うとうとしていた俺は、可愛らしい歌声に呼び覚まされた。
「あいすっくりーむっをつっくりっましょぉー」
子供の頃に聞いた気がするけれど、よく覚えてはいない。覚えていないけれど、その歌が適当だということだけはわかる。
「ぎゅーにゅー、ばたー、ちーずにぷりんっ」
「こおりといっしに、ぐるぐるぐるぐるよくまぜてーっ」
「れーとーこーでかっためっますーぅ」
眠い目を擦りながら、起き上がり、俺は大きくあくびをする。
「しっあげに、しゅわしゅわさいだーかっけてー」
「溶けるぞ」
流石に突っ込むと、声の主が振り返って、満面の笑顔で俺を見た。キラキラと輝く瞳は純粋の一文字で。
「あ、アニさん、おきたのー」
ぽてぽてと走ってくるのは女とも男とも付かない四歳ぐらいの子供だ。ひざ丈のシンプルなグレーのワンピースに、裾をリボンで絞った半ズボンを履いている。……そういやこれは女物の服だったか。じゃあ、こいつは女なのか。
じっと俺が見ていると、子供はますます嬉しそうに笑って、大仰な身振り手振りで話をする。眠い頭には一向に入ってこないが、悪くはない気分だ。
腕を伸ばし、肩をグルグルと回して、眠っていて固まった筋肉を解していると、子供は遊んでくれるのかと、目を輝かせている。
「仕事だ」
「えー、せっかくアニさんのゆうはんつくったのにー」
子供の言う夕飯ってのは、さっきの歌で作ったやつだろうか。
「あのねー、きょおねー、りさちーといっしょにさらだつくったのー」
ホッと胸を撫で下ろし、俺は子供の頭に手をおいて乱暴に撫で回す。それが楽しいのか、子供はきゃらきゃらと高い笑い声をあげる。
「そーかそーか、じゃあ、帰ったら食うから、残しとけ」
「…………おそくなるの?」
それまでのはしゃぎっぷりが収まったかと思うと、不安そうに問いかけられた。
「月が高くなる前には帰るさ」
外はまだ暗くなる寸前で、月は西の山を脱していない。うまく行けば、月が高くなる前に帰れるのは事実だ。
「おまえはいつも通り食わせてもらえよ」
返事をしない子供の前にしゃがみ、その両頬をつまんで目を合わせると、大きな目からは今にも涙が零れそうだ。
「わかったな」
「……いっしょに……」
「戦力になってから言え」
しっかりと言い聞かせてから、俺は子供の頭を指で弾いた。
それから、さっさと防具をつけて、使い慣れた剣を差して、皮のブーツの紐を固く結ぶ。そうしていると、背中からぎゅっと小さな体が抱きついてきた。
「はやくかえってきてくらしゃい」
涙声だったけれど、きちんと挨拶できた子供を俺は抱き上げる。
「オマエがいい子で留守番してられたら、土産を狩ってきてやるよ」
俺がそういうと、子供は小さな頭を横に振って、拒否をした。
「おみやげいらないから、あしたはずっといっしょにいる」
「……ああ、いいだろう」
一緒に入られる方がいいという子供を降ろして、俺は部屋の入口へと足を進めた。
「いい子にしていられたら、明日はいっぱい遊ぼうな」
「うんっ」
そうして俺は、子供を残して、夜の仕事へ出かける。今日の仕事は、夜にしか出ないという魔物退治だ。昼間は欠片も見つからないというから、倒せなくともマーキングできればと思っていたんだが。
「……こりゃあ、さっさと済ませちまわねぇとな」
明日の予定が埋まってしまったからには、終わらせなきゃならないな、と苦笑しつつ、俺は一人で宿を出るのだった。
MMOみたいな感じ?かな
なろうで、それっぽいの読んだら、MMOやりたくなったが、そもそも終わりのないゲームは続かない私。
(終わりがなくても、ラスボス直前で放置になる(え)
なので、気分だけ書いてみました。
拾った子供をなんとなく育てている男の話。
男視点は不自然だと言われてるんで、避けたほうがいいのかもしれませんけどねー。
書いてて、結構楽しい。
(2012/08/21)