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書名:GS
章名:マスター

話名:あけるまえ


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.1.6
状態:公開
ページ数:2 頁
文字数:2787 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
1)
元旦
ころな様へ

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p.1

 最後の客を送り出して、戸締りをしてから俺は店の外に出た。夜空の暗い闇のカーテンが揺れながらゆったりと上がってゆく。散りばめられたコンペイトウの欠片が光に弱い輝きを散らし、消えてゆく。

 今年もまた、新しい年が始まる。

 朝日が告げる新年の幕開けに、奇妙な感を覚えながら、俺は自宅とは反対の方向に歩き出した。凍るような空気に身を竦ませる。静かだが、清廉で清々しい朝の空気はいつもと違って、新たな命の息衝きを感じる。何時もなら完全に眠りについているハズの街はかすかにざわめきと興奮をはらむ。祭りとは違う、なんとも言えないものがここにある。

 一軒の家の前で、俺は足を止めた。表札には東雲、と書かれてある。

(零一の彼女もたしか、そんな感じの名前だっけか)
 ぼんやりとそう思っただけだ。本人はいつも否定するけれど、零一が大切にしている少女。

『マスターさん』

 耳に残っているその声を思い出して、苦笑する。あどけない笑顔や、俺がなくしてしまったものを手にしている少女。甘い痛みを気がつかないように俺は息を吸いこんだ。冷たい空気が目を覚まさせる。

 冷たくなってきた足を動かして、俺は先を急ぐ。そういえば、この朝の空気は彼女に似ている。清らかで明るくて清々しく、でもしっかりと芯をその身に持つ感じ。



*



 呼ばれるように、私は目を覚ました。かすかにヒーターの入った部屋は温かい。温室のように守られている。

 窓は白く、その温度差を示しているようだ。外は白く冷たく、冬の寒さがそこにある。

「…もちょっと寝よ」
 掛け布団を引き上げて、春霞は浅い眠りに落ちようと思っていた。

 うつらうつらと夢と現実の間をさ迷いながら、ある事を思い出して布団を跳ね上げる。時計はまだ5時前だけれど。

「おかーさーん!!着物ー!!」
 パジャマのまま階下に降りると、台所の母はゆっくりと微笑んだ。



p.2

「朝っぱらからなんだ、義人」
「うわっつめたいなー、友人は大切にするべき、じゃなかったか?」
 ドアを開けて出迎えてくれる友人は、ものすごく眠そうである。もっともそれをわかるのは俺ぐらいだろうけど。

「鍵は」
「お前が春霞ちゃんに渡したんだろ?」
「あ、あぁ? そう、だったか?」
 不機嫌さをかくそうともしない零一を押し退けて、勝手に家に上がる。勝手知ったる他人の家とはよく言ったもんだ。

「おまえ、元旦のたびに押しかけるのはやめろ」
 背中にかけられる不機嫌な言葉を無視して、台所に入る。

「べっつにお前のデートの邪魔をしようってんじゃないんだからいいだろ」
 ワインの瓶を取り出して、グラスを二つ取り出す。それらを持って、居間のソファーに座る。零一は今回も立ったままだ。まだ寝ぼけている可能性もある。

「勝手に飲んでるから、お前は寝てていいぞ」
 すっと俺の反対側に座る零一にそういうと、そうはいかないと返される。

「今年は何本空ける気だ」
「そんなには飲まねえよ。せいぜい…6本ぐらい?」
「多すぎる…」
 歎息する零一の前で、二つのグラスに瓶から液体を注ぐ。森の夏草を思わせる香りが漂い、ふっと笑みが浮かぶ。

 いつも通りの一年が始まる。でも、いつも通りじゃない。いつか俺の元にも春霞ちゃんのような女が現れるだろうか。

「新しい年を祝って」
 二人で掲げるグラス。その向こうにもうひとつの小さな手を見る。白く細い少女の手。

「カンパイ」
 キンッと氷の欠片を撒き散らして、グラスを口に運んだ。

 複雑で、滑るような滑らかさが舌を転がってゆく。

 今年はいつもと違う一年になる予感がした。

あとがき

年賀メールをですね。もらったのですよ。
これは、それから出来た奴で。奇しくも2003年初創作となりましたー♪
て、それをUPする私も私だなー。
今年もマスターな年になりそうですv
ころな様、素敵な年賀メールありがとうでしたー♪
完成:2003/01/06