ハリポタ(親世代)>> Eternal Friends>> Eternal Friends 5#-9#

書名:ハリポタ(親世代)
章名:Eternal Friends

話名:Eternal Friends 5#-9#


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.2.1 (2003.2.17)
状態:公開
ページ数:8 頁
文字数:15291 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 10 枚
デフォルト名:///カミキ/ミオ
1)
05)早朝の彼女
06)図書館の先輩
07)一大事
08)隠し事
09)真夜中

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p.1

05)早朝の彼女

(ミオ視点)



 ホグワーツで最初に見た夢はホグワーツの中の夢だった。知らない男の子と、城内を探検している夢。綺麗な銀色の長い髪を持った少年だった。なんだか、とてもなつかしい気がした。

 掴み所のない空気は、兄のようでも弟のようでもあり、父親のようでもある。

 常にそばにある存在とでもいったほうが早いかもしれない。

 あのとぼけた校長に言ったら、愛だとでも返されそうだ。

「ねぇどこへ行くの?」
 声は耳に聞こえてくるようでもあるし、頭に直接響くようでもある。風に吹かれる木の葉のさざめきのように、ただ温かく優しい。

ーー秘密の探検だよ。

 つられるように、笑った。

 目が醒めた時、私は自分の杖をしっかりと握り締めていた。ほのかに暖かで、なつかしい友人の香りがした。



p.2

(シリウス視点)



 悪戯の仕掛けをする時は早起きになることが多い。ホグワーツ全体が寝静まって、まさに城といった雰囲気を醸し出す。情緒溢れるこの時間を、俺は楽しむ。

 昼間は女どもが煩い。好きといってくれるのはイヤではないが、少し優しくしたぐらいでつけあがり、挙句勝手に誤解して、勝手に諍いあって。女の嫉妬は怖いと思う。幾度止めたか知れないけれど、いいかげん面倒になって、相手にするのもやめた。

 それなりにいろんなやつと付き合ってきた。それなりに。人並みには。

「ブラック、早起きね。今日も悪戯の仕掛け?」
 開いた教室から女が手招きしていた。古い搭の上は人があまりこない。結構重宝する場所だ。

「そうだけど。おまえは?」
「なんだと思う?」
 クスクスと笑いながら、俺の襟口を掴んで引き寄せる。かすかな香りに軽い眩暈を起こす。

 口止めよ、と笑いながら彼女は戸を閉めた。ご同類、というワケだ。

「そいつはどうも…っ?」
 別にキスの一つや二つで今更騒ぎやしないが、廊下の向こうから歩いてくる人影に眉を寄せた。 杖は持っているけれど、着ているのは制服ではなく、一枚の布を合わせたような日本の白い着物。気化学模様に目の前がチカチカする。細い紐で止めているだけの姿は、どこかで見たことがある気もする。

 ふわふわと地に付かない足取りで、俺の前に来て、無表情に微笑む。なにかあるのかと身構えたが、そのまま通りすぎて行ってしまった。

「…なんだ、あいつ…?」
 ミオ・カミキという名前は知っている。リーマスやリリーが連呼していたし。しかし、普段とはまた違う空気にたじろいでしまう。様子が、少しおかしい。

 制服のローブを纏う姿よりも、むしろ女らしく見えてしまう。不思議な感じがした。女にも子供にも見える。曖昧な年頃、とでもいうのか。

 廊下の角を曲がって見えなくなってしまったことで、ようやく気がついた。彼女の向かっている方向はスリザリン搭に近い。俺もミオも敵対するグリフィンドール寮生だ。つまり、非常にマズイ。

「ちっ」
 それほど時間も経っていなかったし、すぐに追いつけると思ったけれど、少し動転していたのだと思いたい。廊下の曲がった先に、ミオの姿はなかった。

 数時間辺りを探してそれでもみつからなくて。ワケがわからないまま、談話室へと戻る。

「あれ、早かったね。シリウス」
 俺より遅れて、悪戯仲間が戻ってくる。意外そうな顔で三人とも俺を見やがるのはどういう了見だ。

「珍しい…」
「今日は誘われなかったの?」
 どうやら、悪戯の仕掛けをしかけるついでに、女と遊んでいたのはバレていたらしい。

「悪いか」
 憮然と言い返してやると、女子寮の方からリリーが出てくる。

「なんでもいいけど、ミオには近寄らないでよね」
「リリーにも近づかなくて良いよ」
 何も二人で言わなくてもいいだろう。なんというか、いつもながら鮮やかなコンビネーションだ。こいつらが付き合ったりしたらどうなるんだろうなーと考えて、勝手に笑みが浮かぶ。今と大して変わらないかもしれない。

「そういや、そのミオは部屋にいるのか?」
「もちろんよ」
 何言ってるの。と睨みつけられた直後に大きな欠伸をしながら本人が降りてきた。

「おはよー…ございまふ」
 へにゃりと微笑む。いつもと変わらない。じっとみつめる俺の前にリリーが立ちはだかり、その前にジェームズが立つ。

「おはよう、ミオ。朝食に行きましょうか?」
「シリウスはシャワー浴びてから来なよ」
 少し香水の匂いがすると、リーマスが言って俺だけが残された。

 今日はキスしかしてないのに。あの女の香水がきつすぎたんだ。妙に身体がだるいけれど、友人たちに避けられるのも哀しいのでシャワーを浴びてから広間に向かった。

 今日はなにもしてないのにな。

 この時に気にしておけばよかった。リリーやジェームズのいうことなんかともかく、問い詰めてでも聞いてみるべきだったんだ。



p.3

(ミオ視点)



