ハリポタ(親世代)>> Eternal Friends>> Eternal Friends 10#-14#

書名:ハリポタ(親世代)
章名:Eternal Friends

話名:Eternal Friends 10#-14#


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.2.18 (2003.2.27)
状態:公開
ページ数:8 頁
文字数:12953 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 9 枚
デフォルト名:///カミキ/ミオ
1)
10)木の上の足
11)悪戯
12)餌付け
13)杖の素材
14)相談

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p.1

10)木の上の足

(ピーター視点)





 木から足が生えていた。

 といったら、ホラーみたいだけど、違うよ。僕の位置からはその足が見えただけだったから。

 淡く葉の色を変え始める一本の木。それは風を受けて、光を万遍なく受けて、ゆっくりと時間を生きていた。その一番下の枝に、一本の足が生えている。人間の、それもすごく小さい人の細い足には辛うじて革靴がひっかかっているだけだ。

「ね、リーマス?」
 隣を歩いていたリーマスのローブを軽く引いて、見るように促してみる。リーマスが気がつくと同時に、前を歩いていたジェームズとシリウスも気がついたらしく、二人で木の下へ近寄る。不信感と好奇心で僕も遅れてついてゆく。

「誰だー…ぁ!?」
 風が強く吹いて、引っかかっていただけの靴は落下。丁度真下にいたシリウスの頭に直撃した。 誰かが木の上にいるのはわかっているんだけど、その誰かは僕たちの声に気がついていないようだ。

「そこにいるの、誰?」
 リーマスが呼びかけても。

「おい、人に靴ぶつけておいて…!!」
 シリウスの怒声にも頓着せず、ジェームズが木を登り始める。ジェームズはなんでも得意だ。

「ねぇ、君…」
 登りながらなにか問いかけているジェームズにもなんの反応もない。

 ぐるりと見回してもここには僕たち以外、他に誰もいない。今日の授業は全部終ってるし、みんな寮へ帰ってるか大広間か談話室にでもいるんだろう。

 僕らよりずっと離れたところにそれを見つけて、近寄ってみた。ーー赤と金の僕らと同じ色のネクタイだ。 まだ新しく、あまり汚れていない。

「シリウス」
 気の上からジェームズが何かを放り投げた。それは、黒い大きいローブと、小さめのローブ。

「なんだ?」
「そこ、どけ」
 ジェームズがいうのが聞こえて、いつのまにか杖をとりだしたリーマスが浮遊の呪文を唱える。ふわりと、軽く地面に降りたジェームズは腕に何かを、誰かを抱えていた。

「え」
「お?」
「あ」
 三人でなんとも間抜けな顔をしていたに違いない。ジェームズは柔らかく微笑みながら、彼女の寝顔を見下ろしていた。

 光が、あったように思うのは僕だけじゃなかったはずだ。談話室で二度見た寝顔は、陽光の下だと、もっとあどけなく、もっと可愛い。

「どうしてあんなところでねれるかな、ミオは」
 木に寄りかかって座るジェームズを囲むように立って、僕らはミオの寝顔に見惚れる。子供の寝顔は可愛いものだけど、ミオのはどこか特別だった。ふと、昨夜のことを思い出す。

「ミオが授業中寝てるって聞かないよね」
「まさか、こんなところで眠ってるとはな」
 皆一様の思い出すのは昨夜のこと。月の下でのあの姿と、今のこの姿ではあまりにギャップがありすぎる。

「あれって、本当にあったことだと思うか」
「こうしてると信じらんない…かな」
「シリウスが紅茶飲んでたしね」
「そこからして、夢だもんねぇぇぇ」
 低く押し殺した声で咎められ、リーマスと二人で肩を竦めた。こう言いながらも、僕らは昨夜遭ったことも全部本当だと知っている。あの紅茶の味はなかなか忘れられそうもない。月を映し、淡い桃色の花びらを浮かべて飲んだ、不思議な紅茶。あの時のミオの存在そのものが、場を特別なものにしていた。その時は彼女がずっと年上に見えた。

 ジェームズは抱きかかえたまま、ミオの髪を弄びつつ微笑んでいる。悪戯をするときとかのじゃなく、もっと優しい、父親みたいな笑いだ。

「ピーター、君、今何か妙なことを考えなかった?」
 笑顔を向けられて、僕は顔を引き攣らせながら否定を返した。

「こんな妹いたらいいのにな」
 柔らかく微笑んではいるけど、さっき考えたことは的確に伝わってしまっていたらしい。

「ミオが妹だったら、溺愛しそうだよな。ジェームズ」
「今もたいして変わらないよ」
 シリウスとリーマスも柔らかく笑っている。たしかにこんな妹がいたら、たぶんお互いに紹介もしないだろう。いつも一緒にいるだけあって、お互いの性格も好みも知っているつもりだ。

