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書名:GS
章名:氷室零一

話名:H2O


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.2.8
状態:公開
ページ数:5 頁
文字数:14975 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 10 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
1)
氷室誕生日HIT
ころな様、ちゃんやす様へ

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p.1

 納得? ーー納得。しないと収まらないよ。しても収まらないけど。

「全員揃ったな?」
 塀の影に入っても、先生の頭一つ分だけ飛び出ていて、明るい日光が流れる銀髪を細く白く艶めかせる。僅かに影を作る顔から、その表情を読むことは極めて困難だ。いつもと変わらない長身の影は揺らぐことなく、姿勢良く電柱みたいに私達の前に立っている。失礼?そんなこと、今はどうだっていい。

「なぁ~まだ出発しねぇの?」
 揺らぐことのない眉根が不機嫌に寄せられて、小皺がまた一つ増える。

「勝手について来たのはお前だろう。課外授業を受ける気がないのなら、さっさと帰れ!」
 肩に腕を掛けて寄りかかっていた人物は、常人なら飛びのいてしまうその明かな怒声に怯えることなく、動じることもない。流石、伊達に先生と付き合ってきていない。

 影に重なる髪は少し濃い目だけど、私達の中にいるとかなり軽め。先生と並ぶと少し浅黒く見える肌。夏の太陽を閉じ込めた僅かに茶色く翳る瞳は、悪戯な子供の目をしている。

「はいはい。じゃ、春霞ちゃん、先に俺と中入ってよっか」
「なぜそうなる…」
 ヒラヒラと振られた手に、あたしは思いっきりそっぽを向いた。もとはといえば、この人が元凶が。

 今日はライバル。

「零一が春霞ちゃんと社会見学なんて言うから、てっきりデートかと思ったよ」
 私からすれば、今日はそのハズだったんだけどね。

「待ち合わせは新はばたき駅だ、なんていうし。そろそろ零一の好きなバンドが来る頃だからさ」
「…バンドではなく、交響楽団だ」
 疲れたような声が届いてくる。その中にかすかな気安さを認めて、普段なら笑うところを顔をしかめて。他の生徒の影に隠れた。

 小柄な私が隠れると、大抵見つからない。でも、相手が先生となると別。あの長身からはどこも隠れる場所がない。そして、それはどうやら彼にも共通することらしく。

「では出発する」
 大柄な男子生徒の影に隠れていた私の肩を店主が叩いた。

「やっと出発だとさ。行こうか」
 引き寄せられる肩を振り切って、少し前を歩いた。

 今日はいつも一緒にいる友人達がいない。それが少しツライ。先生が素っ気無いのもツライ。課外授業はその他大勢に自分が分類されてしまうようで、怖い。

「これから館内を巡回してもらうが…おい、義人」
「は~い? なんですかね、零一先生?」
 あ。また皺が増えた。

「お前はこっちに来い」
「なんで」
「…困っているからだ」
「誰が?」
 ニヤニヤ笑いを浮かべながら、肩に掛けられる手の甲を抓って外し、私は先生の後ろにつく。視界に入りにくい真後ろに。

「~~~いいから来い」
 飄々と私の隣に来る店主。今日は何がなんでも私たちの邪魔をする気に違いない。

「館内を巡回してもらう前に、諸君の観察ポイントを発表して…」
「春霞ちゃん、タコ!すっげー大きいタコいるよ!?」
 意識が反れたと思ったら、隣の水槽に吸い寄せられる店主に引き寄せられて、私も碧い水の中を強制的に見せられている。そんなタコよりも、ガラスに薄く映る先生の顔が不機嫌になる様が何よりも怖い。肩に置かれる店主の手が、重い鎖みたいだ。

「次に行くぞ」
 素っ気無い言葉が、背後を通り過ぎ、私は店主と取り残される。

「あら?怒っちゃったかな?」
 抜け出そうとしたけど、肩を抱く手は離れない。

「マスターさん、離してください」
 ガラスの面に映る店主は顔色も変えず、やっぱり離してくれない。

「で、零一と本当に付き合ってないの?」
 ぴたり。とガラスの中の店主を見る。私は、顔色を変えないように気づかれないように話す。

「先生から聞いているんでしょう?」
「付き合ってない、と言われたけどね」
 へぇ~。

 親友にも話さないんだ、先生。それは、警戒心が強いというよりも隠しておきたいって恥かしさか。

 それとも、私があんまり子供だから?大人じゃないから?

