そんなことを思い返すアタシの目の前で、急にぱちんと手が打ち鳴らされて、びっくりした。驚いた拍子に怒りも霧散してしまい、アタシはそれをしたニンゲンを振り返る。
しょーじろーはいつもとおんなじ顔で笑ってて、じゃあご飯にしましょうねとアタシの肩を押して、洗面所を後にさせた。その力は当たり前だけどアタシより強くて、肩を抑える手を振り解くことはできないことはないかもしれないけれど、いつもと同じで少しだけ違うと主張する空気が、アタシを留める。
「しょーじろー、怒ってる。なんで?」
返答は無くて、アタシは強制的に食堂のドアの前に立たされた。後ろから丸いドアノブを回すために伸ばされたしょーじろーの腕をじっと見つめ、ニンゲンの手で開かれたドアが開く前にアタシはくるりと振り返る。
「しょーじろー」
なんでとかわからない。だけど、そうしたいと思ったから、そうしなきゃいけないと思ったから。両手を高く伸ばして、飛びつくようにしょーじろーに抱き着く。しょーじろーは少し驚いたみたいで、ドクドクと触れた場所から脈うつ音が聞こえた気がした。その服から、淡く百合の花の香りが鼻先に広がる。
「
ニンゲンにしてくれて有難うと何度口にしても伝わらないし、この魔法使いはいつも困ったように笑うだけだ。どうしたらこの気持ちを伝えられるかとタマさんに聞いたら、ニンゲンは「好き」と伝えるのがいいらしい。ただの好きじゃあ、この気持ちは伝わらないと思ったから。
「大々大好きだよっ」
首に回した腕の力をぎゅっと強めて、精一杯の気持ちを集めて言うと、しょーじろーも抱きしめ返してくれた。
「急にどうしましたか、トラちゃん」
あやすようにアタシの背中を叩きながら、アタシを抱いたまま歩きだしたしょーじろーは、普通にドアノブを回して食堂に入り、テーブルの前でアタシを降ろす。寸前に垣間見たしょーじろーはとても淋しい顔で笑ってて、アタシはきゅうと心臓を掴まれたみたいな気分でひどく泣きたくなって、ぎゅっと両目を閉じてしまった。理由とかわかんないけど、とにかく泣きたくて、でも泣いちゃいけないってことだけはわかっていたんだけど、どうしたらいいかわからなくて。
少しの間の後、上から呆れまじりのため息が降って、前髪に大きな優しい手が触れた。少しだけ引き寄せられて、少しだけ前髪にしょーじろーのため息みたいなのがかかる。迷いの含まれた吐息を感じて、だけど擦り寄って拒絶されるのが怖くて、アタシは動けなかった。
たぶんきっとしょーじろーはアタシを拒絶なんかしない。そう、わかっていても時々アタシをひどく不安になるんだ。
「あんまりゆっくりしていると遅刻しますよ」
止まっていた時間は唐突に動き出す。ぺしりと額を叩かれたアタシが、ぎゃっ、と叫んで目を開く。しょーじろーは既にアタシの前にはいなくて、アタシの席の椅子を引いてて、やっぱり変わらない細目の笑顔で笑ってる。いつも笑っているニンゲンが本当に心から笑ってるわけじゃないって、教えてくれたのは誰だっただろうか。
「ごはんにしましょう、トラちゃん」
ふうわりと優しく微笑むしょーじろーにやっぱりアタシは泣きたくなって。でも、たぶんきっとアタシにはしょーじろーの笑顔を返ることは出来ないから、しょーじろーが引いてくれた椅子に後足を揃えて座り、食卓へ目を向けることにした。
二人では広すぎる部屋の中央に置かれた六人用の大きな木製のテーブルの一番端で、アタシの向かいにしょーじろーも席に着く。テーブルと同じ木の椅子に座るとアタシの胸よりすこし高い位置にあるテーブルの上には既に朝食の準備が終わっている。アタシの目の前には幼稚な鳥がラクガキされた皿が置かれ、香ばしい匂いのロールパンが二つ、アタシに食べられるのを待ち侘びているようだ。
皿の右側には窓からのお日様の光を反射して、ぴかぴかっと光るフォークがあって、左側には皿と同じラクガキの描かれた真白いカップがある。カップの中には、同色の真白い液体が半分ぐらい注がれている。
向かいに座るしょーじろーの前にも同じものがあって、アタシたちの間、テーブルの真ん中に一際大きな皿がある。そこには洗い立ての雫をかすかに残す薄碧の葉っぱが敷かれ、一際美味しい薫りを放つ鳥の唐揚げが小さな山みたいに乗っていて、アタシに食べられるのを待ちかねたみたいにひとつ転げた。
