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書名:読切
章名:パロディ童話

話名:桃パロ - 24. 3K


作:ひまうさ
公開日(更新日):2005.4.6
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:3243 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
モノカキさんに30のお題(24)

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p.1

 朝、6時。僕の日常は、穏やかな目覚まし時計の鳴る音で始まる。決して、騒々しい足音やらは起きない。そう、決して。

(とててててて…)
 この家に住んでいるのは当然ながら僕の家族で、階下ではすでに父母が起きているはずだ。彼らの教育方針では、決して僕等を起こさない。遅刻しようが何だろうが、全て自己責任でやれというわけだ。当然ながら、二つの事象が起こり得る。一つは自力で起きる。もう一方は、起きない。

 目覚まし時計で穏やかに目を覚ます僕は前者で、後者は同じ顔も双子の姉だ。彼女の寝相は至極悪く。決して頼まれはしないが、頼まれても起こすつもりはない。そんな身の危険を呼び込むようなことをできるわけがない。

 まあ、そんなわけで、僕の部屋に軽い廊下を跳ねる足音が近づいてくるわけがないのだが。

「静葉どのっ、何の音でござるかっ? 敵が攻めてきたのか?」
 勢いよくドアを開け、部屋に飛び込んできた子供がまっすぐに目覚まし時計に向かおうとするのを、足をひっかけて止める。

「ぎゃっ」
 あまり、可愛い悲鳴じゃないな。姉さんの設定にしては。

 この子供、見た目は桃太郎のコスプレをした幼稚園児だが、れっきとしたロボットである。AI学習機能付きで、普通の食事まで出来てしまう上に、正義・忠臣切り替え機能付き、変身機能付きの高度精密機械だ。良くできているだけに、足をひっかけただけでは壊れないというのがすごい。これだけ機能が詰まっているのだから、あまり衝撃を与えるというのは良くないはずなのだが、その辺の対策は練りすぎるほど練られていて、個人的に非常に迷惑。

「な、なにをするでござる~」
 顔から見事につっこんでも傷一つないのがすごい。ほっぺたをつまむとちゃんと柔らかかったりするけれど、そのまま持ち上げようとしてもさすがに重くて持ち上がらない。

「いひゃいひぇぎょじゃゆ~(いたいでござる~)」
 痛覚まであるようだ。手を放すと、彼はぷりぷりと怒っている。

「ちび桃」
「拙者は『ちび桃』などという名前ではないでござるっ」
 一端に名前を主張するか。便宜上、僕は『ちび桃』と呼んでいるが、彼にはちゃんとした名前がある。もちろんそれは味気ない番号なんかではないのだが、愛情をもってつけたかとか聞かれるとわからないとしか答えようがない。何しろ、彼は僕の姉が高熱を出しながら作ったロボットで、

「あ、ちび桃。姉さんは起きてる?」
 ふいと顔を背けるだけで何をするでなく、とにかく僕を視界から消そうとしている。よっぽど、自分の名前が気に入っているということだろうか。まったく、世話のやける奴だ。

「桃汰、姉さんを起こしてきてくれ」
 彼の名前は桃汰。彼の製作者は、僕の姉。

「承知したでござるっ」
 嬉しそうに部屋を出て行く桃汰に、僕はそっと悟られぬように手を合わせた。

 僕の双子の姉が寝起き最悪。頼まれても起こしたくはないが、頼みを聞かないと何をされるかわからない。故に、僕の身代わりを頼んだようなものだ。

 足取り軽く、ダイニングのドアを開ける。

「おはよう、静葉ちゃん」
「おはようございます」
 少女のように機嫌の良い声がキッチンから聞こえてきた。朝から鼻歌を唄いながら料理をしているのは、僕の母だ。随分と機嫌が良いなと思っていると、ダイニングから父の声がかかった。

「はやいね、静葉君」
 珍しいという言葉を寸でのところで飲み込んだ。父は某研究所に勤めていて、月に数回しか家に帰ってこない。前に遭ったのは一週間前だったか。今回はいやに帰ってくるのが早い。

「おはようございます」
 父にも挨拶を返し、学ランの上着をソファにかけて、一旦洗面所へ向かう。並び始めた朝食を横目に部屋を出ようとしたときだった。



  ゴガンッ!  うぃぃぃ…ん。



「あら、なんの音?」
「桜葉君は朝から元気だなぁ」
 何を暢気なことを言ってるんですか。父さん、母さん。あの小さい音を聞き分けたのはえらいけど、朝から危険な創作活動に走るのだけは止めて欲しいよ。あの音はまぎれもなく、姉さんが地下の実験降りた音だ。寝ぼけて作るモノほど、意識が朦朧としている時に作るものほど、その危険度は高い。

「父さん、学ランのボタンは元に戻しておいてよね」
 ダイニングに戻ると、学ランの金ボタンがすべて反対になっていたので、まぎれもない犯人に言っておいてから朝食の席につく。

