ハリポタ(親世代)>> Information is Money>> Information is Money 3#-5#

書名:ハリポタ(親世代)
章名:Information is Money

話名:Information is Money 3#-5#


作:ひまうさ
公開日(更新日):2003.2.28 (2003.4.20)
状態:公開
ページ数:5 頁
文字数:10927 文字
四百字詰原稿用紙換算枚数:約 7 枚
デフォルト名:////レン
1)
3) 透明マントからのリポート!
4) 逃亡実況リポート!
5) 自白をレポート!

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p.1

3) 透明マントからのリポート!







 寝て起きればもとの私の姿。そう、思っていた。

 リリーは確かに可愛いし、綺麗だし、憧れるけど、別に私は自分の顔を嫌いなわけじゃない。むしろ好きな方だ。ナルシストというわけじゃないけど、それなりに気にいってはいる。だから、これはとんでもない事態だ。私の姿が、私じゃないなんて。

「ーーどうしてくれようかしらね?」
 男子寮の目当ての部屋の前で、リリーの姿のままの私を見咎めるものはいない。それは、今が授業中で誰もいないということに加え、私は熱を出して寝込んでいることになっているから。

 部屋の中は綺麗とは形容し難い。まずそこら中にお菓子が散らばっている。それに混じっているのはゾンコのイタズラグッズ。羊皮紙はそれぞれ机に置いてあるけど、本は適当にそこら中に散らばっている。物を動かさないように、私はベッドのひとつへと近づく。見えないものを隠す時、私ならどうするか。ポイントはそこにある。

「…無用心ね」
 何も無い空間に布の感触を確かめて、掴み上げる。音なんてしない。なにもそこにあるようには見えない。でも、確かな感触だけがある。それだけで充分だ。

 報復は、速やかに。密やかに。スリザリンの馬鹿どもに加えて、悪戯仕掛人たちにも丁寧かつ丁重にーーを。

「レン!」
 間一髪マントを頭からかぶって、そっと移動する。部屋に入ってきたのはもともとの住人であるジェームズと、それにシリウスとリーマス。ピーターが代わりにノート取ったりしてるのだろうか。可哀相に。報復リストからは外してやろう。

「いないな」
「絶対にここに来ると思ったんだけど」
「やっぱりジェームズも怖い?レンの報復」
 しゃべりながら、三人は部屋の中央へと移動してくる。私はこっそりとドアへと近づく。

「いいや。もう少しすれば大した秘密でもなくなるしね」
「それって、僕も知らない秘密だね?」
 シリウスは一言もしゃべらずになにか考えこんでいる。その脇を音も風も立てないように移動する。

「リーマスは怒るからまだ秘密」
「僕が怒るようなこと、しようとしてるの?」
「そうだよ」
 まったく悪びれない。けれど、その瞳の奥にあるのは悪戯ではなく、確かな温かさや優しさと呼ぶべき響きだ。

 くんっと透明マントがなにかに引っかかった。お菓子の箱だ。こんなときにかかるなんて、ついてない。見つかっても厄介なので、そっと屈んでしずかにマントを持ち上げ、やり過ごす。

「おまえら、今はそんなことよりレンを見つけるのが先だろ!?」
 すぐ近くで聞こえるシリウスの苛立つ声に、不覚にも強く反応してしまう。しかも苛つきながら歩き回る厄介な癖を持っているのだ、彼は。床の上の物を蹴飛ばしながら歩く様子に舌打ちしたくなってくる。そんなことをしたら一貫の終わりだが。

「リリーが部屋にいないから、だったらレンなら平気で男子寮に入るし、絶対に透明マントを盗りにくる。そういったのは、ジェームズだろ!?」
 近づいてくる足に、心臓が高鳴る。

 近づいてくるな、近づいてくるなぁ!!ーーあ、向こうに行った。念じたのが効いたのだろうか。

「少し落ちつけよ、シリウス」
 しかし、さすがはジェームズ。良い読みをしている。私がここにくることをしっかり読んでいたなんて、流石としかいいようがない。普通、女子がもぐりこむとは思い当たらないだろう。彼らなら、せいぜい寮を出て、秘密の通路を使って昨日のリベンジにでかけていると思ってもいいはずだ。

「いくらレンがいないからって、そう苛ついてたら、大事な物も見落とすよ?」
「そうそう。どうせ今会っても姿は彼女じゃないしね」
「リリーの姿でもレンはレンだ! くっそ!だからヤだったんだよっ」
 どかっと近くの机が跳ねあがる。ジェームズが冷静に「机が壊れるよ」と笑いながら咎める。いや、咎めるじゃなく、からかう?

