テニプリ>> B-girl>> B-girl - 13)男テニ日誌

書名:テニプリ
章名:B-girl

話名:B-girl - 13)男テニ日誌


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.11.8
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:4054 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:麻生/晴樹
1)

前話「B-girl - 12)賭け」へ p.1 へ (乾視点) あとがきへ 次話「B-girl - 14)強がり」へ

<< テニプリ<< B-girl<< B-girl - 13)男テニ日誌

p.1

 竜崎先生に頼まれて、テニス部のサポートというか、なんか雑用をやらされているのって…マネージャーっていわないか?

「なんでこんなことに…!」
 手元でシャーペンの芯がパキリと折れた。力みすぎたらしい。

 ここは青春学園男子テニス部の部室の一室だ。ロッカーもいっぱいで、窓は大きく区切られ、開け放してあるせいでカーテンが大きくはためいている。今日は風が強いのか、閉めても閉めても閉めても閉めても閉めても…開いてしまうので、予備に持ってる髪ゴムで結んでおいた。まだパタパタいってるけど、当分開かないだろう。

 ふぅ。

「てか、なんで私が男テニの日誌なんか書くんだ?」
 物凄く理不尽に思う私は間違っていないと思う。

 だって、賭けには勝ったし。そりゃ、不二先輩は約束を破っているわけじゃない。ただ、竜崎先生とか菊丸先輩とか大石先輩とか桃城とかリョーマは、賭けをしたわけじゃないから、マネージャー勧誘を止めてくれない訳で。会長はそんな部員を止めてくれないわけで。

 だいたい大して知りもしない、興味もない男子テニス部の日誌に一体何を書けと。今日もギャラリーがうざかったとか? リョーマが生意気だったとか? 海堂には睨まれるし、桃城は変だし。菊丸先輩はウルサイぐらいに元気で、不二先輩は笑ってるだけかと思ったら、こっち見てクスって…あ、思い出したら、怖くなってきた。なんか、怖いんだよね。不二先輩。 大石先輩は、なんだかもうマネージャーやってほしいってコト言うし。

 会長、手塚先輩は何考えてんのかわかんないし。わかんないけど、リョーマをランキング戦に出してくれたのは良かったなぁ。なんか、荒れるっていうより、アイツは新風って感じだ。今日みたいな、なにかを起こしてくれる風。

 それが、越前リョーマ。

 クスリと苦笑を零したのと、部室のドアが開いたのは同時だった。

「乾先輩?」
「早いね、麻生さん」
 入口は丁度光が差しこんでくる時間だったのだが、その長身にほとんど遮られるのを目を細めて見た。

「乾先輩こそ」
 かすかに微笑む姿に、一抹の淋しさを感じる。

 この人は、先日リョーマに負かされた人だ。試合、私も見てたけど、素人の私が見ても強かった。でも、リョーマが楽しそうだったから、これは決まったなって思ってた。ごめん、乾先輩。

「俺はいろいろと準備があるからね」
 ロッカー脇のベンチに鞄を置き、ごそごそと何かを出しては置いてゆく乾先輩は、はっきりいってかなりの不審人物だ。出していく中に、さらに不審なものを発見。

 とりあえず、手に取ってみた。

 表紙には「乾ノート」と書かれ、ナンバーがふられている。一体何のノートだ?

 とりあえず、開いてみた。中身は普通の罫線ノートだ。そこに細かい字で何か書き込まれている。

ーー乾汁作成方法

(は?)
 ごそごそとしている乾先輩とノートを見比べる。それと、テーブルに並べられたものを見比べる。なんでか家庭科室のミキサーNo.36まである。

「なに、してるんですか?」
 何気ないというより、恐る恐る聞いた私の声に、ぴくりと動きを止め、振りかえる。丁度吹き込んで来た風でカーテンがはためき、その中途半端な隙間から差し込んだ光が眼鏡に当たって、反射する。

「なにって、準備だよ」
 眩しさに目を閉じてしまっている私の手元から、ノートが抜き取られる。

「あぁ!? ずるい…!」
「え?」
「見えてない間に取らないで下さいよ! まだ全部見てないのに!」
 名前と材料しか見れなかったよ。

「どこまで、見た?」
「乾汁ってなんですか?」
 間髪入れずに聞き返すと、明らかに安堵のため息をこぼしやがった。なんだ、重要なのはもっと別な頁にあったのか!?

「丁度いい。味見するかい?」
 また鞄から別なものを取り出した。理科準備室にあるみたいな半透明の白い瓶だ。たぶんと深海色した液体が揺れている。

「…なんですか、これ」
 準備の良いことに透明のプラカップを取り出して、4分の1ぐらいまで入れてくれる。深い蒼と深い碧の液体は、どうみても絵の具の藍色と深緑色と黒を混ぜたようにしか見えないんですけど。

「飲み物だ」
「えぇ? 変なものはいってるんじゃないですか!?」
「使ってるのはすべて食べ物だ」
 うそだ…! 普通の食べ物をどこをどうしたらこんな色の液体に出来ると…!?

「まぁひと口味見てみなよ」
「う…」
 少ないとはいえ、中で揺れる液体はとても不気味だ。本当に食べ物で出来てるのか不安だ。

 目の前では、やけに楽しそうな乾先輩。ここで断ったら、どうなるんだろう。とりあえず、乾先輩に勝てる情報はひとつも持ってない。むしろ、こっちのが弱み握られてそうだ…!

「本っ当に食べ物で出来てるんですよね?」
「さっき材料見たんだろう?」
「や、そうですけど。どんな味なんですか?」
「野菜ジュースが一番近い、かな」
ーーかなって、何!?

