読切(二次)>> 遙時3>> 星の姫 - New Moon

書名:読切(二次)
章名:遙時3

話名:星の姫 - New Moon


作:ひまうさ
公開日(更新日):2007.6.4
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:7482 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 5 枚
デフォルト名:/美音
1)

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p.1

 雨の降り出した渡り廊下に幼なじみが立ちつくしていた。ほんのちょっと前に会ったときは私の従兄と笑っていたのに、彼の姿もそこにはない。

「望美?」
 ゆっくりと振り返った望美は、涙も流さずに泣いていた。

「美音」
「何かあったの? 将臣にでもいじめられた? だったら、私がとっちめてやるからちゃんと言いなさいよね」
「…美音…違う、の」
 彼女の変化はあまりに唐突で、だけど、私はその顔がどういう意味を持っているのかなんて知らなかった。

「私、私…っ」
「ここで濡れているのも何だし、とにかく校舎に入ろう。風邪引くよ」
 彼女は苦しそうに頭を振る。

「私、戻らなきゃ」
「…望美」
「こんなのって、ないよ。私だけ、生き残ったって…っ」
 嫌な予感がして、とっさに彼女の手を取る。

「私だけ、帰ったって…っ」
「駄目、望美!!」
 声をかけるのは間に合わず、私は望美の手を握りしめたまま、どこからか溢れてきた水の渦へと飲み込まれた。なんとか頑張ろうとはしたのだが、途中で望美とも手が離れてしまって。

「げほっ…ごほっ…」
 気がついたときにはそこは古い木造家屋の部屋の中だった。服はびしょ濡れだけど、寒くはない。

「望美?」
 彼女の気配はそばにない。だけど、彼女が近くにいるのを感じられるのは昔からの特技だ。そう遠い場所にいるわけではないはずだ。

「…望美?」
 立ち上がろうとしたが、手足が痺れて力が入らない。声を出しても、耳の奥で大太鼓でも叩かれているみたいにぐわんぐわんと鳴り響いていて、よく聞こえない。

「なんなの、これ」
 耳を何度か抑え、なんとか回復を試みる。そうして、どのぐらいかかったか分からないが、とにかく動けるようになった私はその足で直ぐさま外へ飛び出しかけて、だけど、やむを得ず、その場に踞った。大きな耳鳴りが止んだと思ったら、今度は内臓をひっくり返されているみたいな吐き気のある気分の悪さに襲われる。同時に、耳鳴りも復活だ。なんてこった。

「どうなさいました!?」
 誰かが近寄ってきて、私を軽々と抱え上げる。その人物が誰かも分からないが、その揺れさえも気分の悪さを増幅させる。

「…おろし、て…」
「直ぐに寝所です」
「吐く、わ…」
 すんでの所で抑えていられるのが信じられない。だけど、その人は勝手に足をすすめて、どこか柔らかな場所へ私を降ろした。

「…っ」
 背中をさする大きな手。目の前には木枠の桶があって、それが学校のものでないことも分かったけど、それ以上考える余裕はない。

「もう吐いても良いですよ」
「…ヤ…」
「私なら気にしませんから」
「…そじゃ…ぐ…っ」
 こみ上げてくるものが抑えきれず、私は桶の中へ吐いた。昼に食べた弁当を全部はいてしまった。もったいない。

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
「今、白湯をお持ちします」
 何を言われても答えられない。ただひたすらに吐き気が消えなくて、気持ちが悪くて、耳鳴りがしていて、身体中の細胞をしっちゃかめっちゃかにかき混ぜられているみたいだ。

 彼がいなくなってからも再び吐いて、そのまま私はその場へ倒れてしまった。この時は知らなかったのだけど、どうやら私の体では時空を越える衝撃に耐えられなかったらしい。望美や従兄弟たちは何ともなかったというのが、更にムカツク。

 それから何度か目を覚まして、少しでも何かを食べろと言われて、口にしようとするものの、一切を体が受け付けなくて。私は望美が近くにいると分かっているのに床を出ることも出来ないほどだった。

