやだ。

 まっすぐに即答して来たあの目は、本気で嫌がっている風ではなかった。半年振りに、人の反応をみて楽しんでる。他の奴にやられたらムカツクけど、麻生がやると上目遣いが愛らしくて効果半減どころか、まったく別の効果を生み出す。

ーーまた明日、学校でな。

「あぁ」
 覚悟しとけよ。先輩に言われたからじゃない。半年も死んだ目をしてたのに、あんなに楽しそうな様子を見せられちゃ、退くわけにはいかねーっての。半年も耐えてたんだ。これ以上、見てられねーよ。絶対、マネージャー、やってもらうっきゃねーよな。それしかねーだろ。越前に向かって微笑む姿は悔しいけど、それで元の麻生に戻ってくれるなら。

 そういや、あの2人、どんな関係なんだ。麻生は保護者って言い切るし、越前はナイトみたいに構えるし。

「明日、聞けばいーよな…?」
 問題は、俺が麻生に誤魔化されなければいいってことだ。

 もっとも、それが一番の難問でもあるのだが。

「なんとかなるっしょ」
 努めて楽天的な声は、夕闇が薄く色付く空に吸いこまれて消えた。

あとがき

op.リクエストCD発売記念!いぇ~ぃ<違。
ed.リクエストCD発売記念?
本日ゲットできるかなぁ~?
(2003/09/26)