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書名:Routes
章名:読切

話名:Routes -2- luna - 03. 鬼


作:ひまうさ
公開日(更新日):2004.4.27
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:6076 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 4 枚

モノカキさんに30のお題(03)

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p.1

 子供を一人、拾った。魔物に襲われたという旅人に頼まれ、訪れた家で生きていた子供だ。いうなれば、魔物に育てられていた子供であるのに、どこか特別な人間の空気を持っていた。…どう見ても、魔物には見えなかった。

 どちらかというと、彼らが敬遠するものに近しいものを持っていたというのに、殺さずに生かしておいたというのが不思議でならない。

 子供は最初から死んだ目をしていて、姿が母であるものが倒れていても、なんの感情も無い子供だった。悲しんでいるようにも喜んでいるようにも見えなかった。ただ、彼女が終わったと思っていたことだけが感じられた。俺はもともとそーゆーのは得意じゃないんだがな。

 母親が魔物だと聞いても、それは変わらない。驚きもしないし、怖がりもしない。淡々と、人形と話しているようだった。

 また、連れてこられたというのに、彼女は少しも騒がなかった。それなのに、働かせてくれという。ここには子供のできる仕事なんて少ない。だが、やらせてくれというので、給仕の手伝いを任せた。

 働いているときだけ、動いているときだけ生き生きとしていた。ただ、時折振り返る。誰かを、待っているようだった。

 本人にその自覚は無い。

「ヒナ、飴いるか?」
 手下が戯れに買ってきた飴玉を差し出すと、始めが野うさぎのような目をしていた。それが次第に怪訝な色を濃くしてゆき。

「いらない」
 堅く、拒絶した。それから、仕事しながらも視線が何度か手の上を行き来する。

「やっぱり欲しいんじゃないのか?」
「いりませんっ」
 言いながらも視線が離れない。

「本当に、いらないのか?」
「今、忙しいんです。用事がそれだけなら、仕事に戻ります」
 全然忙しくないのに、そんなことを言う。無理して強がっているのに気づいて、笑いがこみ上げてくる。それが、お気に召さなかったのか、キッと睨みつけてくる姿はやはり小動物。

「ヒナ」
「もう、知りませっ」
 開いた口に放り込んでやると、一瞬泣きそうになって、慌ててキッチンへ駆け込んでゆく。…本当に、いらなかったようだ。

 肩を落とす俺を、手下の一人がそっと手招きする。

(なんだ?)
 キッチンをのぞいてみると、実に幸せそうな子供の姿。

「そんなに好きなら、素直にもらっときゃいいじゃねぇか」
「クラにはわかんないの! 飴はね、最高のご褒美だったんだからっ」
「はいはい。親父さんのお土産、だろ?」
「いっつもね、いろんな飴を持ってきてね、お留守番のご褒美にくれたのっ、それが、新しいお母さんが来てからは…」
「しゃべってねぇで仕事しろよ。ほら、舐めてんの見られたくないんなら、皿拭け、皿っ」
「美味しー…っ」
 幸せをかみ締める姿に、ようやく安堵した。彼女は慣れていないだけなのだ。ただ無条件に与えられる幸せに。ご褒美に。

『娘を、助けてくれ』

 俺が盗賊でもかまわないといった男は、狂っているのだと思った。

『生きていてくれるなら、それで、いい』

 その言葉の意味が、やっとわかった。

「生きているご褒美、か」
 今度、そう言ったら、あの笑顔は俺にも向けられるのだろうか。考えただけで、ワクワクしてくる。

「おい、飴はまだあったよな?」
「はい」
 どんな風に返してくるのか。そのときがとても楽しみだ。



p.2

 室内に怒声が飛ぶ。皿も飛ぶ。取り逃して割れると怒られるけど、飛んでくるものが怖くて目をつぶる。割れる音は、響かない。誰かが取るからだ。

「酒だ、酒!!酒もってこいっ!!!」
「つまみはまだか!?」
 数日前にここへ連れてこられ、仕事を与えられた。もしかすると、誘拐とそれを呼ぶのかもしれないけれど、私にはもう心配してくれるような人はいない。母は私を産んでほどなく他界したし、義母には嫌われていた。父は、昔から旅をしていることが多かったけれど、義母を連れてきてからは一度もその姿を見たことは無い。また、旅に出たのだろうと思うけれど、父は一度たりとも私を顧みることは無かったから、きっと私を嫌いなんだろう。目下のところ心配してくれそうなのは小さな友人が一人きりで、その友人はめったに会いに来ないときてる。そんなにちっぽけな私一人がいなくなったところで、困る人なんて誰もいないのだ。ただの一人も。