 扉に目を走らせる。まだ誰も来る気配はない。どうしてこんなときに限って、桃もリョーマも来ないんだよ。てか、来られても困るけど、実験体になるのもいやだ。

「さぁ」
 弱みを握られているかもしれないという恐怖のままに、両目を閉じて、カップを傾ける。野菜ジュースは物凄く嫌いなんだよ。だけど、なにか飲まなきゃいけない気がして。

 傾けたカップは最初、フルーツの香りがした。

 …何故?

 しかし中身もフルーツ味だった。

「どう?」
「野菜ジュース…?」
「そう」
「果物入れてません?」
「入れてないよ」
ーーえー?

 もう一度カップを傾ける。今度は全部流し込む。舌に触れた時も、喉を通って行く時も、全部飲み込んだ後も。やっぱりフルーツ味。

「…フルーツジュース…ですよ?」
「そう?」
 なんだ。怖がってちょっと損したかも。カーテンを止めていた髪ゴムをはずして、ポケットにしまう。

「竜崎先生に呼ばれてるんで、行きますね」
 飲んだプラカップと部誌とシャーペンを持って、部室を出る。外に出ると涼しい風が首筋を通りぬけて髪を揺らす。ここ半年で慣れてしまった感触だ。以前までの肩口に触れていたささやきが懐かしい気がしないでもない。が、これはこれでいいか。

 口の中に残る、フルーツ味を楽しみつつ、腕を伸ばす。天を掴み取る力はもうないけれど、それでも。

「ーー今日もイイ天気だーーっ」
 肯定するのは、青い空と高い空とこの身に感じる爽快な空気の気配。

ーーこんな毎日がずっと続けばイイのに。

 不覚にもそんなことを考えてしまった私は、まだ放課後の惨劇を知らない。



p.2

(乾視点)



 麻生晴樹
 2年8組
 家族構成:父・母(共に名バスケットプレイヤー)ーー

 脳裏に浮かぶ少女のデータが無意識に流れる。同時に先日の菊丸とのゲームをしていた姿が浮かんだのは、彼女の髪型のせいだろうか。どれほどのデータを集めようとわからないのは、女性の髪型ひとつでの変化だ。どうすればそこまで変わることができるのか、まだまだデータを集める必要性があるな。

「いいじゃないか、今からでもさっそくやらせよう!」
 竜崎先生のそばに立つ麻生は、珍しく髪を一本に括っている。ジャージ姿にならないのはせめてもの抵抗といったところだろう。

 総じて彼女は甘いのだ。何事においても。決めてを握っているのに、決してそれを悟らせない。奇妙な強さを持ち合わせながら、人を気遣うことをやめない。誰が止めても止まらない。それが麻生という少女だ。

 だからこそ、チームに負担をかけることに耐えられなくて、バスケから離れたのだろう。

「麻生、そのボールの管理は任せるよ」
「またですか」
 苦笑しながらの返答は予想通り、愛しそうにボールを見下ろしている。

 彼女はバスケだけが好きなわけではない。バスケが一番好きなだけであって、球技というものならばなんでもこなしてしまう。だからこそ、菊丸とあれほどのプレーが出来るのだろう。

 未来は無数にあるというのにまだ過去を引き摺る麻生を、竜崎先生は何故テニスに引きこもうとしているのかわからない。けれど、バスケに彼女が戻る確率は限りなく低い…。たった10分間のゲームで、逃げ出した理由は麻生の目にある。屋外で完全に左目の視界がない彼女の、右目の集中の限界が10分。もともとは動体視力もいいし、体力もあるのだから、あの時のロブの理由はそれしかない。

「さて、行くとするかね」
 竜崎先生の言葉を合図に、麻生が軽々とボールの入った籠を持ち上げる。もちろん両手だが。俺ももうひとつのさらに重い箱を持ち上げる。こちらはパワーアンクルだ。

 三人で校舎を後にし、テニス部の部室前で一度先生と別れる。

「それ」
 声をかけても反応はない。両目を閉じて、じっと何かに集中しているようだ。視覚を100%カットすることで他の感覚がより研ぎ澄まされるというが、彼女にはそれができるということだろう。

「重くないかい?」
 両手を離し、箱が落下する。バラバラに落ちるボールを見ることもなく、何をずっと聴いているのだろう。

「…乾先輩、すぐ戻ります…!」
 箱が落ちるのと麻生が駆け出すのは同時で、そこら中に散らばるボールよりも俺は一瞬だけ見えた表情が焼きついていた。

 6ヶ月間なりを潜めていた麻生の性格が表に出ているのは、理解できる。理解は出来るが、その姿にどうして何人もの男子が魅了されたのか。今初めて理解した。

ーー好きな女性に見られているときの試合、か。

 まず間違いなく男子テニス部全体が惹かれているな。俺も含めて。

「最初に調子が狂うのは、誰かな?」
 散らばったボールを拾い上げ、俺はテニスコートへと向かった。

 麻生はまだ戻らない。方向と彼女のこれまでの対処からして、戻ってくるのは丁度誰かがコレを飲む頃だ。彼女はもう誰かに試飲したことを話しただろうか。

ーーどちらにしても、飲むことには変わりないけどね。

 含み笑いをする俺を、ランニング中の2年が怪訝な目で見、手にあるものを見て、急いで視線を逸らして走って行った。

あとがき

何かが…違う。何が…違う?
乾先輩難しいです。うぅ…っ
でも、アレの前をどうしても書きたかった<ぇ。
晴樹さんは一応天才型なので(~)、味覚を不二先輩とお揃いにしてみたりv
え、ダメ?
(2003/11/08)