季節に宿る妖精がいるのだとしたら、彼女はまさしくソレだ。春に芽吹き、夏を楽しみ、秋には迫り来る静寂にただ、微笑む。
今は秋。
中庭の吹きさらしのベンチに座り、彼女は本を読む。
「やあ、今日も読書の秋?」
どんなに側まで近づいても、声をかけるまで決して気がつかないぐらいの集中力は、この時期しか起きない。
「こんにちは、ジェームズ君」
弱々しい微笑みだけれど、どこか暖かい温度を持っている。
隣に座ると、ほんの少し身じろぎして間を空ける。いつもある不思議な境界線から、僕は踏み込めない。
「何の本?」
「星図の本よ」
「あぁ、今日は流星群が落ちてくるってことか」
「今日じゃないけど、近いうちにきっと」
首を傾げて笑うのは、彼女にとって意識したことじゃない。さらりと肩から髪が落ち、揺れる。
「それで急に星の本を?」
「そうって言っても信じる?」
「いいや」
「でしょ?」
夏の時とはまた違った輝きを放つ彼女は、季節に宿る妖精みたいだ。
「じゃ、なんで?」
「明日テストがあるんですって」
「…本当?」
「うそ」
この世界で僕をこんな風にからかうのは君ぐらいのものだよ。
「本当のところは何なんだい?」
それを心地好いと思えるのも事実。
「まさかシリウスを探してるとか言わないよね」
「あら、それも面白そうね。次は探してみることにしようかしら」
「待った待った。冗談だよ。シリウスなんて探さないでよ」
「何慌ててるの?」
冗談じゃない。彼女に他のやつに興味なんて持ってほしくないんだ。つまらない幼稚な独占欲だと、君は笑うかもしれない。それでも。
「星図占いって知ってる?」
「星占い?」
「いいえ、星図占い」
読みかけの本をなぞる手を追う。小さな手は骨ばって、簡単に砕けてしまいそうだ。
「それによると、貴方達は管理人さんから逃げてる最中じゃなくって?」
「大正解。よくわかったね」
「こんな場所でのんびりしていて良いの?」
「実は非常に良くない」
そろそろここも勘付かれるだろうと、腰を浮かせる。
「もう一緒に悪戯やらないのかい?」
「ハロウィンになら、のってあげてもいいわ」
「もう過ぎたじゃないか」
そうね、と笑う。今目の前で消えても不思議じゃない顔で。
「今度のクリスマスはどうするの?」
「星を見に行こうと思ってるわ」
「僕も一緒に行っていいかな」
一瞬、姿が揺らいだような気がして伸ばした手は、先ほどまでと同じ笑顔に阻まれる。クリスマスの前の月の氷結みたいな、冷たい笑顔は彼女の周囲に完全に幕をかける。
沈黙が支配する空間を統べているのは、彼女だ。僕には何の力もない。
「いいわよ」
それが秋が冬に代わる時の合図のように。季節に呼応するように。彼女もまた、静謐を身に留めてゆく。
秋は深まる毎に静寂を増し、ただ冷たく固くなってゆく。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさ(省略)ジェームズファンの方々、ごめんなさい(平謝り
悲恋じゃありません。決して。暗いだけです<それもどうか。
冬篇も書くには書いたのですが、気にいらなかったので消しちまいました。
そんなわけで、無駄に複線のある秋の夢。しかも短い上にmドリームじゃな(殴。
(2003/11/03)