 朝食後、リリーたちと離れて最初の教室へ向かいかけたミオは、ふと踵を返した。同じ方向へ行くハズの生徒とは別な廊下へ逸れて、いくつかの廊下を曲がって、古い絵画の前に立つ。どの寮の物ではない、誰もいない風景画の前だ。全体が緑に彩られたその絵の前で、心を落ちつけるために深呼吸する。

 誰もいない廊下だけれど、こっそりと呟く。

**********
 夢の通りにすべては起こる。

 誰にも話さなければ。

 それは絶対不可侵の、私だけの法則。

「ちかみちちかみちっ」
 通りぬける先には、そう、階段。古く誰も通らない階段がある。埃まみれの段を一段ずつ上る。踊場のような場所がいくつか。

 光は差しこむけれど、風も通るけれど。誰も知らない、誰も使っていない通路。いくつの踊場を抜ければ、そこには目的の場所がある。

「いつの間にきたの?」
 教室に辿りついてこっそりと席につくと、少しだけ離すようになった同じ寮の子に、びっくりしたと不思議そうにいわれた。

p.4

06)図書館の先輩







 図書室の本棚という奴は、背の低い人に優しく出来ていないと思う。

 いや、きっと学年ごとに届きやすい位置に置いているんだと思う。下のほうにあるのは基本呪文大全とか、魔法生物辞典とか、下の学年が使うもののほうが多い。

「これか?」
 自分の身長の届かない範囲にある本を取ろうとしていたミオの後ろから近づいてきた影が、的確にそれを手に取る。彼の手にすでに数冊の分厚い本がある事からして、単に通りかかったついでであろう。だが、つけているのはスリザリンカラーのネクタイであり、グリフィンドールの彼女に対して眉間に皺を寄せるでなく、ただ普通に接している光景はホグワーツでも珍しいツーショットである。

「ありがとー、セブルス」
 悪戯仕掛け人の標的であるセブルスと悪戯仕掛け人の玩具のミオ。

 彼が取った本のタイトルは応用呪文集で、一年生にはかなり高度な本である。題名を一瞥してからミオに手渡す。

「レポートは終っているのか?」
「いーの、そんなのは後で」
 リリーたちは気をつけろとか近づいたら噛まれるとかいろいろ忠告してくれたけど、セブルスは不器用なだけでけっこう優しい。

 その辺に置いておいた他の数冊の本を持って先に歩こうとしたミオに対し、少し後から遅れてついてくる。座る席は窓辺の指定テーブル指定席。ドサリとテーブルに本を置くと、上に更に数冊を乗せてからセブルスは隣に座る。

「なに?」
「せめてレポートを終らせてからではいかがかな。ミオ」
「やだ。気がノらない」
 キッパリと言い切ってから、さっき取ってもらった本を開く。一瞬、ピリッとくる刺激の後からは、求める言葉を捜してページを繰る。

「………今度は手伝わないぞ…」
 隣で深いため息が聞こえたのをこっそり笑う。なんだかんだ言って、セブルスはよく教えてくれるのだ。レポートがわからなくて詰まっているとさりげなくどこを参考にすればいいのか示してくれる。全面的に甘やかしてくれるわけでもないが、いい協力者といったところだ。

「そんなこといわないでください、セブルス先輩」
 協力者を減らしてはいけない、と言葉だけは可愛らしくおねだりしてみる。たぶん、眉間に皺寄せてるのだろう。

「また、そう都合のいい時だけ先輩呼ばわりか」
「えーやなのー?」
「お前が言うと下心しか見えないからな」
 セブルスは言葉を飾らない。ストレートに簡潔に話してくれるのはいいんだけど、他の人だったらたぶん気分わるいかもしれない。

「そりゃー下心ありありだから」
 下心がある時は素直に率直に、というのが家訓だ。

「ミオ、いつも言っているが、基本呪文はすべて理解出来ているのか?」
「そりゃー…いざという時使える呪文知らなきゃ意味ないよ」
「基本が出来ていなければ、高度な呪文は扱いきれないぞ」
 至極最もな意見ではある。でも、私が学びにきた目的のひとつは遊ぶためのだけの便利な魔法だけじゃない。別に成績なんてたいして気にしない。大切なのは使う方のココロだ。

「だ・か・らっ優秀なセブルス先輩に頼んでるんじゃありませんか」
「迷惑だ」
 キッパリと言い切られて、哀しくなって本から顔をあげると、彼は椅子に軽く寄りかかって本を読んでいる。魔法植物の本も一緒に持ってきてあるから、持っている方はおそらく魔法薬に関する本だろう。難しすぎて私にはわかりにくい。

 慣れればなんとかわかるかもしれないけど、今はお手上げだ。

 さっさと書き写してしまおう。

 ミオは羊皮紙と羽根ペンを取り出して、呪文と効果を書き写しはじめた。



p.5

(セブルス視点)



