どうして、と問うと彼女は悲しげに笑う。いつでも変わらない笑顔で、笑う。
手にした剣に血を滴らせ、血溜まりに立ちながらも静かに微笑む。
「貴方には知られたくなかったわ」
穏やかに微笑む彼女は虫も殺せるようには見えない。だが、俺は確かに今この目で彼女が人を、彼女の兄を殺すのを見た。
深窓の令嬢と言う詞がぴたりと嵌まる女性だが、意思の強い目をしているのが印象を深める。
その闇色の瞳を微かに滲ませ、彼女は静かに笑う。それさえも絵から抜け出たように美しい。
「知られたくなかったわ」
彼女の後ろの窓硝子に、闇から一筋、目の眩む朝日が差し込んだ。光に目を細めた瞬間、ごう、と風が室内に吹き込む。
「……さようなら」
風が収まり、目を開けた時には彼女の姿はそこになく。窓の下で剣を抱き、幸せそうに眠る彼女を朝日だけが優しく照らしていた。
武藤小夜、享年十五 。この彼女の死から明かされる事件の真相は、それからも世間に知らされることはなく、彼女はただの狂人として歴史に埋もれてしまった。
そして、哀しい殺人者は、ただ哀しい笑顔と痛みだけを俺の胸に残し、消えてしまった。
1月1日の夜1~2時間でケータイで書きました。長距離運転の後で疲れていたのに。指が疲れた上に何か気力を吸い取られました…。
だが、どうしても書かなきゃならんかったのですよ。同じテーマの他人創作を見るためには!←
新年初創作は好評価をJ氏にいただいて幸先はいいが、こんな暗い話でいいのか…?
(2009/01/03)