 数日をその屋敷で過ごしたが、何故かここの人たちは私に良くしてくれた。あと何度か「姫」と呼ばれるのを否定したけど、彼らは一向に聞いてくれなかった。親切なんだか、それとも利用されているのかわからないが、とにかく今の状態で道端に放り出されることだけはなさそうだ。

 気持ちの悪さと吐き気と空腹と耳鳴りに数日を耐え抜いた私は、ある朝、急に具合が良くなった。その理由は自分でもよく分かっている。実はこの症状、今までの人生で一度もないということはなかったのだ。ある条件さえそろえば、私に不調はない。すなわち。

「望美! 譲!! 将臣!!!」
 数日動けず、食事も取れなかった私が動き出すというのはよほど予想外だったのだろう。誰に止められることもなく、私は気分の悪さを堪えて、その客室へと飛び込んだ。

「星の姫君、お待ちください!」
「今出て行っては」
 私の叫ぶ声に3人が驚いて振り返った顔を見て、安心してしまって。その場にへたり込んだ私に優しい従兄が手をさしのべる。姿が多少変わっていても、分かる。

「将臣…っ」
「美音、か? おまえもこっちに来てたのか」
 そっと抱き寄せてくれる将臣にしがみついて泣きじゃくる。そんな私を望美と譲が驚いた顔で見ていた。

「どうして美音まで? あのとき、いなかったはずじゃ…っ」
 譲とは違う意味で望美が声も出せずに目を見開いている。その大きな目に涙がたまる前に。親友へと手をさしのべ、声を出さずに囁く。

(望美のせいじゃないよ)
 彼女は優しすぎるから、きっと私を連れてきてしまったと気づいてしまった。そして、私が気がつくことも気づいているはずだ。

 あの時、望美は「私だけ生き残ってしまった」と後悔していた。そして、自分の力で時空を越えた。私がついてこれたのは、御伽噺と思っていた祖母の昔語が本当だとするならば、星の一族の後継者だからとしか言えない。そういえば、昔から望美の居場所だけは祖母にも私にも簡単にわかったというのは、それのせいというのがあったのだろう。

 移動教室がある日ではなかったのに、なんとなくあの場所へ引き寄せられた。すべては望美を守るためなのだと思う。

「その方を離していただけませんか?」
 私の背後から聞こえる声に、びくりと体が震える。ここで離れたら二度と望美たちと逢えなくなる気がして、きゅっと将臣に抱きつく力を強める。そして、願う。

「私も連れて行って、望美」
「…美音…」
「美音、これは遊びじゃないんだ」
 譲の咎める声にも更に力を強める私の背中を、そっと将臣が撫でてくれた。

「譲、望美。美音が一度言い出したら聞かねえことぐらいわかってんだろ」
「兄さん」
「何も俺たちは望美しか守っちゃいけないわけじゃない。美音一人増えたって、大して変わらねえよ」
 擁護してくれる将臣に込める力を緩める。

「それに、望美も美音がいた方が少しは気が抜けんだろ」
 言葉の端々にいろいろと不満は残るけど、私は顔を上げて、望美と謙を見つめた。そうすると二人も観念したようで。

「絶対に無茶はしない、我が侭を言わないのなら。美音はいつも無茶ばかりだ」
「えへへ、ありがとー譲」
「…美音…」
 謝りそうな気配の親友の言葉を先んじて、泣き笑いの顔で微笑んでみせる。

「一緒に連れて行ってくれたら、貸しはチャラにしてあげる」
「!」
「私なら大丈夫だから、ね。一緒に連れて行って」
「で、でも…っ」
「無茶はしない。でも、絶対、望美から離れたりしないし、私なら一緒に越えられる」
 二人だけしか分からない言葉で話す。気がついたのは、子供が一人だけだ。問題ない。時空を越える衝撃で体調は崩すかもしれないけれど、自分だけならその程度で済む。