「…ぅぅ…」
 少し苦しげにうめく声に、全員が息を止める。ミオは眉をこれ以上ないくらいに寄せて、苦しげに辛そうにしている。

 なにか、いやな夢でもみているんだろうか。たまに、リーマスやシリウスも同じようにしているのを見たこともあるし、僕も嫌な夢をみるとそうなるらしい。そういうときは、皆で悪戯を仕掛けて、思いっきり笑って、全部吹き飛ばす。

 だけど、それは僕等のやりかたで、他の人はそうではないと知っている。

 心配そうに見つめる中、ミオは僕らがもっとも驚くべき事柄を口にした。

「…セブ…」
 後に続く言葉を聞かなくても、そんなんで続く言葉は一つしかなく。

「い、今のは?」
「空耳、だよねぇ?」
 ジェームズは笑顔のまま固まっているし、シリウスも同様だ。

「ミオ、セブルスと知り合いなのかな?」
「き、聞いたことない、よ、ね?」
 リーマスも言葉は交わせてるけど、笑顔が固まっていて怖い。この3人の頭の中にある事柄はたぶん、共通だろう。

「セブルスのやろう…っ」
「僕の可愛いミオに」
「何をしやがった!?」
 たしかにミオは可愛い。でも、別に誰のものでもない。

「ふっふっふっ」
 ジェームズの含み笑いが怖い。

「パッドフット君、これはあれじゃないか?」
「そうだな。あれしかねーな、プロングス」
「彼のことだから、たぶん図書室にいるんじゃないかな?」
「さすが、ムーニー! わかってるね!」
「なんでセブル…」
 口に出そうとしたとたん、リーマスとシリウスに手で口を塞がれた。い、息ができないっ

「決行は?」
「夕食前!!」
 二人とも少しは手加減してくれないと…いつか僕は死んじゃうかもしれない。



p.2

(ミオ視点)



 人の気配、というか。不穏な空気で私はうっすらと目を開けた。細い木漏れ日が丁度眼の位置にあって、白い光しかわからない。

 そこに影が一瞬重なって、息を止める。逆光にしている三人は、そうでなくてもただならぬ空気を醸し出していた。

「何、なんで…?」
「おや、起きたね」
 答えたのは一番近い位置にいるジェームズだ。どのくらい近いって、顔が近い。たぶん、彼の膝を枕に寝かされているのだろう。

「て、あれ?」
 でも記憶が確かなら、自分は木の上の一番下の枝で眠ってたはずだ。ローブを掛けて。

「あまり木の上で眠るってのはお勧めできないな」
「落ちたら、大怪我だよ?」
 苦笑しながら優しい声音のシリウスとリーマス。何が楽しいのか3人ともクスクス笑っている。

「や、慣れてるから。平気なんだけど」
 日本じゃよくやってたし。ここの木は太くて登りやすいし、まだ安定いいし。

「平気じゃないよ。こんな高さでも、落ちたら…」
「や。落ちないし」
「なんか根拠でもあるのか?」
 根拠…?

「だから、落ちないから」
 ヘラヘラ笑いながら、とりあえず起き上がる。3人は困ったような怒ったようななんだか複雑な顔をしていて、リーマスとシリウスの伸ばされた腕の先で顔を赤くしてもがいている人がひとり。

「ピーター、大丈夫なの?」
 はっときがついた二人が手を離すと同時にピーターが倒れる。あーあ、完全に目が回ってる。

「ごめん、ピーター!」
「おい、生きてるか!?」
 3人の様子を笑って見ていたジェームズがローブを差し出してくれる。バサリと翻して身につける。でも、なんか重い。それに、大きい。

「ごめん、間違えた。こっちがミオのだ」
 あははと笑いながら渡されたローブを交換で持ち変えて、今度こそ自分のローブを羽織る。

 微妙に空が風が冷たくなってきている。また、夜がくる。

 ギュッと杖を握って、4人を見下ろした。夢の中でのことを思い出しながら、笑う。

「もしかして、もう授業全部終ってる!?」
「え、ああ。うん」
 あーやってしまった。もしかして、これは減点されるかもしれない。

「いつからここで寝てたの?」
 苦笑いしか返せず、礼を言ってその場を離れた。

 まさか、いくらなんでも午後中ずっと眠っていたなんて、言えない。今日一日で何点減点されただろうと、頭を抱えたくなった。

p.3

11)悪戯

(ジェームズ視点)





