うちの学校には自慢の会長がいる。文武両道で、少しばかりずれた感覚の持ち主というだけならどこにでもいるだろう。もともとはそんなよくいる人だったのだが、ある秋を境に特別変わった会長として有名になった。
「会長?」
「あら、あけましておめでとう」
初詣に来た俺の前には赤い振り袖に身を包み、長い黒髪を結い上げた艶姿の会長がいる。それだけなら、よくある光景だ。問題はさらに会長の上にある。
「なんですか、その帽子は」
「似合うでしょ?」
マンガで見るみたいない高さのある黒のシルクハットは色とりどりの花で飾られていて、その上冗談みたいに飛び出た白くてふわふわのウサギ耳がぴくぴくと動いている。このウサギ耳までただの飾りであるなら、ただの変わった帽子で済む。
「んんん? どうしたの?」
「……いえ」
いやいやいや、それだけでも変わったセンスで片付けられる問題じゃないか。それ以外の問題が大きすぎて危うく納得しかけた。そもそも何故振り袖でシルクハットなのだ。その時点でおかしいだろう。
「会長、今日は何の仮装ですか?」
俺がそう口にしたとたん、すぱんとこぎ見よいチョップをくらった。もちろん、そんなことをしたのは会長で、会長は女性ながら剣術道場の師範代まで勤めあげる人物であるだけに、友人のやるそれよりも痛い。
「これは母が生けてくれたのよ。カワイイでしょ?」
生けてくれた、という時点ですでに何かが違うと思う。だが、この特異すぎる帽子のおかげで会長の耳が目立たないというのは事実だ。そこまで計算してのことなのだろうか。
「キミもこれからお参りするの?」
「はい」
「じゃあ、一緒に行こうか」
会長が歩き出した後に、いつもの距離で続いて歩き出す。出で立ちはいつもと違うが、俺たちのこの距離は学校と大して変わらない。大きな違いがあるとすれば、いつもは気になる制服からすらりと伸びる足が見えないことと、いつもは見えない会長のうなじがとても綺麗だと言うことだ。思わず手を伸ばしたくなるというのはこういうのを言うのだろうか。
まあ、本当に手を伸ばしたりする度胸は俺にはないのだが。
会長と二人並んで賽銭箱の前に立ち、俺はいつも通りに五十円玉を投げ入れる。隣で先に投げ終えた会長が両手で綱を持ち、がらんがらんと鈴を鳴らす。それから作法通りに二礼二拍手一礼をしてから、移動する。
少し離れるとすぐに会長が聞いてきた。
「何をお願いしたの?」
「もちろん、会長の頭の上のそれがなくなって、滞りなく生徒会業務が進むことですよ」
それ、と俺が指したのはもちろんウサギ耳の方だ。
「ん? この帽子?」
「わー! こんなところで外さないでくださいっ!」
帽子を脱ごうとした会長の腕を慌てて押さえた俺の前で、急に会長の顔が綻ぶ。慣れているはずなのに、俺でもついドキリと胸が高鳴ってしまうような笑顔だ。
「私の願いはね」
至近距離で会長がささやく。
「この耳がずーっとついててくれることっ」
冗談じゃない!!
久しぶりに書きました。
今年はもう少しペースを上げて創作していこうと思います。
宜しくお願いします。
2011/01/01 ねんねの息子の足下で蹴られながら。
小説家になろうで公開
(2011/01/01)
サイト公開
(2011/02/17)