リーマス・ルーピン>> 読み切り>> Teach the Treth - 6) もう離さない

書名:リーマス・ルーピン
章名:読み切り

話名:Teach the Treth - 6) もう離さない


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.2.16
状態:公開
ページ数:5 頁
文字数:10149 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 7 枚
デフォルト名:///カミキ/ミオ
1)

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p.1

 闇に赤い瞳が浮かぶ。

「ご主人様が復活された」
 そんな声が幾重にも連なり、宴を開いている。ヴォルディモートに仕えているかもしれないと、ブラックリストに載っている顔触れが並んでいる。皆、一様に腕を突き出し、突き上げ、血のように赤い杯を交わしている。気味の悪い光景だ。

「ご主人様」「ご主人様」「ご主人様」
 うるさい。うるさい。うるさい…。

 耳障りな声に吐きそうになる。これはなんだ。これがヴォルディモート?

 輪の中心にいる人物は姿カタチこそは人の姿をとりもどしている。でも、胸の内から競りあがってくる不快感に吐きそうになってくる。魔力の強さとか、そういうものなのかもしれないが、それ以上に、違うと感じるものがある。

「そこにいるのは誰だ?」
 地面の底から響いてくる声にはっと我にかえる。ヴォルディモートに問いかけられたのかと思ったが、すぐに錯覚だと思い直す。だって、私は今夢をみているのだから。

「そこにいるお前は、だれだ? 黒き髪の女よ」
 後ろを振りかえるが、そこには暗い森が広がっているだけだ。何かに気がついたような声がヴォルディモートのすぐ近くから聞こえる。

「もしかして、ミオか? そこにいるのか?」
「誰だ、その女は?」
 あの声は、ピーターだ。親友を裏切った、小賢しいピーター・ペティグリュー!!

「彼女は、わたくしめが使役するための術をかけた者にございます」
 彼らの近くの闇が深くなる。反対に私の周囲の闇が殊更に強く、光を呼び込む。強い、光の残像を。

「逃げて」
 はっとして近くの光をみやる。光の残像は、いなくなってしまった親友の姿を形作りはじめている。月の強い光が集まって、透明で凛とした彼女ならではの優しい空気を引き連れて。

「今なら、まだ僕たちが食いとめるから」
 反対がわから聞こえるのは、その恋人で、やはり私の親友で。月が光ごと私を溶かしてゆく。強く白い光が、彼を強く形作る。顔には2人ともが笑みを形作っている。私の大好きな親友たちだ。

「リリー…ジェームズ…っ」
 早く行ってと、2人が笑う。笑って、私を押した。

 夢だ、夢。幸せな、夢。夢でもイイ。逢いにきてくれたんだ。だったら、もう、醒めなくてもいいや。

「リーマスが待ってるのにそんなこといわないの」
 リリー…。

「これ以上、僕の親友たちを哀しませないでくれよ。ミオ」
 ジェームズ…。

 うん、約束。するよ。もう絶対にーー。



p.2

(リーマス視点)



 満月の夜は狂気が宿る。そんな夜は脱狼薬の完成を持って、しばしの静寂を保っていた。

 ミオのベッドのそばで蹲る、銀の毛並の見事な狼と黒い疲れた毛並の大きな犬。二匹はただ寄り添って、夜が明けるのを待っている。

「ずっとひとりでこうしてきたのか」
 シリウスの問いかけに、狼はかすかに笑う。

「来てくれて助かるよ、パッドフット」
 寄り添いあう夜は、いつもよりも月が優しい気がする。奇跡みたいに綺麗な静寂。今なら、何が起きても嬉しいだろうなと思う。信頼できる親友がいて、愛する人が生きている。たったそれだけでも、僕は幸せなんだ。

 見上げる月は憂いを伴うけれど、ミオ、君と見れるよ。君さえ目が醒めてくれれば、僕は一緒に月を見上げれるようになったんだ。キラキラ輝く月は、光の粉を振りまいている。

ーーいつか一緒に満月を見ようね。

 そんな途方もない夢も叶うのに、君だけがいないね。おかしいね。

 ぺろりとシリウスが僕の目元を嘗めた。泣いていたらしい。優しい親友は今日も犬の姿でそばにいる。

 一際強い夜風に目を細める。急に部屋に温かさが戻るのを二匹で目を見合わせた。

「リーマス」
「ああ、たぶんジェームズだ」
 夜風にのって、僕を心配して来てくれたに違いない。いなくなってなお、心配かけるなんて、僕もダメだね。

 生きていてくれるだけでイイ。そう思っているのは嘘じゃない。でも、あの頃みたいに笑っていて欲しいって、思うのは欲張りかな。

「何度も後悔したよ。ミオに言わなかったことを」
 独り言をシリウスは黙って聞いてくれる。

「気持ちを伝えても、僕はきっとミオに触れられない。だったら、友達のままでいいと思ったんだ。でも」
 今でも鮮明に思い出す場面。墓前に手を合わせる背中、背を向けて自分の足でしっかりと歩く後姿、白い部屋で虚空を見つめる横顔。