 暗い廊下の影ではなく、階段の手摺から僕らは下を覗いていた。といってもあからさまにじゃない。それじゃぁまるでこれから誰かに悪戯すると宣言しているようなものだ。実際、そのつもりだけどさ。

 木目の浮き出る廊下には生徒・教師は当然として、ゴーストたちも普通に横行している。ゴーストもビーブス以外はいたって無害だ。ビーブスも扱いによっては別に無害なんだけど。

「そういえばさ」
「なんだい、リーマス?」
 手摺に寄りかかっている親友に目をやると普段とさして変わらない様子で、チョコレートをくわえている。ゆらゆら揺れる茶色の物体は、ほどなく彼の口に収まる。

「ジェームズはいつからわかってた?」
 笑いながらなのに、真剣な瞳は本当の答えをききたがっているのだろうけど、彼らの問いに答えられる材料ってもんはない。ただ僕が人よりもそういう勘に優れていただけなのかもしれない。

 もともと不可解なところがミオにはある。東洋の魔法なんてのは比にならないくらい。

「なんのことかな?」
 とぼけるなよ、と下を適当に覗きこんで、通りすがってこちらをみつけた女生徒に手を振っていたシリウスが睨みつけてきた。

 もともと細目で目付き悪いのに、睨んだら余計に人相が悪くなるよ。変に迫力あるから、余計な噂まで立つんだろうに。

「リーマスもずいぶん前に勘付いていたんじゃないか?」
 彼のほうはそんな反応をもう微塵も見せない。

 お互いに笑顔のまま探りを入れているのを頭の上に感じているであろうシリウスは、大きくため息をついている。おそらく関わりあいになるのだけは避けようとか思っているんだろうけど、そうはいかない。

「シリウスも、少しはそんな気がしてたろう?」
 少なくともそれほどの警戒ではなかった。重々に警戒していたら、あのときカップを弾き飛ばして割っていたにちがいないのだから。

「…ムカツク」
「誉め言葉ととっておくよ」
 あからさまなシリウスと、空気だけ剣呑なリーマスを正面から受け止めて、カラカラとした笑いをたてる。

ーー図書室を出て来る目標を発見。

 そんなときだ。ピーターが小さくローブを引いて合図してきた。全員でそれぞれ、気づかれないように廊下を覗きこむ。

 廊下をまっすぐに淀みなく毅然と歩く少年がひとり。長めの黒髪が揺れ、青白い肌に映え、いかにも不健康そうな彼を見、シリウスが舌打ちをする。

「いくぞ」
 手の中の物を彼にめがけて投げる。今回はそれだけだ。それだけで悪戯は完了だ。毎回同じ手でも警戒されている。

 しかしゾンコの商品でも出たばかりで俺たちも効果の程は知らない。何がおこるかも実はよくわかっていない。死ぬことはないから、その点だけは安心しているが。

 方物線を描いて少年ーーセブルス・スネイプ目掛けて、それが落ちていく。

「あ!?」
 あと一歩という所で、何かが間に踊り出た。影のようなそれは不敵な笑みを浮かべ、杖を構える。呪文を唱える時の構えでなく、マグルのベースボールバッターのように両手で構え。

「ミオ!!」
「なんで、ミオが?」
 驚く僕等の目の前でそれを打った。

 カキーンと、小気味良い音はシリウスの顔面に命中し、仰け反る。

「ぎゃっ!」
 僕等は反射的に3メートルぐらい彼から離れた。薄情だけど、怖かったんだ。

 目を回したシリウスの口から、カエルチョコが大量に飛び出してきたんだから。

 チョコレート好きのリーマスも、流石にこれはイヤだったらしく。飛び跳ねていくカエルに触れようともしない。

 逆に何人かの女生徒がそれを捕まえていた光景が見えた。

 階段の下を見ると、セブルスとミオが何か話している。内容は聞こえないけど、ミオが勝ち誇っているのと、あのセブルスが苦笑している姿をみえる。

 加えて、一瞬投げられた視線があの夜のミオと重ねさせる。

「………」
 その挑戦、しかと受けとった。

「リーマス。シリウス…は無理か。ピーター。ミオの秘密、知りたくはないかい?」
「何かわかったの?」
「ミオの秘密?」
 笑顔を向けると、悪戯仕掛人の同士はわかったようにニヤリと笑みを浮かべた。



p.4

(セブルス視点)