じるり。
それを見ていたアタシの口いっぱいに唾が広がり、溢れる。
「今日は特別な日ですからね」
柔やわらかに微笑むしょーじろーを見て、慌てて口許を拭った。今からこれじゃ、
両目を閉じて、息を深く吸い込む。鳥の唐揚げとパンの香ばしい薫りがしたけれど、落ち着いて深く息を吐き出す。更にもう一度深呼吸をしてから、食卓を見つめる。
今すぐ飛びつきたい衝動を抑えて、しょーじろーを見ると、彼はいつものようにくすりと微笑んだ。
「飛びつかないんですか?」
敏い魔法使いにバレてるけど、アタシはゆっくりと首を振る。
「ニンゲンは飛びつかないもん」
「そうですね」
「アタシは、ニンゲンだもん」
少し意外そうな顔をした後で、魔法使いはやっぱり楽しげに笑った。
「ええ、そうですね。ネコちゃんのままだと、これは食べられませんものね」
「うんっ」
大きく肯いてから、首を傾げる。
「ダメなの?」
「もちろんです。それに、ミルクも卒業しないといけなくなりますよね」
え、と慌てて食卓を見つめる。ここにあるもので食べられるのは、ひとつだけだ。
「パンだけ?」
「ん~、このパンも人間用ですから、やめたほうがいいかもしれません」
まさか、ここにあるもの全部食べられないとは思わなかったから、アタシは思わず大きく目を見開いていた。こんなにも美味しそうなのに食べちゃダメなんて、しょーじろーは意地悪だ。目の前が歪んで、ぽとりとテーブルに大きな雫が落ちる。
「でも、今のトラちゃんは人間だから食べても大丈夫ですよ」
そうなのと顔を上げて首を傾けると、しょーじろーは大きく肯いてくれたので、アタシはほっと胸に手を当てて息を吐き、目元を手の甲でごしごしと拭った。
「脅かさないでよ、しょーじろー」
「ふふふ、ではいただきましょうか」
大きく肯いてから、アタシは両手の指を組んで、両目を閉じる。ニンゲンはこうするのって教えてもらったからだ。これが食べ物と作ってくれた人に対する感謝のキモチなんだって、教わった。
「いただきます」
「ふふっ、本当にトラちゃんは可愛いですね」
まずはカップを両手で落とさないように手に取り、口をつけてゆっくりと傾ける。こくり、と喉を通り抜ける音と共に、すぅっと身体の中に冷たい液体が広がってゆく。ネコの時もニンゲンの時もそれは不思議な感覚で、体中の血がミルクみたいに真っ白になる気がする。
ごくごくと続けて流し込み、呼吸するためにカップから口を離す。
「っはーっ」
吐き出したアタシの息も満足だと言っている。
それから唐揚げに手を伸ばそうとして、その手をパンへ向ける。理由は目の前でしょーじろーがそうしたからだ。ニンゲンになるにはしょーじろーの真似をするのが一番の近道だと、この半年で学んだ。
パンはほっこり暖かくて、上に切れ目がある。そこへしょーじろーは緑の葉を入れるので、アタシも真似をして同じように入れる。それから唐揚げをとって、間に挟んで。
「トラちゃん」
急に名前を呼ばれて、身体が固まる。何か間違えただろうか。
「な、なに?」
「トラちゃんの好きな苺のジャムもありますよ」
「えっ?」
苺のジャムはアタシがニンゲンになって好きになったもののひとつだ。ほんのり甘酸っぱくて、焼きたてのほかほかのパンに塗ると格別に美味しい。
でも、この鳥の唐揚げを挟んだパンも、アタシの手元で美味しそうな匂いを漂わせていて、早く食べてと呼んでいる。
「ど、どうしようっ」
どうしたらと目を回すアタシを見ているしょーじろーは、とてもとても楽しそうだ。アタシはそれどころじゃないっていうのに。
追い打ちをかけて、しょーじろーがテーブルの大皿の隣に赤いジャムの瓶をコトリと置く。アタシの両手で被えるか怪しいくらいの大きさの瓶にラベルはないけれど、中には半分より少ない黒い粒々混じりの赤黒くてどろりとした液体が入っている。液体と言ってもミルクみたいには流し込めなくて、パンや唐揚げみたいな固体じゃなくて、その中間みたいなやつだ。
「さてここでトラちゃんに問題です」
唐揚げ入りロールパンを左手に握ったまま、苺のジャムを凝視していたアタシは、弱り切った目でしょーじろーを見た。