  何を?ーーシリウスを。

  どうして?ーーわからない。

「じゃあ、どうして最初に秘密の通路を除外した!?」
「むやみに歩き回っても、見つかるわけがないだろう? それなら、こいつを使うほうが早い」
 古びた羊皮紙の切れ端は見たことのないもの。ジェームズが自分の杖で叩いた瞬間、私はとっさにドアまで走っていた。どうせシリウスが動き回っているから多少動いてもわからないだろう。

「そう、僕らにはまだ切り札があったね」
「なんのために作ったと思ってるんだい?」
 知らない情報が一気に押し寄せてきて、頭が混乱している。

「シリウスも来てごらん。すぐにレンが見つかるよ。君の愛しい女の子がね」
 うそだ。ぜえったいに嘘だ!!

p.2

(ジェームズ視点)



 われ、ここに誓う。われ、よからぬことをたくらむ者なり!

 杖で触れると勝手に羊皮紙は開いて、ホグワーツの地図を映し出す。僕たちが作り出した、最高の一品。忍びの地図だ。教室の位置には人の群がある。授業中だからあたりまえだけど。

「いたか?」
 歩き回っていたシリウスが足音荒く近づいてくると、振動でドアが揺れた。大したもんだ。

「あれ、ここって…?」
 僕達のいる一室にちゃんと3つの点はある。だけど、ひとつ急いで離れていく点があった。名前もちゃんと出ている。

「しまった! やられたよ!!」
「ジェームズ!?」
「透明マント、僕はどこに置いておいたかな!? もしかして、ベッドに置きっぱなしだったかも。あーでも、今はそんなこと関係ない」
 僕としたことが、目の前で取り逃がしたなんて。きっとさっきの風だ。ドアを開かせた振動。あの時に出て行ったんだ。なんて、女の子だろう。この僕を出し抜くとは。

「レンはたった今、僕らの部屋から出て行ったんだよ!」
「「え!?」」
 先にたって部屋を出ると、二人も慌てて追いかけてくる。

「ど、どういうことだ!」
「さっきって、僕ら、部屋にいたのにどうやって?」
「透明マントさ!」
 階段を降りているというのに後ろから思いっきり蹴りおとされた。

「こんの馬鹿っ!」
「どうして先に確認しないんだよ」
 ひらりと手元を離れた地図を、パシッとシリウスがとったのがみえる。

「確認する前にリーマス、君が聞いたんじゃないか」
 気になっていたからねと、苛立たしげな声が返ってくる。普段とは少し違うようだ。

「やべ!談話室に着くぞ!?」
 そのあとは、きっと僕らが入ってこられないと思って女子寮に逃げ込むはずだ。そう、思った。

「女子寮にはいられたら厄介だね」
 勢いよくシリウスが談話室のドアを開けて、僕らもそれに続く。本人の前でそれだけ積極的にうごけばいいのにね。僕みたいに。

「リリー!!」
「レンはいた!?」
「来てないのかい?」
「え???」
 不思議そうな顔をしている愛らしい少女に一瞬見惚れかける。それに惑わされなかったのは、シリウスとリーマスだけだ。迷いなく女子寮へのドアを開ける。

「ちょ、ちょっと、レンはいなかったわよ?」
 リリーの制止も聞かず、二人の姿が談話室から消える。ここまで動揺しているのは、どうしてか?

「リリー。僕らが来る前に男子寮の扉が開いたり、女子寮の扉が開いたりしたかな?」
「え、いいえ?」
「風とか、ほんの少しでも開かなかった?」
 すると少し考えこんで、その間にシリウスとリーマスが慌てて戻ってきた。

「箒で窓から逃げやがった!!」
 だそーだ。やはり、普通にはいかない。僕の透明マントを奪って、被ったまま箒に乗って逃走されるとは。

 悪戯仕掛人を本気にさせる気みたいだね。レンは。

p.3

4) 逃亡実況リポート!