「…そうですか。じゃぁそーなんでしょうね」
 胸のあたりがムカムカする。この目の前のタコでも食ってやろうかしら。





p.2

 水槽を見つめる真剣な眼差しは、水の青を映して、ひどく透明に思える。水族館の中の水の色は海の色とは違う。写真でよく見る南の海の緑みの青に似ている。プールの青に似ている。それをただ静かに見つける少女を少し離れた場所から彼は見守っている。

 気にならないわけがない。堅物で生真面目な零一を落した娘で、相好を崩させるただひとり。

 教師と生徒。よくささやかれる禁断の恋愛をしているはずなのに、とても穏やかに見つめる瞳は父兄のようであり、保護者のようであり、それをなくしても尽きない温かさが宿る。

「東雲、テーマ決めたか?」
 隣で話しかけてくる同級の男に返す笑顔は、少し寂しげに微笑む。咲ききる前の華の蕾のような儚さが、胸を打つ。盗み見る親友も同じ心境だろうかと見やると、眉根を寄せて、彼らを睨んでいる。

 零一の立場上からして、生徒同士のコミュニケーションの邪魔をする訳にはいかないといった言訳でもしているんだろう。

ーーったく、あの顔がわからんのかね。

 春霞はたしかに一見楽しそうな笑顔だ。でも、その微細な変化に気がつく者がここにどれだけいるだろう。

 少なくとも、俺は気がついた。だから、動いた。

「熱心だねぇ」
 近づくと、春霞と話していた男子生徒が守るように立つ。それなりに俺を警戒してくれるらしい。だが、庇われている春霞はあからさまにホッとした表情をみせてくれる。

「こんな水ん中見てて、楽しい?」
「楽しくないんですか、マスターさんは」
「俺は春霞ちゃんを見ている方が楽しい」
 正確には、春霞を見ている零一が面白い。ヤキモキしてる自分を無理やりなだめすかしているんだろう。

「変なマスターさん」
 彼の背後から彼女の方が抜けてきた。俺の腕をきゅっと掴んで、少し不安げに瞳が揺れる。安心の灯火が奥に宿るのを確認して、軽く少年の方を見ると、なんでもないように他の水槽を見に行ってしまった。ま、こんなもんか。

 それよりも背中の視線が痛い。せっかく代わりに救い出してあげたのに。

「先生、怒ってませんか…?」
「どうして」
「だって、怖い顔して睨んでます…」
 吹き出しそうになった。教えてあげたほうがいいかな、あいつが睨んでるのは俺だって。

 見上げてくる瞳は、子犬や仔猫みたいで。保護欲を誘われる。いや、本当にそうだろうか。

「零一の秘密、知りたくない?」
 口元に人差し指をあてて、小さく囁く。たったそれだけだ。それだけで、夏のひまわりみたいな輝く笑顔が返ってくる。心を溶かす太陽。これがきっと零一を射止めた原因だと思った。だって、俺も久々に本気になってしまいそうな笑顔だ。

「じゃ、鬼ゴッコ。五分以内に俺を捕まえてみせな」
 十数えてからねと囁いて、そっと彼女のそばを離れる。わざと零一の隣を通っていく。

「何を話していた」
「教えると思うか?」
 何か返される前に、軽く地を蹴った。

 本気になる前に、勝負をつけなければいけない。

 駆けて過ぎ行く廊下に飾られた中に、スミレの鉢があった。まだ咲かぬ蕾は、ほんのりと紫色に色づいている。



p.3

 義人の姿を消えるまで追って、考えた末に視線を戻すと違和感が張りつく。

 様々の水槽の前に、生徒たちの姿はある。だが、その中に――春霞だけがいない。注意深く辺りを見廻してもいない。少し辺りを歩き回るが、見当たらない。

 だんだん不安の指針がふれてくる。

 最後に見た時は、義人と嬉しそうに話していた。私といる時は絶対にしない表情で。

 下唇を軽く噛んだ。痛い。

 どうして目を離したのかと、誰かが囁く。

 できるなら立場も何もかも捨てて、そのそばへ行きたい。私はその欲望に少しばかり抵抗していた。その間に、同級の男が春霞に近寄り、義人が近寄り、気がつけば彼女は急に姿を消してしまった。