 隣で真剣に書き始めたミオにセブルスは口の端をかすかにあげるだけで笑う。

 グリフィンドールに入ったのが不思議なくらい、勤勉で実に狡猾な少女だ。何故グリフィンドールなのか、やつらと同じ寮なのか。今もって全然理解不可能だ。時折、あの組分け帽子が間違えたのではないかと思うほどに。

 初めて会ったのは、授業終了後の魔法薬学の教室だった。

 授業後の魔法薬学の教室に人が残っていることの方が珍しい。冷たい地下牢。日のあまり差さぬ小部屋。何故そこが教室として使われているか謎だと思わないこともないが、人が言うほどイヤな感じのする部屋ではない。

 だがしかし、あまり人が近づかないどころか、授業終了と共に一目散に出ていく者の方が多い。私にとってもその方が都合よいが。

「何をしている」
 ドアの方に声をかけると、そこに立ち尽していた人物は慌てて頭を下げた。自分と同じような黒い髪が揺れる。そして、真正面から向かってくる黒い瞳。そして、赤と金色のネクタイ。自然と顔がこわばるのがわかる。

「は、え、えと? 授業は、終ってますよね???」
「終っている」
 きょろきょろしながら近づいてくることに少し驚いた。とりあえず、それ以上聞かずに鍋に材料を放り込む。グリフィンドール生が一体なんのようでここに来たのかはわからないが追い返す。

「…居残りですか?」
 失敬な。

 入学して以来、グリフィンドールの四人組の悪戯の被害をことごとく受けている身としては、できるだけそれに関するモノすべてに関りたくない。傷つけてもなんでもいいから、追い返すのが一番良い。そう、思った決心は少女が近づいてくるにつれ、何故か薄れてくる。

 掴み所の無さそうな空気はポッターによく似ているが、もっと違うものも感じる。何が違うのかわからないが、常人ではない気配。

「ここに何しに来た」
 鍋の中が次の材料を入れる時期だと催促するので、竜の爪の粉を放りこんでやる。

 少女は私ではなく薬品棚に向かった。ローブから鍵の音が聞こえる。

「ちょっと希少な薬品をいただきに来ました」
 おもむろに鍵を回して探し出す。

「でも私、それ見たことないんですよね」
 無造作に置いたり戻したりしているだけなのに、何故か危なっかしい。

「何故教師について来てもらわない」
「先生、忙しいからこの時間ならスネイプさんというひとがいるから彼に聞けって。あ、スネイプ先生ってどなたですか?」
 彼女の手が隣の棚にかかりそうになって、ようやく私は口を動かす。願わくば、彼女の手が止まってくれることを祈りながら。

「教師ではない。生徒だ。スリザリン三年のセブルス・スネイプ」
 ピクリと少女の肩が揺れ、振返るのが通常。そう、スリザリンを敵視するグリフィンドールなら、いや、グリフィンドールでなくとも一時的には手を止めるだろう。

「学生だったんですか。じゃ、スネイプ先輩ですね」
 彼女は淀みなく鍵を開けてしまう。動揺など一欠片もない。

「なんの材料を探しに来た。一年次に使うものでそこの棚に必要な物はないぞ」
「授業で使う訳ではありません」
「では何に」
 臆さないのは勇気と評するべきか、それとも単なる馬鹿なのか。その後の返答を聞くまで迷ったことを覚えている。

 今日持ってきているのは違うインクのようだ。通常の他の生徒が使っている物となんら変わらない黒インク。

 あの時作っていたのは手紙をだすためのインクと言っていたし、区別の理由も目の前で確認した。そう、丁度この窓から飛び立つ白い小さな梟の姿を。

 魔法薬であんなものが出来るというのは聞いたことがない。なんでもミオの姉が開発した魔法らしく、魔法界に直接属しているわけではないので提出もされていないとか。むろん、方法を聞いているだけのミオにその解明ができるはずもない。本人にする気もないだろう。彼女が必要としているのは実践だけなのだ。

「興味のあることを学ぶのが悪いとはいわん。だが、一年次の勉強での基礎がわかっていないと、この先困ることになるぞ」
 懸命に書き写し続けるミオに言ってやると、彼女は少し顔をあげて微笑んだ。一輪の花、私のみつけたただひとつの花だ。

「そうなったら、教えてください」
 やっかいな、花だ。懐かれるのはいいが、どうにも調子が狂う。

「私にもやることがある。教える時間はない」
「ここにきてるんだから、暇なんでしょ?」
 本当に、厄介な花だ。暇だから来ているのではなく、いつも来るといるのは彼女の方なのだ。絶対に来ないような時間を狙っても、必ずいる。

「自力でレポートを終えられたらいいぞ」
 ペンを止めて、唸りだすほどに悩むことか。眉間に皺を寄せて、どうしようかと真剣に。

 その姿に少し似合わないものを認める。

「ミオ」
「自力なんて…絶対無理だ…」
 少女はこちらに気がついていない。動かないその姿の顎を取って、こちらに向けてみる。

「あがっ!んなに!?」
「それから、根を詰めすぎるのもいかんぞ。きちんと寝ているのか」
 眼の下に本当にうっすらと隈がある。よほど注意しなければわからないが。

「寝てるよ。就寝時間にきっちり!」
「では、睡眠時間が足りないのだな。もう少し早めに寝ろ」
「やだ」
「では、いま寝ておけ」
「やーだー。なんだよ、急に」
 私の手を振り払って、不機嫌に怒り出す。

 顔を背けられ、小さくため息をつかれる。そうしたいのはこちらのほうだ。ミオは目的の為ならば、果てしなく無理をする傾向がある。ひとりですべてを抱え込んで、一体何をする気だ?