「姫様、危のうございますっ」
「お考え直しください!」
 自分を助けてくれたこの人たちに感謝はしているけれど、それでも自分の行動を制限する権限なんてないはずだ。

「イヤよ。私は、」
 将臣の腕に支えられながら、自分を縋るように見つめる人たちをしっかりと見据える。

「私は、望美と行くわ」
 そうはっきりと言い切ると、次々と彼らが崩れ落ちる。

「せっかくお戻りになられたと思いましたのに」
「ここでも龍神の神子の助け手となる方法はございます。それでもゆきなさるか」
 首を振る。ここで私という存在にどんな意味があっても、私は望美のそばにいなければいけない気がする。

「助けてくれたことは感謝してる。でも、行かなきゃ。望美のそばにいなきゃ、ダメなの」
「せめて、体調がお戻りになられてからでも…」
「そのようなご様子では我らは心配でなりません」
 ふるふると首を振り、ぎゅっと将臣の腕を握りしめる。

「大丈夫。将臣や譲にも多少なりと医術の心得があるから、こういうことには慣れてるわ。ね?」
 一瞬驚いた顔をした将臣だったが、すぐに合点して大きく頷いてくれる。

「まあ、確かに美音のこれには慣れてる。飯もこいつの受け付けやすいものを譲が作れるし、回復は早いと思うぜ」
 二人で顔を合わせてにやりと笑い合うのは、小さい頃からの合図だ。譲や望美は真面目だから、こういう冗談も言えない。

「そゆこと。あー、譲の作るスープが飲みたいなぁ~。あれなら、一発でこんなの治っちゃうのになー」
「将臣君、美音…」
「美音、兄さん…」
 従弟と親友が後ろで深く息を吐くのをこっそりと笑う。

「そゆわけで将臣、よろしく」
「はいはい、わかりましたよ、姫君。んじゃ、ちっと俺は美音と話あるから、外行ってるわ」
 返答も聞かずに私を抱えて立ち去ってくれる将臣に感謝しつつ、しがみつく。久々に耳元へ通り抜ける風に小さく体が震える。同時に、やはり消えない吐き気が再びこみ上げてくる。これは望美から離れるからだろうとわかっているので、ぐいと将臣の襟元を引っ張る。

「将臣、ごめん。止まって」
「ん? 本当に顔色悪いな、大丈夫か?」
「全然ダメ、死にそう~」
 屋敷の外で立ち止まった将臣は、そっと私を塀に寄りかかるように地面に降ろして、座らせてくれる。そして、軽く倒して、自分へと寄りかからせてくれる辺り、この従兄は変わらず優しい。

「ちょっと待ってろ。確かこの辺に持って…」
 腰に下げた袋のようなものから、将臣が何かを取り出す。緑色の粉だ。明らかに何かの薬だ。

「飲め」
「うぅ…だめ、吐きそう…」
「吐いちまえよ」
「やだぁ」
「じゃあ、さっさとこれ飲め」
「今飲んだら吐く」
「酔っぱらいじゃねぇんだから、一人で飲めよ」
「うぅ…水ちょーだい…」
 将臣が腰に下げた竹筒のようなものを寄越す。

「…何これ」
「水筒だ。無駄遣いすんなよ」
「無駄遣いって、何よぉ~」
「…いいからさっさと飲め」
 がっと顎を掴んで、上向けられ、無理矢理に緑色の粉を流し込まれて、むせそうなところにすかさず水が流し込まれる。

「に~が~い~っ」
「そりゃそうだろ。薬なんだからな」
「将臣の馬鹿ぁ~っ」
「それより、吐き気は」
 収まったけど、何か悔しくて、この上手な従兄をやりこめる方法はないかと思案する。そして、思いつく。

「美音、どうだ?」
 顔をのぞき込んでくる相手の襟元を強くひっつかみ、驚いている将臣が正気に返らない間に、深く唇を合わせる。もちろん、ものすっごくディープにしなきゃ意味はない。これは、苦さのお裾分けなんだから。

「っ! 美音!!」
「はっはっはっ~苦いだろ~将臣も一緒に苦しめ~っ」
「てめ…本当…っ」
 してやられた顔の将臣が不意に安心の色を浮かべる。それに私の方が当惑したけれど、ポーカーフェイスは得意な方だ。