 嫉妬と不安と羨望と絶望と。急速に心が冷えていくのを感じる。幼子のように、不安が心の闇を侵食する。

 ただひとつの光を、みつけた、のに。

「少し、頼む」
「あ、はい」
 参加していた学級委員に言付けて、場を離れた。

 姿が見えない。ただそれだけなのに。

「たった、それだけだ」
 いないことが不安で怖い。でも、きっと春霞も怖がっていてくれるように思ってしまう。

 どちらが子供か、わからない。

 落ちつかなければ。

 通路の途中にある椅子に座り、壁に背中を預けて両手を組んだ。

 深く息を吸うと、古い物と新しい物の空気が入りこむ。展示品の空気と、現代であることの空気だろうか。

 時間を止めて生きてきたモノと、今を生きているモノ。

 俺の時間は、春霞なしでは動かない。

ーーどうか。

 目を閉じて、心の中で願う。

 ここに彼女を捕まえられるように。

p.4

 てか、ここってどこよ。

 一通り館内をこっそり走りまわった末に、もとの場所へ戻ろうとしたのだが、まず自分がどこにいるのかわからない。それほど動き回っていないと思っていたのだけれど、想像以上に館内は入り組んでるし、薄暗いし、店主は見つからないし。

 約束の五分はとっくに過ぎた。

 ポケットに入れておいたパンフレットがないことにはさっき気がついたばかりだ。というか、ここがどこかわからない以上、もっていてもどれだけ役に立つのかわからない。でも、精神的安定ぐらいは得られたかもしれない。もうひとつの安定剤は、自分で置いてきてしまった。

 少しは心配してくれているだろうか。あの鉄面皮な恋人は。

 階段のスロープに斜めによりかかって、そのまま腰を落とす。座り込むというより、寄りかかる力の方が強い。

「あー…」
 なんだか意味もなく声を出して、それでも誰もそこを通らなくて、馬鹿らしいのでやめた。

 スカートから覗く両膝を叩いて、気合を入れる。泣きそうになんかならない。ならないったらならない。

「とにかく、先生を探そう!」
 先生がいるところなら、絶対安全。絶対安心。絶対…あぁ!今日のレポートどうしよう…。いくらなんでも免除してくれるとは思えないし、そうされるのもイヤ。でも、先生がいないのに、こんなところのレポートなんて書けないよ。

「氷室…センセ…」
 風のない館内には声がよく響く。小さくても、反響する。でも、ここの水槽のゴポゴポいう音で掻き消えて、音が届かない。

 なにかに似ている。付き合う前、初めてあった時の感じだ。クラス担任としてきた時、水よりも冷たい先生だと、怖いと思った。あの瞳に見られるのが怖かった。ぜんぶ、見透かされてしまいそうで。心の奥さえも。

「…れーいち、さん…」
 水槽のガラスに触れると、思うよりも温かい。冷たいと思ってしまうのは、その透き通る青のせいだ。人間心理として、無意識的に青は冷たいと考えてしまう。そういう風にできている。

 触れてみればこんなに温かいのに。それを知っている人は少ない。まるで、零一さんそのもの。

 温かいのに冷たいと感じてしまうのは、私が我侭だから。もっと甘えたい、甘えて欲しい。そばに、いたい。

 多少のリスクは覚悟しているつもりだった。先生と生徒。それが暗黙の禁忌と知りながら好きになったことも。

 それでも、そばに、いたい。近くにいたい。もっと愛されたい。

 これは全部、わがままなのかな。私がまだ子供だから、こんなことを考えるのかな。

「…ちゃん」
「はいっ」
 耳元で囁く声にはっと我に返る。勢いで後ろの何かにぶつかる。

「でっ!」
「だ、誰…って、マスターさん!?」
 振りかえった先には、顎を押さえている店主が苦笑していた。

「春霞ちゃん、けっこう石頭だね~」
「ご、ごめんなさいっまさか、後ろにいるなんて思わなくて」
「そりゃそうだよ。こっそり近づいたんだから」
 なんのつもりで近づいてきたんだろう。そういえば、そうだ。どうしてこの人は先生と私を疑っているのだろう。