 答えるものはなかったが、書き止める為にとりだした羊皮紙につけすぎて落ちたインクがじわりと広がった。



p.6

07)一大事

(シリウス視点)



 外は雨が降っている。世界の全てを隠すように。秘密のすべてを隠すように。

 そんなとき、リーマスは至極ホッとした表情を浮かべる。それをみて、俺たちも少しだけ気持ちが明るくなる。

「諸君、一大事だ」
 部屋に入ってくるなりのジェームズの一言に、全員が一時は目を向けたものの、すぐにそれぞれの作業に戻った。というか、明日の朝一番にある薬草学の提出課題をやっているだけともいう。ピーターが苦手なのはいつものこととしても、こと薬関係にだけはリーマスも弱いときてる。仕方ないので、俺が使った資料を貸してるってわけだ。当然ながら、ジェームズは終っている。同じだけ過ごしてて、こいつが課題をやってる姿なんてそうそう見ないが、いったいいつやってるんだ。

 ぼーっと考えこんでいる俺の耳に、生暖かい気配が吹きつけてるのを感じる。

「一大事なんだってば」
「うわあ!!!ジェームズ、おまっ!!耳はヤメロ耳は!!」
「一大事なんだ」
「わかった、聞く!聞くから!!」
 椅子を立ち、ジェームズから離れたものの、とりあえず一定の距離を保っておくにこしたことはない。どうして普通に話し掛けないんだ。

「わかってくれればいいんだよ。リーマスとピーターもちょっと休憩してお茶にしないかい? リリーからクッキーを貰ってきたんだ」
 ニッコリと笑って、すぐにリーマスが立って紅茶をいれにいく。その間にピーターは羊皮紙やなんかを片付けて、テーブルの上には甘い匂いの御菓子が置かれる。

 そして、全員が椅子についてから、ジェームズがおもむろに話し出した。

「さっき談話室で偶然会ったときにね、リリーが僕たちにって」
「偶然じゃないだろ、絶対」
「そんときにさ、ミオが手紙を書いてたんだ」
 無視かよ。

「手紙なら誰でも書くでしょ?」
「そうなんだけどね、ピーター。でもそれだけじゃないから一大事なんだ」
 俺たち全員の顔を見まわしてから、ジェームズは続けた。

「見たんだ」
 簡潔すぎだ。

「ミオのところに来る手紙、知ってるだろう? ミオが同じことをやってみせてくれた」
「なんだって!?」
 叫んだのは俺だけで、リーマスは落ちついてジェームズを見ている。ピーターは言葉も出ない様子だけど、ワクワクしているのは同じだろう。いつもくるミオの手紙は梟便でなく、真っ白い鷹で、すでにホグワーツの名物となりつつある。どんな魔法を使ったら、キスしたとたんに手紙に変わるのか、ジェームズが興味津々でいるのは知っている。

「封筒に変なインクで変な模様を書いてキスをする。そしたら、窓から小さな梟になって飛んでったんだ。あれはすごいよ。君たちも一度見せてもらうといい。ホグワーツの魔法とは異なる魔法みたいだ」
 小さな、というところで両手で大きさを示してくれたけど、その大きさは小さいというかすでに普通の梟のサイズですらないんじゃないかというくらい小さい。

 ところで、この話のどのへんが一大事なのかさっぱりわからない。一体何をいいたいんだ。

「一大事ってそれだけなの、ジェームズ?」
 おっとりとした口調でリーマスが尋ねる。砂糖が足りなかったのかまた一つ二つと足しているが、それで十個は確実に超えてる気がするのは俺の気のせいだろうか。

「それだけでも充分一大事だと思わないかい?」
「明日提出の薬草学の課題より?」
 笑顔に怯んだのはジェームズの方だった。いや、まだ終っていないのかといいたいのだろうが、この場にリーマスに向かってそんなことを言える人物はいない。

「ま、前置きはこのくらいにして本題に入ろうか」
 さっさとそうしなよというリーマスは、言外にまってましたといってる。俺もまさかそれだけだとは思わなかったけど。ね。いや、ホントだって。

「俺たち以外に秘密の通路をつかってる人物がいる」
 神妙にいわれたあと、とりあえず頭の中で考えてみる。

 秘密の通路。ホグワーツで普通に生活していれば必要としないであろう、魔法の掛かった通路だ。どうも出来た当初からあるような気がするその通路を、知っているのも利用しているのも俺たち4人以外にはいないだろう。普通なら、たぶん見つからない。見つけられないはずだ。

