1. ひとりぼっち
不幸に体質があると言ったのは誰だったか。誰でもいいけど、そんなことを言っている奴よりもよっぽど隣を歩く彼女の方が不幸ではないかと、俺は思う。
「みゆ、こっち」
「え、きゃあっ!」
俺が彼女の腕を引いた瞬間、彼女のいた位置に何かが降ってきた。それは辺りに白煙を振りまいたあとで正体を現す。ーー黒板消しだ。
「すいませーんっ」
上から謝罪の声が聞こえたかと思うと、右手に黒板消しを装着した男が慌てた様子でいる。
「だいじょうぶですよー。あゆくんがいるからー」
あわやそれが直撃しかけた俺の幼馴染である美幸は、のんびりした口調と緩慢な身振りで無事を伝えている。
肩口で緩いウェーブを描くクセッ毛を揺らし、見た目だけならネコにも似ているという美幸は、外見に反して運動神経の方はない。だからというわけでもないが、俺がいないとよく怪我をする。その証拠に振り上げる手の指先から、長い制服のブラウスから除く細い腕から、膝が少し見える長さのスカートからのぞく少し太めの足から、すべて傷や打ち身だらけだ。顔や首も例に漏れず、美幸から生傷が絶えることはない。
「何が大丈夫だ」
「えー?」
俺が少しイラついた声で咎めると、美幸は目を細めたまま俺に笑顔を向けてくる。
「だって、あゆくん、ちゃんと守ってくれたじゃないー」
有難うと美幸は俺に笑いかけ、それから身体を寄せてくる。
俺が美幸を守るのは当たり前だ。小さい頃からずっと美幸の不幸体質を見ていて、俺が守ってやらなきゃいつかこいつは死んでしまう。だから、俺が守るとずっと昔に誓ったのだ。俺が、どんな不幸からも守ると。
「アタシはあゆくんがいれば、全然大丈夫だよっ」
そう言って笑う美幸と俺は血の繋がらない家族だ。俺が出会った時、美幸は身寄りをいっぺんに亡くしたばかりで、美幸の父親が俺の両親の親友だった縁でうちの家族になったのだ。
世の中で不幸と言っている奴がなんだと、美幸をみていると思う。美幸以上に不幸な奴なんかいない。毎日毎日生傷が絶えないぐらい、いろんな不幸に合って、それでも美幸は笑ってる。
「あゆくんがいれば、アタシは世界一の幸せものなんだからっ」
「みゆ……っ」
変わらない笑顔を向けてくれる美幸を、俺は強く抱きよせた。その瞬間、美幸のいた位置に鉢植えが落下して、ガシャンと割れる。これぐらいは日常茶飯事だから、俺も美幸も気にしない。
「あゆくんがいてくれれば、アタシはなんにもいらないよ」
可愛い可愛い俺の美幸。俺が絶対守るから、ずっと俺といてほしい。君が居ないことこそが、俺にとっての最大の不幸だから。
2. この手には何も残らず
今日も美幸には朝から不幸がつきまとっている。早くこいつをなんとかしないとと思いつつ、美幸を守るのは俺しかいないと使命感に燃える。
「おひゃよー、あゆくん」
寝起きで寝ぼけている美幸を制服に着替させ、俺は二人で慎重に部屋を出ようとした。が、出ようとした一歩をその場で止める。
「みゆ、とまれ」
「んー?」
振り返りながら返事をする美幸の腕を引いて、俺は部屋に引き戻した。……つられて倒れたのは、俺がまだまだ修行不足なせいだ。
「だいじょうぶー、あゆくんー」
俺の上に乗ったまま少し心配そうに眉を顰める美幸の頭を、そっと撫でる。
「大丈夫だから、ちょっとどいて」
「うん」
俺の胸に両手を置いて移動するのはわざとか、美幸。そんなわけもないと知っているので、俺は軽く呻くだけにとどめて起き上がり、ドアを開けて向こう側から大きめのお盆を引き寄せた。どうやら、両親は朝から急用で出かけたらしいと、一緒に置いてあるメモから読み取る。
「みゆ、朝飯」
「わ、トーストだー」
