幕末恋風記>> ルート改変:近藤勇>> 元治元年水無月 03章 - 03.4.2#ぜんざい

書名:幕末恋風記
章名:ルート改変:近藤勇

話名:元治元年水無月 03章 - 03.4.2#ぜんざい


作:ひまうさ
公開日(更新日):2006.4.26 (2010.1.20)
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:2711 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
30#ぜんざい
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p.1

 甘い甘い甘~い匂いが辺りに充満しているぐらいなら、私は別に耐えられる。耐えるものでもないけど。ただ、私の中に入る甘い物の許容量はそんなに大きくないのだ。

 普通の、鈴花みたいな女の子は砂糖やお菓子といった甘い物で出来ているから、あんなに食べられると私は思っていたんだけど、新選組に入って私の中でそれは違うと認識は改めさせられた。

「口に合わない?」
「いや、すっごく美味しいです」
 同期の島田という力士並の体格の大男も度を超えて甘い物が好きだけど、まさかこの人も甘い物で出来ているとは、私は予想だにしなかった。ある意味納得だけど、ある意味私は納得したくない。なによりこの男が鈴花と同じようなもので出来てるなんて、私には考えるだに恐ろしい。

 私は思っていることが顔に出ていたのか、近藤は少しだけあげた顔を吃驚したように全部あげた。

「な、なんで怒ってんの、葉桜君?」
 鈴花と甘い物同盟組んでるからと私が言ったらどんな顔をするんだろう、この男は。

「いいえ別に」
 ぜんざいに箸を突き刺しつつも、私が笑顔で応えてやったのに近藤は哀しそうな顔をしないでほしい。

「本当に美味しいと思ってますよ。甘味は苦手ですけど、これならいくらでもはいりそうでしたし」
「ってことはもう食べられないの?」
 私を見る近藤の目は、どう見ても残りを付け狙う子供のキラキラと期待に満ちた目だ。近藤には大人なようで案外子供みたいなところが、こういう部分がある。

 おかげで私の悪戯心まで刺激されてくるから、私は箸で持って、差し出してみたら食べるかなという考えを行動に移した。

「食べますか?」
 本当に本気で冗談だったんだけど、次の瞬間、私はこの人には絶対に勝てないと実感した。

「マジ? いっただっきまーすっ」
 ぱくり、と。近藤は躊躇なく、人の箸から食いやがった。固まったのは私の方だ。

「何考えているんですかっ」
「なぁに怒ってんの?」
「怒ってませんっ」
 私は近藤が戸惑っているうちに器に入れてやろうと考えていたのに、なんでこっちが動揺しなきゃなんないんだ。

「あ、もしかして冗談だった? 本当は自分で食べるつもりだった?」
「違いますー」
 甘味が苦手な私が何故こんな甘味処にいるのかというと、情報収集のため女装姿となり、例によって絡まれているところを近藤に助けてもらったからだ。私は一時的にここに隠れるために近藤が入った店だと思ったんだけど、どうも違うようだ。

 だって、近藤がこの甘味処に入っていくときの顔は、私から見ても物凄い嬉しそうだったし。しかも店員がきたら近藤は即注文し、迷うことも全く無かった。

「何、ニヤニヤしてるんですか」
「いやぁ、こうして逢う度に意外な葉桜君が見られて嬉しくて」
 私は迷惑です。弱点ばっかり、この人に見られて自分が情けなくなるし、しかも私が見られるばっかりだ。私はあんまり仲間に格好悪い処は見られたくないっていうのに。