 でも、この話はつい先日話したばかりだ。別に新しい情報というわけではない。

「そいつは応えを返してきたのか?」
 通路の一角、誰も来ていない教室の窓枠にメッセージを残してきた。そこまでしか話は進んでいなかった。

 肯いて、上げられた顔がいつもの笑顔を浮かべる。

「午前0時」
 それだけが残されていたメッセージ。俺たち以外の書いたものであるのは間違いない。

「しかもご丁寧に魔法で書いてあったよ。触れたら出るようになっていた」
 少なくとも一年ではないと、誰もが思った。

 侵入者は敵か味方か。自力で探し出したというあたり、仲間に引き込んだ方が有力な戦力になりそうだ。もちろん、悪戯の。

「しかし大胆だよね。消灯後を指定して来る辺りさ」
 クッキーをほお張りながら、リーマスが言う。

「俺たちはいつものことだし、いざとなればジェームズの透明マントもあるけどよ」
 透明マントはけっこう便利な道具だ。マントの中に隠れてしまえば、誰にも見つからない。文字通り、姿を透明に消してくれるマントなのだ。これのおかげで何度減点を免れたかしれない。

「よっぽど見つからない自信があるんだろうねぇ」
 ピーターもリーマスに負けじとクッキーを頬張る。リリーには悪いが、クッキーなんて甘い物、俺にはうれしくない差し入れだ。

「それって、見つかる心配がないくらい通路を知ってるってことかもね」
 流石になくなりはじめたクッキーを今度は両手にとりはじめるリーマス。

 ジェームズはさっきからまた何か考えこんでいる。手と口だけはしっかり動いてクッキーを食べているが。

「俺たち以上にか?」
「うん。しかも今期に入ってからだよ」
 さらりと答えが返ってくる。最後の一枚に手を伸ばしかけたピーターとリーマスの視線が一瞬、火花を散らす。このふたりの勝負はたいていリーマスが勝つ。が。

「今期に入ってからってことは、今年の一年か? 編入生はいなかったよな?」
 でも、一年なんかにそんな高度なことが出来る人物があっただろうか。

「そうか、そうだよ」
 急に肯いたジェームズが最後の一枚をパッと取って、一口に放りこんだ。一瞬、恨めしそうにリーマスが睨むが、本人は気がついていない。

「今日は気になるけど、とりあえず、もう一週間待ってもらおう」
「なんで?」
「だって、明日は満月だろ。リーマスも行けないんなら、行っても意味ないし」
「いや、今日行ってもいいだろ」
「今夜は僕がダメ。課題終ってないんだ」
 まだだったのか。遊んでるから、てっきり終っているのかと思った。

 それと、とジェームズがつけたした。

「確かめたいことがある」



*



 翌日、ミオが倒れたとリリーが騒いでいるのを、俺は妙な胸騒ぎを覚えながら聞いていた。倒れた理由は睡眠不足。心配も当然していたけど、あの朝のことが頭を掠めていた。

 見かけたのはあれっきりだけど、もし毎夜歩き回っていたのなら?

ーー見つからないはずがない。

 つまり、もしかすると、もしかするのかも。しれない。

 東洋の異なる魔法を使える少女(まだ、手紙を梟に変えるのは見たことはないけど)。

 少しその存在が気になった。



p.7

08)隠し事

(リリー視点)



 気づくか気づかないか。それは、どれだけその人をみているかみていないかということだと思う。単純に。

 女子寮へと続くドアが閉まるのを見て、私は小さく息をはいた。

 消えたのはミオで、残っている私が待っているのは彼らだ。

 暖炉の火はまだよく赤と橙と白い光を撒き散らして、談話室を暖めている。

「…難しいのね」
 小さく呟いて、手元の本に目を落とす。数行追って、またため息をついて本を閉じた。本をテーブルに置いて、ソファーに肘をついて額に手をやる。

 別に熱があるという訳ではなく、眉間に皺が寄っていないか確認しただけだ。先日、それでシリウスにからかわれて嫌な気分だったから。

 独白の方はというと、別に読んでいた本が難しいというわけでなく、さきほど笑顔で談話室を去っていった少女のことだ。

 彼女のルームメイトによると、どうやら夜中に抜け出しているらしい。今のところ、他の誰にも見つかってはいないが、あの悪戯どもの例もある。いつ捕まるかわからないのに、そんなに抜け出す理由を聞き出さなければ、と思ったのだが。

ーーちゃんと寝てるよ。

 屈託なく笑う笑顔を思い出して、また頭が痛くなった。嘘を言っているようには思えない。ミオの姉から多少の話は聞いていたけど、どうも違う事態が起きているようだ。梟便で連絡を取ろうかとも考えたが、ミオの話ではどうも梟が彼女に近寄らないという。おかしな話だが。

「…どうしたら良いのよ、もう…」
 談話室にはもうほとんど人は残っていない。とはいえ、わずかに残る人たちもそろそろ羊皮紙やらお菓子や玩具を片付けて、部屋へと引き上げていっている。そんな姿をまったく気に止めていないリリーは、自分を見つめている視線に気がつくわけがない。

 多少の口煩さを覗けば、彼女は美人なのだ。憂いを帯びた表情にサラリと髪が落ちかかる。それは暖炉の火に照らされて、エナメルの輝きを放つ。見る人が見れば、13歳とはいえ、彼女は立派に大人である。

 ミオが入学して以来、その面倒見の良さを加えてなお、寮内外に関らず人気を博している。

 表面的にはいつでも人懐こい笑顔のミオだが、どこかで人を拒絶しているような感がある。ずっと山奥で育ったせいと、なにか秘密があるらしいとは聞いているが、それがなんなのかまでは聞いてない。