「マジでお前なんだな、美音」
「疑ってた?」
「いいや、美音以外に譲と望美にあそこまで言えるヤツはいねぇよ。ただ、お前なんだって、俺が安心したんだ」
 軽く抱きしめる腕はつい昨日会ったばかりとは思えない逞しさと優しさがあって。

「俺だけ、三年半もここで一人生きてたからさ。なんだか、今おまえらと会えているのが信じられなくてな」
 今更何を聞かされても驚かないつもりだったけど、囁かれたその時間に思わず目を見開く。一緒にここへ来て、はぐれたまではなんとなく分かったけど。

「そっか、それで…将臣だけ大きくなってるの」
「ああ、あの時手を離さなけりゃ、同じ時に来れたんだろうけど」
 こんな私たちの住んでいたところとは全然違う場所で、一人で、どんな想いで生きてきたのか。想像できないけれど、それはとても淋しい気持ちだ。そうでなくても将臣たちは特別仲が良いから、死ぬほど心配しただろう。

 もしも私が一緒にここへ来たのだとしたら、そこまでの心配なんてされないと思うけど、望美は特別だ。あの子は、特別。

「…もう、大丈夫…」
 両腕を届かない背中に伸ばして、精一杯にその体を抱きしめる。すっかり男に成長してしまったけれど、私にとっては昨日までの将臣と何ら変わりはない。

「望美も私も譲もいる。四人いれば、なんとかなるよ。そうでしょ?」
 将臣の答えはない。それは不安を抱くには充分だった。だけど、この不安を悟られちゃいけない。

「みんなで、帰ろう?」
「…俺は…」
「じゃないと、望美が泣く」
「……ははっ」
 抱きしめてくる腕からの振動と、上から振ってくる笑い声は響きが違っていた。

「美音は? 俺がいなくなったら、泣くか?」
 そんなもの、答えなんて決まってる。

「泣くに決まってるわ。知ってるでしょ?」
「美音は泣き虫だもんな」
 笑っているのに泣きそうに見える将臣を抱く腕にいよいよ力を込める。二人でそうしているだけで落ち着くのはもうずっと小さな時分からで、変わっていない。

「望美、泣いてたの」
 大きな腕に抱かれながら、小さく囁く。

「何があったのか分からないけど、ここで絶対にあの子をあんな風に泣かせるような何かがあったんだわ。だから、私は一緒にいてあげなきゃいけない。意地っ張りで強がりな望美を目一杯泣かせてあげられるのは、私だけなんだから」
 ここに来た理由も目的もわからない。だけど、大切な親友を泣かせるような人も出来事も、私は何も許さない。

「ホント、変わらねぇよな」
「お祖母ちゃんとの約束だから、よ」
「誰が意地っ張りなんだか」
 軽い笑いなのに、私には泣いているように聞こえて、今はそれだけでも泣きそうだ。

「何しても止めやしねぇけど、少なくとも戦場には近寄るんじゃねぇぜ。美音の護身術程度じゃ、役に立たないんだからな」
「わ、わかってるわよー。でも、望美が…」
「マジで、さ。望美と譲にも言っておいてくれよ。どうにも嫌な予感がするんだ」
 そっと顔を上げて将臣を見ると、彼はどこか遠くを見つめていて、ここにいない何かを思い悩んでいるようだった。

「将臣」
 囁くと私と同じポーカーフェイスが返ってくる。だからこそ、わかる。

「何があっても、私は将臣と望美と譲の味方だよ」
 安心させるつもりで言ったのに、余計なことを考えるなと頭をぐしゃぐしゃに撫で回されてしまった。こいつは昔から私を犬と間違えたような対応をすることがある。

「余計って何よ!」
「おまえはただ生き残ることだけ考えてろ」
「あったりまえよ。私、自分のことしか考えてないもんっ」
「おー、それが本当なら心配ねぇな」
 私をよく知っている人は言う。私が自分を省みないお人好しだと。自分を心配している者がいると考えない無鉄砲だと。

「じ…自分と望美のことしか考えてないもんっ」
「ほー」
 にやにやと見つめる将臣を足蹴にして、立ち上がる。将臣は更に声を上げて笑い転げている。

「ホントのホントにホントなんだからね!?」
「ははは、そこまで言い切れりゃ上等だぜ」
「もー! 本当なんだってばーっ」
 そうして、言い合っている私たちの所へ来た望美たちは心底呆れ。

