GS>> 千晴ちゃん>> Are You There ?

書名:GS
章名:千晴ちゃん

話名:Are You There ?


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.1.11
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:4769 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 3 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
1)
初詣

前話「Lovin’you」へ p.1 へ p.2 へ あとがきへ 次話「Future dream」へ

<< GS<< 千晴ちゃん<< Are You There ?

p.1

 神社の石段を前に私は辺りを見回した。はっきりと直接あったことはないけれど、きっとわかる気がしたから。

 だって、あんなに『話』したから。



あけましておめでとうございます、千晴君。




「ねえちゃん、何してんだよ?」
 後ろを振り返って、私が付いてきていないことに気がついた尽が、石段を数段飛ばしで降りてくる。小さな手が、私の手を引いた。

「ごめん、尽っ」
「んな、歩きにくい振り袖なんか着てくるからだろ」
 プリプリと怒りながら、寒さで頬を赤くしている。首にはしっかりとマフラーを巻いて。

「えー似合うでしょ?」
 笑いながら言うと、俺のねえちゃんなんだからアタリマエだろ!と怒鳴り返された。



千晴君は留学生って言ってたから、もしかしてアメリカに帰ってるのかな?


それでも別にいいけれど。




 尽に手を引かれて階段を登りながら、また周囲を見回す。元旦の神社はものすごく混んでて、どこも人がいっぱいだ。いつもはあんなにがらんとしてるのに。

「何立ち止まってんだよっ」
 また、怒られた。今年の尽は怒りっぽい。

「ちょっと疲れたー」
「んなの自分のせいだろー。根性でなんとかしろよ」
「根性ないもん」
 なんだかんだいいながら、先に行くと言わない辺り、可愛い弟だ。

「ねえちゃん来ないと、おみくじひけねーからな…」
 小さな呟きはしっかりと耳に入ってきたが、聞こえない振りをした。なんだ、そんな理由。



もしも日本にいたら、一緒に初詣に行きませんか?




 立ち止まる私を引っ張りあげるように、尽が石段を登る。小さいけれど、大きな背中だ。

「頑張れ尽」
「ち…自分で登れよーっ」
 ようやく石段を登りきった時には、尽は肩で大きく息をついていた。腰を曲げて、膝に手を当てて、大げさな。



一緒にっていうのは、待ち合わせるとかじゃなくていいから。




「こんなことでへたれてるようじゃ、イイ男になれないぞ。尽」
「おうよ!」
 私を見上げる瞳が逡巡して、涙を滲ませた声が返ってくる。



たとえば、同じ日の同じ時間に神社でお参りするとか。




 もう一度、石段の上から人の波を見渡す。統制が無さそうなのに、人波は半分は登り、半分は降りときちんと分れている。だれかが決めているワケじゃないのに。

 自分の姿に目を落とす。目立つようにと赤の振り袖を着てきたけど、ここに来るとさほど目立たないみたいだ。手元の時計に目を落とす。

「急ごう、尽!!」
「え? なんだよ、急に!」
 慌てて境内に向かう私を尽が追い掛けてくる。



一月一日十一時十一分に私は神社に初詣に行きます。


運が良かったら、会えますよね?




 境内の中はもっと人がいっぱいで、私は困ったように人込みに埋もれた。どうしよう、間に合わないかも。

 足がもつれて、視界が人の頭で埋まる。お参り、出来ないかも。

「こっちですっ」
 誰かが私の腕を掴んで引っ張っている。顔は見えないけど、男の人の腕だ。大きくて強くて熱い。

 引かれるままに進むと、急に人の波から抜け出した。

「っはーぁっ」
「ダイジョウブですか?」
「あ、いえ。ありがとうございま…す……」
 空に溶け込むような人だった。着ているのは普通の洋服で、空気が少し日本人らしくないけど、顔は日本人っぽい。目鼻立ちは整っているし、カッコイイんじゃないかなと思う。でも、固まった理由はそんなことじゃなくて。

「あ…」
 顔を見合わせ、お互いに同時に話しだし、同時に口を噤んだ。

「えと、先にどうぞ」
「いえ、あの…」
 見たことがある人だ。よく出かけると会う人で、実はけっこう気になっている人だったりする。自然、顔が熱くなる。

「貴方もお参りに?」
「え、いえ…そう、ですね。そうです」
 彼の目が泳いでいる。コートを着こんでいるのに顔が赤いよ?

「アナタも?」
「はい。学業成就なんて、殊勝にお願いしちゃおうと思ったので」
 それと、人と会いに。

「待ち合わせ、ですか?」
「どうだろう? ちゃんと話してないし。それに、この人込みだから…」
 人の波を見回すけど、流石にあの中に戻る気にはなれない。

「目立つと思ったんだけど、今日は失敗」
「何が失敗なのですか?」
「これ」
 袖を持ち上げてみせるけど、彼にはわからないようで。

「折角、振り袖着てきたんだけど、目立たないみたい」
 笑ってかえしたところで、じっと見つめられていることに気がつく。視線が上から下まで動いて、その目がすごく真剣で、私も動けなくなる。

「そうですか? とてもよく似合いますよ」
 真剣だった空色の瞳が、境内の緑葉を溶けこませて、柔らかな色を灯した。彼の笑顔はなんだか春の陽だまりみたいに暖かい。今は、冬なのに。

「そう、ですか? でも、人込みでもうぐちゃぐちゃ…」
「そんなことアリマセン! とてもアナタに似合っています。自信を持ってください」
 言葉が静かに心に染みこんでくる。喧騒が遠退き、雨みたいに静かに深く広がって、私の中に溶け込む。

 この人の言葉は、何故かすんなりと聞こえる。素直になれる気がした。なりたいとおもった。なろうと、思った。

「ありがとう」
 返ってくる笑顔をやはり、春の木漏れ日に重ねる。

「あ、おみくじ引きません?」
「オミクジ?」
「今年はいいことありますか?って、神様に聞いてみるのっあそこで…えっと、買ってくる!そこで、待ってて!!」
 返事も聞かずに駆け出した。待っていていくれるかわからないけど、急いで引いて戻る。

 そこにはもう彼の姿はなくて。さーっと、足元から地面がなくなりそうになった。そうだ、名前も聞いていない。私としたことが、どうして聞かなかったの。

「……私のバカ…っ」
 自己嫌悪で沈みながら、ふと手元のオミクジをみる。まだ未開封だ。一緒に見ようと思ってたのに。



 ゆっくりと、オミクジを開く。

 今年の運勢は…?



p.2

 彼女の消えた人ごみを眺め、僕は微笑んだ。

 ピンクブラウンの彼女の髪によく似合う、赤い着物を着た少女。

 彼女に会えただけでも、ここに来て良かった。

 君には会えなかったけれど。



Are you there ?


あとがき

千晴君出して、主人公ちゃん視点の在学中書こうとすると、主人公の名前が出てきません(笑。
ドリームの意味ないなぁオイ。
名前出そうとして、他キャラ出前も考えたんですが、それだとちょっと切なくなったんで。
変換入ってないですけど、最後の[君]だけ名前変換してもいいかと。ちょっと面倒なんで(オイ)。
こっそり2003年お正月フリーでした。
完成:2003/01/11