 聞いていないからといって、放っておけるはずもなく。結果、頭痛の種は大きく育っていっているのだ。

 何度目かのため息は、寮入口の扉が開く音と乱雑な足音に掻き消される。

「リリー、まだ起きてたの?」
「夜更かしは肌に良くないぞ~」
「そういえば、曲がり角って何歳…」
 この男どもは。人の気も知らないで、またどこかで悪戯でも仕掛けてきたのだろう。ピーターが続ける前に、わざと言葉を被せる。

「たまには良いでしょ」
 振り向くことさえせずに、怒りを滲ませた声で静かに答える。すると、ぴたりと騒がしさは収まり、静寂が談話室に戻った。

「っへ~、珍しいこともあるな~ジェーム、ズ…」
「どこか具合でも悪いのかい、リリー!」
 シリウスが何か言う前に、くしゃっとした夜色の髪に金の瞳を曇らせて、ジェームズが私の顔を覗きこむ。全面に心配だと言ってくれているのがわかって、少しホッとした。夜なのに、この人は太陽みたいだ。

「あなたたちが余計な悪戯をしていなければね」
 びくりとわかり易くピーターが身震いする。ほんと、わかりやすい。

 だいたいこの辺でいつもリーマスがフォローに入る。けど、今日は姿が見えない。変だ。

「一人足りないわね? まさか、置いてきたの?」
「え?」
「リーマスよ。リーマス・ルーピン。いつも一緒じゃないの」
 かすかに空気が凍りつく。彼らもまた、なにか秘密があるらしい。

「あ、僕、ココアいれてくるよ」
 小突かれて、ピーターが給湯室へ消える。ジェームズとシリウスは私と向かい合うように、椅子に座った。

「リーマスは病気の母親の見舞だよ」
「昨日、言ってたろ? もう、忘れた?」
 そうしていると、二人はとても双子のようで、少し困ってしまう。なにか隠しているか悪戯でもない限り、この表情はしないのだ。

 隠すのが悪いとは言わない。でも、どうも自分の居場所ってものがないんじゃないかと不安になる。この男どもはこれだし、ミオはひたすらになにか隠している。彼女の姉もだ。もしかして近いようで、一番遠い位置にいるのが私なのかもしれない。

「忘れたわ」
 同時に眉がピクリと動く。こういうときは、どうしてこんなに似ているのかしらね。冗談よ、と笑ってやると、やはり同時に表情を柔らかくする。

 どんな変化も逃さないわよ。私は、本当に、心配なんだから。いつも危ないことばかりしているし。

「毎月顔を見せにいってもなかなかよくならないんでしょ?」
「ああ」
「でも、元気な姿をみれば、少しは安心するんでしょうね」
 毎月満月のたびに彼は母親の見舞に行く。そして、いつのまにか帰って来て、いつのまにか彼らと悪戯をしているのだ。彼等はそろっていないと、妙な感じがする。

「リリーはこんな時間まで何を考えてたの? またミオのことかい?」
「ええ、そうよ。よくわかるわね」
 いい当てられても、ジェームズだとどこか納得出来てしまう。

「だって本をテーブルに置いて、暖炉の前でボーっとしてるなんていったら、それぐらいしかないよ」
 最近はミオの話ばかりだから、と付け足される。そんなにわかりやすい行動してたかしら。

 テーブルの上の本のタイトルを指でなぞって、こんなの読んでんのかと呆れた声でシリウスが呟く。大きなお世話だわ。

「それに…」
 ジェームズがなにか云おうとしたようだったが、ドアの開く音で私は振りかえった。開いたのは女子寮の扉の方だ。そして、出てきたのは。

「ミオ?」
「こんな時間にどうしたんだい?」
 白い日本の寝巻き姿が火に照らされて、アフター・グロウのグラデーションを呼びこんでいる。瞳の焦点はあまりはっきりとはしていなくて、かすかに驚いて見開かれた瞳が安堵の色を宿すのが見えた。

 ミオは視線をしっかりと合わせたまま、私のところまで歩いてきて、するりと自然に抱きついた。ジェームズがひどく驚いているのを視界に入れながら、私もその小さな身体を抱きとめる。暖炉に当たっていたせいなのか、私の方が体温が高くて、ミオはひんやりとしていた。

「ミオ?」
 擦り寄って、なにか囁く口元に耳を寄せる。

「…ローブ、貸して」
「え?」
「なんでもいいから、貸しなさい。シリウスも」
 二人からローブを剥ぎ取って、ミオを包みこんだ。震えてはいないけど、この姿では風邪を引く。

「なんなんだよ」
「ミオは?」
「眠ってるわ」
 視線を寝顔から外さないまま、小さく囁くように答えた。おそらく、寝惚けて起きてきたに違いない。寝ぼけながら、私を姉と間違えて。安心しきって頼ってくれた。そんな小さなことが嬉しい。

「あれ?」
「ピーター、お前もローブ貸せ」
「へ? あ、うん」
 ココアを乗せた盆だけがシリウスの手を介してテーブルに届き、遅れてピーターの少し小さめのローブが渡された。