「真剣に何を見ていたの?」
「え?」
「魚になりたそうな目、してたよ」
 先生よりも太い指が頬を撫でる。荒れているけど、仕事する人の手は綺麗だと思う。

「それとも、人魚になりたかった? プリンセス・マーメイド」
 顔が熱くなる。な、なんなんだ、この人。どうしてそんなこと言うの。先生なら死んでも言ってくれないような言葉で言ってくれるの。照れ隠しでその手を引き剥がして、もう一度水槽を見る。

 きっとこの人とだったら、なんの気がねもなくデートしたり、キスしたり、たまに甘えたり出来た。でも、そんなことできなくても、私は零一さんがいい。

「不正解です。マスターさん」
「じゃぁ、水になりたかった?」
「ハズレ」
 なにかになりたかったかって、そんな質問はなんの意味も為さない。

 そうわかってていってるんですか、マスターさん。



p.5

 子供だと思っていた。まだほんの小さな子供だと。

 今は好きだと想っていてくれても、未来はわからない。もしかすると、一時の気まぐれで好きなのかと疑う。

 君に捕われたのはきっと俺のが先だ。そういっても、信じないだろうな。君は。

 水槽の中の光に照らされて、優しい彼女の空気そのものを映し出していた。

 青い水の巨大な水槽、吸いこまれそうに覗きこむ春霞の紫がかったピンクの髪。どちらも人工灯の白い光で溶かされて、明るく、淡く、まろやかにあたりを包み込む。

 そこにいるのは高校生の少女ではない。もっと大人の女性のようだ。制服など障害にもならない。今すぐ、この腕に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られる。

 同時にそれを押さえる自分も存在する。ここは公共の場だ。そして、彼女はカノジョとはいえ、高校生。そして、俺は引率の教師ーー。

 茶色い影がかかる。あれは、親友の姿。もう、感づかれただろうか…?

 何か、話している。彼女に触れて。触れた時に自分の中に沸き上がる感情を制御するのに必死だった。だめだ、今、は。まだ。

 すっと春霞の方がその手を外して、また水槽を見る。まだ何か、話している。

「俺の空気になってくれない?」
 義人の声が聞こえる。聞こえた。いや、さっきまで聞こえなかった声が聞こえるなんておかしい。

 影が重なる。とまどう春霞の表情だけがかすかに見える。義人は春霞の肩を掴んで、頭をその肩に埋める。

 そこは俺の場所だと、叫びたくなる。でも、言ってどうなる。彼女は誰のものでもない。

「ま、マスターさん…?」
「零一は君の水なんだろう?」
 意味がわからない。あいつはいつもそんな言葉で撹乱させて口説くのか。春霞が空気で、俺が水だと。水と空気は相容れない。

「零一さんが、水?」
 春霞もよくわからないという顔をしている。

「零一さんが、私の…」
 水と空気は相容れない。それはつまり遠回しに似合わないから止めておけと言っているのか。

 そんなことは最初からわかっている。俺はきっと彼女の隣に立つには不向きだ。彼女の要求に応えることも出来ない。しかし、それでも、そばにいたい。近くにいたい。

「それって、なんだか素敵です」
 考えこんでいたかと思うと、急にその表情が明るくなった。

「だって、水は水素と酸素で出来てるんですよ。つまり、私は先生の中に存在できるってことじゃないですか!」
 ふっきれたような笑顔は秋桜の装いを見せて、辺りを一気に魅了する。春霞は無意識にそういうことを行ってしまうんだ。誰も彼もをそれで虜にし、離れられなくさせる。俺は、その彼女を好きという言葉一つで言い表せないかもしれない。

「あー…そうくる?」
「マスターさんのおかげで、やっとわかりました。私、やっぱり…」
「まいったな」
 逆効果、と顔が物語る。でも、すぐにその笑みが俺にとっても不吉なものに変わる。

「じゃあ、お礼もらっていい?」
「ええ、なにがいいですか?」
 止めなければいけないと、反射のままに俺はその場に走りよった。

「春霞ちゃんからのキ…」
「義人!!」
 伸ばした手が空を切り、春霞の姿が隠される。

「あ、先生!探しに来てくれたんですか?」
「ああ、姿が見えないので心配…」
「先生が他の生徒ほったらかしていいのか、零一」
 被せるように、刺々しく言われる台詞は心外だ。こいつが何を考えていたのか、知りたくなどない。

