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書名:GS
章名:葉月珪

話名:biginning


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.2.21
状態:公開
ページ数:1 頁
文字数:2267 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 2 枚
デフォルト名:東雲/春霞/ハルカ
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<< GS<< 葉月珪<< biginning

p.1

 夢の中でいつも約束をする。相手はいつも同じで、柔らかな金髪で碧の瞳の可愛い男の子。

ーーーーー約束。

 いつも起きると頬が濡れていて、いつも起きるととてつもない喪失感が襲ってきて。覚えていないのに、心が痛くなる。

 いつもだったら。何も覚えていないのだけど。

「約束、したろ?」
 そこにいたのは珪くんで。

「憶えてるか? 初めて会った時のこと」
 そう言いながら、整った顔が近づいて来て、蕩けてしまいそうな瞳の中に私がやっぱり溶けていく。

 リップラインも色も敵わない。完成された美しさに気後れし、あとずさる私は顎を捕らえられて、動けないままで。

「ーー!!」
 触れたと思った瞬間に、視界は暗転した。身体に響く鈍い痛み。

「な、なにしてんだ、ねえちゃん?」
 ドアを開けた弟に、ものすっごく呆れた声で言われた。ええ、私もそう思うわよ。

 そんないつもの朝の出来事だった。

「珍しく早起きだと思ったら、ベッドから寝ぼけて落ちるなんてな。まぬけ~」
「うるさいわよ、尽!」
 珍しく姉弟そろって、登校しながらからかわれる。なんで、こいつは私をからかうの好きかな。普通、年上は敬うもんでしょ。

 アッシュグレイのアスファルトをならんで歩きながら、車道に出そうな弟の手を引く。

「危ないよ」
「危なくないよ、車来てないし」
「来るかもしれないじゃない」
「来たら、避ければ良いんだよ」
 事も無げに言われて、朝から腹の立つことだ。それでも、少しは可愛いところもあるし、頼れるところもある。

「で、結局なんの夢見て落ちたの?」
「聞きたいの?」
 満面の笑顔で頷かれる。それは姉の欲目を引いてもやっぱり、可愛い。なんで、女の私よりも可愛いかな。こいつは。

「それとも当てて見せようか?」
「へ?」
 間抜けな返事だと思う。我ながら。

 一瞬遅れてスカイラインが私達を追い抜いて行って、風が髪を靡かせる。

 尽は後ろ向きに歩きながら、私の前を歩く。

「それってさ、男の夢だろ?」
「え!?」
「夢に見るほど好きなヤツって、誰?」
 協力するぜ?などといわれて、とっさに顔に手をやる。思い出してしまうじゃないか。今朝の夢を。珍しく覚えているあの夢を。

「なななんでよ!?」
「ねえちゃん、わかりやす過ぎ」
 笑いながら言われて、怒って取ろうとした手をかわされて、慌てて追いかける。こうなるとどこまでばれているのか確かめなければ。そう思ったのに。

「ちょっと、尽!」
「お、あそこ歩いてんのは葉月じゃん。はっづき~!!」
 尽の声に降りかえる姿に、私は立ち止まる。夢が、重なる。

 約束と。

 近づいて来る立ち姿と。

 告白と。

 挨拶と。

「朝から何暗い顔して歩いてんだよ! そんなんじゃ、猫も寄ってこないぜ?」
 尽を通りすぎて、真っ直ぐ向かってくる姿から目が離せず、目の前で立ち止まられて、心臓が高鳴る。

 距離が、顔が、夢のままで、幻聴が、聞こえる。

「約束、したろ?」
 思い出せない約束だけど、きっと私、知ってる。

 初めてあった時のこと。

 はばたき学園の中のあの教会で、会った時。

 本当は二つのヴィジョンが重なっていた。

 見たことのある教会。見覚えのある景色。

 そこで、きっと誰かに会った。この街に来る前に。きっと、もっと小さい時に。

「…おはよう。東雲」
 低い囁く声に、はっと我に返る。

 尽は友達を見つけたのか、もっと先へと急いで走っていた。友達の肩に手を掛けて、笑いあってる姿を視界の端に収めながら、その中心はしっかりと珪くんに注いだままの私。

「まだ、寝ぼけてるか?」
 クスリと笑われたのに嫌な感じはしなくて、どうしてかホッとする。

「起きてるよ」
「そうか?」
「ちょっと、夢を思い出しただけ」
 笑顔を向けて、ブレザーの袖を引いて並んで歩き出す。

「夢?」
「そう、夢」
 さっきまで尽にからかわれながら歩いていた道路が、急に動き出す。動く、というのは変か。ようやく、覚醒してきたという感じの方が近いかもしれない。珪くんと歩くのは、少しドキドキする。綺麗、だから。

「どんな?」
 聞き返されているのに、そのときの私の視線は彼の口元に注がれていた。同時に夢を思い出す。

 どうして、今日に限って覚えてるんだろう。

「な、内緒」
「…教えて、くれないのか」
「う…ごめん」
 明らかに落胆している姿にほんの少し罪悪感が生まれる。

 でも、本人に向かって、アナタにキスされる夢を見ました、なんて言えない。

「顔、赤いぞ?」
「え!?」
 顔に両手を当てて俯いてしまった私は見なかった。珪くんが、蕩けるような眼差しを注いでいたことも、その中にかすかに哀愁を秘めていたことも。

「冗談」
「ええ?」
 見上げると、楽しそうに笑っているだけで、からかわれたのだと知る。

「もう、からかわないでよ!!」
「はは…っ」
 笑う珪くんと顔を赤くしながら怒る私は、とっても恋人同士に見えてしまったというのは、その後、友人に聞いた話だ。

 一緒にいるとドキドキして。どんな顔をしているのか気になって。笑ってくれるのが嬉しい。

 これはなんていう気持ちだろう。

「恋じゃないの?」
「わかんないよ」
 頭を抱える私にクラスメートはこういった。

「でも、葉月は春霞のこと好きだと思うよ。いっつも私、睨まれるんだもん」
 真相は、今、振りかえればわかるというが。丁度先生が来て、その話は保留になった。

 本当はどうなのか、知りたいような知りたくないような。悩んでいたら、もう授業に集中するのは無理だった。

 ねぇ。本当の恋って、どんなもの?



★eco_sisenkei.jpg★Eco★「視線(珪)」★

あとがき

7373(ナミナミ)と踏んでくださったEcoさんのリクエストで
『視線イラストから1話』てことで、王子にしました。
他の視線イラストはEcoさんのサイトで見られますv
他に姫条と先生はあったんで、王子をチョイスしたんですが…
…難しかった。王子、ホントに難しいですね。


鈍感天然主人公の意識改革(笑)の始まりみたいな感じで書いてみました。
イメージで…『っぽい!』のとある話がはいってます<ぇ。
どんなんだかわかる人はいませんよねぇ~そんなに。


Ecoさんのみお持ち帰り&転載可です。リクエストありがとうございました~♪


完成:2003/02/21