幕末恋風記>> ルート改変:斎藤一>> 慶応三年師走 14章 - 14.3.1-供花

書名:幕末恋風記
章名:ルート改変:斎藤一

話名:慶応三年師走 14章 - 14.3.1-供花


作:ひまうさ
公開日(更新日):2006.9.20
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:2153 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:榛野/葉桜
1)
揺らぎの葉(102)
斎藤イベント「供花」
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p.1

(斎藤視点)



 花を手に、人気の少ない寂しい場所へと足を運ぶ。死んでしまったヤツらが静かに眠ることが出来るその場所は、墓地と一般に呼ばれている。こういう場所で人と会うことは少ないが、それでも幾人かの仲間と会うことがあった。

 葉桜と会うようになったのは、いつ頃だったか。

 無縁地蔵に手を合わせる彼女に近づこうとして、三間をおいて足を止める。手を合わせ、頭を垂れて、熱心に語りかけている様子からは、普段の騒々しさは欠片も見えない。いや、普段は意識して騒々しくも笑顔を振りまいているのだろう。ここにいるときの葉桜は、一番素のままのような気がする。

 一間、近づく。香ってくるのは線香と焼香の匂い。

 一間、近づく。大抵、そこで彼女は嬉しそうに振り返り、わずかに落胆の色を見せる。

「早かったな、葉桜」
 彼女の置いた花の隣に、俺の持ってきた花を置く。彼女が持ってくる花はいつも白いものばかりだ。季節の白い花々を、手製の紙縒で束にしてくる。

「遅かったな、斎藤。私はもう済ませたぞ」
「そのようだな」
 彼女の前に座り込み、墓前に手を合わせる。

 新選組には多くの隊士たちが入隊してくるが、ものになるのはごくわずかしかいない。除隊になったり、些細な失敗で命を落とす者もいる。ここはそういった志半ばでこの世を去った者たちの墓だ。

 俺の後ろから葉桜の温かな気配が離れてゆく。その先にあるのは、いつも芹沢さんの墓だ。あの人と葉桜の間にどんな関わりがあったかは知らない。だが、芹沢さんが死んだその日からほとんど毎日彼女は来ている。忘れないためなのか、戒めのためなのか、俺にはわからない。

 土方さんたちに聞いた話では、芹沢さんを仕留めたのは葉桜だったらしい。その日から、雨の日も風の日も雪の日も、病で動けなくならない限りほぼ毎日来ている。最初の頃は、とても声をかけられるような雰囲気ではなかった。

 あの最初に彼女を見かけたのは、芹沢さんの葬儀が終わった翌日のことだ。晴れてはいたが、墓前の前で手を合わせずに正座して、向かい合っている姿からは普段の様子が想像も出来なかった。厳しい顔で向かい合っていた彼女の声は、とても小さかった。

「どうして、私に斬らせた」
 深い悲しみと強い後悔の篭もる声に、普段の明るさは微塵もない。

「目的を遂げるまでは、死なないんじゃなかったのか? 諦めないから、出て行ったんだろう?」
 怒りはなく、哀しみの言葉が弱く響く。

「諦めないから進むんだって、だから出て行くって言ったじゃないか。父様も私も、あんたの成功を待っていたんだ」
 生きていたら、芹沢さんはどう彼女に返しただろうか。

「何も、いらなかったんだ。私は別にあのままでもよかった。父様とあんたがいてくれたらそれだけで、よかったんだ」
「そばにいてくれれば良かったんだ。遠くに行かずに、そばで一緒に戦ってくれるだけで、それだけで私はーー」
 聞いているのは辛かった。だが、そのまま言葉は続くことはなく。

「…誰だ?」
 あの時、姿を現した俺にほっとした微笑を向ける葉桜は、泣いているように見えた。

 墓の前で手を合わせている葉桜にゆっくりと近づく。と、すぐに振り返る。

「…話はできたか」
「話が出来たら、怒られてるよ」
 あれから、ここで偶に葉桜と話をするようになった。大抵、彼女はまっすぐにこちらを見つめて、笑顔で話をする。辛気くさいのは嫌いなのだそうだ。

「それに、ここにあの人はいない」
 はっきりと言い切られて戸惑う。彼女はいると思ってきているのだと、考えていた。

「ここに来るのは、私が忘れないためなんだ。一時でも仲間だった者たちのことを、大切だった者たちを忘れないためだ」
 芹沢さんの墓を見つめる、その瞳はとても愛しく甘い囁きを持っているように見える。

「私、ここでは彼に辛く当たってばっかだった。何も言ってあげられなかった」
「…葉桜」
「でも全部わかっていたみたいで、ホントにイヤになる。この人」
 その声は今でも頼りにしているのだと、囁いている。心の支えとしているのだ、と。何故か急に葉桜が消えてしまいそうな衝動に駆られた。世界からいなくなってしまいそうな、そんな予感がして、その手を取る。葉桜の手はひどく冷たかった。今日は一体、いつからいたのだろう。

「なんだ、斎藤?」
 だが、こいつは聞いても聞かないだろう。ならば、今は早く葉桜が暖まれる場所へ移動した方が良い。そのまま手を引くと、力に引かれるままに歩み寄ってくる。警戒心など欠片もない。仲間なのだから、当然といえば当然なのだが、どこかで不満に思っている自分がいることも確かだ。

「そういえば、私の行きつけの饂飩屋で最近新しい料理を考えたらしくて、誘われているんだ」
 一緒に行かないか、とごく普通に接してくる葉桜はもういつもと何も変わらない。あの一人で墓に向かっているとき以外、葉桜は何も変わらない。

「ああ」
 頷くと即座に俺の手を引いて歩き出す。あっという間に立場は入れ替えられて、だけど、葉桜のそれはどこか気持ちの良いものだ。

 あの芹沢さんに向けられるような視線を俺は他にしらないけれど、いつかそれが俺に向かってくれるといい。俺ならば、葉桜と共にその道を歩めるから。葉桜が望む限り、ずっと共に生き抜いていけるから。



あとがき

Web拍手のリクエストで、斎藤さんの「供花」。
未だに読み方のわからない私(馬鹿。
斎藤さんはなかなか甘くならないですね。
それというのもヒロインが悪い(書いてる自分が悪い)。
なんだか芹沢さんとの思い出話になってしまいましたー。
うーん、これで「乙女心」につなげられるのか…?
ちまちま好感度はあげているんですけど、斎藤さんの感情がいまいち読めない。
まあ、唐突な人なんで、なんとかなるでしょう!(結局、テキトーか。
(2006/9/15 17:26:14)