「信頼出来る生徒に任せてある。問題ない」
「春霞ちゃんひとりだけはぐれたのを探しに来たの?」
「そうだ」
 教師としては当然の行動だろう。

「タイミング良いな。どこから見てたんだ?」
「うるさいっ。東雲、来なさいっ」
 春霞は楽しそうに俺の腕を掴む。

「へへ、せんせぇ?」
「な、なんだ?」
 やばい。直視、できない。今は、生徒なんだと必死で自分に言い聞かせる。

「あのね…」
 マジマジと楽しげに見られていることに気がついて、一つ咳をする。

「東雲、後にしよう」
「えー今言いたいんですっ」
 今はダメだ。こいつが、義人がいるかぎり。

「気にしなくてもいいのに」
「いくぞ、東雲」
「待ってください、せんせぇ」
 先に歩くと春霞が追いかけてくる。今はまだ、この距離が丁度良いのかもしれない。近づくには君の色はまだ甘すぎる。子供と大人の中間線を危うく踏み留まっている君だから。

「いいなぁ~零一。俺も春霞ちゃんみたいな可愛いカノジョ欲しい」
「春霞は俺のだ!貴様にはやらん!!」
 空気が、止まった。

 感情に任せて叫ぶなど、俺はいったいどうしてしまったというのだ。

「れ、零一、さん? 今ーー」
「い、や。すまない。忘れてくれ…」
 それほどまでに、溺れているというのか。この俺が。

「今、初めて、名前ーー」
「聞き違えたのだ。きっと。だから、忘れ」
「いーえ!絶対に今、春霞って!!」
 マズイ。切り抜ける方法が見つからない。どうすればいい。俺は今は教師で、春霞は生徒で、今はまだ授業中だ。

 助け舟は、いや、助け舟というか、救いはこれまで何度となく耳にした義人の馬鹿笑い。

「あっはっはっ…い、いや…ククク…わ、悪い…その…冗談、だから…うぷぷ…っ」
 余程、俺の取乱した姿が楽しかったと見える。くそっこいつの前では絶対にやらないと決めていたのに。

「一瞬、マジで良いなとは思ったけど、まぁ冗談だから。ね?」
 隣で驚いている春霞が小さく肯く。その姿を満足そうに眺めると、義人は俺たちに背を向けた。

「義人?」
「そろそろ開店準備あるし、帰るわ」
 片手だけあげて、手を振る。笑っている素振りは見えない。が、次に店に行った辺りでからかわれることは必死だ。いや、それだけならいいがもし言いふらされでもしたら…。

 袖を引っ張る振動で春霞を見おろす。

「どうした?」
「あの、さっきのね、その…」
 俯いたかと思うと、いきなり首に腕が回って飛びついてくる。

「大好きって言いたかったの!!」
「こ、こら!今はまだ授業中だ!!」
 さっきまでの女らしさはどこへやら、またいつもの高校生の姿に戻っている。

 君の中にある子供と大人の春霞、俺はどう扱えばいい。どちらも春霞だが、どちらも…そうだな。愛しい。この言葉が一番しっくりくる。

 水は水素と酸素の化合物。

 一見に空気と水は相容れないモノのように見えて、最初から溶け込むようにできている。

 運命という言葉は信じないけれど、きっと最初から春霞と解け合うようにできている。

あとがき

三人三様の課外授業。
ころなさんとちゃんやすさんのリクエストが混ざってます。
そんなわけで、先生と在学中に付き合ってる設定です。
マスターは…え、好みだけじゃないでスよ? ちゃんと、ね。リクエストに入ってるんですから!!
つか、先生がせつねぇ…っ マスターが店離れたら、誰かさんにそっくり。<オイ
てか、これで続けてだいじょうぶですかね。<ぇ。
(2003/02/08)


あわわ。お待たせした上に、またタイトル変更ですよ!
やーだって、ねぇ? こっちのがしっくりくるでしょうってことで。
え?迷子になってない?なってますよ。一応。
つか迷子の心境がよくわからない。自分が開き直り型な人間なもんで(笑。
でも久々に納得いきそうな出来ですv
ちょっと(?)長くなっちゃいましたが、
ちゃんやすさん、ころなさん、よろしければお受けとりください。もちろん、返品可ですv


そうそう。最後に意味深な一言をいれようと思ったんですが、削除りました。
健全でいきましょう。公共の場ですもの。水族館は!(は?


完成:2003/02/08