 ここに慣れるのは、意外に早かった。みんなが優しいのもあるし、きっと空気があっていたのだろう。ずっと、待っていた居場所に来ることが出来た気分で、とても安心する。

 仕事といえば、食事係と呼ぶにはほど遠いが、給仕としての仕事を与えられた。当番のつくった食事を運ぶのが私の役割だ。歩くたびに上に皿を積み上げられたり、次々と用事を言いつけられたり、けっこう忙しい。でも、ここでは食べ逸れるということは無くて、毎日色々なものを食べれるし、色々なことを教えてくれる。でも、物事には限界と限度ってものがあって、まだ子供の私の容量はとても小さい。

「朝飯はまだかよっ」
 だから、その言葉でいい加減、キレた。

「そんなにいっぺんにできるわけないでしょぉっ!?」
 叫んだとたんに、みんなで笑い出す。つまり、わざと言って楽しんでいるのだ。たった十歳の女の子をからかって遊ぶなんて、馬鹿みたい。

 運んできたばかりの大皿をテーブルに乱暴に乗せるが、みんな笑っているばかりで食べようとしない。せっかく運んできたのに。

「悪い悪かった。ほら、コレやるから、機嫌直せよ。ヒナ」
 ここの中心となっている男が差し出した、キラキラ光る石をはねのける。澄んだ悲鳴をあげて、石は床に放り出される。でも、そんなものに興味なんてない。

 私を連れ出してくれたのは、盗賊団らしい。らしいというのは、私はそれがどういうものなのかよくわからないからだ。だって、何が正しくて何が間違っているかなんて、私にはわからない。わかるのは、人を殺めるのがいけないことだということだけだ。彼らは盗賊というわりに快活で、養母よりもよっぽど良い人間だ。何より血の臭いがしないし、少なくともその優しさが偽りでないことが肌で感じられる。この勘はまだ外れた事が無いから、絶対だ。

「お頭、ヒナは花より団子ですよ」
「馬鹿にしないでよ!」
 隣から差し出された手の上のキラキラの飴の包みをひっつかみ、即座に開いて口に放り込む。

「ほんはほほへはははへひゃんっはははーっ!」
(こんなものでだまされないんだからー!)
「しっかり食っといて何を言ってんだ」
 上から頭を押さえる手を押し退ける。

「ひゃへ…っ」
 がりっと、二つの感触がした。飴を噛んでしまったのともうひとつ。

「あ」
 口に手をつっこむ。この感覚は覚えがあるから、たぶんアレがあるはず。

「どうした?」
 取り出したそれをずいっと、お頭に差し出す。

「ん」
「歯が抜けたのか。子供の歯だな、こりゃ」
 子供の歯、つまり、それは。

「投げてい?」
 首を傾けて聞くと、顔を赤くして、頭をまたなでられた。お頭の手は、おっきくて、暖かい。そのお頭に抱えあげられ、肩車される。いつも見上げている仲間を見おろせて、ちょっとだけくすぐったい。彼は何も言わずに、そのまま外に出る。

 いつもより空が近い。

「上と下、どっちだ?」
「下の歯」
「おっし、じゃあおもいっきり上に投げろ。新しい歯が丈夫に強くなるようにな」
「お頭、そんな迷信知ってたんだ」
 方々が意外だと声が上がる。そんなの信じてなさそうなのに。私だって、別にちょっとしか信じてないけど。

「いいから投げろ」
 言われるままに、屋根に向かって投げる。

「福はー家!鬼はー外っ!」
 なっ!?

「お頭、それ絶対違うっ!!」
「ははっいーんだよ。縁起事なんだから」
 そーゆーもの!?

 私の疑問を余所に、お頭は私を肩車したまま小屋に戻った。やはりお頭は変な人だ。

あとがき

盗賊団の名は、悪夢。主人公の名はヒナ。
ちょっと前に置いておいた『女神の眷属~月神篇~』の番外編?かもしれません。
[鬼]って、なんとなく赤黒いイメージ色が付きまとうので、あえて豆まき。
豆まきというとFAの豆が…動く危険物の錬金術師が…!
あわわ。こうやって書くと余計に暴走しそうだ。THE・豆まき!
妄想を暴走させてないで、次も頑張ろう。
(てゆーか、これは本当に[鬼]でいいのか? [飴]じゃないか??)
(2004/04/27)