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書名:書きかけ
章名:連載もどき

話名:Half MiLK Tea - 1#彼女と兄の関係


作:ひまうさ
公開日(更新日):2008.5.25
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:2025 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
ハーフミルクティー
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p.1

 騒音のような喧噪の中、彼女の周囲だけがキャンドルライトの灯みたいにほんのりと明るく光っているようだった。白磁とまではいかないが健康的な肌色に均整の取れた目鼻立ち、それに黒のハンティング帽子の下から流れ落ちているような金茶色の真っ直ぐな髪は座っても地面に毛先がついてしまっているのが惜しいところだ。本人はまったく頓着している様子はないのだが、それにしたってよく目立った。

 通り過ぎる人のほぼ全てが彼女を振り返るが本人は気がついていないようで、手元の雑誌をのんびりと眺めつつ、片手のカップを傾けている。何を真剣に見ているのだろうと気にはなるが、ちょっと近寄りがたい雰囲気だ。

 あ、頭の軽そうなのが声をかけーー。

「フレームに入れたくないから、消えてくれないかしら」
 意味がわからない。なんだろうと、彼女を見ると声をかけてきた男たちを背に歩き出していた。が、そのまままっすぐにこっちへむかって来て。

「せめてこれぐらいの!」
 いきなり胸ぐらを捕まれて、吃驚する。な、なんでいきなり。

「レベルじゃないと話にならないわ。いっておくけど、これが最低レベルよ。中身磨いて出直してきなサイっ」
 有無を言わせない迫力に気圧される。が、捕まれているから俺だけが気がついた。高飛車な女かと思ったら、この人。

「Get out of here !!」
 震える彼女の手を抑え、間に入る。

「なんだよ、てめぇ…っ」
「女性には優しくしないともてませんよ」
「てめぇ、何様だ」
 話してわかるような人には見えないし、ここはいつも言われているように。

「(ごめん、ちょっとついてきて)」
 彼女の手を取り走り出そうとしたら、いきなり大きな壁にぶち当たった。

「なにやってんだ、タツ?」
 それは俺の待ち合わせ相手であり、偉大な兄貴であり、いわゆるゲーノー人と称される人物であり。

「遅いよ、兄貴っ」
「悪い、撮影が長引いちゃってさ」
「呼び出したのは自分なんだから、責任持って」
 言い募る俺の隣で、小さく否定の言葉が吐き出された。

「…これは何かの間違いよ。いくら私でもこんなに早くは無理だわ。そうね、これはきっと幻覚よ。幻覚ーー」
「タツ、彼女は?」
「あ、この人たちに絡まれてて、その、」
 言った方が良いのだろうか。あれは。

「幻覚なら何言ってもオッケーねっ」
 彼女が長身の兄の襟元を強く引き寄せる。

「なんであの時電話に出てくれなかったの? 奇跡起こしてくれるって言ったクセに、ウソツキっ」
 屈んだ兄貴も驚いた顔をしている。

「一番奇跡が欲しかったときにどうして、起こしてくれなかったのっ?」
 どう見てもそれは八つ当たりで、だけど兄貴は彼女を怒らずに見たこともない柔らかな笑顔で抱き上げた。

「ごめん」
「謝らないでよっ」
「いつ電話くれたんだ?」
「すぐあとに決まってるでしょーっ」
 彼女の方も抱きついてわんわん泣き出してしまって。往来で自分達の世界を完全に作ってしまっている彼らに溜息をつく。

「兄貴の知り合い?」
 帰ってきた返答はわからない、で。言った瞬間に彼女の方が見る見る顔を赤くして暴れ出す。

「わからないってなによっ! こっちは十年間忘れた事なんてなかったのに、この薄情者ーっ」
 十年と聞いて兄貴がぴたりと止まる。そういえば、十年前といえば兄貴がなかなか帰ってこなかったことがあった。夜中に帰ってきたらしい兄貴は翌日に一日中俺に付き合って遊んでくれたことを覚えている。

「クリスマスの奇跡…?」
 今度は彼女がマジマジと兄貴を見つめ返す。

「まさか、あの時の?」
「さっさと思い出せ、馬鹿ぁ!」
 涙を溢れさせ、彼女が兄貴にすがりつき、そのままわんわんと泣き出した。それを慰める兄貴はとても、そう、とても優しい顔をしていた。

 一部始終が公衆の面前で行われたことはともかく、移動した撮影スタジオで俺は彼女の正体を初めて知る。

「コーキとタツキ、なんでそんなに緊張してるの?」
 俺達の写真を撮りたいといった彼女はスタジオでカメラのシャッターを切っている。それが仕事なのだと言った彼女はすでにカメラマンとして大成しているらしい。

「タツキは写真嫌いなんだよ、シキ」
 だけど、兄貴と並んでも遜色ないほどの美少女だ。

「コーキには敵わないにしてもいい素材なのに、もったいない」
「それより、俺はシキの写真とTEL番の方が知りたいけど」
「写真はともかく、私はコーキの奇跡が欲しいな」
 フラッシュの中照れたように笑っても兄貴はやっぱり格好イイと思う。身内という分を差し引いてもいい男だ。ずっと俺の憧れで目標だ。

「タツキ、撮られるのが嫌なら撮る側になってみる?」
 俺の返答をきかずに彼女が俺と入れ替わる。

「ちゃんとファインダーで見て。自分で良いと思ったところでシャッターを切って」
 言われるとおりにシャッターを切るたびに二人の様子が変わる。何を話しているのか、彼女の方は始終楽しそうで嬉しそうで、でもどこか無理をしているように見えた。

あとがき

十年後だから、志姫と竜輝は15才で、高輝は25才の設定
…志姫x高輝だと、犯罪的な設定だなぁ
(2008/05/25)