好物を見て、嬉しそうに手を打ち鳴らせる美幸の前にお盆を置いて、俺は美幸の隣りに座る。盆の上には湯気の立つコーヒーとホットミルク、それから分厚い焼きたてのトーストが二切れと、スクランブルエッグが二つ。それから、溶けかけたアイスが二つ。
俺の家族が美幸を引き取った時から美幸の不幸体質を全面的に理解して、それはそれと割りきって付き合っている。だから、朝からキッチンに辿り着く前に何かあったら大変だろうと置いておいてくれたのだろうが。普段からそうしないのは美幸の無事を確認したいからと知っているだけに、俺も気にしない。
「トーストとアイスは別にしておくべきじゃないか?」
「いいからたべよーあゆくん。いただきまー」
美幸がホットミルクに口をつけている間に、俺は美幸の分のトーストにマーガリンを塗り、スクランブルエッグを挟む。
「みゆ、口開けろ」
「あー」
それを美幸の口に放り込んでから、俺は自分の分のトーストに同じようにスクランブルエッグをはさみ、一口で口に入れて、コーヒーで流し込む。
「あゆくん、アイスとけちゃうー」
「それはデザートだろ。ほら、ジャム塗ってやるから」
ひとつめを食べ終わった美幸のために、今度はトーストの半分にマーガリン、半分にジャムを塗ったサンドイッチにして、美幸の口にいれる。
「んー、ふふふー」
幸せそうに食べる美幸に俺まで、つい口元が緩む。ふごふごと何かを言っている美幸の頭に手をおいて撫でる。
「しゃべるのは後でいいから、今は食え」
「ん」
大きく美幸が頷いたのを見てから、俺もジャムサンドを作って、今度も一口で食べる。コーヒーで流し込みながら、今日の予定を脳内で確認し。
「あゆくんー、たまにはアタシが食べさせてあげるー」
差し出されたスプーンについ口を開けた俺は、喉に冷たい塊を押し込まれて、我に返った。その時には既に遅い。
「っ! げほっ、ごほっ!」
「わー、あゆくん、大丈夫ー?」
焦っている様子なのに、焦ったようにみえない口調で心配してくれる美幸は、俺の顔をのぞき込みながら背中を叩いてくれる。それはいいのだが。
「お、おい!」
「はい!」
「いくらなんでも一口で入るかっ!」
「えー?」
おかしいなーと首を傾げる美幸に何を言っても仕方ないとわかっているが。
「あゆくんなら、このぐらいへっちゃらでしょ?」
いくら俺でもカップアイスを一口で食べるのは無理だ。
「……みゆは何もしなくていいから」
「うーん」
不満そうに眉根を寄せる美幸に俺は少し照れながら、美幸の分のアイスを手に促した。
「ほら、早く食べないと遅刻するぞ」
「うーん」
「みゆ」
「あー」
まだ一日は始まったばかりなのだから、こんなことでめげていたら美幸の相手は務まらないのだから。
その後、からになった盆を持って出ようとした俺は、いきなり後ろから激突されて危うく盆をひっくり返すところだった。
「ごちそーさまでしたー、あゆくん」
「はいはい、ごちそうさま」
食事が空になるのはいいのだが、盆のなかの皿まで含めて空にしたら、俺が母さんにどやされるところだった。それに、美幸がまた怪我をする。
「俺が戻るまで部屋で待ってろよ」
「はーい」
美幸の元気のいい返事を聞いたのは、俺が階段から落ちる一分前のことだ。
「あゆくん、大丈夫ー?」
とっさに受身をとる自分の運動神経に、俺は心底感謝する。
「俺は無事だから来るなっ」
最新の注意を払ったのだけれど、結局皿も割れたし、俺の手には何も残らなかった。
3. 君がいない世界
いくら俺でもどうしても一緒にいられない時間がある。それはトイレと風呂と、男女別の体育の時間。特に体育の時間はあっちで美幸がどんな怪我をしているかと考えると、俺は平静ではいられない。そわそわと落ち着かない時間を過ごし、授業が終わってすぐ、俺は着替もせずに駆けつけた。
