1. 最期の日に
「もしもさー」
唐突に彼女が言い出した。学校帰りの道をふらふらと踊るように歩く彼女は、正直危なっかしくて落ち着かない。でも、動く度に揺れる髪が綺麗でつい見とれてしまう。
「もしも明日死んじゃうって聞いたら、どうする?」
そういえば、最近女子の間でそんな話題が流行っているとか、噂好きな友人が言っていたような。
「どうもしない」
「えー」
そもそも「もしも」なんて仮定に意味などないだろう。仮定なんてするぐらいなら、行動してしまえばいい。
ふらふらと歩く彼女の腕をつかんで引き寄せ、顔を近づける。
「俺はお前がいればそれでいい」
もしも明日世界が滅んでも。君さえいてくれるなら、俺はなんだってできるから。
首から上まで真っ赤になった君は、嬉しそうに、幸せそうに笑った。
「私も」
はにかみながら、君が言う。
「おんなじこと考えてた」
愛しくて、愛しくて、愛しくて。二人寄り添いながら歩く道がいつまでも変わらないように、俺は誰に誓えばいいだろう。
2. 守れなかった約束
頭を軽く小突かれたような気がして、俺は顔を上げる。目の前の席には困った様子で微笑む彼女がいる。
「先に帰っててって、言ったのに」
優しい文句を聞きながら、俺は両腕を高く上げて、伸びをする。
「そうだな」
委員会の仕事で遅くなると言われたのは覚えている。時計を見ると、もう七時近い。
「で、これから帰るのか?」
「うん」
立ち上がり、机の脇に掛けておいた鞄を手にする。
「じゃあ、行くか」
「え?」
「帰るんだろ?」
歩き出す俺の後をすぐに彼女が追いかけてきて、隣に並ぶ。
「……どうして」
「あ? 寝てたら、こんな時間になっただけだ」
ひとりで帰したくなかったと言えればいいのかもしれないが、どちらかと言えば違う。俺が君と帰りたいというだけのワガママだから、口には出せない。
そんな格好悪い俺を君にだけは知られたくないんだ。
「ありがとう」
小さな君の呟きに、俺は笑う。礼を言うのは俺のほうだ。
約束を守れなかった俺を赦してくれて、ありがとう。
3. 失ったもの
以前の俺なら、ひとりの時間が好きだった。誰かと長時間いるなんて、耐えられない。友達と馬鹿騒ぎだって好きだけど、どこかで一人になる時間が必要だった。
「あ、もうこんな時間」
隣で俺に寄りかかり、マンガを読んでいた彼女が、身体を起こす。
部屋の中は暖かいのに、二人の間を通り抜ける空気が冷たい。
「わ」
とっさに君の身体を引き寄せる。
「何?」
もう少しだけ。君となら、いつまででも、一緒にいたい。一人で過ごす時間なんて、もういらないから。
1. 最期の日に
リハビリ小話。
甘さはどうかな?
(2011/3/7)
2. 守れなかった約束
優しい関係。
(2011/3/8)
3. 失ったもの
旦那様に言われた実話。
惚気ともいう。
(2011/3/9)
ファイル統合
続きのお題は失念。なんだったかな…
(2014/9/4)