(レン視点)





 私は知らなかった。本気になった悪戯仕掛人がどれほどのことをするかということに。

 私は知らなかった。あの地図がホグワーツの中だったら全部見渡せてしまうものだということに。

 私は知らなかった。シリウスとリーマスの標的が私だということに。(違)
 青い空も荘厳なホグワーツ城を眺める余裕もなく、透明マントをかぶって箒に乗ったまま、私はリリーのいるはずの教室を覗きこんでいた。本当なら、私もそこで授業を受けているはずだったのに! リリーとノートにメモ書いたやり取りしながら、情報を集めている最中だったのに!!

 こうなったのは、全部ジェームズのせいだ!

 教室に目当ての赤い煌きを見つけられずに私は裏庭に、到底箒でなければ来られそうにない裏庭に降り立ち、透明マントを脱ぎ捨てた。その辺に放って、箒を置いて芝生に座る。膝を抱えて、いつもの羊皮紙を取り出す。混乱した時は書いてしまう方がすっきりと何もかもわかる。

 シリウスは私を好きらしい。リリー以上に?

 たしか私は昨夜、彼にこう言った。

「愛しい人が恋敵と一緒にいるから苛ついている」のだと。

 リリーが好きだから、ジェームズといていらついていると思ったから。

 でも、このリリーだと思った部分を置き換えると。あの時私の隣にいたのはリーマスで、恋敵ということは。

「うそだー!!」
「レン発見」
 どこからか現れた嬉そうなリーマスに驚きつつ、箒を手に取る。

「ぎゃぁ!私はリリーです!レンじゃありません!」
「何言ってんだ、リリーはそんな叫び方しねぇよ」
 逃げようとした反対側からシリウスも出てきた。

 絶体絶命というのはこういうことをいうのだろうか? 透明マントはたぶんその辺。だけど、はっきりととれる自信はない。適当に投げるんじゃなかったといまさら後悔しても遅い。

 箒はここにある。けど。

「俺から逃げられると思ってんの?」
 にやりと人の悪い笑みを浮かべ、シリウスは後ろでの箒を向けてくる。彼はクィディッチの選手だ。私が敵うはずがない。その上、やつのお頭はトップクラス。対して中の下クラスの私とは開きが有りすぎる。そんな相手と一般生徒の私とは実力がかけ離れすぎている。

「逃げられないと思ってるんだ?」
 わざと不敵に笑ってみせるのは、こういう場合、取乱した方が負けだと思うから。勝てるとは思ってないけど、逃げれるとは思っちゃいかんですか。

「レンこそ、逃げれると思ってるんだ?」
 そういったのはリーマスで。声は、すぐ近くで聞こえた。かすかに薫る、甘いお菓子の匂いでわかる。彼独特、というよりもおそらく非常用で持ち歩いているチョコレートだと思うが。関係ないが、私の調査によると彼は甘いものがなくなると禁断症状がでるらしい。どんなのか聞いたことないけど。

「わるいっ?」
 そのリーマスの隣をすり抜けようとして、つかまれたローブをあっさりと脱ぎ捨てる。あっけにとられる二人を振り返らずに、一番近い隠れ穴へと飛び込んだ。

 逃げるぞとか何とか聞こえたけど、ええ、逃げさせていただきます。捕まったが最後、どんな顔をしていいやらわからないのです。好きは好きだけど、私のはその他一般の好きであって、しかも誰かひとりだけを特別に好きになる人の気持ちなんてさっぱりわからない。

 こんなときはどうしたらいいんでしょう?



p.4

(リリー視点)



 私の前にはにこやかな笑顔を振り撒く男がひとり。彼の友人たちは現在、私の親友を追いかけている。私の姿をした親友を。

「どういうことかしら?」
「危険だからね、ここにいたほうがいい」
「そんなことは聞いてないわよ。ジェームズ・ポッター」
 朱に彩られた談話室には今、私と彼の二人しかいない。ローブの下で、杖をしっかり握り締めて確認する。

「レンの姿は、半日だけの効果と言ったでしょう?」
「もちろん、僕が君に嘘をつくはずがない!」
「じゃあどうしてもとの姿に戻らないの?首席のあなたが間違えるなんてありえないわよね」
「当然だよ!」
 食えない男だわ。さっきからずっとこの調子で、どうにも聞き出せない。