テーブルの右の端でちんまりと鎮座していた、丸いものをしょーじろーが手にする。左右両方の斜め下に綺麗に伸びた二本の棒の先には、倒れないようにひらべったい足がついていて、両脇には上に向かって弧を描いた棒が伸び、棒の先にはニンゲンの手とおんなじ風に丸めてグーになっている。
これだけだと丸いものはニンゲンに近いのだけど、耳は猫のアタシみたいに上についてて、おまけにその耳は細い棒の伸びた先に金色にピカピカ光る半円を揺らしているのだ。これもしょーじろーに姿を変えられたナニカなのかもしれないけど、アタシはいつもわからない。丸い身体にはラクガキしたみたいな丸い目と、両端を上げてニコニコ笑う口がある。鼻からは長い針と短い針が好きな方向に伸びている。
「これは」
「あ、時間君だっ」
そういえばそんな名前で教わったことを思い出した。しょーじろーは少し困った顔をしている。
「しょーじろー、アタシ間違えた?」
恐る恐る問いかけたのは間違えたら、学校はまた今度と言われるかもしれないと気がついたからだ。だけど、しょーじろーは左右に首を振る。
「いいえ、合ってますよ。よく覚えていましたね」
ほっと息をついたところで手の中の唐揚げパンのことを思い出す。
「トラちゃんに問題というのはですね」
「ねー、食べていい?」
何か驚いたような顔をしたしょーじろーはまたくすりと笑う。
「苺のジャムはいいんですか?」
言われて、はっとアタシは思い出す。そういえば、どっちを食べようか迷ってたんだった。
「う、よ、よくない!」
「まあ、パンはもう一つありますからね」
「え?」
しょーじろーの言葉で皿の上を見るとまだ手付かずのパンがもうひとつ。ああ、でも唐揚げをもうひとつ食べたいて欲求はどうしたらいいのだろう。パンはふたつしかないし、ニンゲンらしく食べるにはこうしないといけないに違いないのにっ。
どうしようと悩むアタシをしょーじろーは時間君を手にしたまま、楽しそうに眺めている。
左手にはほっこり温かな唐揚げパン、テーブル中央には絶対美味しい蕩ける苺のジャム。どっちも魅力的過ぎて、アタシは本当の本気で、どちらも選べない。
「しょーじろー、選べないよーっ」
弱り切って顔をあげたアタシの目の前に、とん、と少し重い音を立てて時間君が置かれた。短い針が左斜め下、長い針が右斜め下にのびて、ひらかなの「へ」みたいになっている。それとも丸いお顔の怒った時のおひげかな、と時間君を見つめるアタシの顔の右から腕が伸びて、おひげを指し示す。
「いい子のトラちゃんは、いつも僕が何時に家をでているかしってますね?」
「う?」
いつの間にかアタシの背後に移動していたしょーじろーはかがんで、アタシの耳元でよく通る声で喋る。首を捻って思い返すと、この長い針は、ぴん、と上に伸びていたような気がする。
「いち、に、さん、よん…なな?」
「はい、正解です。じゃあ今は何時でしょう」
短いのが七と八の間で、長いのが五と六の間で、ええと、と首を捻るアタシの左からまた腕が伸びて、大皿の唐揚げをひとつ、ひょいと摘みあげる。
「あっ」
それはアタシの前であっというまにしょーじろーの口に収まり、すぐにごくんと飲み込まれたのが喉の動きでわかる。
「えっ」
「わかりませんか?」
「わ、わかるっ、わかるよっ」
時間君としょーじろーを交互に見て、アタシがこう思うのは当然だろう。
「唐揚げだけで食べても良かったのっ?」
「僕はパンに挟まなきゃいけないなんて、一度も言ってませんよ」
確かに言われたことはないけれど、しょーじろーはニンゲンで、アタシはニンゲンになったけどニンゲンのことは全部はわからなくて。
「しょーじろーのバカーっ」
真似るのが全部正しいわけじゃないなら、アタシはどうしたらいいのっ。
声をあげて泣き出したアタシをしょーじろーは少し困った顔で見つめてる。でも、あくまでも「少し」で「いっぱい」じゃない。時々遊んでくれるタローちゃんみたいにオロオロしたりしない。つまり、しょーじろーはもしかしたら、アタシが想うほどにはアタシのことを好きじゃないのかもしれない。
そう考えだしたらますます涙は止まらなくなって、アタシは閉じた瞳からしょっぱい滴をぼとぼと零しながら、声をあげて泣きつづけた。