「今日も仲いいねー。美幸ちゃんなら、さっき保健室に行ったよ」
美幸と仲の良い女子に聞いて、礼もそこそこに俺は保健室へと駆け出した。どんな怪我をしても笑っている美幸だから、ちょっと見ただけでは怪我の具合もわからない。だから、自分で確かめるしかない。
早く、早く、と急く心で廊下を走る。
「こら、廊下は走るなーっ」
教師に注意されたけれど、軽く謝るだけで速度は緩めない。何度か人にぶつかりかけたけれど、持ち前の運動神経で全部かわし、早く早くと保健室へと急ぐ。
保健室まではそれほどの距離じゃないのに、こういう時ほど長く感じる。
「みゆ、無事か!?」
保健室のドアを勢い良く開けた俺が目にしたのは、床に尻餅をついて呆然としている美幸と、見たことのない若い男の保険医だ。
保険医に腕をとられたまま呆然としている美幸が俺を見て、徐々に俺だと認識したあとで一度保険医を見上げる。保険医は美幸に頷き、胡散臭い笑顔で俺に笑いかけた。
「君が歩君か。いつも美幸が世話になってるそうだね」
美幸を美幸と、そう呼ぶのはうちの家族以外は数人の女子しかいない。俺は怪訝に思いながらも大股で近寄り、美幸の隣に膝をついてから両腕で立たせ、しっかりと胸に抱きしめる。
「わ、あゆくんっ?」
「美幸の怪我、どうなんですか?」
「ああ、軽い打ち身だね」
「そうですか」
美幸を腕に抱きしめたまま、俺は深く頭を下げる。
「どうも、美幸がお世話になりました」
俺が言うと保険医は口端を上げて、気味の悪い作り笑いを見せる。他の奴は気づかないかもしれないが、俺にはわかる作り笑いだ。
「またおいで、美幸」
「え、あ、はい! ーーお兄ちゃんっ」
美幸は天涯孤独の不幸体質少女で、身寄りなんていないはずなのに。そう言って、保険医に笑いかけた。保険医は美幸に優しく笑いかけていたが、美幸が視線を外した瞬間、俺をじっと見つめてくる。
「美幸を頼んだよ、歩君」
言われなくても美幸を守るのは俺だけだ。俺は敵意を込めた目を向けてから、足早に美幸を保健室の外へと連れ出した。
俺の世界は美幸が現れてから美幸を中心に回っている。だから、美幸がいない世界は耐えられないのに。
「あゆくん、早かったねぇ」
無邪気に笑う美幸を抱きしめる。その瞬間を狙いすましたようにガラスが割れて、拳大のボールが飛び込んできた。間一髪だったけれど、俺の腕の中にいる美幸に怪我はない。俺も、掠り傷一つない。
「あ、あゆくんっ」
「ごめん、美幸。もう少しだけこのままで」
美幸の髪に顔を埋めると、俺と同じシャンプーの香りがする。もしも美幸に家族があるなら、俺は美幸を返さなければいけないのだろうか。美幸のためにも、美幸が兄だと呼ぶ男のもとに返さなければいけないだろうか。
そんなの嫌だ。
「あゆくん……?」
戸惑いながらも俺の背中に腕を回す美幸は、安心させるように俺の背中を叩いた。
「大丈夫だよ、あゆくん」
大丈夫は魔法の言葉だと、美幸は言っていた。どんなに不幸でも、大丈夫の一言で全部が大丈夫になるんだと、わけのわからない理屈を言っていた。その魔法を俺にもかける。
「アタシはずっとあゆくんといるから、大丈夫だよ」
大丈夫、それは美幸が使える魔法の言葉。
4. からっぽの心
美幸は何があっても笑っている。それはずっと出会った頃から変わらなくて、俺は時々不安になるんだ。
「みゆ」
「なにー?」
同じ部屋で隣同士で座って、本を読む美幸とその髪を手慰みに弄る俺。甘い空気なんて、欠片もない。
小さい頃からずっと一緒で、俺が守るんだって決めた時には既に俺は美幸が好きだった。でも、大切な女の子だから、一緒にいて守るだけでそれ以上は手が出せない。
「どうしたの、あゆくん」