 図書室を出ていく私をミオが追いかけて来る。懐かれるのは良いが、どうも調子が狂ってしまう。彼女はれっきとした敵対寮グリフィンドール生なのだ。少し気を引き締めねば流されてしまいそうな自分が少し怖い。

「いつまでついてくる気だ?」
「待ってってば!」
 小さな呟きにメゾソプラノが重なる。もう追いついてきたか。

 何故か今日に限って、ついてくるのだ。いつもなら、図書室の前で別れるのに、奴らが悪戯を仕掛けてくるからという理由で。そんなものはいつものことだというのに。

「そっち行っちゃダメだって!」
「この本を持ったまま、夕食を食べに行く気は無い」
「他の道通って」
「なぜそこまで命令されなければならん?」
「いいから!」
 一度立ち止まりかけたものの、いぶかしみながらも道を変えず、そのまま階段近くを通りかかる。

「セブルス、止まって!」
 ミオの手に杖が握られているのを認め、諦めて足を止める。

「何をす」
「下がって、セブルス!」
 迫力に押されて、廊下の窓側へ寄る。

 影の残像、とでも言えば良いだろうか?

 黒いローブを瞬時に捨てて、杖を両手に持って、私の隣に立つと、彼女は杖を振りかぶって。

 何かを打った。良い音がした。

「ふぅ。間一髪!」
 満足げに前髪をかきあげ、満面の笑顔で振りかえる姿に、また一歩窓へ寄る。

「言った通りでしょ?」
「何が起こった?」
「シリウスがなんか投げたのよ」
 それを打ち返しただけと、こともなげに言われる。杖を持っているし、魔法使いであるのだし、なにより並の上級生よりも攻撃の魔術に通じているのだから使えばいいものを。

「わざわざ、打ち返したのか?」
「そうよ」
 平べったい胸を張るミオに対し、堪えきれず笑いが零れた。

「あっちから来るってのはわかってたから」
「見えたのか?」
「見えたわ」
「まだ廊下にも出ていなかったのに?」
「見たから!」
 話を区切るように叫んで、彼女は続ける。

「だから、レポート手伝って…っ」
 ミオが助けた理由というのは、結局これなのである。



p.5

12)餌付け

(リーマス視点)





 4人の中ではたぶん、僕が一番懐かれている。そう思うのは自信過剰というわけではない。

 シリウスと僕の間に座ってくつろいでいる少女に目の前のクッキーをとって差し出した。

「食べる?」
 一番懐かれているリリーは今、紅茶を準備しているところだ。六人分ということもあって、ジェームズが一緒に手伝っている。

 シリウスは複雑な表情で宙を睨んでいる。たまにミオに視線をやっては、ため息をついている。

 本当はみんなミオにどうしてと問い詰めるつもりだった。

 どうしてセブルスといたのか。

 どうしてあそこにいたのか。

 どうして的確に打ち返せたのか。

 どうして寝不足でいるのか。

 この際全部ハッキリさせるために、リリーが今飲み物を準備している訳でもあるのだ。

 用意が整うまで何の質問もしないように、釘をさされてしまっている。

 ミオはふにゃりとした笑みを浮かべると、僕の手から直接かじった。

 あまり甘くないアールグレイの紅茶クッキーはリリー御手製である。彼女はマグル式の料理術に長けている。

「ほれ」
 僕の手から全部食べる様子を面白いと思ったのか、シリウスが笑いながら差し出す。それにも受け取らずに手ずから齧る。

「たべ、る?」
 テーブルを鋏んで座っていたピーターが差し出したのもやはり同じように食べ。

 花のような笑顔を振り撒いた。

 談話室でそんな笑顔を振り撒いちゃいけないよ。攫われてしまうよ。

「おかえし」
 ひょいと目の前に差し出されたクッキーに一瞬、目を丸くする。

 手で受けとろうとすると、さっと横に避けられた。

 口で…?

