テニプリ>> B-girl>> B-girl - 09)気づいて欲しい

書名:テニプリ
章名:B-girl

話名:B-girl - 09)気づいて欲しい


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.9.26
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:3374 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:麻生/晴樹
1)

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p.1

(リョーマ視点)



 背の高い晴樹と、背の低い俺との間には、どうしようもない差がある。それはコンパスの差。学校を出てから一言も口を聞かず、さっさと歩く晴樹はかなりの早足だ。俺だって別に歩くのが遅いわけじゃない。ただ単に晴樹の場合、考え事を始めると早足になるだけのことだ。

「晴樹」
「んー…」
 帰ってくるのは、さっきから生返事ばっかりだ。髪は結わえたまんまで、背中を揺れている。そうしていると、2年前とちょっとしか変らないように思える。

「さっきわざとロブあげたでしょ」
「んー」
「あの先輩になにかされたの?」
「んー」
「俺とテニスしてよ」
「……親父さんに勝てたら」
ーー聞いてんじゃん。

 てか、それってどっちの話だよ。俺が? それとも晴樹が親父に勝てたらってことなのかよ。

 石段の前で、今度は止まって考えこんでる。先に数段上って見下ろす。強い風に流されて、纏めている髪が後ろで踊っている。

「男子テニス部のマネージャー、やるの?」
「…やらない」
「やってよ」
「やだ」
 俺を通り越して階段を上がってゆく、その後姿を追いかける。晴樹特有の甘い香りが漂う。

「なんで?」
 追いついて、もう一度追い越そうとすると、更に登る足を速める。こんなところまで負けず嫌いなんだから。俺もだけど。

「私を抜いたら、教えてやるよっ」
 一瞬だけこちらを見た表情は、悪戯の影を強めている。予備動作なしに石段を駆け上がるスピードは、あっという間に遠ざかる。追いかけても距離はなかなか縮まらなくて、足がだんだん重くなってくる。

「もうバテたのかよ、リョーマ!」
 見上げる影は石段の一番上で、笑っている。息切れもしてやしない。これで半年以上バスケも運動もしてないっていうんだから、いやになる。返事を返さず、残りを一気に駆け上る。晴樹に体力負けしてるようじゃ、俺もまだまだだね。

「おー早い早い」
 負けたことには変わりないし、この人は何も答えてはくれないだろう。そういう人だ。

「水はいるか、少年」
 差し出されたコップを一気に呷る。大量の空気と一緒に温い液体が通り過ぎる。

「っ!」
 て、これ水じゃないじゃん。炭酸!?

 むせ返る俺の背中をリズムをつけて叩く晴樹は、人の悪い微笑を浮かべている。

「まだこんな手にひっかかるとはねー」
 あんまり咳き込んでいると、昔から晴樹は優しく抱きしめてくれる。全然男に見てもらえないのはくやしいけど、おかげで抱き返しても警戒されないし、別に良いか。

 赤い闇に染まる晴樹の首筋に顔を寄せて、思いっきり彼女の香りを吸いこんで。昔から弱かった耳元に口を寄せた瞬間、砂利を踏む音があたりを騒がせる。いるだけで空気を変化させるその男を、俺は心底嫌いだ。

「どこをほっつきあるってたんだー、ガキども」
 即座に熱が離れてゆく。

ーー親父、マジでタイミング悪過ぎ。

「学校に決まってんでしょ、学校に!」
「こんな時間までふたりで入り浸って、一体何がたのしーんだか」
「一日中エロ本読んでる親父に言われたくないわね」
「うらやましいか」
「…誰がっ!」
 いつものように始まる2人のやり取りを見上げ、深く溜息をつき、俺は家に足を向ける。

「今日こそ、その口黙らせてやる!」
「ほうほう出来るもんならな」
 差し出された手にバッグからラケットを一本取り出し、晴樹に放る。それを見もせずに彼女は受け取る。

「ハンデは?」
「右手一本」
「年寄を労って、少しは遠慮しろよ~」
「けっ、ふざけてないでさっさと勝負だ!」
 縁側から従姉の声が鈴鳴る。顔を向けると、すらりとした身体を障子に預けて、柔らかな瞳で親父と晴樹を見ている。

「おかえりなさい、リョーマさん、晴樹ちゃん。ごはんは後にするの?」
「うん、後でいいんじゃない?」
 俺もラケットを持って立とうとしたら、足元にふさふさとした感触が擦り寄ってくる。

「ほぁら」
 どうやら、オカエリナサイと言っているようだ。

「ただいま、カルピン」
「ほぁら」
 喉に手を当ててやるとごろごろと喉を鳴らし、歩き出すとついてくる。転がる毛玉みたいなカルピンも可愛いけど、今は晴樹が見たい。できれば、一緒にテニスもしたい。