「いただきます」
 朝御飯にしてはおかずの量が多いことからも、母の機嫌の良さは伺える。とにかく、さっさと食べて登校しよう。

「桜葉ちゃん、今度は何を作ってるのかしら」
「もしかすると、桃汰の兄弟かもしれないね」
 げ。

「あらあなた。妹かもしれないわよ」
 被害を被るのは僕なんだから、あんまり暢気にとんでもない発言をしないでほしい。

 朝からこれ以上ブルーになるのもいやなので、TVをつける。

「近年の国内犯罪は六つの傾向に分けられ、3K2S1Hと呼ばれます。この六つの傾向は」
 画面にパネルが表示される。内容が、まんま姉さんに当てはまるあたり納得してしまった。これほどぴたりと当てはまる人を、僕は他に知らない。

 上着を引っかけて、鞄を抱え、玄関に向かう。

「静葉ちゃん、お弁当っ」
 靴を履いている僕のところに母が駆けてくる。その後ろから、満面の笑顔で姉さんが走ってくる。その笑顔は、最も危険だ。

「静葉は外へ行くのか? 拙者も」
「駄目だ」
 ちっ、なんでこいつはこんなにちびなのに速いんだよ。おかげで、先に期待に満ちた目で見上げられたじゃないか。しかし、そんな目をして同情をさそうとしても無駄だ。姉さんのつくったものが外へ出ると、僕の被害も拡大するんだから。

「桃汰は留守番してろ」
「いやじゃ、いやじゃっ。拙者も外へ行くでござる~」
 幼稚園児か。

「とーたちゃん。お外なら、後でママが連れていってあげるわよ?」
「拙者は静葉と一緒に行くでござるっ」
「駄目」
「駄目って言っても駄目じゃ!」
「連れてけばいいじゃない、静葉」
 問答に姉さんが加わると、もっと厄介になるんだよ。

「姉さんは黙ってて」
「あんたに忠誠中だから、いい護衛になるわよ」
「なんで学校に行くのに護衛がいるのさっ」
「だって、静葉可愛いから」
 頬を赤らめて、嫌なことを言うな。同じ顔で体を捩らせるな。違和感がないどころか、可憐さが増しているあたりが恐ろしい。

「襲われないようにっ、武器も加えたから」
 武器!?

「うむ。桜葉殿に、ぱわーあっぷ、してもらったのだ」
「余計に連れていきたくないよっ」
 頭に先ほどのTVの言葉がよぎる。

「3Kは凶悪化・巧妙化・国際化、2Sは組織化・スピード化、1Hはハイテク化を表します」
 で、そーゆーのにはどうやって対処すればいいわけ!? 意味がわかってても役に立たないよ、3K2S1H!!

「い、行ってきます! 母さん、桃汰はちゃんとつかまえといてっ」
 さっと外に出て、すかさず玄関を閉める。そのまま走って登校はいやだが、せめて追いつかれる前に見えないところまで逃げないと。

 朝の晴れやかな空気の中、数台の自転車が追い抜いてゆく。見知った顔がいる。

「おい、理人っ」
「乗るか?」
「頼む」
 わずかに自転車のスピードがゆるんだところで、彼の肩をつかんで地面を蹴る。浮き上がった体を後輪上のカバーに乗せる。

「…たしかに乗るかって聞いたけどな。飛び乗らなくても、停めたって」
「飛ばせ」
「命令かよ」
「急がないと、やばいんだって!」
「なに、呼び出し? じゃあ、しっかり捕まってろよ」
 ぐんと体が引き離されそうになり、手の平に力を込める。頼もしい友人のおかげで、今日は振り切れそうだ。

「ふぅ」
「朝からそんなに疲れてちゃ、一日持たないだろ」
「そうはいってられないよ。これからだ」
 やっと、おだやかな一日が始まるんだ。学校なら、姉さんも何もしてこれないはず。

「これは貸しだからな。あとで返せよ」
 …学校は学校で別の敵がいたか。まぁ、姉さん以上の受難なんか起こりようもないからいいか。

あとがき

3K2S1H
近年の国内犯罪にみられる,六つの傾向を表した語。
3K は凶悪化・巧妙化・国際化を,2S は組織化・スピード化を,1H はハイテク化を表す。
〔2000 年代初頭から使われる〕


モノカキさんに30のお題『3K』で書こうとしたら、桃汰と静葉に邪魔されたー。
この話は恋愛モノにならないしなぁ。
恋愛モノにするにはキャラ増やさなきゃならないし、うぅん(悩。
この話の人たちは、できれば、家の中だけで話をまとめておきたいんだけどなぁ。
桃汰が外に出て何をやらかすのか、作者にもちょっと予想できない…。


訳あって、ここでは現在(05.04.06)未公開の中編『桃源郷の夢を見る』の番外篇です。
読みたい人は、ググると読めてしまうかも!?


*『桃源郷の夢を見る』は日本昔話の桃太郎のパロディ小説です。
(2005/04/06)


改装に伴い、再公開しました。