小中高ともまったく代わり映えのしない通学路を歩いていて、見覚えのない古い建物を発見した。
初夏には珍しい夏日和の気温は28度。夏日和じゃない。完全に夏だ。
「やだなぁ、白昼夢?」
半日の授業で終わってしまった帰路を、自転車を押して上り坂を歩いていた。
その家のある場所はたまに利用する近道があった。坂は急になるけれど、その分早く帰り着けるし、何より木陰があるので雨の日や日差しの強いときは利用することが多い。
なのに今目の前には随分古くからありそうな木製の門が構えてある。
「…あーもうっ」
がしゃんと自転車を壁に立てかけ、僅かな木陰に寄りかかる。少し休まないとやってられない。
そんな風に休んでいると、急に強くて涼しい風が吹いてきた。思わず目を閉じ、次に開けると門の前に男の人が立っている。
三十前後に見える男性は濃い緑の着物を着ていて、とてもおっとりとした様子に見える。
「何してんですか?」
「開くのを待ってる」
何を言っているのだろう。熱で頭をやられた可哀相な人なのだろうか。
「君も中で休むかい?」
振り返った男の笑顔が、一瞬眩しく見えた(幻覚です)。