どうして、と呆然と呟く彼の声を嘲笑う。
「厭きたって、聞こえなかった?」
なんで、とカラカラの声が耳に届く。
「何でも何も仕方ないでしょ。一緒にいても楽しくなくなっちゃったんだもん」
「昨日まで一緒に…っ」
「我慢してたの、気が付かなかった?」
彼が私の名前を呼ぶのを目を閉じて聞く。これが、きっと聞き納めだ。
近づいてくる足音に心臓がドクドクと高鳴る。嘘だと気が付いて欲しい反面、気が付かないでと祈る。上手く騙せれば、彼の命だけは守られる。
襟元を掴みあげる彼を目を開いて迎えた。真っ直ぐで曇り無いその目が何よりも私は好きだった。
「馬鹿な
一瞬彼は顔を歪ませ、勢いつけて私を突き放した。冷たい床の上で彼の駆け去る足音を聞き、頬を一筋、冷たい液体が零れる。
大好きだったけど、愛していたけど、これからの私に巻き込みたくないから。
「…さよなら」
小さく囁く声は虚空に消えた。