 ぱくりと加えると、手が離れる。そして、笑顔が返ってくる。役得、かもしれないね。これは。

「シリウスも」
 困惑している様子の彼に密かに苦笑した。手で取ろうとしたのを案の定、避けられている。

「なぁ、ミオ」
「はい」
 満面の笑みの後ろに、妙な企みが見えるのは、僕の気のせいかな。観念して口で受けとるシリウスが、目で笑うなと訴えてくる。

「ピーターもっ」
 座ったままだと届かないので、立ちあがって、テーブルに手をつき、身を乗り出す。僕たちの様子を見ていたピーターは、意外にも笑いながらクッキーに齧りついた。

 こうしていると、たしかにミオは子供だ。それも小さな小さな子供。

 僕等も入学当初はこうだったろうかと考えるけど、もう少しが大人だった気もする。

 ミオの場合、ひどくアンバランスなのだ。

 これほどに幼く見える時と、真夜中に会った時の大人びた様子。丁度良いということがない。

「おいしーねぇ」
 でも、この変わった純真な花を見られるなら、それもいいと思える。不思議だ。

 全部が寝る直前の出来事だった。つまり、あの幼さは眠る寸前の行動らしい。

「ミオ、眠い?」
「んーん」
 目をこすりながらも僕とシリウスの間で身体が揺れる。

「眠いんだろ」
「まだー……」
 ポスンと小さな重みが寄りかかるのと、柱時計の音は同時だった。

「…かわいいね」
 ピーターもにっこりと笑う。僕もシリウスもみんな笑顔でみている。かわいいかわいい妹だ。みんなの。

「すごいね。ぴったり0時だ」
 戻ってきたジェームズが時計を見ながら笑う。

「やっぱオコサマだなー」
 小さくわらいながら、シリウスがミオの手元に握られている杖をひっぱった。意外にもするりと簡単に抜ける。

 暖炉にはまだ火が燃えている。オレンジ色の光は、談話室に影を作り、少し不気味に踊らせていた。

「こら、勝手に取っちゃだめだよ?」
 とりあげて、机に置く。その時だった。

 振動が伝ってくる。

「……さむ…」
 震えているのは、眠っている小さな小さな少女。

「ミオ?」
 同じソファーにいるシリウスにもそれはわかったらしく、顔を覗きこむ。

 顔を近づけるので、何をするのかと思って、引き寄せた。

「熱はかるだけだって」
「あ、そう」
「オコサマは守備範囲外」
「あーオネーサマ専門だもんね。シリウス」
「そーゆーこと」
 なんの心配してんだと笑われてしまった。だって、ね。ミオは大切な妹みたいなんだ。シリウスの悪い毒牙にかからせるわけにはいかないしね。

「熱はないよ」
 自分の手で熱を測って伝える。でも、現実にミオは寒いと震えていた。

「暖炉の前に行こう」
 抱えて暖炉の前に座る。少し熱いくらいだ。

「どうしたの?」
「シリウス、なんかしたのかい?」
「なんで俺なんだよ!」
 暖炉の前でもミオはまだ寒がっている。

「急に寒がりだしたんだ。シリウスじゃない」
「じゃ、なんだ?」
 眠ってからのことを考えてみる。

 安心した表情で眠りこんでしまったミオ。

 みんなで笑って見ていて、ミオは杖をしっかり握っていて。

 それをシリウスが取って。

 それを僕が取り上げて、机に置いて。

「杖…?」
 すぐにシリウスが机の上のそれを持ってきた。

 しっかりと握りこませてやる。 すると、さっきまでの寒がり方が嘘のように、落ちついた。呼吸も安定している。

「なに? どういうこと?」
 僕がそれをききたいくらいだ。

 とりあえず、杖はミオにとってなくてはならないもののようだというのだけはわかった。

 僕たち全員がなくてはならないのだけど、彼女にとって、それはもっと違う意味で。

 そっと触ってみたら、不思議な感触と、ほのかな暖かさを伝えて来た。



p.6

13)杖の素材

(ミオ視点)





 夢を見た。

 現実みたいな夢だ。否、現実に一番近い夢。

 羊皮紙に書きこまれてゆく道はホグワーツの秘密の通路だ。

 書いているのは、ジェームズ。鼻歌を歌い出しそうな様子に、隣で私は苦笑する。

 みんなで騒ぎながら、誰もよく咎めないなと思ったら、そこは、いつのまにか談話室ではなくなっていた。

 辺りを見まわすと、誰もいなくなって、風が髪を巻き上げる。

 私が来ているのは白い着物に深紅の袴。

 神社のバイト生が着ている巫女服だ。

 以前、姉がバイトしている時に着ていたのだ。

 穢れのない白い着物に墨色の髪が落ち、長さのあるそれは縛られもせずに風に揺れている。

 背筋を伸ばし、両手を不思議な形に組み、左足を少し下げる。

 両の目はきつく閉じられ、眉間には皺が一本。

 暖かくなる気配にふと顔をあげた。

 私はご神木となっている桜の木の下にいた。

 春の始まりと終りとを告げる花が、潔く散っている。

 小さい頃から、不思議だと思って見ていた。

 あんなに綺麗な花を一気につけるのに、いつも一斉に散ってしまう。

 それが胸を強く締め付ける。

 散らないで。

 そういうと、姉はいつも寂しそうに笑う。

 花弁を掃くのは彼女の仕事だった。

 場面が変わる。また、グリフィンドールの談話室だ。

 さっきとは別の羊皮紙に、ジェームズとシリウスが何か書きこみながら討論していた。

 なんて、いっていただろう。





 私には秘密? 何が、秘密?



