右の手元で遊ぶボールの音は、一定のリズムを狂わせることもないというのに、やっている人物は左手で文庫本を開いている。その左手側には、他にジュースが置いてあったり、テニスラケットが置いてあったりだ。
木漏れ日差す木の下のそんな光景を見ることに飽きるものはない。当の本人は気がついてもいないのだろうが。
「やあ、待たせたね」
「遅いよ、ユキ」
やや不機嫌な彼女の言葉に苦笑が零れる。君に見とれていたなんて言ったら、直ぐさま手元のボールが飛んできそうだ。
文庫本を閉じて、こちらを見上げる大きな瞳は不満をありありと示している。かなりご機嫌斜めになってしまっているというのは、言うまでもない。
「結果はどうなの?」
「うん、良好だって」
「そりゃ良かった」
言う割にあまり嬉しそうじゃない彼女の顔を覗きこむ。
「僕が来るまでの間に何かあった?」
「あったわよっ」
バシッとボールを地面に叩きつけ、話始める。それが終わる頃にはきっと暗くなってしまうだろうから。
「ねぇ、その話はどこか喫茶店に入ってからにしよう」
ここにいると、可愛い貴女をまた誰かが好きになってしまうから。
「うん! あ、駅前に美味しいケーキショップがあって、中で食べられるよ。行こう!!」
立ちあがる勢いがつきすぎて、倒れ込んでくる柔らかな体を抱き留める。あ、ちょっとこのままでもいいかもしれない。貴女のいつもの匂いが、優しく僕を包み込んでゆく。さっきまで無味無臭無菌の病院にいたせいか、より濃く心に染みこんでゆくようで、癒されてゆくようで、とても心地良い。
「ご、ごめんっ」
慌てて離れようとするのを抱きしめる。
「ねぇ、心配しなくても僕はもう大丈夫だよ」
「でも…」
不安そうな顔を覗きこむ。大きな潤み始めている瞳に、僕はどんな風に映っているのかな。少しでも、男として意識していてくれたらというのは淡い期待。
いや、もっと意識してくれたって良いはずだ。
「…ぅん!?」
頬を包み込んでついばむように何度も口づける。
「な、ちょ、ゆ、ユキ~っ」
狼狽える彼女は、それでも拒むことはなくて。
「好きだよ」
僕の言葉に朱に染めた顔をこくりと揺らした。
御礼と言うよりも、リクエストの練習です。
そのうち「B-girl」でも出す(予定)の立海部長、幸村です。
(あ、あぶな。危うく「様」とか書く所だった…)
まだまだニセモノですね。精進します。
(2006/03/13)