思い当たることはある。アタシがニンゲンになってから、しょーじろーがアタシを見る目は、時々ぞっと背筋が凍り付くほど冷たくなることがあるのだ。普段はニコニコ笑顔で優しいだけに、その瞳だけが温度をなくした時、アタシは毛の一本さえ動かせなくなる。
自分でもどうにもできないくらい深く深く気持ちの沈むアタシの頭のてっぺんを、不意に暖かさが覆う。
ぽん、ぽん、と。暖かさは何度も優しくアタシの頭を叩き、アタシは引き攣る喉を収めようともがきながら、しょーじろーを見上げた。彼は変わらないいつもの笑顔のままで、宥めるようにアタシの頭を優しく叩く。
ぽん、ぽん、と。リズムにつられて、だんだんと気持ちが落ち着いてくる。
ぽん、ぽん、と。涙も引っ込み、アタシはぐしぐしと拳で目元を擦る。
「こらこら、擦ったらダメですよ。初日からウサギさんの目で
瞼の上からひやりとした冷たいのが触れて、アタシはびくりと身を引こうとした。だけど、アタシの後頭部はしょーじろーの手に押さえられて、逃げることができない。
「つ、冷たいよっ」
「我慢しなさい」
それから、そのまま聞いてくださいとしょーじろーは耳元で囁く。
「人の真似をするのはいいですが、真似るだけではダメです。どうして、といつも考えなければ、いつまでもトラちゃんは
しょーじろーの言うことは時々難しい。
そっとどけられた冷たい布の向こうで優しく柔らかく、いつも通りに微笑むしょーじろーがアタシを覗き込む。
「どうして?」
「そうです」
「…どうしてしょーじろーはいつも、」
続けようとした言葉は、アタシの喉から出てこない。小人さんがお腹で糸みたいな綱でもつけて引っ張ってるみたいだ。
開きっぱなしの口を閉じて、じっと見上げると、しょーじろーの水の中にあるぴかぴかの黒石みたいな瞳の中で、ニンゲンの女の子が、アタシが不安げにしている。
しょーじろーは黙ってアタシの頭を手をおき、ゆっくり、ゆっくりと撫でる。
「もし僕が」
撫でる手がここちよくて、アタシは少しだけ淋しい気持ちを忘れた。
「僕が、」
珍しく口ごもるしょーじろーに、アタシは少しだけ首を傾ける。
りりん。
後ろで鈴が鳴って、アタシはびっくりして振り返る。だけど、鈴の音は素早くアタシの後ろに移動する。
りりん、りりりん。
「な、な、なーっ」
「ふふふ、本当にトラちゃんは可愛いですね」
笑い声をあげるしょーじろーを見ると、そこから冷たいも淋しいも消えているのを感じて、アタシはやっと安心する。
「しょーじろー、この音なにっ?」
「さて、なんでしょうね」
「しょーじろーっ!」
これは絶対いつもの「イタズラ」だ、とアタシはしょーじろーの楽しげな様子から確信する。
「とってっ」
「だめですよ、これはお守りなんですから」
お守り、と復唱して、やっぱりアタシは首を傾げる。
「お守りって?」
「人間になる条件、トラちゃんは覚えていますね?」
アタシは首を大きく縦に振る。
「アタシがネコだって、言っちゃだめなんでしょ?」
「そうです。猫のトラちゃんには、
そうなのだ。アタシは
「
「アタシ、
あの時と同じ言葉をアタシはしょーじろーに、握り拳で宣言する。だけど、ふと気がつくと、さっきまでしょーじろーのいた場所には誰もいない。ぐるり、体ごと視線を巡らせる。
りりりんっ。
「あーっ!」
アタシがしょーじろーの姿を見つけたときには既に大皿の唐揚げ、最後の一つが彼の口に収まった後で。
「しょ、しょーじろーのバカァっ!」
アタシはまた同じ台詞を繰り返したのだった。
「さっき、僕が時間を聞いた理由はわかりますか?」
「うぅ、ずるいっ」
「トラちゃん」
「アタシの唐揚げーっ」
時間の理由なんかアタシにはどうだって良かったのに。しょーじろーはいじわるだ。
り。
「トラちゃん、口を開けてください?」
泣き出しそうなアタシが顔をあげて、何と言おうとして開いた口にパンが飛び込んだ。それは皿にあったロールパンで、当然全部は入らない。
「今日は一緒に行かないといけませんからね。早く食べないと遅刻してしまいます」
加えたまま何とか口を動かして、パンを食べるともそもそした食感の中に優しい甘さがとろりと広がる。大好きな苺ジャムだ。