p.7

 夢と現実と間で揺れて、目を覚ます。

 あったかいような寂しいような、変な夢だった。

 例によって覚えてる。

 それに、予感がする。

 きっと近い未来、あれは起きる。

「おはよ、ミオ」
「ぅひゃぅっ。お、起きてた!」
 隣でむくりと起き上がった少年は、眠そうな目を一度閉じ、頭をがしがし掻いてから、私の手元を指した。

「それ」
「な、に?」
「材質、なに?」
「へ?」
「あと芯なに使ってる?」
 材質?芯?

「それって、この杖のこと?」
「他になにあんだよ」
 何って。

「しらない」
「はぁ?」
「だから知らないんだって」
 聞かれても、用意してくれたのは、たぶん、校長だし。

 あの夢がどれだけ意味があるのかも知らないし。

 今でも時々思い出す。

 あの夢がここに来る最初の予兆だったから。

 季節外れの桜の花が満開で、狂ったように散っていたから。

 なにより、あの一枝のことがある。

「言っても信じないよ」
「言ってみなきゃわかんねーだろ」
「わかるよ」
 だって、私が信じていない。

 シリウスは不機嫌そうにしている。他にもそこら中でジェームズとかリーマスとかピーターとか寝てるけど、どうにも彼の瞳から目が離せなくなっていた。

 強い意思を感じる瞳は、怒っているときの姉を彷彿させる。

 つまり、怖い。

「だって、本当にわかんないんだもん」
「んなわけねーだろ。杖の適性は本人にしかわかんねーんだから、必ず自分で買いに行くもんだし」
 杖の、適性?

 彼の言うことがさっぱり理解できないのは、私が頭悪いってことかな。

「オリバンダーで買ったんだろ?」
 オリバンダー…誰かの名前だろうか。

「違うのか?」
「だから、知らないってば」
「学用品そろえる時…」
「全部、おねぇちゃんの知り合いって人が揃えてくれた」
「へ? て、自分で買いに行ってねーの?」
 そうだという言葉をごくりと飲みこむ。

 信じてくれるだろうか。

 話そうか話すまいか、逡巡して、視線をさ迷わせる。

 時計はまだ早い時間を指しているし、誰も談話室へ降りて来る気配はない。

 外はもう明るいが、部屋の中にはそれほどの光は差しこんで来ない。

「それじゃ、どうやって杖、買った?」
「…買ってない」
 ひらりと窓の外を何かが落ちていった。

「もらったの」
 言葉は私の意思とは関係なく出ていく。

「誰に」
 たしかに私の意思であるように思うのに、答えているのは私でないような。

「…ご神木に」
 手元の杖を強く握り締める。伝えてくるのは、日本の自宅にいたときと同じ安心感。

 あの桜の木に触れる時と同じ、高揚感。

 なんの力も持っていないと思っていた、なぐさめてくれた。

 それが、今、急に思い出されてくる。

「一緒に、いると」
 シリウスは聞いているのだろうか。聞いていなくても別にいいや。

「夢を、みせてくれる」
 近くて遠い、未来の夢を。

「杖が?」
 ホグワーツに来てからも、それは続いている。

 だから、きっと。

 この杖はあの一振りの枝でできている。ご神木である桜の、あの一振りの枝。

「…ミオ?」
 問いかけには答えずに、下を向いたまま女子寮へのドアをくぐった。

 このままでは泣いてしまいそうだったから。

 理由なんて全然わかんないんだけど。



p.8

14)相談

(シリウス視点)





 早朝の白い光の中に、答えともいえない答えを残して、ミオは女子寮へと消えていった。

 俺はそれだけをヒントに答えを見つけなければいけないのかとおもうと、とてつもなく無理な気がしている。

「つか、無理だろ」
「諦めはやすぎだよ、シリウス」
 すぐ近くにいたリーマスがおきあがった。こいつにしては不機嫌そうだ。

「夢、か」
 ジェームズもいつのまにやら起きて、考えこんでいる。

 呟いたのはミオの残したヒントだ。

ーーこの杖、抱いて寝るとね、いっぱい夢をみれるのーー

 わけわかんねー。

 夢なら俺だって見るし、ジェームズもリーマスもピーターも見る。リリーだって、ダンブルドアだって…どうだろう。

 でも夢を見ない人はいないと思う。寝なければ、生きていけないように出来ているのだと、誰かに聞いた事がある。眠らなければ、本当に休む事は出来ないのだと。それと同じに、眠っている間に夢を見るようにできているだと。

