涼しい風が強く吹いてきて、解いてある髪を揺らす。
ここはいつもの屋敷ではなく、どこかの学校の屋上だ。眼下では生徒たちがスポーツに興じ、教室の開け放たれた窓からは教師たちの声が辛うじて聞こえるだけ。
「屋上って初めて来たわね」
「出口間違えたんでしょ、はーさんが」
醒めた彼女の言葉に苦笑し、自分の身長よりもかなり高い柵に背中を預ける。
「だって鯉のぼりが見たいっていうし、ね」
目の前の呆然としている少年に頬笑みかけると、怒ったように返された。
「だからってなんで屋上なんだよ!?」
「どこにあるかわからないからでしょ?」
私の代わりに答えてくれる彼女に甘え、私自身は空を仰ぐ。
青く青く澄み切った吸いこまれそうな空に目を細めて、風を感じる。
「まーどこでもいいじゃない。こんだけイイ天気だもの。どこかしら見つかるわよ」
目を閉じてかつて見た大きな鯉のぼりを思い浮かべ、もう一度瞳を開く。一瞬だけ、空にその鯉のぼりが泳ぎ、あっという間に風に流されかき消えた。