p.1
ーー全ての始まり、全ての終わり
春は嫌いだと君は言う。
誰よりも桜の似合う君は青葉の土手に座って、薄紅の花弁を短い黒髪に散らせて。怒ったように、今にも泣き出しそうに言う。
春はすべての始まりであった。君が彼と出会ったのも春のはず。何故そんなにも、君が哀しむのかわからない。
春は冬の終わり。雪解けは凍えた心も癒し、温かさで世界に息吹を吹き込む。
なのに何故、君はそんなにも泣くのだろう。
どうか、どうか、泣かないで。ねえ、笑ってよ。
春は笑顔の季節。初めて会ったあの日の君の笑顔が見たい。
p.2
ーー命の輝き、届かない掌
夏は暑いと当然の文句を言いながら君が笑う。
キャミソールとマイクロミニのスカートから伸びる白い四肢が眩しくて、僕は目を細める。
ポニーテールにした長い黒髪が背中で踊り、暑いと言いながら持ち上げると、白いうなじがまばゆくて。目を逸らす僕を君は笑う。
夏は君を好きになった季節。君が好きだと言った季節。
君の命が放つ光が眩し過ぎて、僕は君に触れられなかったんだ。一緒に見た花火は君ばかり見ていて、実はよく覚えてない。
いつまでも失わないでと願った夏。僕はそれが永遠でないと知っていた。
p.3
ーー君の幸せ、僕の願い
僕の目の前で君が笑う。秋桜で揺れる君の笑顔は夢。これは夏が見せる夢の続きだろうか。
「トオヤ!」
さっきまで手の届かない場所にあった君の笑顔が、何故ここにあるのか。ああ、これは夢。夢の続き。
笑顔から零れる滴が僕の顔を濡らす。
泣かないで。君の笑顔が僕の願い。
僕は君のために生まれたことを幸福に思っているよ。
だから、最期は君の笑顔が見たい。
p.4
ーー雪の白、嘆きの黒
ざくざくざく。
雪深い山の中で泣きながら、雪を掘る。
ざくざくざく。
春が好きだといった君だから、桜の木の下に埋めてあげたくて。
ざくざくざく。
白い雪に紅い線がついても、掘り続ける。ここにいたら、きっと君は止めるだろう。
だけど、君はもういないから。
私には何もさせてくれなかった君だから。
ざくり。
耳元で切った髪を亡きがらにのせる。君が好きだと言った私の髪をあげる。
だから、どうか、次に生まれたら。1番最初に私を見つけて。
好きだと言って。
「トオヤの、…バカヤロウ…っ」
冷たい雪に落ちた雫は深く沈んで、消えた。
あとがき
「春:全ての始まり、全ての終わり」
今回は散文的に書いてみる実験。←
季節ループします。
(2008/10/29)
「夏:命の輝き、届かない掌」
春から続いていたり。
(2008/10/29)
「秋:君の幸せ、僕の願い」
感傷が過ぎた…
(2008/10/29)
「冬:雪の白、嘆きの黒」
そして、春に戻る、と。感情の赴くままに書いたけど、不調かも…。
(2008/10/29)
公開
(2008/10/30)
ファイル統合
(2014/9/4)