「寝ちゃってるの?」
「ええ」
「あ、カメラ!!」
 なにか思い立ったようにジェームズが男子寮への扉を開けて駆けてゆく。ピーターも毛布を取ってくるといって、その後を追い、シリウスだけがなにかを考えこんでいた。

「どうしたの?」
「いや…」
 視線はただこちらにだけ注がれている。

「そうしてると、母親みたいだな」
 あとで、本当にっ覚えてなさいよ。シリウス・ブラック。



 翌朝、ミオは自分がどうして私の腕の中で、談話室で眠っていたのか。しきりに不思議がっていた。

 本当に覚えていないようだった。



p.8

09)真夜中







 月が見えないようにリーマスは座っている。俺とジェームズは窓辺に立ち、ピーターは昼間の授業で寝損ねたのか、壁に寄りかかってゆらゆら船を漕いでいる。

「一週間も経ってるのに来るか?」
「むこうは忘れてるかもね」
 月の光にかすかに苛立っているリーマスの声に、ジェームズと肩を竦ませる。月の光が嫌いな理由は知っているが、こいつほど月の似合うやつもいないのに。それも、因果のせいだろうが。

「来るよ」
 わずかに微笑みながら、ジェームズは呟く。

「根拠は?」
「絶対に、来るよ。今夜は…そんな予感がしないかい?」
 こちらに向ける瞳が悪戯の響きをもっていることに気づき、俺も苦笑をもらす。

「今の時間は?」
「ピーターが時計持ってきてたよね」
 当のピーターは完全に眠りの世界に足を突っ込んでいる。

「おい、ピーター?」
「…くー…」
「ピーター!」
 耳元で叫んでも起きる気配はない。

「シリウス、そうじゃない」
「ピーターを起すときはね」
 リーマスと2人で目配せして、ジェームズがピーターの耳元に口を近づけて、何か囁く。

 ほんの一瞬の後、ピーターが飛び上がるほどに跳ね起きる。何かとんでもないことを言われたのだけはわかる。なんのネタでささやいたんだか。

「ジェームズ…っ」
「目は覚めたろ?」
「そうだけどさ~ぁ」
 恨みがましく睨みつけてくるものの、その迫力のなさにリーマスと2人、笑いあう。

「もう今日はやめるか?」
「まだ時間きてないよ、そうだろ。ピーター」
「…もう~ちょっとかな」
「大丈夫、ピーター?」
 リーマスの問いに、欠伸を噛み殺して答えが返ってくる。それをまた皆で笑う。

 だが、このまま待ってるのもそろそろ飽きてきた。

「シリウス?」
「ちょっとその辺歩いて来る」
 そういったとたんに。

「君まで眠くなったの?」
「珍しい…徹夜なんて、いつものことだろ」
 人聞きの悪いヤツラだ。俺がいつも女と遊んでるとおもってやがるらしい。ーーそりゃあ、半分は事実だけどな。

「あ、でも直に時間になるよ」
 ピーターがそういうのと、足音を聞きつけるのは同時だった。トタトタと軽い足音は廊下側からは聞こえなくて、何もない壁から近づいてくる。

 灯りのない教室で(点けたら見つかるからな)
 月明かりは不気味なオプションと化し(ある意味明るいが)
 何もない壁から聞こえる足音って言ったら。

「おばけ~!!」
「なにいってんだ。ゴーストなんかいっぱいいるだろ」
 逃げ出しそうだったピーターの襟を捕まえる。

「まだ見なれてなかったの、ピーター?」
「でも、ゴーストにしてはやけにリアルな足音だな」
 足音に全員で聞き耳を立てる。ふと振りかえった眼鏡の親友はこころなしか楽しそうに微笑んでいる。

 近づいてくる足音は、軽く、階段を上がる音に似ている。それは教室を一周してから急に消えた。

「…聞こえないね」
「聞こえなくなったな…?」
 3人できょろきょろと辺りを見まわして首を傾げている中、ジェームズ1人だけが細く笑っている。

「ピーター秒読み、お願いできるかい?」
「あ、うん」
 そういえば、音が止まってから彼が見つめているのはただの一点だけだ。何もない戸棚の脇の壁を俺も見つめてみる。

 …8…7…6…

「おい、ジェームズ」
「なんだい?」
 …5…4…3…

「おまえ、誰だかわかったのか?」
 俺の問いには短い笑い声しか返って来ない。まだわからないのかと、目で笑われる。

 …2…

「もうすぐ、わかるよ」
 …1…

 かたん、と壁に亀裂が入って。闇に白い影が伸びる。

 小さな子供の手だ。それから、妙な服に俺は見覚えがある。

「はじめまして、のがいいかな。侵入者さん?」
 ピーターのゼロという声と、ジェームズの影に対する挨拶は重なった。そして、そのゼロという声と共に、壁は元の姿を取りもどしている。暗い闇の中だからわからないのか、それともこれは夢なのか。とりあえず、その人物が俺たちの知らない通路を通ってきたということには違いない。

「遅刻だよ、ミオ」
 ため息と感歎の混じるリーマスに、彼女は細く笑った。ゆっくりと歩いて、月の下へその姿をあらわす。

 闇色の黒い髪、着物という重ね合わせるだけの異国の服、靴さえはいていない白い足。その一歩ごとに足元に小さな風が巻き起こっているせいか、少しも汚れていない。

「丁度のはずだけど?」
 手に持つ杖を振って、椅子を引き寄せ、埃を払って座る。その優雅な仕草は11歳の少女のものではない。見ているだけでもわかる、アンバランスさが妙に際立っている。