「こうなってから気がつくなんて、僕も馬鹿だよね。瞳に映らなくなってから、後悔したんだ」
 恐れないで、抱きしめて、引きとめてしまえばよかった。月さえも恐れるほどではなくなっているのに、あの頃も僕は臆病だった。

「今は?」
 その声は闇の深さよりも太陽に近い気がした。

「今、もしもミオが告白したとしたら、リーマスはどうする?」
 ありえない。けれど、たまにはそんな話もいいかもしれない。ミオが目覚めるという夢を見ようか。

「ミオが目覚めて、もしも僕を嫌いになっていても、たぶん僕はもう手放さないよ」
 もし僕を嫌いになっていたとしても、悪戯を仕掛けて、君を捕まえる。月が僕を手放さないように、僕も君を虜にする。

「ミオが俺を好きになっていても?」
「もう譲らないよ、シリウス」
 もう僕以外を好きにならないでもらうよ。シリウスを追い出してでも。

「ミオを犯罪者の妻にはしたくないしね」
「だから、無実だって」
「あはは。わかってるよ」
 動物になっている時の耳には殊更によく耳が聞こえる。月が歌っているというのなら、その声さえも聞こえるだろう。2キロ以上離れた場所の音さえも聞こえるけれど、たぶん、この時の声はすぐ近くだった。

「お、おい、リーマス?」
 同じように聞こえたらしいシリウスの動揺が伝わってくる。鼻で人の身体を押さないで欲しい。

「空耳、か?」
 14年も聞いていない声がそうだと言い切るのもおかしいが、僕には君の声以外にもう思い当たらない。

「ミオ?」
 ベッドに飛び乗って、その口元を見る。目は相変らず虚空を見つめているのをため息を持って眺めたけど、たしかに口元が動いていた。今、狼姿でとてもいいと思ったのは、その声が聞こえるから。

「リーマス、まさか!?」
「その、まさか、かもしれない」
 口元が呟いているのは、リリーという名前と、ジェームズという名前と。

 瞳がゆっくりと閉じられるのを不安を持って見つめ、ベッドを揺らした。どうして今、僕は狼の姿なんだろう。この手が人間の手なら、この身体が人間なら、今すぐに君に触れられるのに。目を開かせられるのに。

「ミオ、ミオ!」
「おちつけ、リーマス!!」
 衝撃があって、僕はシリウスに突き落とされた。その姿はもう人間だ。

「落ちつけ、直に月が沈む。おまえも元の姿に戻ってからだ」
 今、心底、人狼である自分がいやになった。シリウスがミオに近づくのをただ黙ってみているしかできない。

「状態は変わっていない。声を聞いたのは14年ぶり、か」
「僕だってそうだよ」
「だったら、もしかするかもしれないな」
 急にシリウスが部屋の中をうろつき始める。何度かミオに近寄り、その頬に手を当てるたびに低い声が漏れた。

「何もしねぇよ。リーマスに恨まれるのはごめんだ」
 でも、シリウスはミオを好きだった。

「こいつをたしかに俺は好きだった。でもな、俺はおまえら2人が幸せになって欲しいと思ってる。それなのに邪魔なんかするかよ」
「自分はいいのか?」
「俺は、ハリーって息子を残してもらったしな」
 それは僕にも言えることだ。あのジェームズの息子はリリーの性格もどちらも受け継いで、立派に成長している。あの子の存在も僕に希望を与えてくれる。絶対に無理だと思うことをやってくれるあたり、ジェームズの息子だと実感できる。

「ジェームズの息子なら、僕の息子でもあるよ」
 月の光が弱くなる。

「おまえ、ふたつもなんて欲張りすぎだ」
「そうかな。僕ら、そろそろ幸せになってもイイと思わない?」
「思うけどさ」
 短い笑いをどちらともなくこぼし、続けて笑った。何年ぶりかの笑い声は家の中に響いてゆく。

 身体が変化してゆく慣れた激痛に耐え、僕はミオのベッドに腰掛けた。触れる身体は変わらず大して高い体温ではない。手首と細い首に手をかけて脈を確かめ、規則正しい動きに安堵する。でも、目は閉じたままで、開いていない。今までなら、朝になると勝手に開いていたのに。

