暑いのは夏だからであって、だからといって、暑いのに耐えられるわけもなく。
「はーさん!?」
振り返ると、彼女が仁王立ちしている。彼女が怒っているのは果たして、素足で庭に出ていることか、浴衣の裾をたくし上げていることか、庭の池を囲っている石に座っていることか。
それとも池に足をつっこんで涼んでいることか。
「気持ちいーよ」
「もー、そろそろ予約のお客さん来るっていったじゃん」
「そーだっけ?」
そもそも予約制じゃないじゃん。
「今度からそうすることにしようって言ったのはーさんでしょっ」
言ったかなぁ、と考え込んでいると彼女が庭に降りてくる。
「そんなに暑いなら、春とか秋にすればいいのに」
好きにできるんでしょ、と怒られたけど、それは難しい注文なのだ。だって、夏以外の季節を長く思い浮かべていられないのだ。
「…ごめん」
「いや、いいよ」
わかっている彼女がすまなそうに言うのに笑って返す。
「しかたない。お仕事しますか」
涼むのはここまで。たまには彼女の言うことを聞いてやろう。