私に世界を教えてくれたのは、師匠だった。真っ暗で絶望しか見いだせない世界の私を連れ出して。
地平線から昇る朝日を見せた。
闇に染まる世界をまず白い光がゆっくりと広がり、天を漂う雲を照らし始める。地上からの光に照らされる雲は当然影を上にしていて、なんというか逆さまの世界のようだ。
世界の三分の一がその白に覆われた後で、さらに眩しい光がその中心から線香花火の芯みたいに赤い顔を覗かせ、少しずつ少しずつ姿を現してゆく。
この昇る陽を無言で見た時間は、言葉だけで言い表すことができない。
「こうしていれば世界にとってどれほど人間がちっぽっけな存在かわかるだろう。だけどね、よく考えてみると良い。世界はそれでも人間が生きることを許している。生きる為のすべてを私たちは世界から受け取っている」
訳もなく、私の頬を篤い涙が流れ落ちるのを師匠が拭う。
「世界に生かされているのだと、忘れてはいけないよ」
師匠の言葉は素直に私の中に落ちて、深く深く根ざした。彼が教えてくれた世界の真実の姿を、その理を私は絶対に忘れることなどできないだろう。
だって、私は世界に生かされているのだから。