螺子をきりきりと回す手を、私はじっと見つめる。その手の中には鳥みたいな二枚の羽根をもつの木細工があるのだが、四角い形をしたそれは鳥とは似ても似つかない。
「見てて」
手の主は私に一言言うと、鳥みたいなものを抑えていた手をぱっと離してみせた。とたんに、畳の上を二つの羽を勝手にばたつかせながら滑り出す姿に、私は思わず声をあげる。
「おぉー」
でも、それだけだ。鳥みたいな形のものはそこから飛ばない。首を傾げる私の前で、手の主は焦ったようにそれを取りに行く。
「あれ? おかしいな」
「鳥さんではない? 飛ばない?」
「飛ぶはず、なんだけど……」
言葉を濁す様子を見ながら、私は手の主ーー先程まで布団を共にしていた客の男のところまで一重の裾を引きずりながら躙り寄り、その手の中を見つめる。おそるおそる手を伸ばしてつつくと、それはじじじ、とセミのような声を立てた鳴いた。
「……蝉さん?」
「一応、鳥、かな」
自信のなさそうな男の手元からそれを取り、さっき男がしたように螺子をきりきりと回す。でも、一度回して、手を話すとすぐにそれは私の手の中でバタバタと暴れるので、あっと思うと床の上を無様に転がっていた。床の上でばたばたと羽を動かす必死な姿に、男のほうが慌てる。
「ご、ごめん。今度作り直してくるよっ」
男の手の中でも羽根をばたつかせる姿を、私は取り上げる。
「ううん、これがいいよ」
私が微笑むと、男は頬を赤らめて、戸惑う。
「いいのかい?」
「うん、有難う」
飛べない鳥は私と同じ。羽があっても、その先へは逃げられないから。
「またきてね」
大人しくなった鳥を抱えて微笑む私を、男は泣きそうな顔で抱きしめた。