「嘘はつかなくても」
「そんなことより、リーマスが紅茶を用意しておいてくれたんだ。彼の入れるのは絶品だから、一度飲んでみるといい」
 どう見ても二人分しか用意されていないカップには冷めた紅茶が入っていて、彼が杖でひとつ叩くと、あたたかな湯気と甘い香りを昇らせる。

「飲んでる間に、レンも見つかるだろうしね」
 彼自身が飲んで、何も入っていないことを示してくれる。

「…私に嘘はつかなくても、他の人にはつくわよね」
 飲んでみると確かに美味しい。甘味も申し分ない。彼は甘党だから、もうちょっと甘いのだと思ったけど。

「効果が半日と言ったのは、ジェームズじゃない」
 先ほどから、独白のように続けるたびに、彼の笑みが深くなる。

「レンの姿がもとに戻る方法は、時間じゃない…?」
「正解。さすが、リリーだ」
 風に揺られて、窓がカタカタと音を立てる。ゆっくりと大きな白い雲が流れていく中、一羽の鳥が飛んでゆく。

「じゃあどうやって」
 カタリとドアの開く音に振り返る。そこには、少し埃で汚れたレンが立っていた。

「レン!」
「ジェームズ~! いいかげんこの姿を解く方法を教えなさいよ!」
 ローブをなくし、ネクタイも外れかかっている。周囲を見まわしながら、ソファーに蹴りつける。跳ねた拍子に、紅茶がテーブルへとこぼれ落ちるのを、私は黙ってみていた。

「立ち聞きとは趣味が悪い」
「立ち聞きじゃないわよ!」
「じゃ、どうしてそのことを」
「あんたが今言ったでしょ」
「やっぱり立ち聞きしてたんじゃないか」
 ため息混じりに立ち上がる。その姿は妙な自信と威厳に満ちていて、レンと二人で、少し後ずさった。壁もないはずなのに、二人とも肩を掴まれる。

 振り返るのと、彼らが姿を現わすのはどちらが早かっただろう。私の肩を掴んでいたのはリーマスで、レンの肩を抑えていたのはシリウスだった。息が調っているところからして、少し前からいたということか。

「立ち聞きは、してないっ」
 視線をジェームズに戻して、レンが主張する。髪についた汚れを梳いて落とす。でも、変な感じだ。

 シリウスとリーマスの二人が確かに頷く。それに、ジェームズが首を傾げる。

「そんな暇はなかったよ。だって、昨日リリーに告白してきたやつに追われてたんだから」
「せっかく俺が、助けてやったってのに、逃げやがって…」
 昨日告白してきたやつというとあのスリザリンのしつこそうな男か。カタチだけの告白をしてきた変な男。私の姿しか認めていない、中身のない人形みたいに思っていたやつ。

「余計なお世話よ!」
「余計か?」
「押し倒されてて?」
 ふっと空気が冷えこむのが彼らにはわかったのだろうか。全員が、一歩ひいた。

「なんですって?」
「リ、リー…?」
「ジェームズ。いますぐ、レンの姿を戻して頂戴」
「ちょ、リリー?」
「これ以上、レンを私の代わりになんてことで危険な目に合わせないで」
 真剣だった。レンは私の姿をしているだけで、私の代わりに危険な目に合わせつづけるなんて、耐えられない。

 大切な、私の親友をそんな目に合わせて。

「…ただで済むと、思わないでよね」
 ジェームズ以外の三人が息を飲むのが聞こえた。彼ひとりが、薄っぺらな笑顔を浮かべたまま。それはやはり不審で。まだ何かする気なのかといぶかしむ。

 予感はすぐに確信へと変化した。



p.5

5) 自白をレポート!

(レン視点)





 イキモノにはまず狩る側と狩られる側があって、私はどちらかというと前者だと思っていた。それが多大な自惚れと誤解だと気がつかされたのは、彼らのせいだ。

「ジェームズ。これは、私に対する挑戦ととってもいいのかしらね?」
 すべてを聞いてから意識して出す声は、やはり私のモノではない。どこまで聞いても可愛らしく、耳に心地好いのはリリーのモノ。

