窓の外を朝からずっと彼女は眺めている。俺はコーヒーを片手に、彼女を朝からずっと眺めている。
「降らないなー」
今朝の予報で「雪」なんて聞いたものだから、楽しみにしているのだというが、それにしたってそんなに窓にへばりついていなくてもいいだろう。
「おーい、コーヒー飲まないか?」
「かまくら」
楽しそうに彼女がつぶやく。いくらなんでもかまくらが作れるほどの雪がこの北関東で降るわけがない。
「そんなに降らないって」
「天気予報で言ってた」
「当たるかよ」
振り返った彼女が恨めしそうに俺を見上げる姿が、至極可愛い。
「余計なこと言わないでよ。雪のーーの機嫌損ねたらどうするのっ」
「誰の?」
一瞬の後で、しまったという顔をした彼女が俺に背を向ける。
「おい、誰の機嫌損ねるんだ?」
「だ、だれでもないも」
そっと彼女に近寄り、俺は彼女のすぐそばでもう一度問いかける。
「誰の機嫌を損ねるんだ?」
「だ、誰でも……っ?」
すぐ近くにある俺の顔に驚いた彼女は、次には首まで真っ赤になって。
「だ、誰でもいいじゃないっ」
「よくない、教えて?」
固まってしまった彼女の顎に俺は指をかける。
「でないと、このままキスするぞ?」
一瞬の間の後、彼女はすごい勢いで俺から離れた。そのあんまり必死な様子がまた、人慣れない子猫のようで可愛くて、つい苛めたくなってしまうんだ。
「どうしたんだ?」
「だ、だから、そういうのはやめてっていってるでしょー!」
「そういうって、どういう?」
俺が面白がって言うと、彼女はブンブンと首をちぎれんばかりに降る。
「うーっ! 私で遊ばないでよっ」
ばれたか。
「ごめん、おまえがあんまり可愛いから仕方ないだろ?」
今度は赤い顔で口を開閉させ、俺に背を向ける彼女にそっと近づき抱きしめる。
「で?」
「で?」
「機嫌は直ったか?」
彼女の顔がまた一気に赤くなる。
「直るまでキスするけど」
「どうして、そうな……っ」
騒ぎ出した彼女の口を、俺は俺の口で塞ぐ。そうすると、また赤くなって怒る可愛い君がみれると知っているから。