 ただ、覚えている事が少ないというだけだ。

「夢を見ている状態ってのは、実はあまり深く眠っていないんだ」
「そーなのー、ジェームズ?」
 いつものごとく眠そうに起きあがったピーターが伸びをする。

 浅い夢を見続けるというのは、果たして良い事なのだろうか。

「でも、ミオっていつもあの杖握り締めてるよね」
 杖を振って紅茶を出しながらリーマスが言う。普通のアールグレイだ。

「おい、砂糖はいらねーぞ」
「わかってるよ」
 渡された紅茶のカップは、白磁に2列の蒼いチェス盤模様がついている。取っ手は細く、折れやすそうだ。そして、これはリーマス自前のカップ。

 透き通った濃い茶の液体からは、白い煙が踊っている。

「あれがないと寝れねぇってことか」
「そーなるね」
 いつもなら真っ先に飲み干すジェームズが、考えこみながらカップを揺らす。白煙も一緒に揺れて、彼の髪に触れるか触れないかの位置で空気に溶けた。

「眠りが浅いってー、結局眠れてないってこと?」
 一番に飲み干して、ピーターが首を傾げる。

「そーだよな」
 杖がないと眠れない。杖があると夢を見る。夢を見ると眠りが浅い。

 ざっとまとめると、こんな感じでそれはつまりどうにもならないという結果に辿りつく。

「私にももらえるかしら、リーマス」
 女子寮のドアを開けて降りてきた赤い髪の少女は欠伸を噛み殺している。昨夜は遅くなったので、彼女だけ部屋に寝かせたのだ。

「だれが私を部屋に運んだの?」
 笑いを堪えているリーマスからカップを受け取って、ジェームズがリリーに差し出す。彼女は軽く匂いを嗅いで楽しみ、目覚めの一杯を喉に流しこんだ。

「それで、ミオはちゃんと眠っていた?」
 ジェームズがかいつまんで説明するのを聞きながら、俺も紅茶で喉を潤した。普通に砂糖をいれなければ、リーマスのは一級品だ。魔法で出すといっても、ほかのやつじゃこうはいかない。目覚めの一杯は、カッと喉を焼き、ぼんやりと寝ぼけていた肉体を強く揺さぶる。

「杖を持っていると夢を見るって自覚はある。でも、夢とわかっているから、眠れてないって思わないってことなのね?」
「そういうことだよ」
 はっきりと動き出す思考回路で、さっき扉の向こうに消えたばかりの少女を想う。あの笑顔に偽りはない。

「浅い夢ばかり見てるから寝不足になった、ってこと?」
「しかも杖を持たないで寝ると、あんな感じに寒がるみたいだし」
 どうしようもないよね、とリーマスも微笑む。朝というより、午後の陽光のごとき笑顔で。

 考えこみながら、歩いてきて、カップを机に置く。その音と一緒に何人かが寮を出ていった。気になるのか、視線をかすかに寄越しながら、だが邪魔はすることなく。軽い会釈に片手で挨拶して、友人たちに視線を戻した。

「でも、あれは? こないだ倒れた時。医務室で寝てたけど、杖は持ってなかったわよ」
 慎重に思い出しながら、言葉を紡ぐ。

「医務室で寝たってことは」
「魔法睡眠薬だね」
 俺の言おうとした言葉を引き継いで、リーマスが微笑む。もちろん、彼は一番その味を知っているので、かすかに顔を顰めている。とんでもなく苦いのだ。俺もよっぽどでないと飲みたくはない。苦いだけあって効果は絶大だが。

「じゃあ毎晩飲ませれば眠ってくれるかしら」
 毎晩飲むのは俺もいやだけど、その考えは一番良い気がした。

「よし!それじゃ今すぐ…」
 それと、だんだん腹が減ってきたから、話をやめて朝食をとりたかっらから。

 まとまりかけた話を崩したのはやはりジェームズだ。

「それはダメだ」
 小さく音を立てて、カップをテーブルに乗せる。その表情は、なんというか難しい難題でも与えられているみたいだ。もっとも、ミオのこれはかなりの難題だが。