「ふたりとも、何やってるの」
「聞いてよ望美、将臣ったら全然信じてくれないんだからね!? 私、自分のことしか考えてないって言ってるのに!!」
「あー…ごめん、美音。それ信じる人ここにいないよ」
「ええ。美音ほど、自分のことを考えていない人も珍しんじゃないかな」
「こ、この薄情もにゅ…っ」
 噛んだ。痛い。

「ほらほら、あんまり興奮すると噛み噛みなんだから、美音は」
 望美が頭を撫でてくれる。ぽんぽんと後ろから譲が背中を叩いてくれる。そんで、足下でまだお腹を抱えて笑っている将臣を足蹴にして(避けられた)。なんだ、何にも変わってないじゃんと安心した。

「姫君たち、喉乾かないかい?」
 お椀に水を持ってきた赤い少年に目を丸くする(いや、だって服も髪もかなり赤いんだって)。

「あ、美音飲みなよ! このお水すっごく美味しいよ!?」
 急に私に勧める望美にピンと来る。望美は私を騙すなんて真似は出来ないから、これはきっと望美にとってとても良いものだ。

「私はさっき将臣からもらったからいーよー。望美が飲んで」
「で、でも…」
「いーからいーから。あ、将臣、さっきはサンキュー」
「美音、さっき調子悪そうだったもん、飲んでおいた方がいいって」
「いーの! 私より望美が飲んでよ。私は譲の作ったレモネードが飲みたいなぁ」
 言ったとたんに、また頭をぐしゃぐしゃにされた。

「こら、意地張ってねぇで飲んでおけよ」
「い、いらない」
「美音、せっかくヒノエが汲んできた水なんだよ?」
 執拗に勧められても絶対に飲まないと首を振る。

「この頑固者!」
「頑固でいいもーん」
 言い争っている中で、不意に涼やかな声が響く。それは私たちよりもずいぶん下の方から聞こえる子供の声だ。

「美音」
「…なによ」
 袖を引く小さな少年を意地悪く見下ろす。でも、彼は怯まずに、可愛らしい笑顔を浮かべた。

「ここの水は五行が整ってる。飲めば、美音の中の五行も治まるよ」
「…そんなことはどうでもいいの」
 余計なことを言うな、ってば。そんなもの、望美が勧めた時点でとっくにわかってるんだから。

「もしかして、気づいてて飲まないんですか? どうして?」
「美音、私に気を遣わなくてもいいんだよ?」
 ほらぁ、望美と譲が煩くなったじゃないか。

「あーもー! 調子も良くなったから、さっさと行こうよっ」
 振り切るように歩き出そうとしたときだった。腕を引かれ、気がつけば目の前に赤い影があって。無理矢理に生温かな水を飲まされて。彼は私がしっかりと飲み下すまで離してくれなくて。

「な、」
「あんまり意地を張るもんじゃないぜ、姫君」
 想い人が囁くならば、甘く聞こえるそれも。

「な、」
「ヒノエ、くん…?」
 奮える望美の声も。

「な、」
「くっくっくっ、まさか、俺以外に美音にそれをやろうとする奴がいるとはな」
 楽しそうな将臣の声も何もかも、ふっとんだ。

「なにすんのよ、馬鹿ーっ!!!」
 辺りに小気味よい音が響き渡った数分後。頬にしっかりと手形を残したヒノエにすっかり私は懐かれてしまった。

あとがき

急に書きたくなったのですけど、遙か3の別主人公話です。雑なメモです
てか、ここで神水の話はなかったきがするけどまあいいか
念のため、将臣とヒロインの関係は単なる幼馴染みで従兄同士
ヒノエは最初はヒロインを不審に見ていたけど、気の強さを気に入っただけ
譲はヒロインを妹みたいに思ってる
白龍はヒロインは味方としか認識していない
…梶原兄弟いるのに書けてないなぁ、次回に期待
(2007/06/04 12:46:39)