 ちなみに、リリー本人は私の隣で険しい顔をして腕を組んでいる。

「挑戦じゃない」
 対して、ジェームズは机の端に座って柔らかい瞳で私達を見つめている。

 ここまでやっていて、挑戦じゃないというか。こいつは。

 殴りかかりそうになる気持ちを抑えて、拳を強く握り締める。切り残した爪が深く食いこむけど、刺さっているわけじゃないから痛くはない。

「レンに聞きたいことがあるだけだよ」
 やんわりとした言葉に私が返す前に、二人の男が色めきたつ。

「だったら、普通に聞けよ! わざわざこんなことしなくたっていいだろ?」
「変身薬のこととはまったく関係ないように思うんだけど?」
 まるで番犬…いや、違うか。

「私の姿で気分は悪くないの、レン?」
「それは大丈夫よ。リリーこそ大丈夫なの?」
「ああもう、自分が目の前にいるなんて、妙な感じよ」
「じゃなくて、授業」
「ここを放り出していけるほど、薄情な関係だと思ってるの? ひどいわ、レン。私は一番の親友だと思ってたのに…!」
 行き過ぎだよ、リリー…。

「それで答えたら、すぐに元に戻せるの?」
「解答如何によるかもね」
「別に放課後になれば、セブルス脅してでも元に戻す薬を作らせるんだけどね」
 たった今思い当たったことを言ってみると、ジェームズの顔が急に険しくなる。

「別にすぐスリザリンに潜入しても良かったんだけど、リリーの姿で見つかったら厄介だからさー」
 減点されるのがグリフィンドールと言う事に変わりはないけど、私が捕まるのとリリーが捕まるのとじゃ全然状況が違う。

 そういうときにこそ、私の情報は役に立つ。

「そんなこと別にしなくても、ここにあるし。僕は君の情報源が知りたいだけだよ」
 苦笑しながら、なんてことを言い出すんだ!

「レンは常々言っているよね。情報は命で、情報は金だって」
「ええ、そうよ」
 情報は私を助けてくれる。いつだって、誰よりも確かに。

「その情報を君はどうやって集めてるんだい?」
 そして、情報以外の武器は持っていない。いつだって、それだけを武器にしてきたのだ。これからもそれは変わることのない法則。

「ジェームズ、そんなことの為に?」
 三人が驚く中、私は心の中でため息をついた。

 そんなことで教えるほどのものじゃない。でもジェームズなら、私の大切な武器を易々と教えることなどないとわかっていると思っていたのは、私の思い違いだったのだろうか。

 いままでもこんなことがなかったわけじゃない。私の情報源を知りたがるモノは多い。どんな手段を使っても、つきとめられないと嘆くモノも多々ある。でも、ジェームズだけはそんなことがないと思っていたのに。

「知って、どうする気?」
「知りたいだけだよ」
 好奇心だと、それだけだと。言い切ってもここまでやる理由がわからない。

「情報屋としての私に言ってるなら、答えるわけにはいかないわ。あんたのいう通り、情報は私の命。それを易々と教えると思ってるの?」
「思ってないから、こんな手段に出たんだよ」
 至極もっともである。でも、納得するわけにはいかない。

「だったら、まずこの姿を元に戻してくれなきゃ話にならないわね」
 リリーは確かに可愛いけれど、この姿でいることの不便は多い。ジェームズの知りたがっているソースも然り。

「そっちが先だよ」
 リリーに手を差し出すと、何も言わずに私の杖を渡してくれる。以心伝心、意志疎通は問題ない。持った杖をまっすぐにジェームズに向ける。

「無理やり、聞き出すことも出来るわ。どっちがいい?」
「何を、する気なのかな?」
「同じ目に合わせてあげるだけよ、リーマス? 犬とか好きかしら?」
 空気がまたひとつ変化して、私は杖を振り上げたままの腕を引いて、肘をシリウスの脇腹に叩きこんだ。思いっきり勢いよくいったから、かなり痛いに違いない。

「いや、別に…」
「そうね、それじゃ狼は鹿も食べるのかしら?」
 笑顔が凍りつくというのは見慣れているが、リーマスのそれは少しの罪悪感を伴う。それでも、ねぇ、ジェームズには効くのかしら。

「…レン」
「…おまえ…どこまで…知って!?」
 これ以上は、極秘中の極秘。関わらせるわけにはいかない。私の大切な親友には。

「リリー、ゴメン。Stupefy(ステューピファイ 麻痺せよ)!! 」
 急に杖を向けられたリリーはその場に崩れ落ちる。ただ人形のように、美しい生き人形のように。

