風の音に耳を澄ませる。聞こえてくるのは、騒々しい大掃除の音。聞こえてくるのは、大好きなあの人の足音。
「なぁにサボってやがんだ、オメーは!」
「痛っ!」
叩いた相手に不満の目を向けると、彼はからりと笑った。
「私の分はもう終わったから、ちょっと休んでただけですー」
「じゃあ、」
別な掃除を押しつけられそうな空気に慌てて背を向ける。
「台所手伝ってきますっ」
逃げようとしたのはバレバレで、即座に首に手を回して引き寄せられ。
「こっちはまだまだ終わらねェんだ。俺の部屋も頼む」
「やですー!」
「いーじゃねェか」
耳元に息を吹きかけられて、びくりと身体が跳ねる。私がどれだけ永倉さんを好きかなんて知りもしないでそんなことをするから、つい本音が溢れた。
「…嫌です。だって、永倉さんの部屋は白粉の匂いするんだもん…」
「あ?」
腕が緩んだ隙に抜け出して、手の届かないところで振り返る。大きく舌を見せてやると呆気にとられた顔をして、再び向けた背中に笑い声が響いてきた。