何も言わない俺に本を閉じた美幸が顔をあげる。すぐにキス出来る距離だけど、俺は、俺には何もできない。
「……あの保険医、知り合いなのか?」
俺の問い掛けに驚いた顔をむける美幸は、少し困ったように笑う。
「アタシのパパの弟なんだって。……憶えてないけど」
弟、と俺は口にする。
「本当はおじさんなんだけど、お兄ちゃんて呼んで欲しいっていうから」
困ったねと口に出して美幸が笑う。笑いながら、本を置き、その手で俺の服をつかむ。
「……アタシ、ここにいちゃだめかな。あゆくんといちゃだめなのかな」
美幸はいつも自己主張はしない。何が欲しいとか全然言わないし、何が嫌だとも言わない。だから、俺といるのが嫌かどうか時々不安になるんだけど、こんな風に言われるのは初めてだ。
「みゆは、美幸はどうしたい?」
俺がちゃんと名前を呼ぶのは珍しいから、美幸は大きな目を見開いて俺を見つめてきた。
「あゆくんは」
いつものように言いかけた美幸は少し言いよどみ、言い換える。
「歩君は、アタシにどうしてほしい?」
美幸は自分のせいで両親が死んだと、自分の不幸体質に巻き込まれて、家族が死んだと思ってる。だから、どうしたいかを自分で決めない。出会った時から笑顔で隠してきた美幸のからっぽの心に俺は気づいていた。
今も美幸の心はあの時のまま、からっぽだろうか。
「俺が先に聞いたんだから、美幸が答えるんだよ」
それから、美幸は俯いて、しばらく考え込んでいた。俺はずっと美幸の髪を撫で続けた。
美幸のからっぽの心には両親を亡くした日から誰もいない。誰も入れないように、笑顔で壁を作っていたのだと俺は知ってる。だからこそ、ずっと同じ部屋で同じ毎日を過ごしていても、どんなの好きでも俺は美幸に手が出せない。
「アタシは……」
「うん」
何度か話だそうとした美幸は、俺の目を見て止める。美幸が望んでくれなければ、俺もどうすることもできない。
でも、美幸がもしも俺から離れることを望んだら、俺は美幸を手放せるかどうか自信はない。この関係を壊してでも、美幸を手に入れる覚悟が俺にはない。
だから、俺は美幸の言葉を待つ。もしも美幸が離れたとしても、それが美幸の決断なら、きっと俺は受け入れるから。美幸の、初めて願うことだから。
「歩君、アタシねーー……」
5. 救いなんていらない
美幸が生きるためなら、どんな犠牲も厭わないと決めたのは、俺がまだ本当に小さな子供だった頃からだ。美幸の不安そうな笑顔を見てからずっと、俺が本物の笑顔に変えてやるんだと決めていた。
二人繋いだ手を強くして、俺たちは美幸の叔父だという保険医の前で宣言する。
「美幸はあなたに渡さない」
「アタシは歩君とずっといたい」
まっすぐにいう俺たちを見る保険医はしばらく神妙な顔をしていたが、たまりかねた様子で吹き出した。
「な、なんで笑うのっ?」
慌てた美幸と困惑する俺を交互に見ながら、保険医は笑っている。
「二人とも勘違いしてるみたいだからさー」
くつくつと腹を抱える保険医を、俺は一瞬だけぶん殴ってやろうかと思った。
「俺は何も美幸をつれてこうってつもりはないよ。いくら兄貴の子どもでも、自分から面倒を背負い込むわけねーじゃん」
「じゃあなんで、わざわざ美幸を不安にさせるようなこと言ったんだよっ」
「不安って、別に親戚だって名乗るぐらいいいだろー? 俺らの不幸体質はちょっとやそっとじゃねーし、俺だって厄介な霊媒体質抱えてんだ。美幸のまで面倒見切れねーよ」
いきなりの告白で殴り返す意欲を失った俺に、保険医はほら、と手を差し出す。
「見たいなら見せてやるぞ」
え、と思う間もなく手を取られ、俺は強引にそれを見せられた。保険医の背後に二人の妖艶な女性が浮いていて、俺に向かって笑っている。