「シリウス、ちょっと頼めるかい?」
「なにを」
「マグル式で紅茶を頼むよ」
 一瞬顔を顰めたものの、親友は大人しく部屋を出ていった。

 ベッドに視線を向ける。今は妙な確信があった。

「ミオ」
 声をかけても反応はない。

「ミオ、おはよう」
 いつものように口を重ねる。ただいつもよりも長く。そうすることで、なにか違うことが起きる気がした。

 お姫様は王子のキスで目を覚ますから。僕は、ミオの王子になりたいんだ。…なるんだ。

 口を離した後は、ミオの瞳がぼんやりとした光から、奥に光を届けていた。ゆっくりと空気を多量に吐き出しながら、口が動く。





「 リ ー マ ス 」





「やっと、僕を見てくれたね。ミオ」
 朝日が差しこむ部屋の中で、僕はもう一度姫にキスをする。

 目を覚ましたお姫様が、僕以外を好きだとしても、もう君は僕のものだよ。だって、君の王子は僕なんだから。今も、昔も、これからも。



p.3

(セブルス視点)



 薬品と書類を蹴散らして、梟がわざわざ我輩の手に止まった。こんなことをするのはミオぐらいしかいない。

「まったく、あいつは」
 手紙の筆跡がルーピンのものであることにいぶかしんだが、内容はたしかに彼女のものだ。

 魔法でお湯を沸かし、コーヒーを入れてから、硬い椅子に寄り掛かってもう一度読みかえした。



*



     親愛なる セブルス



 もう何年も前のことだけど、薬、ありがとう。役立てることなくどっかいっちゃったけど、一応礼はいっとく。日本人は義理堅いのよ。

 それから私の薬も調合してもらっているみたいで、とても感謝してる。でも、あの苦さはわざとなのかしら? 苦くて苦くて死にそうだから、もうちょっと甘いのをお願いするわ。セブルスならそんなこと簡単でしょ?

 見ての通り、リーマスに代筆をお願いしている理由は目が回復していないからなの。そのうち直るかも直らないかもわからないけど、リーマスってば私の目が治らないほうがいいっていうのよ。ひどいわよね。リーマスの細々とした収入でこの先暮らしていけるか、多いに不安だし…。

 しかたないから、私の以前の稼ぎからセブルスに薬代払うわ。今までとこれからの分。まだしばらくは世話になると思うんで、先に言った通り、もうちょっとせめて飲みやすいのをね。お願い。

 近いうちに代金をもって、会いに行くわ。それまで、元気で。



ミオ 




p.4

(リーマス視点)



「なんであんなやつに手紙なんか…」
 ぶつぶついいながら、梟を見送っていたシリウスを、僕も笑いながら見ていた。ミオはその隣に立って、シリウスに笑いかけている。

「シリウス。セブルスは良い人よ?」
「そうだね。ミオと僕の薬をちゃんと調合してくれるしね?」
 腕を引くと、細い身体が腕に納まる。

「リーマス?」
「うん?」
「いちゃつくんなら、隣の部屋行ってやれよ…」
 疲れた口調のシリウスはもう一羽の梟に手紙を託している。

「うらやましいかい、シリウス?」
 振り返らずに親友は自分のあてがわれた部屋へと消える。ここの居候なのは彼なのだからしかたがない。

「ちょっと、かわいそうなんじゃない?」
「そうかな。ずっとミオに無視しつづけられてきた僕のほうが可哀相デショ」
 後ろから耳を甘噛みすると、身を捩って、こちらに身体ごと向きを変えてくる。

「リーマス、だからそれは…」
 開く小さな口を塞いで、深く口付ける。頭を抑えて、折れそうなカラダを強く引き寄せて。今までの分も、これからの分も。全部。

「愛してるよ、ミオ」
 受けとめてくれるよね。僕の今までも、これからも、想いのすべてを。



p.5

(シリウス視点)



 ベッドに身体を投げ出して、木目の味気ない天井を見上げる。古い木の匂いは、年月の重さを実感させるものの、さきほどのことを思い出して、俺は複雑な想いを抱えていた。

 目が見えないとはいえ、ミオは昔から勘がイイ。それはリーマスにも共通することだ。微笑まれた時は思わず抱きしめてしまいそうになる。それに気がついた親友に阻止されたが。

 昔も今も、彼女が好きなのはリーマスだとわかっている。リーマスもミオの目が醒めて以来、ところかまわずいちゃついていて、独り者の俺には目の毒だ。

 二人の様子は、ジェームズとリリーのバカップルぶりを思い起させる。ここにハリーがいたら、教えてやれるのにな。お前の両親もあれ以上だったぞ、て。

「…り、リーマス~」
「だめ。もう離さないよ」
 戸口の向こうから聞こえてくる甘い声に耳を塞ぎたい。というか、もしかして、リーマスのやつはわざとやってるんじゃないだろうな。

 無理やり頭から予感を振り払って、俺はハリーのことだけを考えることに専念した。

あとがき

ポッター夫妻、いつになったら成仏するんでしょうね。
てか、勝手に出したのはわたしか。いつでも見守っていてくれそうですよねー彼ら。
後半、どうもリーマスさんニセモノですが、いつものことです。
今まで苦しんだ分だけ、幸せになってほしいです。
シリウスがそこはかとなく不幸なのは気のせいということに。
設定上の不備はご容赦ください。
(2003/02/16)