「嘗められてたものね。この私が知らないと思っていたの!?」
 ジェームズはもう笑顔を完全に消して、こちらに向かってくる。それに目もくれず、私はリリーを抱き上げる。リリーに魔法なんて、掛けたくないのに。でも、ね、ごめん。みんな大切なの。今を、守りたいの。

「レン、君は…」
「リリーを、ソファーに運んでくれる? この姿じゃ運べないわ」
 すぐ傍に来たジェームズに顔をあげると、ハッとした顔が神妙に頷く。どうしてこうなってしまうのかしら。もっと上手い方法がなかったのかと、なんど自分に問い掛けても答えは出ない。

 ソファーに横たえた姿にローブをかけて、顔にかかる髪を避けてやる。呼吸が乱れている。私のせいで。

「レンはどこまで知っているんだい?」
 いらついた声は常のジェームズらしくない。それを感じて、何かを言おうとしていたシリウスもリーマスも口を噤んだ。

「言っていいの? ジェームズも、シリウスも」
 額に手を置いてみるけど、幸い熱は出ていない。首に手を当てても力強い脈動が伝わってくる。大丈夫だ。

「いいよ。言ってよ、レン」
 答えたのは、平静に押さえこんだリーマスの声だ。きっとたぶん一番動揺していたのだろうけど、彼の場合、まず覚悟が違うのだろう。彼は年齢に不適当な覚悟を秘めて、ホグワーツに来ているのだから。

「全部を知ってるわけじゃないわ。私でなくても気づく者は気づく。そうでしょ?」
「僕たちのように、かい?」
「あなたたちのフォローでそれも極少数だけどね。満月の頃に必ずリーマスが里帰りするとか、彼が丸いモノを極度に怖がるとか、ね。知る術はたくさんあるわ」
「それでも普通は気づかないよ」
 立って、ジェームズの隣も擦りぬけて、リーマスの前に立つ。視線が集まっている中、私はその腕を取る。

「私だって気がつかなかったわ。これを目にするまでは」
 ローブをたくしあげると、その腕にはすでに薄くなってしまっているが無数の傷痕がある。息を飲む声が聞こえたけど、その痛々しさにまず表情が哀しく歪む。男にしては細すぎて、白い腕に、痛ましい痕。

 そっと傷に口を寄せる。小さく願う。彼がこれ以上傷つかないようにと。きっとそれはなんの効果もないだろうけど。

「レンは、怖くないの?」
 震える声に顔をあげても、それはとても脅えていて、笑ってしまった。

「はっ!リーマスが怖い!? 有得ないこと言わないでよ」
 こんな。

「怖がってるのはリーマスの方でしょ? 私が怖いんじゃない?」
 返って来ない答えに微笑んで、その腕を離した。シリウスとジェームズに向き直ると、二人は少し安堵している。

「俺らだって、怖いはずない」



「リーマスは大切な友人だよ」



「みんな、大切なの。だから、壊したくはないわ」
 こんな事さえなければ、黙りとおすつもりだったのに。知っている事なんて、話しちゃいけなかったのに。

「言うなら、先に言いなさい。リーマスに。見てるから」
 まっすぐに見つめて二人に言うと、彼等はとっくに覚悟は出来ていたのか、頷き合って、リーマスに向直る。

「僕に秘密にしていた事、だね?」
「ああ」
「完成してから驚かそうと思ったんだ」
 恐ろしいほどの静寂があった。

「やって見せる方が早いでしょ。二人は完成してるんだから」
 こんな静寂は好きじゃない。リーマスも私も、ジェームズもシリウスも。

「そこまで知ってんのか…」
「さすが、というべきかな?」
 視線をドアに向ける。気配は、ない。部屋を見まわしても誰も気づかない。

 こんな事ぐらいで壊れるような、脆い友情じゃないでしょ? そうだと、信じさせて。壊れない関係があるのだと、強く信じさせて。

「まさか、二人とも僕の為に…!?」
「違うわ」
 深い黒い毛並の犬と銀の毛並の見事な牡鹿の前で、膝を折って、二頭の頭を抱えているリーマスは、ひどく困惑した表情をしている。まぁ、普通は友達がアニメーガスになったら驚くわな。

「このお馬鹿どもは、満月の晩もリーマスと遊びたくてやっただけよ。そうでしょ?」
 軽くフォローしてやるのはサービスだ。自分の為だと知ったら、リーマスはきっと気に病みすぎてしまうから。

