一面の白に足を置く。
ざくり。
「わあ、埋まる、埋まるっ」
雪にブーツを埋めて、両手をばたつかせる彼女が嬉しそうに騒ぐ。見たことがないというから連れてきたスキー場。車の中では声もあげなかったのに、降りた途端にこれだ。
「おい、あんまり離れるなよっ」
「うんー」
ざくざくと子供のようにはしゃぐ彼女を俺は車のそばで眺める。俺はすべてを白に隠す雪が、あまり好きじゃないんだ。寒いし。
はあと吐き出した俺の白い吐息の向こう、楽しそうに騒ぐ彼女は絵本の妖精みたいで可愛い。いつまで見てても飽きない。
でも、久しぶりの旅行だし、いい加減に宿で一緒に暖まりたいし。手首の時計に目を落とし、顔をあげる。
「わあっ」
ほんの一瞬のことだ。
時計から目を上げたら彼女の姿はなく、俺は急いで彼女を最後に見た辺りまで走った。
まさか、まさか、と怖れる俺はすぐに彼女を見つけて、安堵する。
「ーー心配させんな」
手を引いて、腕に抱きしめた彼女は、まだ興奮しているようで、小さな体を一杯に広げて、抱きしめ返してきた。