「じゃあ、近藤さんの苦手なものも教えてください」
「俺? 俺はぜんざいが苦手」
 目の前で既に三杯も平らげておいてよく言う、と私はため息を吐き出す。

「……饅頭怖い、じゃないんですから」
 近藤はよく知ってるねぇと、私を笑った。



p.2

 屯所へ帰るまでの道、私はしっかりと近藤に手を繋がれる。近藤が言うには私が拐かされないように、だって。近藤にとっての私は、とても小さな子供みたいだ。

「何か良い情報はあった?」
「三下がひっかかるばっかりで、大したのはありませんでしたね」
 折角女装しても、絡まれてばっかりで仕事になりゃしないと、私もつい愚痴がこぼれる。近藤が来なくてもこれまで私は上手くからまれたのを捌いてきたのだけど、いい加減飽きていたところで丁度助けてもらえて良かった。

 そういえば、まだ私は近藤に礼の一つも言っていないことに気がつく。だが、私が何かを言う前に近藤が続ける。

「二百名を超える人間が京に入ってるんだ、なにかあるとは思うんだけどねぇ」
「戦争でも始めるんでしょうか」
「でも、市街には剣を持たない商人や町人ばかりだよ。まさか御所に殴り込むわけでもないだろうし」
 こういうとき、先を知っている私としては、すごく言いたくなる。読んだだけだが、私はあの紙に書いてあるのが真実になるという裏付けを既に取ってある。だから、もしかしたら話せるかもしれないと、私はかすかな希望を舌に乗せる。

「あの、近藤さんっ」
 独り言に入りかけていた近藤を呼びとめると、私を見てくれる。だから私は言おうとしたけど、やっぱりダメで。咳き込んでしまった私を気遣い、近藤は背中をさすってくれる。

「大丈夫?」
「は、はいっ」
 どうして話してはいけないんだろう、と苦しい息の下て私は考える。一言言うだけで回避されることはあるはずなのに、いつもこんな風に咳込んだりして話せない。

「例の約束の制約……?」
 弾かれたように私は顔を上げる。私は山崎にしか約束の制約について話していないのに、どうして近藤がそれを知っているんだろう、と。て、そりゃ山崎が報告したって考えるのが普通だ。近藤は私にとっても山崎にとっても上役なのだから。

「そんなところです」
「難儀だねぇ」
「ホント、面倒ですよ。これさえなければ、皆助けられるかもしれないのに」
 芹沢を殺さなくても済んだかもしれないのに、と時々私は考える。すべては終わってしまったことだから、私が今更考えてもどうしようもないのだけど。

 私が考えていることがわかったのか、近藤は優しく背中を叩いてきた。

「頑張ろうね」
 山崎が全部話したかなんて私には分からない。けれど、事情なんて全部わからないのに近藤の言葉の通りにすれば、不思議とすべてうまくいきそうになる気がすることがある。制約が何だ、知らなくたって、ここに来てしまった以上、私は新選組を皆を、近藤達を守りたいという気持ちに代わりはないのだから、頑張るしかない。

「そうですね、じゃあ手始めに邪魔者をどうにかしましょうか」
 私が懐剣を取り出そうとしたところで、近藤に片手で制される。また近藤は私を止める無駄な努力をする気かと思いきや。

「小太刀でいいなら、使うかい?」
 差し出された近藤の小太刀を私は有り難く受け取り、鞘から抜いて無限に構える。近藤は愛刀の虎轍を抜いて、私に並んでいて。私はこの人と戦えば、どんな状況でも勝てないことはないと自信と安心が満ちあふれてくる。

「下手な尾行はそろそろ止めたら?」
 私の挑発を合図に、浪人が十数人出てきて、私と近藤を逃さぬように囲む。それでも私の自信は揺るがない。

 自信の現れで口端が自然と上向くの私は止めず、はやる気持ちで地を蹴り、誰より早く敵を迎え撃った。



あとがき

リクエストイベント「ぜんざい」
例の店に一緒に行ったものの、そういやこのヒロイン大酒飲みなので甘い物苦手でした。
で、近藤と移動してるとどうしたって絡まれそうなんですよね。
だって、ゲームの近藤さんって目立つから!!


イベントはこんな感じにオリジナル化されていきます。
…ダメですか?
(2006/04/26)


リンク変更
(2007/06/20)


改訂
(2010/01/20)