「で、こいつらがいうには、おまえ、ちょー幸運の元に生まれてるらしいけど、いいのか?」
「え?」
手を離されたあとも何故かそいつらが見えたままの俺は、視線を外せないままに戸惑う。声は聞こえないけど、ため息をつかれているのはわかる。
「美幸といるせいで、歩君の幸運の九〇%が美幸を守るために使われてるみたいだけど、それでいいのかって聞いてんだよ」
呆けたままの俺の額に保険医がデコピンし、その痛みで俺は頭を抱える。何を言われているかよくわからないけど、ひとつだけわかる。
「俺がいれば、美幸は不幸じゃなくなるんですか?」
「半減ってだけだ。でなきゃ、美幸はここまで生き残れねーよ」
一族の中でも一、二を争う不幸っぷりだからなと、保険医は空を見上げてからりと笑う。既に俺にさっきの二人の女性はみえなくなっているが、保険医の目には見えているのかもしれない。
「……一族って……」
そういう一族がよく今まで生き残ってこれたなと呟く前に、保険医は種明かしをしてくれる。
「そりゃ、そういう点は世の中上手く出来ててよ、俺みたいなのがちゃんと子供残すからじゃねー?」
びくりと俺にしがみつく何かが震えて、俺はやっと美幸が自分に密着していることに気づいた。
「美幸がそいつを選ぶなら、別に俺はかまわねーよ。せいぜい、不幸と幸運をわけあって、生き抜いてくれ」
じゃあなと強制的に保健室を追い出され、俺は美幸と顔を見合わせる。
「な、美幸」
「……なに、歩君」
いつもよりも少しおっとりさに欠ける返答を聞いて、俺も困惑の顔を浮かべる。
「けっきょく、あのおっさんは何しに来たんだ。美幸をつれてくためじゃないのか?」
「歩君はアタシをつれてってほしかったの?」
一瞬涙目になる美幸の両肩を俺は強く抑える。
「んなわけねぇだろっ!」
びっくりした様子の美幸は、やっと安心した様子で笑った。
「よかったー。歩君に捨てられたら、アタシ生きていけなくなるもん」
その言葉は真実で、さっきの話が本当なら、美幸は一人にしたら本当にあっさりと死んでしまうかもしれない。それは今に限らず、ずっと俺が感じてきた不安だ。
「馬鹿、そんなことするわけないだろ。みゆは俺のもので、俺はみゆのものだから」
「あゆくん」
潤んだ瞳で俺を見上げる美幸は、いつになく可愛い。俺はすばやく周囲の人影をチェックし、かすめるように口付ける。
「そーゆーのは家に帰ってからやってくれねーかなー、あゆくん」
見ていたようなタイミングで保健室の中から声がかかり、俺と美幸は慌てて保健室の扉をみた。扉はしっかりと閉まったままで開いた様子もない。
「……い、いこうか、あゆくん」
「そう、だな」
戸惑いながらも保健室を後にする俺たちは、しっかりと指を絡めて歩く。そして、保健室が見えない階段の踊り場までたどり着いてから、もう一度しっかりと口を合わせた。
「アタシ、歩君がいれば、幸せだよ。救いなんていらない」
「俺も美幸がいれば、美幸が笑ってくれるなら、それでいいよ」
甘い甘い空気を重ね、俺たちは二人きりで長い長いキスをする。それが物語の終りであるように、美幸の不幸の終りであるように、俺だけは密かに願っていた。
1. ひとりぼっち
不幸体質少女、美幸。
天然かどうかは今後次第。
(2010/06/02)
2. この手には何も残らず
どこが不幸?という感じですが、家族全体で最新の注意を払っているということで。
(2010/06/02)
3. 君がいない世界
過保護も度が過ぎるのはどうかと思う。
ぷちストーカーじゃね?←
(2010/06/02)
4. からっぽの心
実際、好きな子と同じ部屋に何年も寝泊りって、可能なんかな。
(2010/06/02)
5. 救いなんていらない
結局ファンタジー。
(2010/06/02)