「そのとおり」
「リーマスがいないとつっまんねーしよ」
 元に戻った後、三人は泣き笑いみたいな顔で抱きあっていた。これで、情報がひとつ減ってしまった。あぁ、今世紀最大の弱みだったのにな(言い過ぎ)。

「僕等以外には気がつかれていないと思っていたんだけど、どうやって知ったんだい?」
 落ちついた三人に紅茶を淹れてやる頃には、もういつもの調子だった。

「それには本当に元の姿じゃないとダメなの。戻して?」
「この紅茶美味しいねぇ」
「俺もいいかげん、リリー姿のこいつと話したくねぇよ」
 げんなりと疲れた笑いを浮かべてシリウスも紅茶を流しこむ。

「じゃなけりゃ、元に戻す薬の在処を教えなさい」
 ジェームズも紅茶を飲みこんだ所で強く言い放つ。

「それは、これから調合するんだよ」
「は!?」
「レンの言うように、スネイプに手伝ってもらってね!」
 こ、これじゃ…。

「なんですって!? そんなぁ~」
「アニメーガスの事まで知ってる君が、どうしてそこに思い当らないのかが不思議だねぇ」
「作っといてよ! もう、本当に情報を無駄にしちゃったじゃないーっ」
 ついでに言うと、さっき三人の紅茶に真実薬も入れといたから、間違いないってことで。

「ジェームズのお馬鹿ァ!」
「いくらなんでもひどいんじゃないの、ジェームズ?」
「いやーリリーが二人いたら嬉しいなぁって思わない? そうしたら、いつでも一緒にいられるじゃないか!!」
「そんなのお前だけだ!!」
「もちろん、授業に出るのはレンの方で、リリーは僕が個人授業…」
「こんの変態!!」



 ゴ…ッ



「レン、杖で頭はマズイよ」
「グーで殴る方がよかった?」
「もし例の変身薬の調合忘れてたら、スネイプでも厳しいだろ」
「あぁ! 忘れてた!! それを忘れないうちに…はい、どうぞ?」
 服の中からいつもの羊皮紙と羽根ペンを取り出して、準備する。スラスラとそれをこと細かく教えるジェームズに、三人がいぶかしむ前に逃げなければいけない。

「何を急いでるの?」
「スネイプならまだ授業中だろ」
「材料を、ほら、手に入れないと!!」
「ちょっと落ちついて、レン」
「そうだ、俺の紅茶余ってるし、少し飲め」



 なにぃ!?



「いや、いいよ。シリウスの為に淹れてあげたもんだしね」
「僕のまだほんの少ししか飲んでないし、飲みなよ」
「それもリーマスの為に、淹れたんだから。ってゆーか、もともと甘めだったのに、さっき砂糖何杯足してた!? 甘すぎて、イヤよ…っ」
 絶対、砂糖味な紅茶は遠慮したい。

「二人とも、レンと間接キスしたいのはわかったから。少し落ちついて」
「お前と一緒にすんな、ジェームズ!!」
 段々わけがわからなくなってきた。とりあえず、着替えて来よう。この埃だらけじゃ、上手くいくものも失敗すること請け合いだ。

 言い合う三人の傍をこっそり離れて、私は静かに女子寮へ入り、ドアを閉めた。

あとがき

- 3) 透明マントからのリポート!


えっと、主人公がシリウスの気持ちに気がついて、現実逃避をはかってます。
徹底的に逃げようと思います(笑。
あーもうこんなもん更新でごめんなさい。
もうリクじゃないですね。これ。
(2003/02/28)


4) 逃亡実況リポート!


てっきり、『闇と共に散りぬ』(@オリジナル)を書いてる時にあるのだと思ってた。
ここまでを書くのは、どうやら決まっていたらしい。
どうしてって?それは、もうずっと前に夢で見ているから。
あーもー気がついちゃったよ!! あんまり気がつきたくなかったなー。
えと、もうちょっと続きます。
ニセモノ具合が気に入らないかもしれませんが、お気になさらず。(するって)
(2003/04/20)


5) 自白をレポート!


なんでだ!?なんで終らないんだ???(知らんよ。
これ、シリウスとリーマスとどっちに迫られたいですか?(は?。
あるいはセブルスも可。<オイ。 ジェームズさんは無理!
(2003/04/20)