気がついたら呼吸も忘れて、必死に食べてて、気がついたら息が止まってて。
「~~~っ!」
「はい、ミルクです」
しょーじろーから渡されたカップのミルクを慌てて、のどに流しこむ。
「っはーっ、おいしーっ」
「良かったですね」
唐揚げパンもその調子でと言って、しょーじろーはテーブルの上を片付け始めた。
しょーじろーの背中を見送ってから、アタシは改めて、手元の唐揚げパンを目の前まで持ち上げた。
「あーっ」
いつのまにか余計な力が入っていたのだろう。がっちりと握りしめた左手の中で、あんなにも美味しそうだった唐揚げパンは無惨な姿をアタシの目に曝している。
「あうー」
どうもアタシはあの事件を思い出すと、力んでしまうらしい。台所に消えたしょーじろーと手の中で、何度か視線を往復させる間もアタシの手元からはそれでも美味しそうな薫りが誘う。
アタシを食べてと呼んでいる。
「んうー」
考えた末、アタシは思い切って、かぷりとそれにかじりついた。瞬間、じわりと口内に広がる肉汁とほんの僅かの塩味に、アタシの目の前もじわりと歪む。
美味しい。
あとはもう一気に口に押しこみ、ほうばったまま幸せな気分を噛み締めながら咀嚼し、十分に味わってから、ごくりと飲み込んだ。それから、手にまだ残っている残り香を嘗めとろうと口を近づけ。
「トラちゃん、食べ終わりましたか?」
「うわ、は、はいっ」
しょーじろーの声で慌てて、その手を後ろに隠す。見つかったらまた、学校に行くのを、
そんなアタシの焦りを知らないで、何気なく近寄ってきたしょーじろーはアタシの右手首をとって、手にした真っ白い布巾で丁寧に拭く。ばれたかどうかアタシがびくびくしていると、しょーじろーはアタシの左腕を掴んだ。
「どうかしましたか?」
そう、しょーじろーが聞いたのが当然なほど、アタシの身体は跳びはねていた。
「なななんでもっ」
「ふーん? とりあえず、左手も出してください」
「なななんでっ?」
「なんでって、汚れたでしょう?」
なにを当たり前のことを聞くのかと笑いながら、しょーじろーは隠していたアタシの左手をあっさり捕まえてしまった。真っ白い布巾が手の平から指の一本一本まで丁寧に拭いてゆく。
「あうー」
結局、しょーじろーから顔を背ける他、アタシが名残惜しさを堪える方法はなかった。
前回はGW前の書きなぐりにコメントありがとうでした。
休み明けに続けようか迷っていたのですが、もう少しだけ細々続けます。
(2009/05/08)
これ、一応学園モノです。まだ登校もしてないけど(笑)
いつまで続けるかが問題。
ちょこっと改行修正加えました。
(2009/05/11)
食事を美味しく書くって、難しい
寝逃げさんの近藤家には敵わないなと思います。
まだ食べられない
(2009/05/14)
とうとう10回まで来てしまったのに、登校できない
いい加減、食べさせてあげたいけど、からかって遊ぶのが楽しすぎる←
(2009/05/18)
昨日ちょっとだけ載せた弱音日記を読まれた方には、見苦しいものをお見せしました
たまに吐き出したくなるんですよね。
まだトラの話は始まってもいないってのに
帰り電車の揺れって心地良すぎ
(2009/05/21)
週末はの義祖父母の引越手伝いに出掛けてて、休んだ記憶がない。
やすみたーい!!!
サークル「物語工房」にて、ただいま推敲しつつ、投稿連載中
(2009/06/01)
昨日に引き続き……内容は違いますが、仕事で遅いです。
基本的に体力がないから、寝不足でふらふら
やっと主題の鈴が出てきた
(2009/06/04 22:54)
黒い歴史はトラに消してもらおう。うん。
眠い(ρд-)zZZ
内容が迷走してきてますが、ゴールは見失ってませんよ
(2009/06/05 19:41)
蒸し暑さでバテバテ
やっと朝食が終わった~
長い話は、寄り道で番外書きたくなる(そして終わらなくなる
(2009/06/10 19:44)
朝食までの道程が、まさかこんなに長いとは。
(2009/08/19)
公開
(2009/09/03)
公開
(2009/09/04)
公開
(2009/09/05)
ファイル統合
(2012/09/26)