綺麗な着物をもらっても、今の自分に着る機会なんてないのに。
「俺がオメーにやりたかったんだよ。いいからもらっとけ」
「はぁ」
桜柄のそれを風呂敷に包み直し、それからしばらく忘れていた。山崎さんに見つけられ、たまには、と仕事も兼ねて。
「その格好で町で情報収集をしてきて」と着替えさせられ、送り出された。
懐剣だけで少し心許ないけれど、永倉さんのくれた着物というだけでどこか安心できた。
「あ、永倉さん?」
声をかけると吃驚した顔の後で、すっごく嬉しそうにしてくれて。
「やっぱ俺の見立てに間違いは無かったな」
「ありがとうございます」
「これから帰るんだろ? 送ってやるよ」
二人で屯所までの道を歩きながら、永倉さんはいつもよりもゆっくり歩いて、手を引いてくれて。
「ありがとうございます」
「あん?」
もう一度礼を言ったら、怪訝そうな顔をされた。
「なんだよ?」
「ふふ、何でもありません。ただ言いたかっただけです」
いつもそれとなく守ってくれている。小さな事だけれど、気が付いたらいいたくなっただけです。
「変なヤツ」
不思議そうにしていたけれど、やっぱり永倉さんは嬉しそうだった。