GS>> 葉月珪>> 最後のピース

書名:GS
章名:葉月珪

話名:最後のピース


作:ひまうさ
公開日(更新日):2002.8.29
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:4571 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
1)

前話「神サマが見てる」へ p.1 へ p.2 へ あとがきへ 次話「想い出のアルバム」へ

<< GS<< 葉月珪<< 最後のピース

p.1

 その時、オレの中の最後の欠片が埋まったんだ。

 春霞のたった一言が、オレの世界を変えた。

 それがオレのすべて。



「おつかれ~!! 今日も良い絵が取れたよ~、葉月ちゃん」
 スタジオに響くカメラマンの声で、オレはほっと息をついた。顔には出ないけれど。

 きょろきょろと辺りを見回すと、暗がりからマネージャーが姿を現す。

「おつかれさま。次のスケジュールだけど…」
「あいつは…?」
 マネージャーのいた方に目を凝らすと、椅子におまえは座っていた。少し俯きかげんで顔が見えない。仕事の後、一番にみたいのは春霞の笑顔だけなのに。

 近づいてみると、春霞は幸せそうにぐっすりと眠っていた。いくらオレのマネージャーが隣にいたとはいえ、スタジオには男も多いんだぞ。あいかわらず、警戒心の欠片も持ち合わせていないんだな。

「ああら、寝ちゃったの。彼女?」
 後ろから声をかけられて、オレはスタッフが集まってきたことに気づいた。

「カワイ~ぃ」
「これが例のお姫さんか」
 好奇の目より、問題だ。おまえ、寝顔も無防備なんだぞ。…このままじゃ、危険すぎる。

 抱き上げると、ふっと瞼が開いた。そのままふにゃっとした力の抜けたような笑顔になって、また閉じて眠りこむ。のんきな奴だ。オレ以外の前でそんな顔をしたら、襲われるぞ。

「…おつかれ」
 椅子の上の春霞の荷物を持ち、足早にオレはスタジオを出た。控え室には、行きたくない。オレの荷物は後だ。かといって、春霞を抱えて外に出るのはイヤだ。この寝顔を誰にも見せたくない。

 隣のアルカード、たしか裏口から繋がってたよな?



p.2

 いつもスタッフが出るドアを抜けると、思ったとおりアルカードの裏路地に出た。マスターは快く従業員休憩室を貸してくれた。長椅子に寝かせる間も、春霞はまったく目を覚まさなくて、時折楽しげに微笑んだ。

「…ホント、よく寝てる」
 起こすのがもったいないくらい、幸せそうな笑顔だ。一人占め、していたくなる。でも、いくら撮影中だったからって、簡単に寝るなよ。

 ドアのノックされる音で振りかえると、マスターがタオルとモカを差し入れてくれた。

「…ありがとう、ございます」
 何とはなしに出た礼の言葉に、マスターが笑った。

「いえいえ、どういたしまして」
 なんで、笑っているんだろう。

「春霞ちゃんがキレイになったのは、やっぱり葉月くんの効果かな?」
 にこにこと笑顔を振り撒いて、いつも変なおっさんだ。

「入ったときからね、頑張ってるなぁって思ったんだ。葉月くんのためなら、うん、わかるよ」
 オレの、ため?

「俺より美味いって評判のヤツね、きっと葉月くんの為に頑張って練習したんだね。

 お客さんが言ってたんだけど、女の子は大好きな人の為にキレイになるんだって。だから、いつも笑っているんだよ。

 それに、ここに学校の先生や学校の友達が来た時も、いつも変わらない笑顔でいられるのは、やっぱり支えてくれる人がいるからなんだろうね。

 春霞ちゃんにとって、それが葉月くんだったんだね」
 マスターのいうこと、オレにはよくわからない。でも、春霞がいつも頑張っていたのは知ってる。

「…そう、なのか?」
 全部、オレのために頑張ってきたのか。問いかけても、おまえは笑っているだけで答えない。

 後ろでドアの閉まる音が響いた。マスターは仕事に戻っていったようだ。

 ずっと小さなおまえに支えられてきたと思っていたけど。オレ、おまえを支えてやれてるのか。

「…珪…」
 さまよう手を捕まえて握ってやる。どうやら、オレの夢を見ているらしいが、一体どんな夢なんだろうな。

「…春霞」
 夢の中のオレでなく、今、オレを見て欲しい。夢の中のオレなんか、ホンモノじゃないから。そんなオレなんか、どうでもいいから。今すぐ起きて、オレに微笑んで欲しい。

 眠っている人を見ると、時々怖くなる。そのまんま、夢の世界へ連れていってしまいそうで。それに、祖父さんを思い出す。今のおまえみたいな笑顔のまま、眠るように亡くなった、優しい祖父さん。



 これ以上、オレを置いていかないでくれ。

 もう、ひとりでいるのはツライ。

 独りで生きられるほど、強くないんだ。オレ。



「…ひとりじゃない、よ」
 独白のように、春霞は言葉を紡いだ。眠っているから、寝言、か。

「…ずっと…」
 夢の中で、オレ、心配させてるのか。

「…ずっと、そばにいるから。…心配、しないで」
 笑いながら、目に涙をいっぱいに溜めて起きあがる。

「…春霞…?」
 泣き虫な所は変わらないのに、おまえは包み込む優しさでオレを癒してくれるんだな。

「今、珪クンがいなくなる夢、見ちゃった」
 無理やりに笑おうとしている。なんで、そんな夢見て笑って…?

 両腕を首に回して、抱きついてきて、春霞はオレの肩に顔を埋めた。震える小さな肩が、泣いているのだと言っている。そうして、声も出さずに泣くようになったのか。

「ここに、いるだろ」
 抱きしめようと思ったけど、少し怖くて、背中を軽く叩いた。

「うん、変だよね」
 泣いてるのに、笑っている。変な奴だよ、ホント。

「あぁ、変だ」
 こんなオレを好きでいてくれる、おまえが本当に愛しくて仕方がない。やっぱり、支えられてるのはオレみたいだ。

「……」
「春霞?」
「あんまり、「変」って言わないでよ」
 肩から上げられた顔が拗ねてて、可愛い。目が少し、赤い。泣いた後のおまえにはどうしてもキスしてしまいたくなる。

「…っ」
 小さな桜色の口唇も、柔らかく抱きとめる身体も、オレを包み込むココロも、全部オレのもの。

 いや、オレが春霞のもの。

 息ひとつ逃さず、おまえがオレだけにその笑顔を向けてくれるなら、他になにもいらない。

 誰もいらない。

あとがき

あぁまただよ。続きモノだよ。
とか、云わないでやってください。わかってますから。
しかも、誰だよコイツ!!なんか、葉月なのかどうかさえ怪しい。
恋人の夢の中の自分に嫉妬って、一体…。
色サマで使えそうなネタだったか、これ?


というか、もう強制終了。
(2002/08/29)