「0.1秒の遅刻だよ」
「細かいねー」
 口調は咎めるでも責めるでもなく、月に溶けるように微笑む。

 その笑顔に、一瞬見惚れたのは俺だけではないだろう。ジェームズも、リーマスも、ピーターも、一様に同じ顔をしていたに違いない。

「なんて顔してんの、悪戯仕掛人さんたち?」
 クスクスと笑う顔はミオのものだけど、空気が裏切っていた。もっと軽い空気をしている。軽く、艶やかな笑顔。

「君は本物のミオ?」
「どうして?」
 笑いながら、また杖を振る。今度は空中にお茶のセットが現れる。こんな魔法はいくらなんでも入ったばかりの1年が使えるわけがない。

「砂糖は、いくつ?」
 問われて答える。俺はひとつも砂糖をいれないカップをとって、中を覗きこんだ。薄紅色の花弁が浮いている紅茶だ。香りは、甘いがさっぱりとしている。ジェームズ、ピーターと同じように取って覗きこみ、一番多く砂糖を入れられたリーマスが不思議そうに問う。

「これは…」
「飲まないの?」
 同じポットから注ぎ、リーマスと同じくらい砂糖を入れてから、彼女は杖を振るう。今度はポットだけが消える。

「毒なんか入れないわ。それは、桜の花弁よ」
 桜…?

 不思議そうにしている俺たちの前で、彼女はその紅茶を飲んだ。喉がこくりと音を立てる。その仕草も、とても大人びていて。 つられて飲むと、甘すぎず、とても香りも口当たりも喉越しもいい。紅茶はリーマスの甘すぎるのを見てるので敬遠してたけど、これならいけそうだ。

「君って、マグル出身じゃなかったっけ?」
 俺に続いて紅茶を飲んで、表情を柔らかくする面々。

 教室の中は夜気で肌寒いというのに、この場所だけがほのかに熱を持つ。温かさが、柔らかく取り囲む。

「そうだけど?」
「この魔法、どこで覚えたの?」
「図書室」
 始終ニコニコとやり取りを眺めていたジェームズがやっと、口を開いた。

「ミオは、どうやってさっきの通路を見つけたのかな?」
 温かいままの空気が止まる。そういえば、どうして俺たちをここに呼びつけたんだろう。俺たちは不思議な侵入者に遭って、あわよくば仲間に引き入れるつもりだったけど、でも、ミオの方もそうとは限らない。

 どのくらいの時間が過ぎただろう。ピーターの紅茶を啜る音と、時計の秒針の音だけが耳につく時間がゆっくりと通りすぎていく。それをとめるのはやはりひとりしかいない。

 ジェームズの問いに真顔になっていたミオは、急にその相好を崩した。

「好きなことの為には、努力を惜しまない主義なの」
 いつのまにか握った杖を揮って、手の中から重みが消える。

「また、明日。おやすみなさい?」
 なぜかその場から動けないまま、俺たちはドアから出ていく少女を見つめていた。

 かすかに残る甘い香りだけが、その出来事を事実として残していた。

 別人、みたいだった。あの二つの夜と同じ空気を纏って、とても年下とは思えない。



あとがき

05)早朝の彼女


やっと進んだけれど…怪しい話だな。ホントに。
主人公さん、予知夢発動です。代償もありです。あはは。夜眠れないぞ~♪<コラ
とりあえず、シリウスは最低男のラインからです。つか、黒くないぢゃん!むしろ暗い…?
えっとまだ秘密の地図を作る話まで出てません。それから、リーマスの正体は悪戯仕掛人たちは知っています。
て、ここでそういう注意を書くかな、私も。
(2003/02/01)


06)図書館の先輩


先輩は敬うべし。なんて、あるわけがない。山育ちですからね、この主人公。
姉もつわものっぽいので、ふてぶてしくしてみました(笑。
優しく厳しい先輩セブルス。主人公に振りまわされることうけあいです。<ぇ。
好きなことだけ、やっていられたらいいのになー…。
ところで、この話の時間経過はかなりめちゃくちゃです。
深いことは気にしないでください。
(2003/02/03)


07)一大事


疑惑篇。その2。睡眠不足な主人公と、高度な呪文。複線はひいときましたっけ?
この回、シリウス君は一枚もクッキー食べてませんのであしからず。
次は疑惑篇3(笑)。見つけてもらいましょうか。夜遊び主人公を。
(2003/02/04)


08)隠し事


リーマスがいないのは、アレです。満月の夜なので。
りりーさん、まだジェームズさんと付き合っていないので理由を知りません。
みつけたのはリリー嬢でした。いつものようにフラフラでようととしたら、見つかったので抱きついた。と。
戻ってきたジェームズさん、たぶん写真に収めるでしょう。ちょっと聖母のイメージなりりーさんでした。
次もまた別の夜の話。
(2003/02/05)


09)真夜中


悪戯仕掛人としての彼らとやっと接触。ここまで、長すぎ…っっっ
夜歩きし過ぎなんで、そろそろ昼に移動しますか。
(2003/02/17)