 すでに手馴染みなラケットを肩にかけ、カルピンと共に俺は晴樹と親父の後を追ったのだった。



p.2

(晴樹視点)



 目の前で行き交うボールの音を聞きながら、私は不機嫌を隠せない。そう。聞えるだけ。さっきリョーマの親父さんと勝負したばっかで視界が利かないので、例によってベンチで見学。その上、いつも私の目が限界になるほうが先なので、本日もこの生臭坊主とは引き分け。わかっていることとはいえ、悔しいものは悔しい。

 ボールの音しか聞えない。他のなにもない。足元に擦り寄ってくる毛玉を手探りで抱き寄せようとしたら、ひっかかれるし。

「…ずるい…」
 私の呟きなんかはこの2人には届かない。親子で楽しそうにしやがって。

 冷たい風に身体が震えて、両腕をかき抱こうとすると、膝の上に温かい重石が飛び乗る。気まぐれなやつだ、まったく。

「カルピンだけか~相手してくれるのは」
「ほぁら」
 薄く見えるようなになった目の前には、ぼんやりと白い塊が闇に浮かんでるみたいだ。

「ん~あったか~」
 喉に手を当ててやると、気持ちよさそうにゴロゴロを響かせる。響いてくる音が心地良い。

「晴樹、そろそろ見えるようになった?」
「まだまだ」
「おーい、先行ってるぞ」
 いつのまにかボールの音は聞えなくなっている。

「じゃ、夕飯の後、勝負しようよ」
「やだ」
 ゴロゴロと喉を鳴らすカルピンは可愛いし、温かいし、あー幸せとかみしめている間も、すぐ近くでリョーマが不機嫌になっていくのはわかった。で、私が後悔すると思ったら大間違いだ。

「今日は疲れた」
「汗もかいてないくせに」
「これは体質」
「ふーん」
 パチリと目を開くと、まともにカルピンと合わさる。

「ほぁら」
 ぺろりと口元を舐められたかと思ったら、重さと熱が一気に消えた。リョーマを見ると既にカルピンを地面に落とすところで、薄闇と風に吹かれた髪で表情は見えないが、まんま不機嫌と書かれた背景でも背負ってるんじゃないのかと思う。

「あっちいってろ」
「ちょっと、リョーマ」
「晴樹はこっち」
 立ちあがろうとした私は。リョーマに両肩を抑えられ、ベンチに逆戻りだ。

ーー放って置き過ぎただろうか。

「あーぁ。カルピンいっちゃった…」
 残念そうに言って、視線を外す。だって、見上げられる視線は正視できないぐらい強い。

「俺さぁ、晴樹は変ってないと思ってるんだけど」
「…え?」
 何の脈絡もなくそんなことを言われたものだから、思わずそっちを向いてしまった。両肩をリョーマの短い(失礼)腕で押さえられているせいで、向かい合うと至近距離どころではない。このまま頭突きでも出来そうだ。

「バスケできなくなっても、テニス出来てるし」
 出来てないって。途中で視界もなくなるのに。

「半年運動してないって割に、体力あるし」
 育ち盛りだから。てのは理由にならないよね。

「今でも、俺のこと弟としか見てないし」



ーー……は?



「いーかげんさ、気づいてよ」
「な、なにを」
 この返答は言ってから後悔するものだ。だって、ここまで言われてわからないほど私は鈍くない。

 闇の中で、至近距離に囁かれる。

「俺、弟じゃないよ」
 唇にかかる吐息で、彼を押し返す。あと1センチもなかった距離が一気に離れる。あとほんの少し遅かったら、絶対重なっていた。

「ばっ…あああたりまえだろ!?」
 そういったけど、自覚したのは今さっき。ずっと弟みたいだと思っていたのに、急にオトコノコだと思ってしまった。

ーー不覚。

「ふーん」
「な…んだよ」
 自分でもわかるぐらいうろたえている私に返ってきたのは、親父そっくりな性質の悪い笑顔で。

「だったらいいけど」
 言い返せない私に背を向け、飄々と自宅へ向かう。小さな背中を追いかける。

 リョーマはリョーマで、可愛くてからかうとすぐ向きになって、ほうっておくとすぐ拗ねて、生意気で遊びがいのある後輩…だったんだけど。さっきの距離で見たこいつは、ちょっとだけカッコイイんじゃないかと思ってしまった。

「…ちっ次は負けない…!」
 小さなつぶやきに、肩越しに振りかえったリョーマはムカツク笑みを浮かべていた。

あとがき

ごめん。読み返すと別人かも!?
リョーマがカルピンを取り上げたのは、カルピンが先にキスしたと思ったからです。
て、説明加えなきゃいけないものをかくなよ。自分。
進まないなぁ。ランキング戦もまだだよ。
なのに、脳内不動峰祭中<ぇ。
橘(兄)夢読みたいよー!
(2003/09/26)