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書名:GS
章名:読切・他

話名:GS@三原色 - Fairy Tales


作:ひまうさ
公開日(更新日):2002.9.28
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:4853 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 4 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
1)

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p.1

 それは遠い遠い昔の出来事。僕は妖精に出会った。

「…ほんとにいるんだ…」
 夕暮れの小さな公園にはそれ以外の何もいなかった。僕の目に映っていたのはたったひとりで公園のブランコを漕いでいる女の子。彼女はひとりで無表情に、ブランコを漕いでいた。ただ闇に染まりゆく空を睨みつけていたかと思うと、泣きそうな顔を後ろに逸らせてゆく。そうかと思うと勢いを増して、ブランコを漕ぐ。どうして彼女がそうしているのか、僕はすごく不思議だったんだ。だって、僕は絵を描く以外に何も楽しいとは思わなかった。どんなに誉められても、どんなに可愛がられても、絵を描くための材料さえあれば後は何もいらなかった。

 不意に彼女の手がブランコを離れた。そのとき。羽根を見たんだ。白くて透明な4枚の羽根。たしかに彼女の背中にあった。

 僕は妖精にあったんだ!!

 気がつくと、踵を返して僕は家に帰っていた。そのまま部屋に閉じこもって、何枚も何枚も描き続けた。何枚も何枚も描いて、それでもあの時の感動に比べれば、微々たるモノで。千分の一も表現できてなかった。

 それが僕が初めて賞をとった作品。



p.2

 アトリエにそっと足を踏み入れる者がいる。音を立てないように、そっとそっと僕に近づいてくる。

「はかどってる、色?」
 ひょいっと後ろから覗きこむ気配と香る華の匂いに、僕は手を止めた。

「ここの色がね…決まらないんだ」
「ふぅ~ん。紅茶入れたから、ちょっと休憩しない?」
 興味のなさそうにいいながら、春霞は軽やかに離れた。つかの間の残り香が薄れていく寂しさに、手を伸ばしかける。でも、気づかない彼女は流れるように、窓に手をかけた。新しい風が部屋に渦巻いていく。

「今日はローズティー?」
 立って春霞の後に付いて僕はテラスに出た。その瞬間に光りの洪水が僕に押し寄せてくる。光の中にいるのはいつも彼女ひとりだ。

「ふふふ、わかった? 瑞希さんが差し入れてくれたの」
 テーブルには赤い花弁を浮かべた紅茶が、甘い香りを漂わせていた。

「そう」
「でね、あんまり見事だったから、アトリエに閉じこもってる色にもお裾分けしようと思って。キレイでしょ?」
 春霞がいうように、白い陶磁のカップの液体には鮮やかな赤い花弁が浮き沈みしていた。

 彼女のこういうセンスはとても素晴らしいと思う。僕にはとても出来ないから。

「あぁキレイだ…」
 カップを持ち上げるとバラの香りがしたが、僕にはその何倍も春霞の存在が甘い。とてもとても甘い。

「…どう?」
「うん。おいしいよ」
 心配そうに聞いてくる声が、息が頬にかかってくすぐったい。

「…なんともない?」
「うん。…それはどういう意味だい?」
 あんまり聞くから心配になって聞き返すと、春霞はほっとしたように向かいの椅子に座った。

「深い意味はないの。深い意味は」
「…浅いの?」
「や、うん、まぁ」
 妙に歯切れが悪い。いつもハッキリキッパリしている彼女らしくもない。

「なんだい?」
「え?」
「いいたいことはハッキリいってくれないと」
 そういうと、春霞は難しい顔で黙り込んでしまった。

 僕たちは来週、結婚をする。準備もマミーに手伝ってもらったりして、滞りなく進んでいた。不安になることは何一つない。だって、やっと彼女と本当の家族になれるのだから。

「春霞?」
「――ちょっと、ね。色は不安にならない?」
「どうして?」
 いわばこれは形だけの儀式。これから旅に出る僕らの最初の儀式だ。

「どうしてって…」
「本当は式なんて挙げなくても良いんだ。僕らはずっと二人でいるんだから」
「そう、そうだけどね」
 まだ歯切れの悪い返事に、段々と心がささくれだってくる。僕といるのが不安なの?

「イヤなのかい?」
「え?」
「僕といるのがイヤなんてコトはないのだろう?」
 この僕とこうしてティータイムを楽しめるのは、春霞だけなんだから。とても幸運…いや、それは僕か。

「え、色?」
 春霞がこうして一緒にいてくれることこそが、僕の幸運。僕の最後の女神。

「イヤなはずないでしょ」
 そら、思ったとおりだ。僕は最高の女神に愛されているんだから。

「ただ」
「ただ?」
 なにか小さな呟きは、僕にまで届かなかった。風が僕に聞かせまいと邪魔をしたに違いない。突風で吹き上げられる髪を押さえつけて、必死で目を凝らした時には春霞は椅子を離れていた。

 テラスの端に立ち、夕暮れの空を見上げている。儚くて小さく弱く、まるで高校の時にみた雨の日の悪夢のようで。僕は彼女の隣に立って、そっと引き寄せた。

「ただ…なんだい?」
「なんでもないの」
 言いながら、コツンと頭を寄せて身体を預けてくる。でも、その瞳が庭の木々色に染まっていて、寂しさを増していく。僕が一緒にいるのに、どうしてそんなに泣きそうな顔をしているの。

「あ~そうそう。さっきのさ~蒼と紫混ぜて、ピンクを水で薄めたみたいなのにしてみたら?」
「なんだい、その色は」
「ふふふ」
 無理やりに作られた笑顔は僕を見ない。こういうときは絶対に誰かが絡んでいるんだ。

 自然と回した腕にさえ、春霞はいつも身体を震わせる。僕も僕がこうすることが許されるのか考えることもある。でも、そこにあるのはただ虚無ばかりで何も見えてこない。

 硝子一枚隔てているように、彼女が遠くて。もっと強く抱きしめた。今にも消えてしまいそうな儚さは、昔見た妖精を思い出す。

「ねぇ僕が妖精を見たことがあるって言ったら、信じるかい?」
 それが春霞にそっくりだって言ったら、魔法は解けて、僕の元から飛び立ってしまうのかな。

 春霞を笑顔でいさせるために、僕はなんていえばいいのかな。ただ愛しているというだけじゃ物足りないんだ。どんなに「愛」なんて言葉重ねても、僕も君も充たされないよ。

 言葉だけじゃ足りな過ぎて、言葉だけじゃ虚ろ過ぎて、言葉だけじゃ春霞を表現できないんだ。

 何枚も書き続け、何枚も賞賛されてきた絵も。今だ完成しない春霞の絵の前じゃ、ただのオエカキ。

 ねぇ僕が誰よりも春霞を愛していること、どうすれば伝えられるのかわからないよ。

 その小さな口で僕に語っておくれ。

 My Fairy …



☆j_shiki_s.jpg☆J☆

あとがき

何故か書きたくなった色サマ。ははは、偽者っぷりが見事?
そして、色サマがどうしてここまで暗く深くなるのか謎。
色サマの愛は枯れ葉舞う秋之論怒。じゃなく、秋の円舞。(ロンドと打って出なかったの~)
でも、この話、時期が読めない。一体春なの?秋なの? とりあえず、薔薇の花咲く季節ってコトで。
完成:2002/09/28