「どうしてだ?」
「ジェームズはミオがかわいくなの?」
 聞き返す俺の言葉を遮って、リリーが強く歩み寄る。

 彼女にとって、ミオは友人の妹というよりも自分の大切なこ…睨まれた。

「そりゃ可愛いさ! ミオが可愛くないなんて言うやつがいたら、僕がはりたおすよ」
 大真面目に答える様子も、嘘ではない。俺たち全員がミオを妹のように思っている。あの時を除けば。

「心配じゃないの?」とリーマス。

「ここにいる誰よりも心配しているよ。ミオは僕にとって…そうだね、友達よりも大切だ。もちろん、我が悪友以上にね」
 言葉を切って、それからわずかに彼は微笑んだ。

「でもよく考えてみろ。今度はそれに頼りすぎて、杖ではなく、魔法睡眠薬がないと眠れなくなったら、状況はまったく変わらないんじゃないのか?」
 言っていることはわかる。でも、ここで最善の策が見つからない以上どうしようもないんじゃないのか。

「それじゃ、おまえ、他に方法があるってのか!」
 自然と口調がきつくなっているのがわかる。だが、抑える気はない。

「またミオが倒れるまで黙って見てろってのか?」
 倒れた時、少しだけみた。友人たちの後ろから少しだけ見えた腕は、ひどく細くて、そのまま動かなくなるような恐怖があった。表情もなく眠る姿は、人形のようで、少し怖かった。

 あんなものは二度と見たくない。

 普段はあんなに元気なのに、そのとき初めて目の下にうっすらとある隈に気がついたのだ。懸命に心配かけまいと、我慢し続けて来た遠い東の国の少女。煙突もないという彼女の家には、どうやっても容易に帰る術はなくて。それでもひとりで頑張っていた。

「そうはいって…」
「ジェームズ」
 否定しようとした彼の前に、普段より低い声が近づいた。

「他の方法があるなら、今すぐ、教えなさい。でないと、ミオと口をきかせないわよ」
 血の気がひく親友の顔色を見ても、今回ばかりは同情できない。

 怒っているリリーはマクゴナガルの数百倍も怖いというのは、暗黙の事実だ。

「今必要なのは、リリー、君のいう自覚ってヤツだよ。ミオがきちんと睡眠をとれていないと自覚する必要がある」
 表面上はなんでもない風を装って、ジェームズはさりげなく彼女と距離をとる。

「さっきのジェームズの説明じゃダメなの?」
「理屈で表面的にわかっても意味はない。ミオが自分で気がつく必要がある。ピーター、君の勉強と同じようなものさ」
 ピーターに身体ごと向き直っても、リリーの視線からは逃れられんぞ、親友よ。

 具体的な策は教える気がないみたいだが、こいつのやることに間違いはない。ここは、おとなしく助けてやるか。

「言いたいことはわかった。それで、どうする気だ?」
 別々にまわっていた歯車が、すべてはミオのために動きはじめる。

 密やかに、しかし、確実に。



あとがき

- 10)木の上の足


前半はだれ!?誰が語ってるの!!?てぐらいニセモノですが、一応ピーター。
本編基点の現在はものすごく嫌なヤツですが、学生時代は良い仲間だったと信じたい。
裏切ると思っていなかったのは、誰もが同じですから。
予告通り、昼に移動しました(笑)。次はセブルスに悪戯を仕掛ける予定v。でも予定は未定~♪
ところで、先に学年進んで番外編とか書いても良いですか?<ぇ。
(2003-02-18)


- 11)悪戯


ごめんなさい…っ 書いてる私も何が何やら。
というか、どうして、こんなことに。
こんな扱いでもシリウス大好きです…っ(説得力ナシ
ついでにいうと、収拾もつかなくなってきた。
これからどーしよー!!
(2003-02-19)


- 12)餌付け


記述ないですけど、リーマスさん語りなのはわかりますよ、ね?
わからなかったら、ソウルでどうぞ(何。
主人公餌付けの回です。これを書きたかった…!!積年の野望です(笑)。
書き始めてからだから~…(考)…そんなに日は経ってないですが。
(2003/02/24)


- 13)杖の素材


わけわかりません?ええ、わたしも。すいません。脈絡なく書いてるもので。
最後のは、たぶん、ちょっとしたホームシックです(ぇ。
(2003-02-26)


- 14)相談


全然関係ないですが、目覚めの一杯でイチゴオレの一気飲みしたら、胸ヤケになって一日最悪になります。
みなさんきをつけましょー。(誰もやらんて。
はーやっとここまで進んだか。
(2003/02/27)